音読授業を創る そのA面とB面と        2012・03・29記




 
説明的文章と文学的文章との音声表現の相違



質問

  説明的文章と文学的文章とは、音声表現の仕方が違うのでしょうか。違
 いがあるとしたら、どこが違いますか。




回答

  説明的文章の音声表現も、文学的文章の音声表現も、共通するところが
たくさんあります。両方とも、文章内容によって音声表現のメリハリづけが
統制されてきます。両方とも、音声解釈で理解を深め、こうして児童生徒の
音声表現能力をのばしていく点でも同じです。また、両方とも、間、イント
ネーション、プロミネンス、緩急変化、強弱変化、声量変化、転調、リズム
などの音声表現のテクニックでメリハリをつける点でも同じです。両方とも、
上手な音声表現は、静かに目をつむっていると、すんなりと素直に頭に入っ
てきます。両方とも、わざとらしい表情のつけすぎは、嫌味な音声表現とな
ります。この点でも同じです。共通するところがたくさんあります。

  しかし、文学的文章と説明的文章とは、それぞれ文章(文体)に特性が
あり、音声表現の仕方は違うところもあります。説明的文章は論理的に書い
ています。客観的対象そのものを直接に取り上げて、抽象的に論理的に述べ
ています。ですから、その音声表現は、筆者の論理展開の筋道や論運びのあ
りようが音声の力点としてはっきりと出るように読まなければなりません。
客観的に、事象(事柄)を解明しているように解説しているように読まなけ
ればなりません。筆者は何を、どう分析しているか、どう主張しているか、
伝えたい事柄や主張点、その熱意や熱情、その思い・考えが、音声に露呈す
るように、論理的力点をおいて、読み声にくっきりと浮かび出るように読ま
なければなりません。

  文学的文章は論理的に記述されていないかというと、決してそんなこと
はありません。文学的文章も論理的に記述されています。物語や小説におい
て事件と事件のつながり、人物と人物のつながり、人物の性格などに一貫性
や統一性がなければメチャクチャなストーリーになってしまいます。虚構の
世界だからといって、バラバラでメチャクチャなつながりは許されません。

  説明的文章と文学的文章には絶対的な違いはないのです。しかし、全く
違いがないかというと、そんなことはありません。大まかな違いはあります。
相対的な区別はあります。一方が他方の特質を含んでいて、二つの境界はぼ
やけて、あいまいな領域も多くあります。たとえば、日記・旅行記・随筆・
手紙などは、通常は説明的文章のジャンルに入っています。わたしも本章
「文学的文章と説明的文章のジャンル」でそのように区分けしています。し
かし、有名作家の書いた日記・旅行記・随筆・手紙などの一部は文学性の香
り高い作品として全集などに収録されていることも多くあります。
  説明的文章も文学的文章も、文章内容の論理的連関の統一性が第1義に
要求されます。ただし、説明的文章では、事物対象の客観性や論理性がもろ
に露呈するように書かれています。文学的文章では、虚構世界の情緒性がも
ろに露呈するように書かれています。説明的文章では、文学的文章で要求さ
れる情緒性は、論理性にのっかって(引きずられて)あとから自然について
くるような性格になっています。
  つまり、説明的文章では論理性に傾斜して書かれていますし、文学的文
章は情緒性に傾斜して書かれています。ですから、説明的文章は論理性を重
視して音声表現されますし、文学的文章は情緒性を重視して音声表現される
ことになります。


  下記は、説明的文章と文学的文章の音声表現の相違を対比して一覧表に
まとめて書いています。どちらに傾斜しているか、比重が多くかかっている
かという相違でしかありません。共通性の方が多いのです。どちらかと言え
ば、他方よりこちらがそう言える確率が多い、という程度の相違です。
  下記は、あえて対立させて、上下の色別対比にして、両方の相違を取り
出して書いています。

説明的文章(青色)
     
文学的文章(茶色)



  
説明的文章と文学的文章との音声表現の相違
      (共通性あり、その上で違いを述べれば)



筆者の声を音声表現する。

     
語り手の声を音声表現する。


読み手は筆者と重なって音声表現する
     
読み手は語り手と重なって音声表現する。


読み手と筆者は重なるように努め、文章内容を忠実に論理的力点をおいて音
声表現する。

     
読み手と語り手は重なるように努め、文章内容を主情的に情感性
     豊かに音声表現する。


読み手の客観的な解釈、感動を優先させて音声表現する。
     
読み手の主観的な解釈、感動を優先させて音声表現する。


どちらかというと、読みのスピードが速い
     
どちらかというと、読みのスピードが遅い。


文章の筋道や論理が露呈するように音声表現する
     
作品世界の表象や情緒がまるごと現出するように音声表現する


知性に訴えて音声表現する
     
感情に訴えて音声表現する


情感の制止で音声表現する
     
情感の興奮で音声表現する


冷たくつき放して音声表現する
     
作品世界におぼれて音声表現する


公平冷静な態度で音声表現する
     
感情の興奮状態で音声表現する


厳密に一義的に明示して音声表現する
     
余韻・余情を持たせて音声表現する


私的感情を入れることを拒否する
     
私的感情を入れることを許容する


筆者の思考や論運びの息づかい(リズム)に乗っかって音声表現する
     
形象世界に引きずられ、入り込み、人物になりきって音声表現す
     る


筆者の存在を意識し、筆者の認識論的視座(論運びの順序、筋道づけ立場)
が目立つように音声表現する

     
作者の存在を忘れ、語り手や登場人物の立場(視点、視座,観 
     点、)から、表象や情趣が立体的に現出するように音声表現する



論理(区切り)の間を重視して音声表現する
     
情感(心理感情)の間を重視して音声表現する。


プロミネンス(卓立強調。筆者の強調点・力点)を重視して音声表現する
     
イントネーション(節奏のニュアンス。人物の気持ち、場面の雰
     囲気・情趣・ムード)を重視して音声表現する


論理を前面に客観的に音声表現する
     
情感を前面に主情的に音声表現する


事象を分析的に解明的に音声表現する
     
作品世界を喚情的に音声表現する


筆者の主張内容の筋道を理詰めに音声表現する
     
言葉と言葉との響きあいのよさ、表現の巧みさを味わいつつ音声
     表現する


Communicative(筆者の考え・意図が論理的な休止と強調力点で聞き手に明
確に伝わるように音声表現する)

     
Emotive(論理の筋道よりも、情緒・情動の流れに沿って漂い享
     受しつつ音声表現する)


Informative(事象を解析し分析しているように論理の筋道を説明的に報告
的に音声表現する)

     
Affective(読み手の情感反応を押し出し、感化性をこめて、立
     体的、力動的に音声表現する)


筆者の伝たえたい内容・訴えたい事柄が聞き手に分かりやすく正確に伝わる
ことに力点をおいて音声表現する

     
場面の様子、人物の気持ち、事件の流れがありありと鮮やかに声
     で再現し浮かび出ることに力点をおいて音声表現する


筆者は事象(事柄)をどのような筋道でとらえているか、どのような視点か
ら、どのような思いで語っているか。その文章内容を論運びが伝わるように
音声表現する。

     
読み手の意識の流れは、事件・人物・情景が浮かび上がりことに
     のみ集中して音声表現する。文章形式(段落、文章構成、語句+
     語句)は溶解し、読み手の意識の深層に沈殿している。


読み手の解釈、感想意見は差し控えて、文章内容を無心に虚心に受けとめて、
筆者のものの見方、感じ方(主張点)を的確に聞き手に伝わることに集中し
て音声表現する。

     
聞き手ゼロの境地で、場面・事件がかもしだす情趣・雰囲気・ 
     ムードをありありと声に現出させて音声表現する

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