表現よみ授業の指導法               2011・11・20記




 
表現よみ授業の指導方法(その1)




            
はじめに

  表現よみ授業の指導方法については、わたしはこれまで拙著で多くの指
導方法のアイデアを紹介してきました。最近刊の拙著では
  
『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社、2000、CD1枚付き)
があります。この本には、「表現よみ指導のさまざまな工夫・アイデア」の
章があり、そこには「その1」から「その46」まで、46個の指導法アイ
デアを紹介しています。
  ここWeb「表現よみ授業の指導方法」欄では、この本には書いてない
「表現よみ授業の指導方法」(その1)章から(その6)章までを新たに書
き加えることにします。


 本章の目次
   (1)全文章から数か所を選択して指導する
   (2)教師が二通りの読み声を提示して選択させる
   (3)教師がわざと間違えてみせる
   (4)児童の読み声の違いに気づかせる




(1)全文章から数個所を選択して指導する。


  教科書教材の全文章を音声表現の指導をするには無理があります。国語
授業は音読だけではありません。音読だけに時間をかけることはできません。
ていねいな表現よみ指導する文章個所は、全文章の中から数か所を選択しま
す。数か所の音声表現指導にならざるを得ません。

  では、どんな文章個所が音声表現の指導に適するでしょうか。次のよう
な場面があるでしょう。

(1)読み声を手がかりに解釈深めをする個所
  教師が「ここの文章個所の音声表現を手がかりに○○○の意味内容を深
めたい。この文章個所の読み声を手がかりに○○○の意味内容深めの授業展
開をしたい」という指導意図を持った文章個所

(2)出来事、事柄の重要個所を取り上げてていねいに指導したい個所
  教師が「ここの文章個所は重要な場面だ、感動的な場面だ、語法的に重
要だ、論理的・因果的なつながりで重要だ、これを読み声分析で読み深めた
い・分からせたい、声に出して心情や情調にひたり漂わせて味わわせい。」
という指導意図を持った文章個所

(3)子どもが好きな文章場面で心ゆくばかりに読み浸りた個所
  児童達が「ここの文章個所はいいなあ、素敵な描写文章だなあ、感動す
る書き振り・コトバ表現だなあ、おもしろい描写文章だなあ、声に出して心
ゆくまで味わい読み浸りたいなあ」という個所を児童から自主的に選択させ
ます。児童が自分でいちばん音声表現したい個所を決めて全員の前で発表し
ます。発表後は、だれの、どこがよかったか、こう読むともっとよかった、
などの共同助言を全員で発表します。教師による感想発表や再度の読み声発
表を求めたりします。こうして音声に対する鋭い感覚と美的感受性を育てま
す。情感性豊かに思い浸りつつ音声表現を楽しませます。



(2)教師が二通りの読み声を提示し選択させる



  教師がAとBと二通りの違った読み声をやってみせます。どちらがよい
かを問い、選択させます。

授業例1
「くじらぐも」(なかがわりえこ、一年生教材文)に次のような文章部分が
あります。

  
 みんなは手をつないで、まるいわになると、
   「天までとどけ、一、二、三。」
   と、ジャンプしました。でも、とんだのは、やっと
   三十センチぐらいです。
   「もっとたかく、もっとたかく。」
   と、くじらがおうえんしました。


 これから先生が二つの会話文の読み方をやってみせます。(あ)と  
 (い)、どちらの読み方が上手でしょうか。

   (あ)ずらずらと平らに読む。間違えずに、つっかえず、すんなりと
      読みます。
   (い)大声で、力強く、腹の底から声を出して、「天までー、とど 
      けー、いーち、にー、さあーん。」「もっと、たかくー、もっ
      と、たかくー。」と、力強く、ふんばって読みます。

  一年生の表現よみ指導は、分かりやすい単純な問いかけ言葉で指導して
いきます。
  地の文よりは会話文の方が音声表現しやすいですから、まず会話文から
始めていきます。「おしゃべりしてるように・語っているように、話しかけ
ているように・読みましょう」っと誘いかけます。しゃべっている音調を出
して読むようにします。先ず地の文と会話文とを区別して音声表現するのが
よいことを分からせます。

  子ども達は、(い)を選択するでしょう。それは、実際に読み声をやっ
てみただけで、聞いてみただけで、直感的に感覚的に理解できます。理屈で
「どんな読み方にするとよいですか」という問いかけよりは、実際に声に出
してみさせることです。
  (い)を選択したら、実際にみんなで(い)のように音声表現する練習
をします。「天までとどけ、一、二、三。」は、かけ声です。学級児童数人
または全員で丸い輪を作って言わせるのもよいでしょう。「もっとたかく、
もっとたかく。」は、くじらぐもが応援しているかけ声です。スポーツ試合
の応援場面を思い出させて言わせるのもよいでしょう。子ども班とくじらぐ
も班とに分かれてやりとりさせるのもよいでしょう。
  低学年生は、音声表現の仕方を理屈で探らせ話し合うよりも、まず音声
表現してみて、聞いた感じ、身体で感じとった感じで、「よりよい」「より
劣る」と感覚的に判断して選択する指導方法がよいでしょう。実際の音声表
現のあらわれ、その違いを感じとって選択させます。よい読み声を、模倣し
て、まね読みさせます。上手な読み声を身体に刷り込み、沈殿させていくよ
うにします。それが次の新しい文章を音声表現するときの音読力となってい
きます。

授業例2
「ごんぎつね」(新美南吉、4年生教材文)に次のような文章部分がありま
す。

 ごんは、見つからないように、そうっと草の深い所へ歩きよって、
そこからじっとのぞいてみました。
 「兵十だな。」と、ごんは思いました。

 ここには、地の文と会話文とがあります。ここの文章全体を表現よみす
  るとき、次のAとBと、どちらの読み
  方がよいですか。AとB、二つを先生が読んでみせますよ。
    A 大きな声で、元気よく、聞いている人に伝わるように、はっき
      りと読む。
    B 小さな声で、ひっそりと、兵十に気づかれないように、そうっ
      と読む。

 (子ども達から、いろいろと意見が出るでしょう。)
T ここの文章個所は、ごんの目や気持ちによりそって書かれている地の文
  です。ごんは兵十に気づかれないように、見つからないようにかくれて
  後をつけています。ですから、「そっと」は「そうーっと」、「じっ 
  と」は「じいーっと」と伸ばして密やかにつぶやくように音声表現する
  ぐらいがよいことを分からせます。
 「兵十だな。」は、ごんのひとり言(心内語)です。実際に誰かに話しか
けてはいませんね。あたまの中だけの考え言葉です。ほんとは声に出ていま
せん。でも音読するときは黙って、無言ではいけませんね。読んだことにな
りません。それらしく声に出して読まなければなりません。あたまの中だけ
の独り言言葉、ぼそぼそとしたつぶやき、そうっとそうっと読むようにしま
す。しかも確信に満ちた独り言にして音声表現すべきでしょう。

授業例3
「大造じいさんとガン」(椋鳩十、5年生教材)に次のような文章部分があ
ります。

 
血管のふくれたがんじょうな手を、いろりのたき火にかざしながら、それ
からそれと、愉快なかりの話をしてくれました。

 これから先生が二通りの読み方をやってみせます。AとBと、どちらの
  読み方が上手ですか。(AとB,二通りの板書もします。/のしるしは、
  そこで軽く間をあけて、区切って読むしるしです。)

   A 血管の/ふくれた/がんじょうな/手を、/いろりの/たき火に
     /かざしながら、/それからそれと、/愉快な/かりの/話を/
     してくれました。/
   B 血管のふくれたがんじょうな手を、いろりのたき火にかざしなが
     ら、/それからそれと、愉快なかりの話をしてくれました。/

 (子ども達から、いろいろと意見が出るでしょう。)
T ここでの学習目標は、あまり小さく区切って読むよりも、大きな区切り
  にして読むほうがよい、ということを分からせる学習です。
  Aの読み方は、文節ごとに小さく区切って読んでいます。Bの読み方は
  大きな意味内容のまとまりと区切りで二分して読んでいます。
  Aのように小さく区切って読むと、文章全体の意味内容がまとまりとし
  て聞き取れない、ばらばらな読み方になってしまうことを分からせます。
  Bは、大きな意味内容をひと区切りにして読んでいます。Bの方が聞い
  ていてよく分かる読み方、よく伝わる読み方になっていることを分から
  せます。
   この一文のように長い文は、係り受けの修飾関係に配慮した音声表現
  をしなければなりません。どんな「手」かというと、「血管のふくれた
  がんじょうな手」です。その「手」を「たき火にかざしながら」です。
   ここまでがひと区切りで、「手を」の下でほんの軽く息継ぎの間をあ
  けてもいいですが、「かざしながら」まで意味内容のひとつながりの意
  識をもって、つなげて読み進めていくようにすると分かりやすくなりま
  す。
   「かざしながら」の下でたっぷりと間をあけて息を吸います。「それ
  からそれと」は「話してくれました。」に係りますから、「それからそ
  れと」が文末までつながる意識でひとつながりに読み進めていきます。
  「それからそれと」の下で軽い間をあけてもいいですが、「話をしてく
  れました。」までひとつながりにつながる意識を失わないで読み進める
  ことが重要です。

授業例4
「たぬきの糸車」(きしなみ、1年生教材文)に次のような文章部分があり
ます。

 糸車がキークルクルとまわるにつれて、二つの目玉も、くるりくるりと
まわりました。そして、月のあかるいしょうじに、糸車をまわすまねをす 
るたぬきのかげがうつりました。
 おかみさんは、おもわずふき出しそうになりましたが、だまって糸車をま
わしていました。
 それからというもの、たぬきは、まいばんまいばんやってきて、糸車をま
わすまねをくりかえしました。


T これから先生が二通りの読み方をやってみせます。AとBと、どちらの
  読み方が上手ですか。
    A,擬音語「キークルクル」と擬態語「くるりくるり」を表情豊か
      に音声表現する。
    B,擬音語「キークルクル」と擬態語「くるりくるり」を平板にず
      らずらと読む。

  擬音語「キークルクル」と擬態語「くるりくるり」のオノマトペは、音
声表現すると音声で臨場感がありありと出ます。擬音語は「音」をまねた言
葉、擬声語は「声」をまねた言葉、擬態語は物事の「ありさまや様子、人物
の気持ちや感じ」を表した言葉です。三つをひとまとめにして「オノマト
ペ」と言います。まねた言葉ですから、音声表現にすると臨場感や現実感が
目に見えるように、音に聞こえるように、皮膚に感じるようにありあり感が
強く出てくるようになります。
  「キークルクル」は、糸車の出す音です。「くるりくるり」は、糸車が
回る様子です。糸車が軽快に回っている音や様子のありあり感が出るように
読むようにします。
  「キークルクル」と「くるりくるり」とは照応しています。糸車が
「キークルクル」と回るにつれて、たぬきの目玉も「くるりくるり」と回り
ました、です。二つが照応しているように音声表現するとよいでしょう。
「キークルクル」と「くるりくるり」とは、やや大げさに表情をつけた読み
方ぐらいで二つの照応するイメージが目立って表れ出てくるのではないでし
ょうか。やや大げさであっても、この場面ではへんな読み方にはならないで
しょう。
  次の「月のあかるいしょうじに、糸車をまわすまねをするたぬきのかげ
がうつりました。」の文法的な骨格文は「しょうじに、かげが、うつりまし
た。」です。どんな「しょうじ」か。「月のあかるい」「しょうじ」です。
どんな「かげ」か。「糸車をまわすまねをするたぬきの」「かげ」です。
「月のあかるいしょうじ」はひとつながりに読まなければなりません。「糸
車をまわすまねをするたぬきのかげ」もひとつながりに読まなければなりま
せん。途中で切れ目を入れないようにします。

 これから先生がAとBと二つの表現よみの仕方をやってみせます。どち
  らの読み方がよいかですか。板書でも示します。/は、間をあけるしる
  しです。(と言って次の二つを板書する。先生が二つを実際に音声表現
  してみせます。)

(A)糸車をまわす/まねをする/たぬきの/かげが/うつりました。
(B)糸車をまわすまねをする/たぬきのかげが/うつりました。

 (子ども達から、いろいろと意見が出るでしょう。)

  子ども達は、(い)を選択するでしょう。(A)は、ぶつ切りに聞こえ
て、全体の意味内容が一つにまとまって伝わらないことに気づくことでしょ
う。「たぬきのかげ」はひとつながりですから、「たぬきの」と「かげ」と
は区切って読んでもかまわないですが、息はひとつながりの意識を持たせて
読みつなげなければなりません。区切ると「かげ」が目立って表現され、長
くずらずらした読み方になるのを回避することができます。

 「おもわずふきだしそうになりましたが」は、おかみさんの気持ちになっ
て、笑いをこらえた表情・気持ちになって読むとよいでしょう。教師が次の
二つの読み方をやってみせます。どちらがよい音声表現になるかを考えさせ、
顔の表情を軽く作りながら読むとよいことを分からせます。
(A)ふきだしそうな顔の表情を作って読む
(B)ずらずらと平板に冷たく読む

「ふきだしそうになりましたが、」のあとで、ちょっとばかり長めの間をあ
けるとよいでしょう。「だまって糸車をまわしていました。」は、たぬきに
気づかれまいと笑いをぐっとこらえて、小さめの声で、そっと、静かに、ゆ
っくりと音声表現するとよいでしょう。
(A)「ふきだしそうになりましたが、」のあとで、ちょっとばかり長めの
    間をあけて読み進める。
(B)「ふきだしそうになりましたが、」のあと、間をあけないで、すぐつ
    なげて読み進める。

 「まいばんまいばん」は、作者(きしなみ)は同じ言葉を二回も繰り返し
て記述しています。「まいばん」を強調した書き方です。二つの「まいば
ん」を同じ音調にしないで、二つに変化をつけ、リズムをつけて、やや大げ
さに音声表現するぐらいでよいでしょう
(A)それからというもの、たぬきは、まいばんまいばんやってきて、糸車
   をまわすまねをくりかえしました。
(B)それからというもの、たぬきは、まいばんやってきて、糸車をまわす
   まねをくりかえしました。
  (A)は「まいばん」を二回繰り返しています。(B)は、一回だけで
す。一回と二回、意味内容がどう違うかを話し合わせて言語感覚を磨きます。
また音声表現の仕方についても上記を参考に「ずらずら平板読み」と比較し
ながら話し合わせます。

授業例5
「三年とうげ」(李錦玉、3年生教材文)に次のような文章部分があります。

 
その日から、おじいさんは、ごはんも食べずに、ふとんにもぐりこみ、と
うとう病気になってしまいました。

  この原文から、「とうとう」を削除した文を(A)、原文のままの「と
うとう」のある文を(B)として板書します。
(A) その日から、おじいさんは、ごはんも食べずに、ふとんにもぐりこ
    み、病気になってしまいました。
(B) その日から、おじいさんは、ごはんも食べずに、ふとんにもぐりこ
    み、とうとう病気になってしまいました。

 「とうとう」のあるなしでどう意味内容が変わってきますか。
 (子ども達から、いろいろと意見が出るでしょう。)

 (A)は直ぐにも病気になったようにも読みとれますね。(B)は「あ
   と三年の命、どうしたらいいものか。困った、困った、どうしよう、
   どうしよう。」と連日、悩みに悩んで、だんだんと体調をくずしてい
   き、最後には病気になってなって寝込んでしまうようになった、とい
   う意味内容に読みとれますね。
   音声表現するときは、(B)の「とうとう」をどう音声表現するとよ
   いでしょうか。話し合わせ、実際に音声表現させたりします。「と、
   お、と、お」とか、「とー、とー」とか、「と」を強く高く読みだす
   とか、いずれにせよ際立てて、目立たせて音声表現するとよいことに
   気づかせます。

授業例6
「白いぼうし」(あまんきみこ、4年生教材文)に次のような文章部分があ
ります。

 
ぼうしをつまみ上げたとたん、ふわっと何かが飛び出しました。
 「あれっ。」
 もんしろちょうです。あわててぼうしをふり回しました。そんな松井さん
 の目の前を、ちょうはひらひら高くまい上がると、なみ木の緑のむこうに
 見えなくなってしまいました。
 「ははあ、わざわざここに置いたんだな。」
 ぼうしのうらに、赤いししゅう糸で、小さくぬい取りがしてあります。
 「たけやまようちえん たけの たけお」


 この文章個所には、カギカッコが三つあります。前の二つは、松井さんの
独り言です。誰かに語りかけている会話文ではありません。
 「あれっ。」は、ふと松井さんの口からもれた、小さな驚きの声です。つ
ぶやき声といってもよいでしょう。咄嗟に出た心内語です。実際は声に出て
いないのかもしれません。が、音声表現では声に出して咄嗟の独り言(心内
語)のように読まなければなりません。
 「ははあ、わざわざここに置いたんだな。」は、「あれっ。」と同じく独
り言です。音声表現の仕方は、「あれっ。」と同じで、独り言の音調にして
読みます。
「あれっ。」と「ははあ、わざわざここに置いたんだな。」の二つ、これを
次のように教師が二通りをやってみせます。
(A)通常の話しかけてる読み方で読む。
(B)密やかにそっとつぶやいてる読み方で読む。
  こうして「語りかけ会話文」と「独り言会話文」との音声表現が違って
くることを指導します。

 松井さんが帽子の名前を読む場面は、どう声に出すのがよいでしょうか。
子ども達に考えさせたい文章個所です。松井さんが帽子の名前を一字ずつ確
認しながら読みあげています。
 これから先生がAとBと二つの表現よみの仕方をやってみせます。どち
  らの読み方がよいですか。/は、間をあけるしるしです。(と言って次
  の二つを板書する。先生が二つを実際に音声表現してみせる。)
(A)「たけやまようちえん/たけの/たけお」
    (早口で、すらりと、読む)
(B)「た/け/や/ま/よ/う/ち/え/ん/ た/け/の/ た/け/
   お」
    (一字一字を確かめつつ、ゆっくりと、区切って、読む)

 (子ども達から、いろいろと意見が出るでしょう。)

 (あ)より(い)の音声表現の仕方がよいことは言うまでもありません。
その理由はこうこうこうだから、と無理に言わせる必要はありません。教師
の実際の音声表現を聞いてみて、また、自分が実際に二つの音声表現をやっ
てみて、(A)より、(B)がいい、と感覚的に、直感的な理解の仕方で選
択させるようにします。

  ここの文章個所では、以下のような遅速変化(緩急変化)を理解させる
指導もできます。これも(A)と(B)の二つに区分けして、対比しながら
実際に教師がやってみせて指導します。二つの区分けの仕方は、これまで書
いてきたことと同じです。読者のみなさんも工夫してみましょう。遅速変化
(緩急変化)のヒントは次に書きます。
  松井さんがちょうを追いかける場面の地の文の音声表現の仕方はこうし
ます。松井さんがぼうしをつまみ上げたとたん、もんしろちょうが急に飛び
出します。あわててぼうしをふり回します。不意に一瞬の飛び出しで、松井
さんはあわてます。そんな咄嗟の急な場面ですから、「もんしろちょうです。
あわててぼうしをふり回しました。」は、早口で、たたみかけ、追いかけて
いるように音声表現するとよいでしょう。
  そんな松井さんには素知らぬちょうです。ひらひらと飛んでいって見え
なくなってしまいます。「そんな松井さんの目の前を、ちょうはひらひら高
くまい上がると、なみ木の向こうに見えなくなってしまいました。」個所は、
前文章とは対照的にゆったりと、落ち着いた声で、ゆっくりと、のんびりと
音声表現するとよいでしょう。

授業例7
「一つの花」(今西祐行、4年生教材文)に次のような文章部分があります。


 お父さんは、それを見てにっこり笑うと、何も言わずに、汽車に乗って行
ってしまいました。

 これから先生が(A)と(B)との二つの表現よみの仕方をやってみせ
  ます。どちらの読み方がよいかでしょうか。
  /は、間をあけるしるしです。(と言って次の二つを板書もおこな  
  う。)

(A) 何も言わずに/汽車に乗って行ってしまいました。
(B) 何も言わずに/汽車に乗って/行ってしまいました。

 (A)と(B)と、どちらの読み方がいいですか。様子がよく分かるよ
   うにありありと声に出てるのはどちらでしょうか。
 (子ども達から、いろいろな考えが発表されるでしょう。)
  ここでは原文にある「乗って行って」が問題箇所ですね。この言葉が
   どんな様子であるかが分かれば、答えは簡単です。「乗って」と「行
   って」は、二つとも「汽車に乗る」と「向こうへ行く」という実質的
   意味を持っています。「乗ってみる」「乗っている」「乗ってやる」
   などの補助的付属的な意味が付け加わっている補助動詞を伴った連語
   ではありません。
   ここでは「汽車に乗って、行ってしまいました。」のように「乗っ 
   て」のあとに読点(てん)がついていません。しかし、ここは「乗っ
   て」のあとに軽い間をあけて音声表現すると、「乗って、そして、行
   ってしまった」という時間的な論理関係、「乗って、そして、行って
   しまった」情景が目に見えるように分かるように音声で表現できます。
   (実際に音声表現をしながら、二つの読み声の表れ方の違いについて
   話し合っていきましょう)


  
(3)教師がわざと間違えてみせる


 子ども達の話し合いを盛り上げるために教師がわざと正解とは反対(逆)
の意見を主張することもあってよいでしょう。それをきっかけに正解へと導
く音声表現へと話し合いを発展させていきます。

授業例1
 李錦玉「三年とうげ」に次のような文章部分があります。

 
お日さまが西にかたむき、夕やけ空がだんだん暗くなりました。
 ところがたいへん。あんなに気をつけて歩いていたのに、おじいさんは、
石につまずいて転んでしまいました。おじいさんは、真っ青になり、がたが
たふるえました。
 家のすっとんでいき、おばあさんにしがみつき、おいおいなきました。


 ここの文章個所の、先生が考えた表現よみの仕方をやってみせます。
  初めの「お日さまが西にかたむき、夕やけ空がだんだん暗くなりまし 
  た。」までは、早口で、急いで読みます。
   次の「ところがたいへん」から最後の「おいおいなきました。」まで
  は、ゆっくりと、のんびりと、たっぷりと間をあけつつ読んでいきます。
     (教師、音読してみせる。)
 どうでしたか? 初めは早口で読んで、太陽が西に傾き、だんだん暗く
  なっていく感じが出ていたでしょう。
  「ところが」から「おいおいなきました。」まで、ゆっくりと読んでい
  て、おじいさんがすってんころりんと転んでしまい、気持が動転し、驚
  きあわてて、真っ青になっておばあさの所へすっとんでいった様子が声
  にでていたでしょう。
  先生の読み方、とても上手だったでしょう。みなさんも同じ意見でしょ
  う。「わたしは、先生と違う。」という人はおりませんか。

(教師がわざと間違った音声表現をしてみせ、こうけしかけて、ここから話
し合いを盛り上げていきます。先生と反対の音声表現の仕方がよいという方
向へ導いていきます。太陽が西へしずかに、ゆったりと沈んでいく様子はゆ
っくりだから、その動きに合わせて、ここはゆっくりと静かな感じにして読
んでいくのがよいことを分からせます。「ところが」から先は、すってんこ
ろりんと転んで、気持ちが動転し、大慌てで、おばあさんの所へ駆けていく
場面です。読みの速度は「緩」から「急」へと変化させて読んでいくとよい
ことを実際の音声表現で分からせます。出来事場面の緩急変化がどうである
か、それに合わせて、読みの速度も変化させて読むのがよいことを分からせ
ます。)
  こうした話し合いをしながら、そのように緩急変化をつけた実際の音声
表現の練習をして、ここだけでも完成読みができるようにします。

授業例2
 
椋鳩十「大造じいさんとガン」に次のような文章部分があります。

 ガンの群れは、これに危険を感じてえさ場を変えたらしく、付近には一羽
も見えませんでした。しかし、大造じいさんは、たかが鳥のことだ、一晩た
てば、またわすれてやってくるにちがいないと考えて、昨晩よりも、もっと
たくさんのつりばりをばらまいておきました。

  この文章個所で、先生がこれは素晴らしい表現よみだ、という読み方
  をやってみます。
   この文章の中の「たかが鳥のことだ、一晩たてば、またわすれてやっ
  てくるにちがいない」の個所の表現よみの仕方についてです。先生は、
  この文章部分を、力強く、元気よく、目立つように読みます。「たかが
  鳥のことだ、一晩たてば、またわすれてやってくるにちがいない」を取
  り囲んでいる前後の地の文部分よりも、目立たせて、高く強い声立てで、
  ゆっくりと読みます。
 では、先生が、そのように読んでみます。(教師、この文章個所全体の
  中で「たかが鳥のことだ、一晩たてば、またわすれてやってくるにちが
  いない」個所を強めて目立たせて読む。)

 どうでしたか。大造じいさんが考えたことが、はっきりと、目立って聞
  こえて、とても上手に読んでいたでしょう。
  「いや、わたしは、先生とは、違う意見だ」という人はおりますか。い
  ましたら、どうぞ、意見発表をしてください。

  教師が、こうけしかけ発問をして、ここから話し合いを盛り上げていき
ます。先生と反対の音声表現の仕方がよいという方向へ話し合いを発展させ
ていきます。ここの部分は実際に相手に話しかけている会話文ではありませ
ん。大造じいさんの、これは間違いないという、確信に満ちた言葉ではあり
ますが、そういう点では強く目立たせて読んでもいいですが、いかんせん、
これは頭の中だけの考え言葉です。
  ここで話題にしている地の文個所「たかが鳥のことだ、一晩たてば、ま
たわすれてやってくるにちがいない」のすぐ後に「と考えて」と書いてあり
ます。つまり、ここの部分は、大造じいさんが頭の中で考えた言葉です。ひ
とり言です、考え言葉・思考の言葉・心内語です。ひとり言には、このよう
にかぎかっこがついてない、地の文としてはめ込まれている書かれ方をして
いる文章もたくさんあります。普通の地の文として前後と同じに変化なく読
んでいくよりは、大造じいさんのひとり言、心内語として、取り囲む前後の
地の文よりかは、声量は小、低く、そうっと、つぶやいて、思考を紡ぎだし
てぼそぼそと語っている、ここでは確信に満ちた言いぶりにして、ひとり言
の音調をだして、音声表現するのがよいでしょう。



  
(4)児童の読み声の違いに気づかせる



  児童たちに音声表現させていると、文章全体または一部分の読み音調に、
これは上手な読み音調だ、これは大変にまずい読み音調だ、これはおもしろ
い読み音調だ、A児とB児との読み方は対照的な二つを比較して指導するに
はよい例だ、というものが発表させることがあります。
  こうした読み声が発表された場合は、すかさずこの読み声を話題に取り
上げて指導教材の読み声として使っていきます。ひとりの児童の個性的な、
独特な読み音調を取り上げる場合もあるし、二人の児童の対照的な違いのあ
る読み音調を取り上げる場合もありますし、三人以上で違いのある読み音調
を取り上げる場合もありましょう。
  取り上げた読み音調は、その児童に初回と同じ音調にして読んでもらい
ます。上手とか下手とかで取り上げたのでないこと、音声表現のしかたの勉
強にたいへんに役立つ読み方だったので取り上げたということを伝え、すま
ないがもう一度同じに読んでください、とお願いします。
  下手だから取り上げるのではない、表現よみの勉強にとっても役立つか
ら、もう一度同じに読んでください、と謝意の言葉を与えます。
  上手な読み声の場合は、みんなに模倣読みをさせます。
  まずい読み声の場合は、ほかの上手な箇所をうんと誉めて、ここんとこ
はもうちょっとこう読むともっと上手な読み方になった、残念だったね、と
いう心配りを与えながら取り上げていきます。
  おもしろい読み方にはいろいろあります。予想してなかった読み声、ち
ょっとだけピントがずれた読み方、へんにずれてる読み方、こんな気持ちが
加わるとすばらしい表現になる読み方など、これら児童から発表された読み
声を材料にして、どこをどう工夫すると更によい読み方になるか、こうして
音声表現の学習に役立てていきます。
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