表現よみ授業の指導法              2011・11・20記




 
表現よみ授業の指導方法(その6)



 
本章の目次
    メリハリづけの指導方法
   (1)緩急変化の指導
   (2)転調の指導
   (3)間の指導
   (4)イントネーションの指導
   (5)プロミネンスの指導


  メリハリづけの方法には、緩急変化、転調変化、間、イントネーション、
プロミネンス、声量、音色、リズムなどがあります。
  メリハリづけの指導方法については、これまで拙著で多くの指導アイデ
アを紹介してきました。最近刊の拙著では
 
『すぐ使える音読練習プリント 高学年用』(ひまわり社、2007)
 『すぐ使える音読練習プリント 中学年用』(ひまわり社、2007)
 『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社、2000、CD1枚付き)

があります。最下段の本には、「表現よみ指導のさまざまな工夫・アイデ
ア」の章があり、そこには「その1」から「その46」まで、46個の指導
法アイデアが紹介してあります。CD1枚が付属しており、実際の児童の読
み声や授業の様子を耳にすることができます。
  以下では、「緩急変化の指導」と「転調の指導」の二つにしぼって書く
ことにします。その他は、上記紹介の本をご参考にしてください。



 
    (1)緩急変化の指導



 「緩急変化」とは、ある部分を速く読んだり、ゆっくり読んだりすること
です。
 「速く読む」とは、「たたみかけて、追い込んで読む」「一気に早口で読
む」ということです。
 「ゆっくり読む」とは「のんびりと、ゆったりと読む」ということです。
または「一字一字をたっぷりと開けて、母音を引き伸ばすようにして読
む」ということです。
 どんな場面で、緩急変化をつけるとよいのでしょうか。それは文章内容に
よって決定します。次に具体的な文章場面で調べていきましょう。
赤字は、
速く読む個所、
青字は、ゆっくり読む個所です。
 はじめに二つお断りをしておきます。
 一つは、赤字と青字の個所は、読み手によってかなり違うということです。
読者の皆さんは下記の記述を参考にして自分なりの緩急変化をつけて音声表
現してくださることを希望します。
 二つめは、赤字部分の「速く読む」とは、一気に文頭から文末までスピー
ドを競って早口読みをするということではありません。赤字個所が二文、三
文、四文と連続している場合、句点(まる)個所で間をあけないで、一気に
スピードを競って早口読みをするということではありません。句点(まる)
個所や意味内容の区切り個所では軽く間をあけ、意味のひとつながりは早口
で一気に読むということです。意味内容の区切りでは区切って読んでも、意
味内容のひとつながり個所を早口読みすれば、全体がスピードのついた、た
たみかけや追い込みの感じ、緊迫感のある雰囲気のある音声表現になります。
  次に具体的な文章例で調べていきましょう。


(例文1)
 「くじらぐも」(なかがわりえこ・1年下)に次のような文章個所があ
ります。

「もっとたかく。もっとたかく。」
と、くじらがおうえんしました。
「天までとどけ、一、二、三。」
そのときです
いきなり、かぜが、みんなを空へふきとばしました。そして、あっというま
に、せんせいと子どもたちは、手をつないだまま、くものくじらにのってい
ました。

「さあ、およぐぞ。」
くじらは、あおいあおい空のなかを、げんきいっぱいすすんでいきました。
うみのほうへ、むらのほうへ、まちのほうへ。
みんなは、うたをうたいました。空は、どこまでもどこまでもつづきます。

【赤字個所へのコメント】
  句点(まる)個所も、読点(てん)個所も、かまわずに、一気に早口読
みをすると、スピード読みだけが目立って、どんな意味内容なのか分からな
い、めちゃくちゃな読み方になってしまいます。句点(まる)個所では、必
ず間をあけます。てん個所では、間を開けたり開けなかったりします。読点
(てん)個所は臨機応変に開けたり開けなかったりして読みます。次に一つ
の参考例を書きます。
そのときです。
いきなり、かぜが、みんなを空へふきとばしました。)(そして、)(
っというまに、せんせいと子どもたちは、手をつないだまま、くものくじら
にのっていました
。)
  これは緩急変化のメリハリづけとは関係ありませんが、例文1の文章に
ある三つの会話文は、「声量変化」のメリハリづけが重要です。三つとも大
声で読みます。かなりでっかい声で表現してよいでしょう。
「もっとたかく。もっとたかく。」(くじらぐもの応援、大声で)
「天までとどけ、一、二、三。」(子どもたちの一斉大声の号令掛け声)
「さあ、およぐぞ。」(くじらぐもが子ども達へ大声で知らせてる)

【青字個所へのコメント】
  次は、ゆっくりと読む一つの参考例です。ある個所の母音を伸ばしたり、
区切りを多く作って、そこで間をあけて全体をゆったりと読む流れを作って
読んだりします。読者の皆さんは、下記を参考にして音声表現してみましょ
う。
 (・は、一字一字を区切って読むしるし、ーは、伸ばして読むしるし。)
さあー、お・よ・ぐ・ぞー。」
くじらは、)間(あおい)間(あおい)間(空の なかを、)間(げんき
いっぱい
)間(すすんで)間(いきました。)間(うみのほうへ、)間(
らのほうへ
、)間(まちのほうへ。)間
(みんなは、うたをうたいました。)間(空は、)間(
どこまでも)間(
こまでも
)間(つ・づ・き・ま・す。)間    



(例文2)
 「三年とうげ」(李錦玉・3年上)に次のような文章個所があります。

 ところがたいへん、あんなに気をつけて歩いていたのに、おじいさんは、
石につまずいて
転んでしまいました。おじいさんは真っ青になり、がたがた
ふるえました。

 家に
すっとんでいきおばあさんにしがみつき、おいおいなきました
ああ、どうしよう、どうしよう。わしのじゅみょうは、あと三年じゃ。三
年しか生きられぬのじゃ。

 
その日から、おじいさんは、ごはんも食べずに、ふとんにもぐりこみ、と
うとう病気になってしまいました。

【赤字個所へのコメント】
  赤字個所の句点(まる)では、十分に間をあけます。一文内部は、早口
読みをしますが、読点(てん)個所ではほんの軽く間をあけて読みます。赤
字個所でも特に早口読みをするとよい個所は、「
転んでしまいました。
がたがた」「すっとんでいき」「おいおいなきました。」などがあります。
「ああ、どうしよう、どうしよう。」以下は、泣き声で、おばあさんにすが
りついて訴え、助けを求めている雰囲気にして読むとよいでしょう。

【青字個所へのコメント】
 「三年しか生きられぬのじゃ。」の後で、そこでたっぷりと間をあけます。
「その日から」の「そ」を高めの声の出だしにして、ゆったりとした気持ち
で、のんびりと、おじいさんの行動・経過の状況報告をしているように(

じいさんは、ごはんも食べずに
、)(ふとんにもぐりこみ、)(とうとう
病気になってしまいました。)を淡々とゆったりと読み進めていきます。



(例文3)
 「白いぼうし」(あまんきみこ・4年上)に次のような文章個所があり
ます。

 緑がゆれているやなぎの木の下に、かわいい白いぼうしが、ちょこんと置
いてあります。松井さんは車から出ました。
「あれっ。」
もんしろちょうです。あわててぼうしをふり回しました
そんな松井さんの
目の前を、ちょうはひらひら高くまい上がると、なみ木の向こうに見えなく
なってしまいました。

(ははあ、わざわざここに置いたんだな。)

【赤字・青字個所へのコメント】
  会話文「
あれっ。」は、予想外の出来事に松井さんが驚いた声です。驚
いた声で、素早く読むのがいいでしょう。「
もんしろちょうです。」は、小
さな声で、素早く読むといいでしょう。「
あわててぼうしをふり回しました
は、あわてた様子が声に出るように素早く、急いで読むとよいでしょう。
  青字個所は、赤字個所とは対照的に、ちょうの素知らぬ行動描写文です。
松井さんの気持ちなどにはお構いなしに、関知してないことがらですから、
ゆったりと、のんびりと読むとよいでしょう。(
そんな松井さんの)(目の
前を
、)(ちょうは)(ひら)(ひら)(高くまい上がると、)(なみ木の
向こうに
)(見えなく)(なって)(し・ま・い)(ま・し・た。)のよう
に区切って、間をあけて、ゆったりと読むとよいでしょう。(  )と( 
 )とのあいだには、軽く間(ま)をあけて読みます。要するに、ゆっくり
と読めばいいということです。
  (ははあ、わざわざここに置いたんだな。)は、松井さんの独り言です。
頭の中だけの言葉です。この独り言は、ゆっくり読んでも、ちょっと早口に
読んでも、どちらでも読めます。どちらでもよろしいでしょう。重要なこと
は、考えているように、考えを紡ぎだして、独り言してるように音声表現す
ることです。



(例文4)
 「ごんぎつね」(新美南吉・4年下)に次のような文章個所があります。

 いちばんしまいに、太いうなぎをつかみにかかりましたが、なにしろぬる
ぬるとすべりぬけるので、手ではつかめません。ごんは、じれったくなって、
頭をびくの中につっこんで、うなぎの頭を口にくわえました。うなぎは、キ
ュッといって、ごんの首にまき付きました。
そのとたんに兵十が、向こうか
ら、
「うわあ、ぬすっとぎつねめ。」
とどなりたてました。ごんは、びっくりして飛び上がりました。うなぎをふ
りすててにげようとしましたが、うなぎは、ごんの首にまき付いたままはな
れません。ごんは、そのまま横っ飛びに飛び出して、一生懸命逃げて行きま
した。

 
ほらあなの近くのはんの木の下でふり返ってみましたが、兵十は追っかけ
ては来ませんでした。


【赤字個所へのコメント】
  前述したように赤字個所は全体を一気にスピードつけてダダダと読み進
めてはいけません。一文内部のひとつながりの個所では一気読みをしていい
ですが、区切る個所では軽く間をあけて読むようにします。そうしないとど
んな意味内容なのかが分からなくなってしまいます。
  ひとつの参考例を示しましょう。次のかっこの中はひとつながりに早口
読みをします。かっことかっこの間は軽く間をあけて読みます。
そのとたんに兵十が、向こうから
うわあ、ぬすっとぎつねめ。」
とどなりたてました。)(ごんは、びっくりして飛び上がりました。)(
なぎをふりすててにげようとしましたが、うなぎは、ごんの首にまき付いた
ままはなれません。
)(ごんは、そのまま横っ飛びに飛び出して、一生懸命
逃げて行きました
。)

【青字個所へのコメント】
  「一生懸命逃げて行きました。」のあと、ここでたっぷりと間をあけま
す。逃げて行った時間の経過の間があるからです。ごんは、後ろを振り向く
ことなく、ひたすら前へ前へと走っていったことでしょう。ようやく、ここ
までくればもう大丈夫と判断して、はんの木の下で恐る恐るそっと後ろを振
り向いたことでしょう。「ほらあなの近くの」から後は、ごんのほっとした、
安堵の気持ちになって、ゆっくりと読みます。次のようにかっことかっこと
の間を軽く間をあける読み方も一つの方法でしょう。
ほらあなの)(近くの)(はんの木の下で)(ふり返ってみましたが、)
ここで間を長めに開けて(
兵十は)(追っかけては)(来ません)(で・
し・た
。)



(例文5)
 「大造じいさんとガン」(椋鳩十・5年下)に次のような文章個所があ
ります。

 じいさんは目を開きました。
「さあ、今日こそ、あの残雪めにひとあわふかせてやるぞ。」
 くちびるを二、三回静かにぬらしました。そして、あのおとりを飛び立た
せるために口笛をふこうと、くちびるをとんがらせました。
と、そのとき
ものすごい羽音とともに、ガンの群れが一度にバタバタと飛び立ちました。
「どうしたことだ。」
じいさんは、小屋の外にはい出してみました。
 ガンの群れを目がけて、白い雲の辺りから、何か一直線に落ちてきました。
「ハヤブサだ。」
ガンの群れは、残雪に導かれて、実にすばやい動作で、ハヤブサの目をくら
ましながら飛び去っていきます。
「あっ。」
 一羽、飛びおくれたのがいます。

 
大造じいさんのおとりのガンです。長い間飼い慣らされていたので、野鳥
としての本能がにぶっていたのでした。

【赤字個所へのコメント】
  一瞬の出来事です。「
と、そのとき」から後を、スピードをつけて素早
く読み進めます。その勢いをかりて、「
ものすごい羽音とともに、ガンの群
れが一度にバタバタと飛び立ちました。「どうしたことだ。
」まで、一気に
スピードをつけて読み進めていきます。
 「ハヤブサだ。」も、独り言です。一瞬に出てきた考え言葉として早口読
みをします。ゆっくりとしたつぶやきでもよいでしょう。
 「
すばやい動作で、」には、スピードをつけて読みます。その勢いをかっ
て「
ハヤブサの目をくらましながら飛び去っていきます。「あっ。」一羽、
飛びおくれたのがいます。大造じいさんのおとりのガンです。
」まで、句点
(まる)では軽く間をあけつつも、一気呵成にスピードをつけて読み進めて
いくとよいでしょう。

【青字個所へのコメント】
  「さあ、今日こそ、あの残雪めにひとあわふかせてやるぞ。」の会話文
は、独り言です。頭の中で考えた言葉です。ぼそぼそと、考えているように、
ゆっくりと、自信に満ちた決意の「つぶやき」として音声表現するとよいで
しょう。
  前述に「どうしたことだ。」は早口読みにすると書きましたが、ゆっく
りと「どーーしたーことだーー」と、伸ばしたひとり言の読み方にしてもよ
いでしょう。



(例文6)
 「石うすの歌」(壷井栄・6年上)に次のような文章個所があります。

 このひきうすの役は、たいていおばあさんでしたが、小麦や生の大豆をひ
くときは、うすが重たいので、いつも千枝子はお手伝いをさせられました。
おばあさんと向かい合ってすわって、うすを回していますと、初めのうちは
ゴロゴロといせいのよい音を立てていたのが、しだいにゴロン、ゴロンと聞
こえだし、やがて
ゴロリン、ゴロリンと聞こえてきました。

【赤字・青字へのコメント】
 初めの「
ゴロゴロ」は、軽快に調子よく早口に「いせいよく」読みます。
次の「ゴロンゴロン」は、重さを増して「
ゴローン、ゴローン」ぐらいにし
て読みます。三番目の「ゴロリンゴロリン」は、「
ゴーローリーーン、ゴー
ローリーーン
」と、いっそう重たさが増したよ読み方にするのがよいでしょ
う。
 区切りの間のあけ方は、次のような方法も一つのやり方でしょう。(
おば
あさんと向かい合ってすわって、うすを回していますと
、)間(初めのうち
ゴロゴロといせいのよい音を立てていたのが、)間(しだいにゴローン
ゴローンと聞こえだし、)間(やがてゴーローリーーン(間)ゴーロー
リーーン
と聞こえてきました。)   
【擬態語についての参考資料】
 金田一春彦(国語学者、元上智大学教授)さんは、次のように書いていま
す。
 
「日本語の擬態語というのは実にこまかい配慮のもとにつくられておりま
して、たとえば同じころがることの形容でもいろいろな言い方があります。
「コロリ」一回ころがって止まる様子。「コロッ」ころがりかけるさま。
「コロリコロリ」ころがっては止まり、ころがっては止まるさま。「コロリ
ンコロリン」はずみをつけてころがって行くさま。「コロリンコ」一回ころ
がって止まり、あとは動きそうにない。」
 この文章は、金田一春彦『日本語の特質』(日本放送出版協会)からの引
用です。金田一さんなりの言語感覚でとらえた表現です。音声表現の仕方に
ついては書いていませんが、それぞれの擬態語が、どんな場面で発せられた
かによって音声表現の仕方が違ってくると言えます。



        
(2)転調の指導



  転調とは、これまでの読みの調子を変えて、気分を変えて、思いを新た
にして、新しく読み始めていくことです。これまでの気分を変えて、一息入
れて、あらためて高い音で読み出していくことです。
  文章は一般に幾つかの段落で構成されています。一つの段落から次に段
落に移る文章個所、文章表記では一字下げの、いわゆる改行として記述され
ています。音声表現においては、改行されている文章部分では転調が行われ
ることが多くあります。
  すべての改行個所で転調が行われるかといえば、そんなことはありませ
ん。幾つかの形式段落が集まって一つの意味段落を構成している場合などは、
大きな意味段落内部でひとつながりの意味内容になっている場合は、改行個
所ごとで転調の音声表現にはなりません。ひとつながりにして読んでいくの
がよいでしょう。
  転調する文章個所は、場面が変わっている個所、話題が変わっている個
所で多く行われます。
  通常、転調の音声変化は、次のようにします。
  前の段落のおしまいで降調にして読み終わります。そこでたっぷりと間
をあけます。一つの段落の意味内容が終了したことを音声の降調にして、言
い納めの音調にして読み終わります。次の改行段落、つまり場面変わりや話
題変わりの改行部分へ移行した文頭では、その文頭の言葉(第一文字)をや
や高めの、明るい声立てにして読み出していきます。こうして新しい場面や、
新しい話題に移行したことを音声変化で切り開き、新しく提示していく音調
にして読み始めていきます。
  次に具体的に文章例で調べていきましょう。



(例文1
 「ゆうすげ村の小さな旅館」(茂市久美子、3年上)に次のような文章
個所があります。本稿では教科書と違って改行個所の記述が分かりにくいで
すから、改行個所を分かりやすくするために、改行されている冒頭の第一字
を、赤字にしてあります。

 
か葉の季節でした。ゆうすげ村のゆうすげ旅館では、山に林道を通す工
事の人たちがとまりに来て、ひさしぶりに、六人ものたいざいのお客さんが
ありました。ひとりで旅館を切りもりしているつぼみさんは、朝早くから夜
おそくまで息つくひまもありませんでした。
 わかいころなら、お客さんの六人ぐらい、何日とまっても平気でした。で
も、年のせいでしょうか。一週間もすると、ふとんをあげたり、おぜんを持
ってかいだんを上がったりするのが、つらくなってきたのです。
 
る日、つぼみさんは、夕飯の買い物から帰るとちゅう、重い買い物ぶく
ろをちょっとの間道ばたに下して、ついひとり言を言いました。
 「ぜめて、今とまっているお客さんたちが帰るまで、だれか、てつだって
くれる人がいないかしら……」
 
のよく朝のことです。つぼみさんが、朝ご飯のかたづけをしていると、
台所に、色白のぽっちゃりしたむすめが、何本ものダイコンを入れたかごを
持って、やってきました。


【転調個所についてのコメント】
  ここには四つの個所の改行部分があります。赤字個所が改行されている
冒頭の第一字です。
  「
かいころなら」の段落は、その内容は「わか葉の季節でした」の段
落内容とつながっています。「旅館に六人ものお客が滞在して忙しくなった
が、若い頃なら平気だった」と、第一段落と第二段落とは意味内容では同一
で、すんなりとつながっています。ですから、第二段落の冒頭「わかいころ
なら」の出だし個所の音声表現はすんなりとつなげて、転調しないで(読み
の調子を変えないで)読み出していってよいでしょう。
  「
る日、つぼみさんは」の個所と、「のよく朝のことです」とは、
前の段落内容と意味内容が全く違った事柄(場面)に移行しており、新しい
事柄(場面)の展開となっています。ですから、ここの二つの赤字個所では
転調して読み出していくとよいでしょう。「
る日」の「」の前で間をあ
けて、前段落を閉じます。そして「
る日、つぼみさんは」の「」を強め
に明るく読み出していきます。
  同じく、「
のよく朝のことです」の前で間をあけて、前段落の意味内
容を閉じます。そしてから「
のよく朝」の「」を強めに明るく読み出し
ていきます。



(例文2)
 「千年の釘にいどむ」(内藤誠吾、5年上)に次のような文章個所があ
ります。改行個所を分かりやすくするために、改行の冒頭の第一字を、赤字
にしてあります。

 
年先のわたしたちの周りはどうなっているだろう。あのビル、あのマン
ション、そしてわたしたちの住んでいる家々。きっと、かげも形もないだろ
う。人間の作ったもので、千年以上先までそのままの形で残っているものを
見つけるのは、きわめてむずかしいにちがいない。
 
ころが、古代の人々はそれを成しとげた。奈良には、世界でいちばん古
い木造建築がある。法隆寺は千四百年。薬師寺にある三重の塔、東塔が千三
百年。コンピューターもブルドーザーもなかった時代に、古代の職人たちは
千年たってもびくともしない建物をつくりあげたのだ。


【転調個所についてのコメント】
  ここには、二つの改行個所があります。「
年先のわたしたち」と、
ころが、古代の人々は」の個所です。
  「
年先のわたしたち」の「センネンサキ」個所は、この文章全体の冒
頭部分ですから、やや目立たせて、歯切れよく読み出していってよいでしょ
う。転調の読み出し方、つまり新しい意味内容を展開させる音調にして読み
出していってよいでしょう。
  「
ころが、古代の人々は」個所は、「と」を強めに転調にして読み出
していきます。「ところが」は逆接の接続詞で、前段落とは意味内容が逆に
つながって新しい段落が始まっています。だから、すんなりと文章内容が
つながっていません。これまでと逆のことが書いてありますよ、そういう文
章が始まりますよ、というサインを音声の転調で知らせて読み出していきま
す。
  転調になって読み出す接続詞には、逆接の接続詞「ところが、けれども、
しかし、だからと言って」や、まとめの接続語「つまり、このように、これ
らのほかに、この研究からわかったことは、ここまで考えてくれば」などが
あります。


(例文3)
 「ありの行列」(大滝哲也、3年上)に次のような文章個所があります。
改行個所を分かりやすくするために、改行されている冒頭の第一字を、赤字
にしてあります。

 
になると、庭のすみなどで、ありの行列をよく見かけます。その行列は、
ありの巣から、えさのある所まで、ずっとつづいています。ありは、ものが
よく見えません。それなのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。
 
メリカに、ウイルソンという学者がいます。この人は、次のような実験
をして、ありの様子をかんさつしました。
 
じめに、ありの巣から少しはなれた所に、ひとつまみのさとうをおきま
した。しばらくすると、一ぴきのありが、そのさとうを見つけました。これ
は、えさをさがすために、外に出ていたはたらきありです。ありは、やがて、
巣に帰っていきました。すると、巣の中から、たくさんのはたらきありが、
次々と出てきました。そして、列を作って、さとうの所まで行きました。ふ
しぎなことに、その行列は、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじか
ら、外れていないのです。
 
に、この道すじに大きな石をおいて、ありの行く手をさえぎってみまし
た。すると、ありの行列は、石の所でみだれて、ちりじりになってしまいま
した。ようやく、一ぴきのありが、石のむこうがわに道のつづきを見つけま
した。そして、さとうにむかって進んでいきました。そのうちに、ほかのあ
りたちも、一ぴき二ひきと道を見つけて歩きだしました。まただんだんに、
ありの行列ができていきました。目的地に着くと、ありは、さとうのつぶを
持って、巣に帰って行きました。帰るときも、行列の道すじはかわりません。
ありの行列は、さとうのかたまりがなくなるまでつづきました。
 
れらのかんさつから、ウイルソンは、はたらきありが、地面に何か道し
るべのなるものをつけておいたのではないか、と考えました。
 
こで、ウイルソンは、はたらきありの体の仕組みを、細かに研究してみ
ました。すると、ありは、おしりの所から、とくべつのえきを出すことが分
かりました。それは、においのある、じょうはつしやすい液です。
 
の研究から、ウイルソンはありの行列ができるわけを知ることができま
した。


【転調個所についてのコメント】
  ここには、改行個所が七つあります。改行個所を書き出すと、「夏にな
ると」「
メリカに、」「じめに」「に」「れらのかんさつから」
こで」「の研究から」の七つです。
  わたしなら、これら七個所の出だしではすべて転調にして読み出します。
先ず、どうしても強めの転調の出だしで読み出した方がよい個所は、「

めに」「
に」「れらのかんさつから」「の研究から」の四つです。
  この四つは、必ずといってよく転調にした方がよいでしょう。これらは、
前段落の最後が読み終わったら、そこで十分に間をとって、「
」「
」「」を強めに読み出していきます。順序が書いてある言葉、まとめ
や整理の出だし言葉などは、論理的展開の筋道(順序、まとめ整理)を表示
している冒頭語句ですので、強めに目立たせて読み出すと分かりやすい音声
表現となります。
  「
になると」は、この文章全体の冒頭ですから、はっきりと明るい音
調にして読み出すとよいでしょう。
  「
メリカに、」は、ここも強めに読み出してよいのですが、次の「ウ
イルソンという学者」の「ウイルソン」をはっきり目立たせて読みたいです。
「アメリカ」よりは「ウイルソン」の方がここでは重要な伝達したい語句で
すから、「アメリカ」よりは「ウイルソン」を目立たせたいです。
  「
そこで」は、転調にしてもよいですし、転調にしなくてもよい、どち
らでもよいでしょう。「そこで」は前段落と意味内容ではつながっていると
言えばつながっているし、つながっていないと言えばつながっていない
言い方です。前段落との接続関係のありようでは、あいまいな段落と言える
かもしれません。
  わたしは「そこで」は、ここでは新しい意味内容の起こしがあると解釈
していますので、わたしは転調にして読み出したいです。

  これまで、転調は改行個所の冒頭文字を強めに読み出し、新しい意味世
界を切り開いていく雰囲気にして、明るい感じにして読み出すということに
ついて書いてきました。
  しかし、転調個所は改行個所だけではありません。一段落の内部でも意
味内容が大きく変化している個所では転調して読み出すことが多くあります。
上の引用文章で探してみると、下記の段落内部の色別にしている個所がそう
です。

 
夏になると、庭のすみなどで、ありの行列をよく見かけます。その行列は、
ありの巣から、えさのある所まで、ずっとつづいています。ありは、ものが
よく見えません
それなのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。

  
茶色青色とでは、意味内容ではそんなにつながりが離れているわけで
はありませんが、
茶色個所は、この説明文を導入する「まくら」に当たる部
分で、先ず、みなさんは夏になるとありの行列をよく見かけるでしょう、と
子ども達になじみのあるありんこの行列の話を先に出して、興味関心を引い
ています。先ず、子どもが興味を持つように工夫した内容の書き出し文にし
ています。
 こうした書き出し方は、低学年の説明文の冒頭文章ではよく見られる常套
の手法の書き方でよく使われます。
  
青色個所は、「それなのに」と逆接接続詞を使って切り出しています。
前述したように逆接の接続詞は通常は転調にして読み出します。次には、こ
の説明文で最も重要な「課題提示文」である「なぜ、ありの行列ができるの
でしょうか。」が書いてあります。ですから、「それなのに」で転調にして
読み出し、「課題提示文」はゆっくりと、歯切れよく、しり上がりに、問い
かけているように読んでいくようにするとよいでしょう。



     
   (3)間の指導



  本稿では、説明文の間のあけ方について書きます。
  間をあけて読むことはとても重要です。だからと言って、文節ごとで細
かく区切って読んでしまっては、文章の全体の意味のまとまりが切り離され
てしまう読み方になり、聞き手によく伝わらない音声表現になってしまいま
す。文章全体としての意味内容のひとつながりが分かるような区切り方の音
声表現でなければなりません。
  説明文には、込み入った内容や、長く書いてある一文があります。長い
一文は、こまぎれに区切るのではなく、大きな意味のまとまりで、二つまた
は三つに大きく区切って読むとよいでしょう。あとの小さな区切りは、ほん
の小さな間をあけて読んでもいいですが、文全体がひとまとまりの意味内容
になって伝わることに気を使って読み進めていくことが大切です。
  説明文は、筆者が読者にむかって「こんなことを伝えたい」という事柄
について書いています。説明文の音声表現では、筆者が伝えたい事柄の、大
きな塊としての文意・発想・意図が分かるように、それが聞き手に伝わるよ
うに気を使って読むようにします。筆者の発想・意図が文章の流れの息づか
いやリズムや音調を形作っています。これら筆者の発想・意図が形作ってい
る文章の息づかいやリズムを読み手の身体に引き入れて読み進めていくとよ
いでしょう。
  筆者の発想や意図をどう音声表現していくか。どんな音声の表情にして
読んでいくか。さまざまあるでしょう。音声表現の流れの区切りや語勢やリ
ズムや遅速変化や強弱変化や音色変化などがあるでしょう。つなげるか、切
るか、引っ張っていくか、矯めてほんの短く切るかなどもあるでしょう。大
きく間をあけるか、一気にたたみかけて追いこんで読み進めていくか、速め
るか、ゆっくり読むか、のんびり読むか、リズミックに読むかなどもあるで
しょう。これらは、読み手の解釈の仕方や内容に対しての感情評価的態度や
身体への共振反応のありようによってみな違ってきます。これが、強調変化、
緩急変化、強弱変化、声量変化、イントネーションの変化などにもなって表
れ出てきます。またこれらが読み調子やリズムや気分や雰囲気を形作ってい
くことになります。
  ですから読み手は、筆者の表現意図・発想・思いに入り込みながら、筆
者と読み手との息・呼吸と重ね合わせつつ音声表現していくようにします。
筆者のリズムは、文章の意味内容からにじみ出ている息づかい・呼吸の力動
的な意識の流れです。それに読み手の息づかい・呼吸を重ね合わせながら、
文章の連なりを読み手の息づかいとして、事柄の論理にそって分析的な説明
(解明)として音声表現していくようになります。説明または解明している
語り音調、読みの雰囲気や調子やリズムの流れとして、意味内容の論理的な
切れ続きの間のあけかたを工夫しながら音声表現していくとよいでしょう。

  間の指導については、本ホームページのあちこちで書いています。
「表現よみの授業入門」の章の「間のあけ方で音声表現の七割は決まる」
「間はたっぷり気味にあけるとよい」
など。
本章「記号づけの指導方法(5)」の記号の種類」で書いています。
本章「記号づけの指導方法(3)」の初めて低学年に指導する導入法」
にも書いています。




 
  (4)イントネーションの指導



  イントネーションとは、音調の上げ下げの変化のことです。多くは会話文
の文末個所に現れます。

 以下は、
第2章「ここから始めよう音読基礎練習」第5ステップ・メリハリのつけ方
からのつづきです。初めに、こちらを読んでから、以下の練習問題をやると
よいでしょう。


    イントネーション(上げ下げ)の音声練習をしよう


 次の(1)と(2)との意味内容に読み分けて声に出してみよう。一つの
会話文が、全然違ったイントネーション(上げ下げ)に変化します。
 話しぶり(話全体の音調の上げ下げ・強弱・遅速など)が変化することが
分かるでしょう。
 特に、文末の上げ下げ(しりさがり、しりあがり、しりのばし、短く切断、
など)の変化にも気をつけて読み分けてみましょう。

「もう、名古屋です」
  (1)「もう名古屋につきました」と、相手に知らせている。伝えてい
      る言い方。
  (2)もう、名古屋についたんですか」と、おどろいて、聞いている言
     い方。

「これは何ですか」
  (1)相手に質問して、答えを求めている言い方。
  (2)相手を大声でしかりつけている言い方。 

「「サッカー、しない」
  (1)「しませんか」と、相手の質問している言い方。
  (2)「しません」と、ことわっている言い方。

「もうすこし、静かにしてくれませんか」
  (1)大声で、どなりつけている言い方。
  (2)やさしく、ていねいに、えんりょしつついう言い方。

「あのね、本で読んだんだけど、ザリガニって共食いするんだって」
  (1)そっと、耳元で、ささやいていう言い方。
  (2)遠くから大声で叫んでいる言い方。

「よけいなことを言うんじゃないよ」
  (1)かんかんに怒って、大声で、相手を非難して文句をいう言い方。
  (2)そっと耳打ちし、「いってはだめよ」だまってなさいよ」と、や
     さしくいいきかせている言い方。



     
(5)プロミネンスの指導



  プロミネンスとは、強調して読むこと、ある語句を強めに目立たせて音
声表現することです。「目立たせる」「際立たせる」「突出させる」「目に
つかせる」ように、意味内容を卓立強調して音声表現することです。

 以下は、
第2章「ここから始めよう音読基礎練習」第5ステップ・メリハリのつけ方、
第3章「やってみよう、音読練習(3)」第3ステップ、上級の基礎練習」
の「強調の音読練習」からのつづきです。初めに、こちらを読んでから、以
下の練習問題をやるとよいでしょう。


      プロミネンス(強調)の音声練習をしよう


 次の赤字個所の語句を、意味内容が強まるように、目立つように、声に出
して読んでみよう。

(1)きつねは花のしるの入ったお皿を持ってきました。そして、筆に
 
   
っぷりと青い水をふくませると、ゆっくり、ていねいに、ぼくの指を
   染め始めました。

(2) 空き缶の中でも、特にアルミかんは、「
電気のかんづめ」などと言
   われるのを知っていますか。

(3)青いあまがさを注文するお客は、
後から、後から、やって来まし  
  た。そして、十日もたたないうちに、かさ屋は、
大変なお金持ちにな 
  りました。

(4)人々は、
我も我もと、デパートのかさ売り場へおしかけました。

(5)やがて、かさ屋にくるお客は、
だあれもいなくなりました。
   かさ屋さんは、店の前に
ぽつんと、ぼんやりとすわっていました。

(6)よく日も、同じ場所、うんとこさとタニシをまいておきました。
その
   
よく日も、またそのよく日も、同じようなことをしました。

(7)その次の日も、またあの大工さんが来て、わらぐつを買ってくれまし
   た。
その次も、またその次も、おみつさんが市に出るたびに、あの大
   工さんが必ずやってきて、不格好なわらぐつを買ってくれるのです。
   おみつさんは、いつの間にか、その大工さんの顔を見るのが楽しみに
   なってなっていましたが、こんなに続けて買ってくれるのがふしぎで
   した。

(8)物おき小屋の天じょうに、去年の春から、小さな黒おにの子どもが住
   んでいました。「おにた」という名前でした。

(9)「
生き物」と「生物」、「調べる」と「調査する」とはほぼ同じ意味
   のことを表しています。「
生き物」「調べる」を和語といい、「生 
   物
」「調査」を漢語といいます。

{答え}わたしなりの、一つの表現のしかた

(1)「たっぷり」の「た」を、強めにして声に出す。「ゆっくり、ていね
    いに」を「ゆっくりと、一字一字を区切って、めだたせて」読む。
(2)「デ・ン・キ・ノ・カ・ン・ヅ・メ」と、ポツポツと間をとって読む。
   または、「デンキノ・カンヅメ・」と、間をあけて読む。
(3)「後から・後から」やや調子をつけて読む。「たいへんな」を、やや
   強めに読む。
(4)「われも・われも」と、二つの分けて、強めに声に出す。「ぼーん 
   やり」とのばす。
(5)「だあーれも」と、のばす。「ポツン」を、そっと読む。
(6)「よく日も、またそのよく日も」ややつよめに、やや調子をつけて読
   む。
(7)「その次も、またその次も」を、やや強めに、やや調子をつけて読 
   む。
(8)名前を、「お・に・た・」と、区切って、はっきりと読む。
(9)「生き物」と「生物」の二つ、ならべて読む。「調べる」と「調査す
   る」の二つ、ならべて読む。何と何はワゴ、何と何はカンゴ、のよう
   に区切って、二つずつをまとめて読む。

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