音読授業を創る  そのA面とB面と       02・6・20記



   
わが学級児童は中級レべルなり(その2)
      【上達の五段階と、その指導法】




                        
            
上達の五段階


  前章(上)で、音読の上達レベルを三段階に区分けして書きました。こ
の三段階は教師が教室で音読指導している途上における上達レベルであると
書きました。段階レベルには、未指導レベル、名人レベルもありました。
  今月はこの二つを付け加えて、五段階に区分けした上達レベルについて
書くことにします。
  五段階とは、入門レベル、初級レベル、中級レベル、上級レベル、
名人レベルの五つです。


          
入門(未指導)レベル


   次は入門レベルの指導実態です。入門レベルとは、未指導レベルか、
指導を開始したばかりのレベルです。それらに見られる読み声の実態です。
未指導レベルとは、音声表現指導なしの「ほったらかしレベル」です。あな
たの学級に下記のような実態の読み声レベルの子どもはいませんか。おりま
したら、まずこれらから指導を始めましょう。

(1)棒よみ(無表情で平板なよみ。一本調子よみ。ずらずらよみ。)

(2)早口よみ(すらすら、せかせか、ずらずらよみ。つっかえないのが上
   手という誤った考えがある。)

(3)小声よみ(聞き取れない声。か弱い声。か細い声。最近、これがとみに
   多く見られる)

(4)うわっつらよみ(意味内容の押し出しなし。単に文字を声にしてい
   るだけ。)

(5)拾いよみ(文字をたどりたどりの、一字一字の拾いよみ)

(6)つっかえよみ(つっかえ、つっかえ。とぎれ、とぎれ。)

(7)とばしよみ(太郎は山へ向って叫んだ。→太郎は山へ叫んだ。)

(8)つけたしよみ(太郎は山へ叫んだ。→太郎は山へ向って叫んだ。)

(9)おきかえよみ(とてつもなく大きな岩→とっても大きな岩)

(10)しゃくりあげよみ(文節末や文末をしゃくりあげる、はねあげる)

(11)へんな読み癖(何かレディメードな独特の節回し、言い回し、うなり)

(12)気取りよみ(高学年に多い。文節末や文末を長くのばし、体裁を作っ
   て、すましこんだ、とりつくろった調子づけ)

(13)芝居よみ(舞台俳優をまねた空芝居がかった独特な言い回し)

(14)りんりんよみ(声高に、のっぺら棒に、同じ間隔・リズム・調子を繰
   り返して読む。歯切れよい発音の声高だけがとりえ)

(15)発音不明瞭(もぐもぐ発音)

(16)息切れよみ(呼吸の呼気不足。息の切れたところで間をあける)

(17)黙読からよみ(一度、一部分を黙読し、次に声に出してよむ)

  あなたの学級に上のような実態の読み声はありませんか。皆無ですか。ほ
んの数名ですか。かなり多数ですか。それらに近い予備軍はどうですか。予
備軍が多数ですとかなり重症ですよ。でも、総てはここから始まるのです。
心配は無用です。


            
初級レベル


  初級レベルは、未指導レベルの音読実態をどう引き上げていくかです。
その指導方法は、未指導レベルの実態の一つ一つを取り上げて対処療法的に、
一つ一つを矯正していく指導ではいけません。個人個人の実態に即して個別
指導をしていては、これではいくら時間があっても足りません。
  初級レベルの指導のコツは、未指導レベルの音読実態を全否定するこ
と、総て取り払うことです。学級実態の一般的な傾向を把握して、一斉指導
の内容を見出すことです。個別的な実態をひとまとめにした内容で指導して
いきます。次のようにです。
  初級レベルの指導の重点は、情感づけはあまり気にせず、はぎれよい発
音で、意味内容の区切りで間をあけ、折り目正しい音声表現をさせていく、
これです。下記のような指導内容です。

初級レベルの指導内容◆

●たっぷりとした声量で、子どもらしい溌剌とした張りのある声で読ませ
   る。
  ・固く、力を入れた、緊張した声立てでよい。初期はこれでよい。だん
   だんと軽くしていけばよい。
  ・大きな声とは、のどに力を入れた、ばかでかい声ではない。共鳴
   のついた声のことである。ひびきのある声で読ませる。
  ・呼吸練習・発声練習・発音練習・二重母音・母音の無性化・が行
   鼻濁音の指導。

●語、句、文の一語一音を、きちんと拾って、ゆっくりと、ていねいに
  読ませる。
  ・低学年は、眼声距離をとって読む練習をする。
  ・急がず、ゆっくりと、たっぷりと読む。
  ・ゆっくりと読むと早口読みと比べ、呼吸が深くなる。つまり、たっぷ
   りした腹式呼吸ができるようになる。もちろん、ゆっくりと読めば
   意味内容も音声にのっかるようになる。
  ・正しい姿勢(前かがみはよくない)で、お腹のふくらみへっこみに
   気をつけて読むようにする。たっぷりとした腹式呼吸ができてくる
   と、呼吸量が多くなり、声量も大となる。大きな声が出せるように
   なる。

●情感づけは気にせず、初期は無表情でいいから、意味内容のまとまり・区
 切りできちんと切って読む。
  ・意味内容の区切りできちんと間をあけて読めば、情感はあとか
   ら自然とついてくる。
  ・無表情に意味の区切りで間をあけて読めば、変な読み癖や読み調子、
   リズム、メロデーは自然と消える。個人のへんな読み癖が消える。

●折り目正しい読み方をめざす。
  ・行儀のよい、はたんのない、くせのない、素直な読み方をさせる。
   文章の意味内容で区切って、淡々と読ませる。
  ・一生懸命に行儀よく、折り目正しく読もうと意識させる。
  ・きまじめに、おつにすました、正装した読み方をさせる。
  ・アナウンサーのニュース読みをまねさせる。



            
中級レベル


  中級レベルの指導の重点は、文章の意味内容を音声にのせること、それ
を外に押し出すこと、これのみに集中して指導します。文章の筋道、雰囲
気、情感をつかんで音声表現することをめざします。文学的文章では「情感
のついた読み方」です。説明的文章では「論理や筋道が露呈する読み方」です。

中級レベルの指導内容◆

●つかんで生き生きと声に表わす。
  ・文章内容から音声表現のしかたが発表できるようにする。
  ・文意の表象や感情を、思いや気持ちを、いっぱいに脳中にあふれ
   させて読む。
  ・同じフレーズ(文)に幾種類かの表情づけを試みて読んでみる。その
   中から一番ぴったりした読み声を選択する。未完成の完成を探ぐる挑
   戦をしてみる。

●記号づけを指導する。
  ・音声化技術(プロミネンス、イントネーション、テンポ、転調、間な
   ど)を教える。
  ・自分で記号づけができる。
  ・記号づけのとおりに音声表現できる。初期はこれがなかなかできない。
  ・記号づけを臨機応変に変化させて読める。よりよい記号づけを求める。

●読み手の感動(気合、律動)を体ごと声にのせて読む。
  ・読み手自身が作品世界に生きる、作品世界に体をはって行動する。
  ・勢い込んだ感情ぐるみの構え(気分、雰囲気)にひたりつつ声に出
   す。イメージや思いをいっぱいにして、それを押し出す。
  ・からだ全体に、思い・気合を、力を入れて、高揚させ、奮い立たせて
   読む。

●ひらきなおって、大胆に、大げさに、音声表現してみる。
  ・立体感のある読み方をめざす。
  ・当初は、無理な表情のつけ過ぎ、嫌味はあるが、それを恐れない。
  ・音声を、組み立て、作りあげようとする意識をもっていろいろと試
   みる。
  ・大げさと思われるくらい大胆に表情をつけてみる。
  ・暴力的に装飾過多を試み、その後、その抑えの音声表現をしていく。
   それら遊びを楽しむ。

●共同助言ができる。
  ・他児童の読み声に対して批評できる。
  ・どこの文章個所を、どう表情づけたらよいかが発表できる。
  ・自分の読み声をフィードバックし、より納得できる読み声を求める。


             
            
上級レベル


  上級レベルの指導の重点は、軽みのある読み方です。淡々と読んでいて
鮮明にイメージが浮かぶ音声表現をめざします。気張らず、飾らず、淡々と
読んでいて、それでいてくっきりと場面が浮かび、なおかつ洗練された美し
さや豊かさを感じさせる読み方、そんな音声表現をめざします。

上級レベルの指導内容◆

●あっさり、さりげなく、飾り気なく、淡々と読む。
  ・気張らず、あっさり、しっとり、さらりと、何気なく読んでいて、
   全体に一本線が貫通している。
  ・ごてごてした厚化粧でなく、薄化粧で読んでいる。
  ・気負ったところなく、当たり前に読んでいて、いつのまにか引き込
   まされてしまう読み方になっている。

●すばやく、ぱっと、入って、のりうつって、読める。
  ・文字や文章を感じさせない、消えている読み方になっている。
  ・自分のコトバに消化されていて、自分のコトバとして音声表現され
   ている。
  ・読み手の声でなく、作品にある語り手の声で読んでいる。

●声に固さがない、筋肉の緊張があってなきが如し、で読んでいる。
  ・筋肉の緊張が声に出ていない。柔らかく、あっさりとした声立てで
   ある。
  ・全体に力を抜いた声立てだ。しかし、力を入れるべきところは入
   れ、最小限のメリハリで最大の効果を発揮している読み方になって
   いる。
  ・軽さをベースにした力みである。むだのない力みである。
  ・スウーッと力を抜いた読み方の中にメリハリの輪郭がくっきりと出
   ている。

●落ち着いた、静かさ、柔らかさの声立てで読んでいる。
  ・しっとりとした、静かな読み方の中に意味内容がたっぷりと包まれ
   た読み声である。

  ・作品世界の時間と空間の中に、読み手の居場所が安定した状態で留
   まりつつ読んでいる。
  ・他人に向けた声でなく、自分に向けた、自分の中から出てきている
   で声で表現している。



            
名人レベル


  名人レベルの実力は、義務教育段階の小学生、中学生には皆無といって
よいかもしれません。わたしの段階表で言えば、です。ここでの名人レベル
とは、それほど、ハイ・レベルです。ここでの五段階表は児童生徒だけでな
く、成人をも含むものだです。成人のプロの読み手でも、めったに名人レベル
に出会うことはありません。「美は乱調にあり」とか「粉飾と虚飾との間の
瞬間の欺かれたる夢に酔う」とかの文句をどこかで耳にしたことがあるでし
ょう。名人レベルとは、そんな読み声をも含む音声表現です。

名人レベルの読み声の特徴

●淡白に、さらっと、すらっと読んでいて、ピシッと決まった見事さがある
 読み方になっている。

●平凡にして、かつ、贅沢なほどゆたかに表現している読み方になってい
 る。
●ちょっとした破格や狂いが何とも言えない妙味をだしている読み方になっ
 ている。
●平凡にして、かつ贅沢んほど豊かに音声表現している読み方になっている。

●師匠の様式をこわし、独自の持ち味の芸を創造している読み方になってい
 る。

●何の変哲もなくあっさりと読んでいながら、読み手の独特な味をひっそり
 とにじませている。読み手独自の持ち味の芸(型)、独自な風格(スタイ
 ル)を持っている。

●スウーッと力を抜いて、崩しや遊びを入れ、それでいて見事に表現の機微
 を軽妙洒脱に出している読み方になっている。

●ゆとり、遊び、戯れ、奇抜さ、狂い、そんな横道にそれた冒険を楽しみつ
 つ、それが品位や至芸になっている読み方だ。

●遊び、戯れ、奇抜さ、破格、狂い、崩しはほんとに難しい。へたに入れる
 と、鼻持ちならない嫌味になる。これを上手に完成している読み方だ。

●名人芸とは、「狂」や「虚」にも通ずる、他人のまねのできない、芸術性
 の高い、読み手独自の極め付きの芸のある読み方である。



             
参考図書


  前ページ「わが学級児童は中級レベルなり(上)」に、次のようなこと
 を書きました。
◎冬の日だまりの暖かさ、静けさ、安らぎのある読み方。
◎時間が止まったかのような、静寂な森の中のよう。
◎何でもないように読んでいて、ふくらむところはふくらみ、じんわりと情
 感がにじみ出ている。
○凸凹を派手に意図して表現している読み方。
○人通りの多い、喧騒な商店街のよう。
○ロック音楽のよう。  (以上、前章(上)から引用)
 
 前回(上)と今回(下)は、わたしが、かなり大胆に、はめをはずして、
楽しみながら、愉快な気持ちになりながら、これは痛快な上達レベルの区分
け段階だとひとり悦に入りながら、自己満足しながら、いい気持ちで、かな
りまじめに、かつまともに書いた戯れ言の文章として受け取ってください。
  皆さんの受け持ち児童の実態にあわせて指導していただけるきっかけに
なればなあと思っています。具体的な指導方法は、ここには書ききれません。
一冊の本になってしまいます。指導方法については、下記の拙著を参考にして
ください。
  未指導レベルから名人レベルへ、どんな指導をすればよいか。どんな具体
的な指導の方法があるか。レベルアップの指導方法のアイデアは、手立ては?

 これについては、拙著『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社、CD付
き、2800円+税)がとても参考になり、役立ちます。さまざまな指導方法の
アイデアが計46個、CDの音声付で、個別に説明されています。アイデア例
を、はじめから12個だけ、抜き書きしましょう。

   その1  表現よみの実態から指導計画を立てる。
   その2  段階指導の全体見通し計画を立てる。
   その3  一年生は眼声距離をとる練習をする。
   その4  初期の変な読み癖を早く直そう。
   その5  ゆっくり、たっぷりと読むことからはじめる。
   その6  性急に個性的な音声表現を求めない。
   その7  授業への取り入れ方には種々の方法がある。
   その8  音読発表会をしよう。
   その9  声が出ない子への指導はこうする。
   その10 たっぷりした呼吸で、声帯にしっかり息を当てる。
   その11 か弱い声の直し方はこうする。
   その12 歯切れよい発音の出させ方はこうする。
    (以下省略、「その46」まで個別説明とCD録音あり)



           
最後に笑話を


  痛快な気持ちをもうすこし保持しつつ書きましょう。
  文・文章にも、五段階レベルがありそうです。

 ○次の文章は、音読の五段階レベルで言えば、初級レベルです。

        (トイレ利用者皆さんへ)
       いつもきれいなトイレで気持ちよく
       利用していただくため、できるだけ
       前進してご使用ください。

 ○次の五個は、音読の五段階レベルで言えば、上級レベルです。
  実際に、わたしが目にし、にたりと笑った名文句です。
  もちろん、わたしは、一歩前へ出ました。

  「一歩前、外へ たらすな 松茸の雫(しずく)」

  「君のは 君が思っているほど 長くはない、半歩前へ」

   「朝顔の つゆを こぼさで いま一歩」    

  「一歩前 松茸のしずく 切る前に」

  「この場所で 小便こぼすな 警視庁」

  「急ぐとも 心静かに 手をそえて 外へ漏らすな 松茸の露」

 ○日本人のユーモア愛好心、詩的感覚、芸術的感性のすばらしさはには
  感嘆します。と、ご理解のほどを。

 ○上のユーモア詩を音声表現してみましょう。自分の声が気になる時は
  上手な読み方になっていません。自分の声がちっとも気にならなくなる
  と、読み手が内容に自然にとけこんでいる時で、そういう時には他人も
  引き込まれてしまいます。



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