暗誦の教育史素描(18)           08・07・07記




   
新学習指導要領と暗誦指導の位置づけ




  文部科学省は、2008年3月28日、新しい幼稚園教育要領、小学校
学習指導要領及び中学校学習指導要領等を公示しました。通称、平成20年
版学習指導要領と呼ばれている。
  以下の文章は、新しい学習指導要領・国語科の本文から音読・朗読・暗
誦に直接に関わる文章個所のみを引用抜粋して、わたしのコメントを加えて
います。
  暗誦については、小学校学習指導要領・国語科の「第3学年及び第4学
年」に「易しい文語調の短歌や俳句について,情景を思い浮かべたり,リズ
ムを感じ取りながら音読や暗唱をしたりすること。」と書かれています。小
学校3、4年生のみに「暗誦」が出てきています。小学校の低学年と高学
年、中学校全学年には「暗誦」は出てきていません。
  以下、新学習指導要領・国語科における「暗誦」に話しをしぼって「荒
木のコメント」を加えつつ書いていくことにします。



       
小学校学習指導要領の部

国語

   第1 目標
   国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高める
  とともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を
  深め国語を尊重する態度を育てる。

  第2 各学年の目標及び内容


〔第1学年及び第2学年 〕
 A 話すこと・聞くこと
   ウ 姿勢や口形,声の大きさや速さなどに注意して,はっきりした発音
   で話すこと。
  C 読むこと
  ア 語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて音読すること。
〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕
  (1)「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の指
     導を通して,次の事項について指導する。
   ア 伝統的な言語文化に関する事項
  (ア) 昔話や神話・伝承などの本や文章の読み聞かせを聞いたり,発
      表し合ったりすること。
   イ 言葉の特徴やきまりに関する事項
 (イ) 音節と文字との関係や,アクセントによる語の意味の違いなどに
     気付くこと。


【荒木のコメント】
〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕が新設された
  今回の新しい学習指導要領には、従来の学習指導要領にはなかった〔伝
統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕という事項が新設されました。
 「伝統的な言語文化」と「国語の特質」とがひとまとまりになって括られ
ています。「国語の特質」とは、従来の「言語事項」と言われるものの一部
分です。従来の「言語事項」が、今回は「話す・聞く」「書く」「読む」の
中と、〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕とに分散して書かれ
ています。
  「伝統的な言語文化」の特設そのものは評価すべきことです。ただし、
かつての国家権力が不当に教育内容に介入し、国家主義教育を実施し、戦争
へと導いた、そうした「伝統的な言語文化の尊重教育」にならないように十
分に警戒して指導していく必要があります。
  安部政権がしゃにむに教育基本法を改悪し、十分な審議もなく採決を強
行し、そのねらいが歪んだ愛国心の押しつけや国家権力による教育統制に
あったことは明らかです。当時、社会問題となっている教育の荒廃(子ども
達のいじめや自殺、教育格差、家庭・地域の教育力の衰退など)をこそ安倍
政権は真剣に討議して、教育施策を大胆に次々と打ち出して、実施すべきで
あったのです。それに早急に必要な教育施策は、公立学校の耐震補強工事で
あり、一人一人の子どもへきめ細かい教育をするための教員増員や施設設備
の予算増額でしょう。また、民間の派遣社員、契約社員と変わらない臨時的
任用教員の増大や非常勤教員の増大、つまり使い捨て・切捨て教員の増大
も大問題です。
  日本の教育費の出費は経済協力開発機構(OECD)諸国の中で、国内
総生産(GDP)比で最低レベルにあります。また小泉内閣で、聖域なき構
造改革ということで教育費が徹底して削減されました。親の教育費の負担が
世界でもトップレベルにあります。
  これらをほっぽいて、熱心にならずに、教育基本法や教員免許制度を改
悪することばかりに熱心になるとは、なんたる醜態でしょう。免許法改悪な
どに膨大な教育予算を使うなどは、なんたる無駄使いでしょう。もっと早急
に教育予算を使う場所がたくさんあるはずです。日本の教師達は、そんなに
馬鹿揃いで不真面目揃いなんでしょうか。
  本稿のテーマの一つである名文の暗誦暗記については〔伝統的な言語文
化と国語の特質に関する事項〕の中に位置づけられ、書かれています。
  〔第1学年及び第2学年 〕では、名文の暗記暗誦は書かれていません。
「昔話や神話・伝承などの本や文章の読み聞かせを聞いたり,発表し合った
りする。」というように日本の伝統文化に興味関心を持たせる導入指導とし
て「昔話・神話・伝承」の読み聞かせをしたり、それらについて語り合った
りする、という記述になっています。「昔話・神話・伝承の物語」を「暗誦
させる」とか「暗記させる」とか「反復して読み聞かせて定着させる」とか
とは書かれていません。この点では妥当な内容記述だと思います。しかし、
前指導要領になかった「神話」が新規記述として出現したことは、その取り
扱いは戦前の国家主義の歴史教育の復活にならないよう十分な配慮をしなけ
ればなりません。
 「昔話・神話・伝承」に興味関心を持たせる、親しませる、という意味合
いの記述になっています。学習活動は「読み聞かせ」「発表し合う」であ
り、「暗誦させる」とは書かれていません。神話の歴史教育をする、という
ようにはもちろん書かれていません。小学校低学年には「昔話・神話・伝承
の物語」を「読み聞かせ」て「興味関心を持たせ、親しませる」という記述
内容になっています。

「音読」「朗読」の位置づけ
  現行学習指導要領では、音読については「読むこと」の中に「語や文と
してのまとまりや内容、響きなどについて考えながら声に出して読むこと」
と書いてあります。今回の要領では、同じ「読むこと」の中に「語のまとま
りや言葉の響きなどに気をつけて音読する」となっています。「声に出して
読む」から「音読する」へと記述表現が変更されています。
  現行の「声に出して読む」と、今回の「音読する」とはどう違うのか、
問題にすればあれこれ言えるでしょうが、今回の指導要領では「音読」とい
う性格・性質をはっきりと打ち出し、「単なる声に出して読む」「ずらずら
と、つかえないで、語のまとまりで声に出して読む」でなく、「まともに・
上手に・音読する。意味内容を音声にのせて読もうと努める、他人に聞いて
もらうつもりで、相手に分かるように読む」というような意味合いに変更し
たと受け取れます。わたしのざっくばらんの印象から言えばです。
  小学校低学年でも、教師が上手な音読表現をねらって指導すればかなり
のレベルまで到達できますので、こうした変更記述は妥当であり、「単に声
に出して読む」でなく、「意味内容を音声にこめて表現させる。つまり音読」
という性格を明確にした記述になったことはよいことです。

発音発声について
  現行学習指導要領では、発音発声については「言語事項」の中に「姿
勢、口形などに注意して、はっきりした発音で話すこと」とあったものが、
今回は「話すこと・聞くこと」の中に「姿勢や口形,声の大きさや速さなど
に注意して,はっきりした発音で話すこと。」と書いてあります。現在の子
ども達は「はっきりした発音で話せない」悲しい現実があるので「言語事
項」から「話すこと・聞くこと」に移行させたのかもしれません。また、P
SA調査の結果から、コメント力の育成・発表力の育成の重視ということか
ら「話す、聞く」へと移行させたのかもしれません。それに加えて、今の子
ども達は「声量がない、小さい声でしか話せない。早口である。発音が悪
く、りんりんと響くような子どもらしい天使のような声を失っている」とい
うことから、今回は新しく「声の大きさや速さなどに注意して、はっきりし
た発音で話すこと」という記述が新しく加わったのかもしれません。
 だが、「姿勢や口形,声の大きさや速さなどに注意して,はっきりした発
音で話すこと。」と同じ重要さで「「姿勢や口形,声の大きさや速さなどに
注意して,はっきりした発音で読む・音読すること」も、小学校低学年では
特段に重要な指導内容です。ですから、今回は、どこにも通用する「言語事
項」欄に書かれてなくて「話すこと・聞くこと」に書いてあるからといっ
て、「読むこと」では指導しなくてもよいとはなりません。このことは1・
2年生では「話す・聞く」だけでなく、「音読」でも特段に重要視して指導
しなければならない指導内容です。「読むこと」欄に書いてないから指導不
必要とはなりません。
  こういうふうに学習指導要領は読んでいくべきものでしょう。「指導計
画の作成と内容の取り扱い」欄に「話す・聞く、書く、読む、伝統的な言語
文化と国語の特質に示す事項は、相互に密接に関連づけて指導する」と書い
てあります。
  だが、正しくは「姿勢や口形,声の大きさや速さなどに注意して,はっ
きりした発音で話すこと。」は、「言語事項」欄にあるべきものです。「読
む・書く・聞く・話す」のすべて領域に通用する「言語事項」欄にあってし
かるべき性格のものです。

アクセントについて
  今回の指導要領に「言葉の特徴やきまりに関する事項」の中に「音節と
文字との関係や,アクセントによる語の意味の違いなどに気付くこと。」と
あります。前半「音節と文字との関係」とは「かな文字の一音節一字対応」
というような指導のことをさすのでしょう。後半の「アクセント」とは「端
・橋・箸」や「旅・足袋」など日本語に特徴的な高低アクセントの違いによ
る語いの違い指導のことでしょうか。こうしたアクセント指導は、小学校低
学年ではごく分かりやすい単語三つ四つの例示ぐらいで違いに気づかせる程
度の指導ならよいでしょうが、1・2年生に正式なアクセント指導は指導時
期が早すぎるでしょう。
  ここでの「アクセント」とは、「話しや音読」における「イントネー
ション・声の上げ下げ、強勢・強調変化、緩急変化、話し調子・読み調子、
声の大小による意味の違いに気づく」指導のことをさしているのかもしれま
せん。これなら話は分かります。これならば小学校低学年にはぜひ指導した
い、必要な指導内容です。小さい声の平板な話し方や、発音不明瞭なずらず
らな話し方や音読でなく、りんりんとした響く声で、子どもらしい、生き生
きした話し方、文章の意味内容がメリハリとしてあらわれ出た、子どもらし
いすがすがしいりんりんと響く天使のような話し方や音読をさせたいもので
す。こうしたアクセントのある話し方や音読をさせたいものです。こうした
「アクセントのある話し方や音読」指導、そうした初歩的な「アクセント」
指導なら大賛成です。



〔第3学年及び第4学年〕
   C 読むこと
   ア 内容の中心や場面の様子がよく分かるように音読すること。
 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕
  (1)「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の指
    導を通して,次の事項について指導する。
    ア 伝統的な言語文化に関する事項
   (ア)易しい文語調の短歌や俳句について,情景を思い浮かべたり,リ
     ズムを感じ取りながら音読や暗唱をしたりすること。
   (イ)長い間使われてきたことわざや慣用句,故事成語などの意味を知
    り,使うこと。

【荒木のコメント】
「声に出して読む」と「音読」
  現行学習指導要領では、音読については「読むこと」の中に「書かれて
いる内容の中心や場面の様子がよく分かるように声に出して読むこと」と書
いてあります。今回の新しい指導要領では同じ「読むこと」の中に「内容の
中心や場面の様子がよく分かるように音読すること」と変更されています。
1・2年生と同様に「声に出して読む」の記述表現が「音読すること」に変
更されています。「声に出して読む」と「音読する」とはどう違うのか、そ
の区別は指導要領作成委員でないのでよく分かりませんが、前述(1・2年
生の個所)した「荒木のコメント」と同じことが、ここでも言えると思いま
す。くわしくはそちらをお読み下さい。

新しく「暗唱」が出現した
  今回の新しい学習指導要領では、これまでの学習指導要領にはなかった
「暗誦」が初めて中学年に出現してきています。〔伝統的な言語文化と国語
の特質に関する事項〕の中に「暗誦」が書かれています。
  「暗唱」は「3・4年生」の個所にだけ書かれています。「1・2年
生」と「5・6年生」の個所には「暗唱」は出てきていません。中学校1,
2,3年生の個所にも「暗誦」は書かれていません。小学校中学年だけに書
かれていることは、中学年児童はコトバ遊びのような暗誦を好む年齢時期の
段階にあるということからでしょうか。
  暗誦させる文章は、「易しい文語調の短歌や俳句」と書いてあります。
文語調の文章ですから、子供達にはなじみがありません。読み仮名、現代語
訳、脚注、傍注、解説文など原文個所に付記されていて、子ども達が抵抗な
く読めて、親しめるような文語調文章の提出の配慮が必要でしょう。このこ
とは全学年に言えることです。
  今回の学習指導要領でいう「暗唱」は、江戸時代の寺子屋の素読による
暗唱ではないと思います。素読ではいけません。意味を教えずに文章をただ
口真似で復誦させるだけ、復誦を繰り返させて暗唱まで至らせる、という素
読指導による「暗唱」ではいけません。
  また、一度に多量の文語調の文章を与えて暗誦を強要する指導を言って
いるのでもないと思います。NHK教育テレビで「にほんごであそぼ」とい
う番組があります。ここでは、ほんの短い1、2行の古文や詩句を抜き出し
て、また四字熟語を、子どもが喜んで楽しく口ずさめるような形で提出して
います。子どもだけでなく大人も楽しく暗誦してしまうような提出を工夫し
ています。わたしも、この番組のファンです。うるさくない程度の量を、子
どもが楽しく遊べるような形で提出することが最も大切です。そうした遊び
の中で、いつのまにか暗唱してしまっていた、という暗誦なら大賛成です。
 今回の要領に「易しい文語調の短歌や俳句について,情景を思い浮かべた
り,リズムを感じ取りながら音読や暗唱をしたりすること。」と書いてあり
ます。学習財は「易しい文語調の短歌や俳句」とあります。それも「リズム
のある文語調」と書いてあります。大人のための長文の古文(古典の名文、
漢文・漢詩の名文・名詩)ではないと思います。もし、長文だとしても、長
くて4、5行どまりの抜粋(日本人によく知れわたっている、リズムある有
名な古文の名文や文句)のことだと思います。
  「易しい」「文語調の短歌や俳句」と書いてあります。易しい文語調の
短歌や俳句です。日本人によく知れわたっている、有名な短歌や俳句のこと
でしょう。子ども達がよく知っている童謡や古い歌詞や昔のカルタにある成
句や格言なども入ってよいでしょう。
  続けて「情景を思い浮かべたり,リズムを感じ取りながら音読や暗唱を
したりすること。」と書いてあります。「リズムと暗誦」とはとっても関連
があります。暗誦のしやすさ、おもしろさ、楽しさは、口当たりよさは、リ
ズムのある文章です。リズムのある文章は古文であってもひとりでに暗誦し
たくなり、気がついたら暗誦してしまっていた、というようになります。

暗誦指導の工夫
  昔の素読のように意味内容も教えずに、やたら暗唱させることでないこ
と、これではっきりしています。昔の教育勅語のように暗記暗唱を強制した
り、無理強いしたりする「暗誦」ではいけません。また「宿題です、いつ、
いつまでに、この古文を暗唱せよ」と宿題で強要したりすることは望ましい
ことではありません。
「暗誦」することが指導目標になってしまってはいけません。「情景を思い
浮かべたり,リズムを感じ取りながら」と書いてあります。昔の言葉遣いの
短歌や俳句を舌で転がしてリズム調子のよさを楽しく体感しながら、情景を
思い浮かべながら口ずさんでいるうちに、いつのまにか暗唱してしまってい
た、というようでなければなりません。また、すぐれた昔語りの日本語表現
のよさ、その内容と表現との共応関係のよさを何とはなしにリズム調子のよ
さとともに体感し、口当たりのよさを舌で転がして楽しみつつ、いつのまに
か暗誦してしまっていた、というような結果の「暗唱」であるべきです。こ
うして日本の伝統文化を理解し、古人のものの見方、考え方を学び、日本の
伝統文化への扉を開いてやる指導はとても大切です。
 くれぐれも私のクラスの児童はこんなに数多くの短歌や漢詩を暗唱したと、
暗唱できた数の多さの成果を自慢したり、子供同士に無理強いの暗唱競争の
強要指導の成果を自慢するような暗唱指導をしないようにすることです。暗
唱できた数の多さを自慢する、そうした教師の自慢話の実践は、わたしは聞
きたくありません。遊びやゲームの中で楽しく身につけ、いつの間にか暗誦
してしまってたというような指導法の開発が必要でしょう。
  「日本の伝統的な言語文化に気づく」への扉を楽しく、興味津々な気持
ちで導いてやる手助けをする、昔の人々の物の見方や考え方を知り、伝統的
な日本文化に興味を持ち、育てる指導をすることが重要なのであって、暗誦
することが目的ではありません。手段と目的とを取り違えないようにしま
しょう。「情景を豊かに浮かべる」指導をすることなく、ひたすら文字づら
を空で繰り返して機械的に暗誦させる詰め込みの指導、例えば平家物語の冒
頭部分をこんなに長く暗誦できた、百人一首をこんなに数多く暗誦できたと
自慢する、こんな指導は絶対にやってはいけません。
  昔から、日本にはバイオリンの早期教育、ピアノの早期教育、漢字の早
期教育、和歌や古文や漢詩や教育勅語の早期暗誦教育、そうした教育論の提
唱者がおりました。そうした教育をする幼稚園もありました。漢詩や百人一
首や般若心経の暗誦指導に熱心な幼稚園がありました。ものめずらしさから新
聞や週刊誌で一時的に話題になったこともありました。教師が熱心に指導す
れば、子どもはそれなりにのってきます。ごく一部の子どもには、それなり
の成果もあがるでしょう。だが、両親のわが子への教育方針、子どもの個
性・能力・嗜好は一人一人が違っています。こうした早期教育はそれを目的
にした私塾で、それに賛同する両親ならよいでしょうが、公教育にはなじみ
まないこと当然です。

ことわざ、慣用句、故事成語
  今回の新要領に「長い間使われてきたことわざや慣用句,故事成語など
の意味を知り,使うこと。」と書いてあります。これは日本人がこれまでに
日常生活の中で長い間それとなく使ってきていることわざ・慣用句・故事成
語のことでしょう。これらには日本人の昔からの生活の知恵がこめられてい
ます。生きる知恵がこめられています。日常生活の警句や生活指針としてと
てもよいものばかりです。これには「暗唱する」とは書いていませんが、「意
味を知り、使うこと」と書いてあり、当然に暗唱して、日常場面に利用する
ことまでねらっていることになります。日本人の「生活の知恵」を身体化し
て日常生活に役立てることはとてもよいことです。
  要領に「意味を知り、使うこと」と書いてあります。ことわざ、慣用句、
故事成語は、リズムがあって、ほんの短い文言ですから、日常使用には容易
に利用できます。「意味を知って、使う」ですから、前記したように単に文
字づらを機械的に繰り返して暗記を強要し、暗記した数の多さを自慢する指
導にならないようにすることが重要です。
  
  

〔第5学年及び第6学年〕
     ウ 共通語と方言との違いを理解し,また,必要に応じて共通語で話
     すこと。
      C 読むこと
  (1) 読むことの能力を育てるため,次の事項について指導する。
    ア 自分の思いや考えが伝わるように音読や朗読をすること。
    イ 目的に応じて,本や文章を比べて読むなど効果的な読み方を工夫す
    ること。
    エ 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,優れた
    叙述について自分の考えをまとめること。
〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕
 (1)「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の指導
    を通して,次の事項について指導する。
   ア 伝統的な言語文化に関する事項
  (ア) 親しみやすい古文や漢文,近代以降の文語調の文章について,内
     容の大体を知り,音読すること。
  (イ) 古典について解説した文章を読み,昔の人のものの見方や感じ方
     を知ること。
  イ 言葉の特徴やきまりに関する事項
 (イ) 時間の経過による言葉の変化や世代による言葉の違いに気付くこ
    と。
 (カ) 語感,言葉の使い方に対する感覚などについて関心をもつこと。

【荒木のコメント】
「音読」と「朗読」
  現行学習指導要領では、音読については「読むこと」の中に「登場人物
の心情や場面についての描写など、優れた叙述を味わいながら読むこと」と
なっていましたが、今回の学習指導要領では「読むこと」の中に「自分の思
いや考えが伝わるように音読や朗読をすること」と変更された記述になって
ます。
  わたしが思うには、二つは全く同じことで「自分の思いや考えが伝わる
ように音読や朗読をする」ためには「登場人物の心情や場面についての描写
をおさえ、ありありとイメージをたっぷりと浮かべ、情調に漂いつつ優れた
叙述を味わいながら音読または朗読すること」が大切なのです。二つの文章
の違いは指導のねらいの重点の置き方の違いなのであって、音声表現の実際
場面では二つは同時進行による相互矢印、つまり内言思考しつつ音声表現し
ていく、音声表現しつつ内言思考していく、という相互矢印の音声表現過程
にある点では同じです。
  「5・6年生」では「自分の思いや考えが伝わるように音読や朗読をす
ること」と書いてあり、「音読や朗読をする」と、「音読」と「朗読」との
二つが書いてあります。
  では「音読」と「朗読」とはどう違うのか。これについては「音読」は
「理解のための読み」とか「低次の粗い読み」などと、「朗読」は「表現の
ための読み」とか「高次の上手な読み」などと、これまでいろいろと論じら
れてきました。が、結論らしきものはまだ出ていません。
  わたしなりに大ざっぱな区別を言えば「音読」は「たどたどしい読み、
さぐり読み」から「ある程度の意味内容を表現した粗い読み」まで、「朗
読」は「意味内容を上手に表現している・そう努力している読み方。平凡で
あるがピシャリと決まって聞き手を引き込まさせる上手な読み」までと、荒
削りな言い方をすれば大体こんなふうにまとめてもいいかもと思います。そ
んな区分けでよかろうかと思います。

5・6年生の「暗唱」について
  「5・6年生」では、「音読。朗読」は出てきますが、「暗唱」は出て
きていません。「暗唱」は「3・4年生」だけに書かれています。「1・2
年生」と「5・6年生」の個所には「暗唱する」は出てきていません。「1
・2年生」は「音読する」、「3・4年生」は「音読する。音読や暗唱をし
たり」、「5・6年生」は「音読や朗読をする」となっています。
  だからと言って、「5・6年生」では「暗唱」をしなくてよい、指導し
なくてよい、指導してはいけない、ということではないでしょう。
  「5・6年生」には「親しみやすい古文や漢文,近代以降の文語調の文
章について,内容の大体を知り,音読すること。」「古典について解説した
文章を読み,昔の人のものの見方や感じ方を知ること。」と書いてありま
す。学習財として「親しみやすい古文や漢文」、指導方法や目標としては
「内容の大体を知り、音読すること」「昔の人のものの見方や感じ方を知る
こと。」書いています。
  「内容の大体を知り」とは、教科書に古文の「読み仮名」や「傍注」や
「現代語訳」が原文そばに付記してあって、それら現代語訳や解説文を手が
かりにして意味内容の大体を知るように教科書が作られてる必要があります。
教師はこれら資料を大いに活用して指導し、子どもがやさしく興味をもって
古典への扉を開くような導入の配慮指導が必要でしょう。かつての国語授業
がそうであったように古文の細かな単語・字句の語義詮索指導や文法的な解
説指導をしてはいけません。「内容の大体を知り」とは、このことでしょう。
  これまでの学校教育における古文指導では、古文嫌いな子、漢文嫌いな
子、文法嫌いな子を作ってきた元凶があります。それは、古語辞書をひいて
古語の語彙的意味を暗記させたり、古語文法の品詞名を古文語列の一つ一つ
に語句分解をしつつ品詞名や用言の活用形を当てはめて言わせたり、詳細な
訓詁注釈指導をしたりしてきました。こうした指導で古文が嫌い、文法が嫌
いな子ども達を作ってきました。大学受験に直結するような古文の品詞論、
活用論、語彙論の詮索指導は絶対にやってはいけません。これが古文嫌い、
漢文嫌い、文法嫌いな日本人を作ってきた元凶です。
  「古文は楽しい、おもしろい」という古文との出会わせ方が重要です。
歴史的仮名遣いや昔の古い言い回し方があることに気づかせ、おもしろいな
あと体感させる動機づけの指導が重要なのです。それには当初から大体の意
味内容を知らせる現代語訳や読みがなふりや傍注・脚注の解説文で知らせて
しまいます。古文や漢文の口当たりのよいリズム調子を楽しんで音読させて
みましょう。長文でそれをする必要はありません。ごく一部分の短い古文個
所でいいのです。原文そばにある解説文で大体の意味内容を知らせ、リズム
調子のよさ、古い言葉の言い回しを楽しんで音読させます。こうした古文、
漢文、和歌、俳句との出会いに子ども達は喜ぶことでしょう。昔の言葉の使
い方、語感、言葉調子を音読で、リズム調子で楽しむようにさせます。こう
した出会いで古い日本文化、伝統文化に興味関心を持ってくれたらしめたも
のです。
  古文の、漢文の、短い文章部分なら繰り返し楽しんで読む中ですっかり
全文を暗唱してしまう子供もいるでしょう。ある一部分の文章のあちらこち
らを虫食いのように暗唱してしまう子供もいるでしょう。ここの文章部分は
いいなあ、好きだなあと感じ入って、そこだけ繰り返し読んで暗唱してしま
う子供もいるでしょう。それはそれでいいのではないでしょうか。そうした
暗唱は大いに推奨すべきでしょう。教師による暗唱の強制や強要によって古
文嫌いにさせることだけはやめるべきです。暗唱の無理強いや強制にならな
いようにすることが重要です。
  昔の文章の言い回しのおもしろさ、内容のすてきな個所を子どもに選択
させてみましょう。好きになれば繰り返し口ずさみ、いつのまにか暗誦して
しまうことでしょう。好きにさせることがまず大切です。いいなあ、おもし
ろいなあ、と思わせることが重要なのです。



     中学校学習指導要領の部

  国語
〔第1学年〕

   B C 読むこと
    ア 様々な種類の文章を音読したり朗読したりすること。

   〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕
   (1) 「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」
      の指導を通して,次の事項について指導する。
      ア 伝統的な言語文化に関する事項
     (ア) 文語のきまりや訓読の仕方を知り,古文や漢文を音読し
      て,古典特有のリズムを味わいながら,古典の世界に触れ
      ること。
     (イ) 古典には様々な種類の作品があることを知ること。
     イ 言葉の特徴やきまりに関する事項
     (ア) 音声の働きや仕組みについて関心をもち,理解を深め
      ること。

 
〔第2学年】
    (1)「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこ
      と」の指導を通して,次の事項について指導する。
      ア 伝統的な言語文化に関する事項
      (ア)作品の特徴を生かして朗読するなどして,古典の世界を楽
      しむこと。
      (イ)古典に表れたものの見方や考え方に触れ,登場人物や
      作者の思いなどを想像すること。

 
〔第3学年〕
    〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕
      (1)「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読む
      こと」の指導を通して,次の事項について指導する。
      ア 伝統的な言語文化に関する事項
      (ア)歴史的背景などに注意して古典を読み,その世界に親しむ
      こと。
      (イ)古典の一節を引用するなどして,古典に関する簡単な文章
      を書くこと。
      イ 言葉の特徴やきまりに関する事項
      (ア)時間の経過による言葉の変化や世代による言葉の違いを理
      解するとともに,敬語を社会生活の中で適切に使うこと。
      (イ)慣用句・四字熟語などに関する知識を広げ,和語・漢
      語・外来語などの使い分けに注意し,語感を磨き語彙
      を豊かにすること。

  
第3 指導計画の作成と内容の取扱い
    1指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
     (1) 第2の各学年の内容の指導については,必要に応じて当
       該学年の前後の学年で取り上げることもできること。
     (2) 第2の各学年の内容の「A話すこと・聞くこと」,「B書
       くこと」,「C読むこと」及び〔伝統的な言語文化と国
       語の特質に関する事項〕について相互に密接な関連を図
       り,効果的に指導すること。その際,学校図書館などを
       計画的に利用しその機能の活用を図るようにすること。
       また,生徒が情報機器を活用する機会を設けるなどし
       て,指導の効果を高めるよう工夫すること。
     (第2の各学年の内容の〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事
    項〕については,次のとおり取り扱うものとする。
     (1)〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕の(2)に示す
     事項については,次のとおり取り扱うこと。
     (2)教材は,次のような観点に配慮して取り上げること。
     キ 我が国の伝統と文化に対する関心や理解を深め,それらを尊重
    する態度を育てるのに役立つこと。
     (4) 我が国の言語文化に親しむことができるよう,近代以降の
     代表的な作家の作品を,いずれかの学年で取り上げること。
     (5)古典に関する教材については,古典の原文に加え,古典の現代
    語訳,古典について解説した文章などを取り上げること。

【荒木のコメント】
現行学習指導要領と新学習指導要領との違い
  今回の新学習指導要領は〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する
事項〕が特設されています。それだけ〔伝統的な言語文化と国語の特質に関
する事項〕を重要視した位置づけになっているということでしょう。
  今回の新しい学習指導要領には以下のようなことが明確に規定されて書
かれていることに特徴があります。これを読むと、学年段階の指導目標の相
違がどこにあるかが分かります。
 中学1年は「古典の世界に触れること」、中学2年は「古典の世界を楽し
むこと」、中学3年は「古典を読み,その世界に親しむ」とあります。もう
一度、整理して次に引用してみましょう。
 
中学1年
  ◎文語のきまりや訓読の仕方を知り,古文や漢文を音読して,古典特有
   のリズムを味わいながら,古典の世界に触れること。
  ◎古典には様々な種類の作品があることを知ること。
中学2年
  ◎作品の特徴を生かして朗読するなどして,古典の世界を楽しむこと。
  ◎古典に表れたものの見方や考え方に触れ,登場人物や作者の思いな
   どを想像すること。
中学3年
 ◎歴史的背景などに注意して古典を読み,その世界に親しむこと。
 ◎古典の一節を引用するなどして,古典に関する簡単な文章を書くこと。
 言葉の特徴やきまりに関する事項
  ◎時間の経過による言葉の変化や世代による言葉の違いを理解す
  るとともに,敬語を社会生活の中で適切に使うこと。
  ◎慣用句・四字熟語などに関する知識を広げ,和語・漢語・外来
  語などの使い分けに注意し,語感を磨き語彙を豊かにすること。

音読、朗読、暗唱について
今回の新しい学習指導要領で「音読、朗読、暗唱」の文字を探すと下記のよ
うになっています。
☆中学1年生には
  ○様々な種類の文章を音読したり朗読したりすること。
  ○古文や漢文を音読して,古典特有のリズムを味わいながら,古典の世
   界に触れること。
☆中学2年生には
  ○作品の特徴を生かして朗読するなどして,古典の世界を楽しむこと。
☆中学3年生には、「音読、朗読、暗誦」がなし、です。

 「音読」は1年生に、「朗読」は1年生と2年生に書かれています。3年
生には、「音読、朗読、暗誦」がなし、です。つまり、「暗唱」は1、2、
3学年にすべて書かれていません。
  小学校の部でわたしが書いたように、「音読、朗読、暗誦」が書いてな
いからと指導しなくてもよいということでなく、どこの学年でも表現内容を
読み取るための学習活動として「音読、朗読、暗唱」がなくてはならないも
のでしょう。中学3年生に「音読、朗読」がないから、中学3年に「音読、
朗読」を指導しないということではなく、中学3年生でも、読み深めの指導
方法として音読、朗読の指導をしなければ授業は成立しないこと当然です。
音読・朗読の実態・レベルに合わせて、それを引き上げる指導は当然にしな
くてはならないものでしょう。
 「暗唱」についても、小学校の部「5、6年生の暗誦について」の項目で
書いたことと同じです。ここに繰り返して書きません。
  一つ付け加えたいことは、「指導計画の作成と内容の取扱い」の中に
「古典に関する教材については,古典の原文に加え,古典の現代語訳,古典
について解説した文章などを取り上げること。」と、わざわざ書いているこ
とです。これはとても重要なことです。これについても、わたしが小学校の
部「5、6年生の暗誦について」の項目で前述しています。そちらを参照し
て下さい。
   また、第一学年「話すこと、聞くこと」の中に「話す速度や音量、言
葉の調子や間のとり方、相手に分かりやすい語句の選択、相手や場に応じた
言葉遣いなどについての知識を生かして話すこと」があります。これは現行
指導要領の「言語事項」の中にある「話す速度や音量、言葉の調子や間のと
り方などに注意すること」が、今回の学習指導要領では「話すこと、聞くこ
と」の内容へと移行した指導事項です。
  これについても小学校1、2年生の部「発声発音について」の項目で既
に述べています。この音声表現における「速度、音量、言葉調子、間のとり
方」指導は「話す、聞く」だけでなく、「音読、朗読」でもとっても重要な
指導内容です。「音読、朗読」においては間の開け方で音声表現の6、7割
は決まるといってもよいほどです。あとは「速度、音量、言葉調子」だとい
ってもよいぐらいです。
  「話す」においても同じことが言えるで
しょう。意味内容の区切りで、話したり音読したりすることは音声表現の基
礎基本であり、とても重要です。「話す、聞く」にも「音読、朗読」にも、
「間、音量、速度、言葉の調子」はとても重要です。なぜ、「言語事項」か
ら「話す
こと、聞くこと」へ移行したのか。「音読、朗読」にはないのか、今回の学
習指導要領の作成者たちは、どうも音読、朗読という音声表現指導における
「間、音量、速度、言葉の調子」の重要性を理解してない方々みたいですね。
この点、今回の指導要領の枠組み・土俵づくりが間違っているように思いま
す。従来のように言語事項を別枠にすべきでしょう。



          このページのトップへ戻る