音読授業を創る そのA面とB面と 2012・10・02記 説明文と強調表現 説明文の音声表現の留意点の一つに 「筆者が強調している主張点を目立たせて音声表現する」 があります。これは説明文の音声表現の大きな特徴点だと言えます。 説明文は筆者が読者へ向かって伝えたいこと、主張したいこと、訴えた いこと、報告したいことが書いてあります。 説明文は物語文と違って、筆者が特段に伝達したい事項、特段に主張し たい事柄がずばりと書かれています。ですから説明文の音声表現は、筆者が 特段に伝えようとしている主張点は強調した(目立たせた、際立てた、粒立 てた)読み方になります。筆者が熱く語っている特段の伝達事項には音声的 力点をおいた読み方になります。ですから説明文は物語文と比べて強調して 読む文章個所が多くなると言えます。また、説明文の音声表現では、筋道づ けて論理的に述べ立てていく話しぶり(読み方)も特徴点の一つです。 子どもたちに「感情をこめて読もう」とか「気持ちや思いをこめて読も う」と問いかけると、文章の筋道や論理展開の意味内容とは無関係な文章個 所を、不自然に、不必要に強調して読むということがよくあります。 例えば、次の赤字を( )のように強調する読み方です。 「たんぽぽが広い(ヒローイ)野原にいっぱい(イーッパイ)にさいて、 とても(トーッテモ)きれいでした。風がさわやかにふいて、なんとも (ナーントモ)いえない、いい(イーイ)気持ちでした。」 これはいけませんね。このように文章内容の論理とは無関係な事柄を、 強調しやすいあらゆる言葉を、へんに調子をつけて読む、思慮のなさ、誇張 のし過ぎ、行き過ぎ、オーバーで嫌味のある読み方はいけません。どこの個 所を強調すべきか、その際立てかげん、張りかげんの指導が必要です。 「強調する」というと、「声を強くして読む」「声を大きくして読む」と 考えがちです。「強調する」とは、文中のある語句の印象が聞き手に強まる 深まるように音声表現することです。その方法にはいろいろあります。 五種類の強調の仕方 強調する音声表現とは、意味内容を「粒立てる。目立たせる。突出させる。 際立たせる。印象が残るよう読む」ということです。次のような五つの方法 があります。 左の指示にならって、(例)文を実際に声に出して読んでみまし ょう。遠慮しないで、やや大げさに、ドカーンと表現してみましょう。 (1)強く高く読む…………………(例)聞こえるの、聞こえないの。(全 体を大声で問いつめて言う) (2)低く弱く読む…………………(例)そうっと、しずかに手を離してく ださいね。 (3)速く読む………………………(例)だって、くやしんですもの。 (4)のばして、ゆっくり読む……(例)まーるい月が、のーっそりとーの ぼってーきーたー。 (5)間をあけて読む………………(例)わたしは、あの人が、だ、い、き、 ら、い、です。 (例)わたしは、あの人が、だいっ、 きらいっ、です。 説明文の音声表現で強調した読み方になると思われる文章個所は、大別 すると次の二つがあります。 (A)筆者が主張してる中心となっている重要な観念や語句や文は、強調し た音声表現になる。 (B)論理的な展開や、論理の筋道を表わしている関係語句は、強調した音 声表現になる。 筆者が強く主張している重要語句や文は強調した音声表現になります。 例えば「どうぶつの赤ちゃん」という教材文なでば、その動物の赤ちゃんの 固有の特徴点、成長過程の特徴点が書かれている個所です。そうした固有な 特徴点は、はっきりと浮き立つように強調して音声表現するようにします。 「じどうしゃくらべ」という教材文ならば、その自動車固有の特徴点や 他の自動車との相違点が書かれている個所です。そうした特徴点や、他の自 動車との相違点がはっきりと浮き立つように強調して音声表現します。 「方言と共通語」という教材文ならば、方言と共通語との違いがはっき りと分かる文章個所には音声的力点をつけて読むようにします。筆者がどの 段落のどの個所を特段に伝えたいのであるか、伝えたい重要語句・文である かを見出して、それら文章個所を強調した音声表現にして読んでいきます。 では、強調する音声表現のトレーニング練習をしていきましょう。赤字 個所を強調して音声表現します。 (赤字の文字だけを強調するのでなく、文意にそって他の語句(個所)も 強調表現になります。意味内容にそって、意味内容が声に表れでるように工 夫して音声表現していきましょう。後ろの(表現よみのヒント)も参考にし ましょう。) 「どうぶつの赤ちゃん」(光村1年下)の例 ライオンの個所の原文 ライオンの赤ちゃんは、生まれたときは、子ねこぐらいの大きさです。目 や耳は、とじたままでです。ライオンは、どうぶつの王さまといわれま す。けれども、赤ちゃんは、よわよわしくて、おかあさんにあまりにていま せん。 ライオンの赤ちゃんは、じぶんではあるくことができません。よそへいく ときは、おかあさんに、にくわえてはこんでもらうのです。 ライオンの赤ちゃんは、生まれて二か月ぐらいは、おちちだけのんでいま すが、やがて、おかあさのとったえものをたべはじめます。一年ぐらいたつ と、おかあさんがするのを見て、えもののとりかたをおぼえます。そして、 じぶんでつかまえてたべるようになります。 強調の読み声例 (ライオンの赤ちゃんは、生まれたときは、子ねこぐらいの大きさです。目 や耳は、とじたままでです。)(ライオンは、どうぶつの王さまといわれま す。けれども、赤ちゃんは、よわよわしくて、おかあさんにあまりにていま せん。) (ライオンの赤ちゃんは、じぶんではあるくことができません。よそへいく ときは、おかあさんに、にくわえてはこんでもらうのです。) (ライオンの赤ちゃんは、生まれて二か月ぐらいは、おちちだけのんでいま すが、(間)やがて、おかあさのとったえものをたべはじめます。)(一年 ぐらいたつと、おかあさんがするのを見て、えもののとりかたをおぼえます。 そして、じぶんでつかまえてたべるようになります。) (表現よみのヒント) ・ここに書いてある音読の仕方は、一つの例です。これと違っても、ちっと もかまいません。読者のみなさんが指導するときの一つのヒントを示してい るだけです。 ・( )の中は、ひとつながりに読みます。( )と( )とのあい だは、たっぷりと間をあけます。(間)と記入してある個所でも、間をあけ ます。 ・文章全体を早口読みにしないようにします。ゆっくりと、かんでふくめる ように読みます。聞き手にていねいに、ゆっくりと説明して聞かせているよ うなつもりで読みます。少しゆっくりすぎると思われる程度でいいと思いま す。 ・赤字個所は強調して読むところです。音声的力点をおいて読むところです。 この通りでなくても、ちっともかまいません。一つの参考として示していま す。ようするに文章内容が声にのるように読むことが重要です。 ・「おかあさんがするのを見て」個所は、(おかあさんが)(するのを) (見て)と区切ってはいけません。(おかあさんがするのを)(見て)と区 切って読みます。「おかあさんがする」に形式名詞「の」がついて名詞化さ れて、ひとくくりにまとめられています。「おかあさんがするのを」全体が 補格文素になっています。 しまうまの個所の原文 しまうまの赤ちゃんは、生まれたときに、もうやぎぐらいの大きさがあり ます。目はあいていて、耳もぴんと立っています。しまのもようもついてい て、おかあさんにそっくりです。 しまうまの赤ちゃんは、生まれて三十ぷんもたたないうちに、じぶんで立 ち上がります。そして、つぎの日には、はしるようになります。だから、つ よいどうぶつにおそわれても、おかあさんといっしょににげることができる のです。 しまうまの赤ちゃんが、おかあさんのおちちだけのんでいるのは、たった の七日ぐらいのあいだです。そのあとは、おちちものみますが、じぶんで草 もたべるようになります。 強調の読み声例 (しまうまの赤ちゃんは、生まれたときに、もうやぎぐらいの大きさがあり ます。目はあいていて、耳もぴんと立っています。しまのもようもついてい て、おかあさんにそっくりです。) (しまうまの赤ちゃんは、生まれて三十ぷんもたたないうちに、じぶんで立 ち上がります。そして、つぎの日には、はしるようになります。だから、つ よいどうぶつにおそわれても、おかあさんといっしょににげることができる のです。) (しまうまの赤ちゃんが、おかあさんのおちちだけのんでいるのは、たった の七日ぐらいのあいだです。そのあとは、おちちものみますが、じぶんで草 もたべるようになります。) (表現よみのヒント) ・前述のライオン個所で書いたことと同じことが言えますので、同じ内容は 繰り返して書きません。 ・赤字個所だけを取り立てて強めて読むと、へんな、おかしな読み方になり ます。全体の読みの流れの中で、ちっと強めに声に出すようにします。よう するに意味内容を押し出すようにして読むことです。 ・意味内容を押し出している自然な流れの中の読み音調が重要で、赤字個所 だけが突出した読みになると、おかしな読み声になってしまいます。へんに ちぐはぐに目立った読み方になってしまいます。とかく低学年はそうした読 み声になりがちです。赤字に引きずられないことです。赤字を声にするので なく、文章内容(思い・気持ち)を声にすることが大切です。 「はたらくじどう車」(教出1年下)の例 次の文章で、強調する音声表現の練習をしていきましょう。赤字個所を 強調して音声表現してみましょう。 (赤字の文字だけを強調するのでなく、文意にそって他の語句(個所)も 強調表現になったりします。工夫して音声表現していきましょう。 原文 バスは、大ぜいのおきゃくをのせてはこぶじどう車です。ですから、たく さんのざせきがあります。つりかわや手すりもついています。バスは、きま ったじこくに、きまったみちをはしります。 コンクリートミキサー車は、なまコンクリートをはこぶじどう車です。で すから、大きなミキサーをのせています。なまコンクリートがかたまらない ように、ミキサーをぐるぐるまわしながらはしります。 ショベルカーは、こうじをするときにつかうじどう車です。ですから、て つでできた、ながいうでとじょうぶなバケットをもっています。うでとバケ ットをうごかして、じめんをほったり、けずったりします。 区切り方と強調の読み声例 (バスは、)(大ぜいのおきゃくをのせてはこぶじどう車です。)間(で すから、)(たくさんのざせきがあります。)間(つりかわや手すりもつい ています。)間(バスは、)(きまったじこくに、)(きまったみちを) (はしります。)間 (コンクリートミキサー車は、)(なまコンクリートをはこぶ)(じどう 車です。)間(ですから、)(大きなミキサーをのせています。)間 (なまコンクリートがかたまらないように、)(ミキサーをぐるぐるまわし ながらはしります。)間 (ショベルカーは、)(こうじをするときにつかう)(じどう車です。) 間(ですから、)(てつでできた、ながいうでと)(じょうぶなバケット を)(もっています。)間(うでとバケットをうごかして、)(じめんをほ ったり、)(けずったりします。) (表現よみのヒント) ・表現よみのしかたは、「ライオンの赤ちゃん」に書いてあることと同じで す。( )は、一文内部をひとつながりに読むことを示しています。一文 と一文とのあいだには、間と書き入れています。間記入の個所では、間をあ けて読みます。たっぷりとあけて読むようにします。子ども達の間あけは、 どうしても短くなりがちです。 ・(バスは、)(大ぜいのおきゃくを)(のせて)(はこぶ)(じどう車で す。)と読んではいけません。(大ぜいのおきゃくをのせてはこぶ)は、ひ とつながりになって「じどう車」にかかる体言修飾語です。(大ぜいのお きゃくをのせてはこぶ)をひとつながりにして「じどう車」に結びつくよう に読みます。 ・コンクリートミキサー車の個所では、「なまコンクリートをはこぶ」が、 ひとつながりになって「じどう車」に結びつくように読みます。ショベル カーでは、「こうじをするときにつかう」が、ひとつながりになって「じど う車」に結びつくように読みます。 ・文章全体を、はぎれよく、ゆっくりと、たっぷりと間をあけて読むように します。 「方言と共通語」(学図5上)の例 次の文章で、強調する音声表現の練習をしましょう。 下記に、ひとつながりの区切り方の例(1)と、例(2)との二通りが 書いてあります。どちらの区切り方でもよいのですが、例(2)は、例 (1)の大きなひとつながりを大切にしつつ、その息づかいを保ちつつ、小 分けに区切って読むようにしましょう。 原文 「あ、とんぼだ。」 みなさんの地域では、この「とんぼ」をどのように言っていまか。青森県 津軽地方では「だんぶり」と言っていますが、そのほかの地方では、左ペー ジの地図から分かるように、いろいろなよび方をしています。 (注記、地図は省略します) このような例は、ものの名前だけではありません。「落ちる」を「あゆ る」と言う所もあれば、「かわいい」を「めんこい」、「〜だろう」を「〜 ずら」と言う所もあります。全く同じものや、同じ意味・内容のことを言い 表わすのに、日本国内でも、地域によって、それぞれ違った言い方があるの です。 このように、それぞれの地方の、その土地の人同士が、毎日の生活の中で 使っている土地言葉を、「方言」と言います。これに対して、全国どこの人 にも通じる言葉を、「共通語」と言います。 方言は、土地の人の気持ちや生活感覚に結び付いている言葉で、昔から使 われてきたものです。 自分の土地のくらしのための言葉ですから、その土地の人同士で通じれば よい言葉でもあります。 区切り方と強調の読み声例(1) (「あ、とんぼだ。」)間 (みなさんの地域では、この「とんぼ」をどのように言っていまか。)間 (青森県津軽地方では「だんぶり」と言っていますが、)(そのほかの地方 では、左ページの地図から分かるように、いろいろなよび方をしていま す。)間 (注記、地図は省略します) (このような例は、ものの名前だけではありません。)間(「落ちる」を 「あゆる」と言う所もあれば、)間(「かわいい」を「めんこい」、)間 (「〜だろう」を「〜ずら」と言う所もあります。)間(全く同じもの や、同じ意味・内容のことを言い表わすのに、日本国内でも、地域によって、 それぞれ違った言い方があるのです。)間 (このように、それぞれの地方の、その土地の人同士が、毎日の生活の中で 使っている土地言葉を、「方言」と言います。)間(これに対して、全国ど この人にも通じる言葉を、「共通語」と言います。)間 (方言は、土地の人の気持ちや生活感覚に結び付いている言葉で、昔から使 われてきたものです。)間 (自分の土地のくらしのための言葉ですから、その土地の人同士で通じれば よい言葉でもあります。)間 区切り方と強調の読み声例(2) (「あ、とんぼだ。」)間 (みなさんの地域では、)間(この「とんぼ」をどのように言っています か。)間(青森県津軽地方では「だんぶり」と言っていますが、)(そのほ かの地方では、左ページの地図から分かるように、いろいろなよび方をして います。)間 (注記、地図は省略します) (このような例は、ものの名前だけではありません。)間(「落ちる」を 「あゆる」と言う所もあれば、)間(「かわいい」を「めんこい」、)間 (「〜だろう」を「〜ずら」と言う所もあります。)間(全く同じもの や、同じ意味・内容のことを言い表わすのに、)間(日本国内でも、地域に よって、それぞれ違った言い方があるのです。)間 (このように、)間(それぞれの地方の、)間(その土地の人同士が、毎日 の生活の中で使っている土地言葉を、)(「方言」と言います。)間(これ に対して、全国どこの人にも通じる言葉を、)(「共通語」と言います。) 間(方言は、土地の人の気持ちや生活感覚に結び付いている言葉で、)間 (昔から使われてきたものです。)間(自分の土地のくらしのための言葉で すから、)(その土地の人同士で通じればよい言葉でもあります。)間 (表現よみのヒント) ・強調する赤字個所は、前記のようでなくてもよいです。ひとつの参考にし てご利用ください。 ・「とんぼ」「だんぶり」「落ちる」「あゆる」「かわいい」「めんこい」 「〜だろう」「〜ずら」などは、わざと念押しして相手に知らせるように 「と・ん・ぼ」「あ・ゆ・る」「か・わ・い・い・」「め・ん・こ・い」 (以下、同じ)のように音声表現するのも一つの方法です。「〜だろう」の 「〜」は、「なになに」と読むのも一つの方法です。 ・「全く同じものや、同じ意味・内容のことを言い表すのに、」個所はひと つながりの息づかいで読みますが、その意味内部の区切りは「(全く同じも のや)(同じ意味・内容のことを)(言い表すのに)」のようなつもりで読 み進めていくとよいでしょう。 ・「土地の人の気持ちや生活感覚に結び付いている」個所は「言葉」にかか る連体修飾語です。「土地の人の気持ちや生活感覚に結び付いている」がひ とつながりになって「言葉」に連結するように読みます。同じく、「そ の土地の人同士で通じればよい」個所は「言葉」にかかる連体修飾語ですか ら、すぐ下の「言葉」にひとつながりになって連結するように読みます。 「なぜ、おばけは夜に出る」(大書5年上)の例 次の文章で、強調する音声表現の練習をしましょう。 ( )は書いていません。上下段落の改行の(間)で区切って、これを参 考にして音声表現してみましょう。 おばけは、なぜ夜にだけ出るのだろうと考えると、答えを出すのがなかなか むずかしいが、(間) どうして昼間に出られないのかと考えると、問題をとくかぎが見つかる。 (間) おばけは、明るみに出て、正体がばれるのがこわいのだ。(間) 「ゆうれいの正体見たりかれおばな」ということわざがあるのを知っている だろう。(間) 夜、ゆうれいだとこわがったものが、昼間見たら実はかれすすきだった、ゆ うれいの正体なんて、そんなものだ(間)ということわざなのだ。 (表現よみのヒント) ・「ゆうれいの正体見たりかれおばな」のひとつながりのことわざは、全体 をぽつぽつとゆっくりと読む方法で強調するとよい。要するに目立たせるこ とです。 ・「(夜、ゆうれいだとこわがったものが、)(昼間見たら、実はかれすす きだった。)(ゆうれいの正体なんて、そんなものだ。)」というはめこみ 文は、カッコでほんの軽く区切りつつも、ひとつながり、ひとまとまりの息 づかいで、かんでふくめるようにゆっくりと読むとよいでしょう。 ・「正体がばれるのがこわいのだ。」の赤字個所は、一字一字を間をあけて ぽつぽつと読んで強調する方法もある。 |
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