第15章 リズム、リズム、リズム     2013・3・11記




    
リズムとは何か




 文章内容の音声表現におけるリズムとは、何なんでしょうか。文章にある
リズムの正体とは何なんでしょうか。

 本節では「リズム」一般について考えてみたいと思います。

 「リズム」という言葉は、いろいろな意味内容で使われているみたいです。
手始めに国語辞書で「リズム」について調べてみることにします。六冊の国
語辞書から、「リズム」(rhythm)の項目を、調べてみました。

『例解新国語辞典』(第四版、三省堂)
(名)音の強弱や長短、テンポなどが規則的にくりかえされること。メロデ
   ィー・ハーモニーとともに、音楽の基本要素の一つとされる。拍子。
(句例)リズムに合わせる。リズムにのる。リズムをとる。
(語例)リズム感。リズム運動。

『大辞泉』増補新装版(小学館)
@強弱・明暗・遅速などの周期的な反復。「生活のリズムが狂う」。
A音楽の基本的要素の一つで、音の時間的な変化の構造。アクセントが規則
 的に反復する拍節的なリズム、アクセントの継起が不規則な定量リズム、
 音の長さに一定の単位をもたない自由リズムなどに分類される。「リズム
 に乗って踊る」。
B詩の韻律。

『広辞苑』第六版(岩波書店)
@周期的な動き。進行の調子、律動。「リズムに乗る」「生活のリズムが狂
 う」
A詩の韻律。
B音楽におけるあらゆる時間的な諸関係。西洋音楽では旋律・和声などと結
 びついたアクセントが生じ、それが周期的に現れると拍子が成立する。拍
 子がなくてもリズムは存在する。節奏。

『大辞林』第三版(三省堂)
@周期的に反復・循環する動き。律動。
A運動・音楽・文章などの進行の調子。
B詩の韻律。
C音楽の最も根源的な要素で、音の時間的進行の構造。時代や民族によって
 違いがみられる。一定の時間量を規則的に下位分割する拍節リズム。音の
 長さに単位のない自由リズムなどがある。節奏。

『国語辞典』(第一版、集英社)
@周期的運動において規則的にくり返す動きや変化。天体の運行・季節の変
 化・動物の呼吸や歩行・ダンスのステップなど。
A【音】周期的に起こる音の強弱や長短。律動。節奏。Δメロディー・ハー
 モニーとともに音楽の三要素をなす。
B【表】言語表現、特に詩歌などに規則的に現れる音の強弱や長短。Δ強弱
 アクセントの英語などでは弱強調となり、高低アクセントの日本語では音
 数律で七五調などとなる。
C活動における間合いや調子。「生活のリズムが乱れる」「投球のリズムが
 つかめない」

『日本国語大辞典』第二版第十三巻(小学館)
@ある時間持続したり、継起的に生じたりする音声の中で、一定の拍子や規
 則をもって、音の長短、アクセントの高低、強弱などが繰り返される時の、
 その規則的な音の流れをいう。また、一般に事物の運動や形態など音声を
 伴わない視覚的なものについても、単位となる動きや形・色彩・明暗など
 が規則的に繰り返されるとき、その連続的な動きをさしていう。


          
辞書解説文の整理


 次の四つに分類してみました。

(1)リズムとは、周期的な反復・循環・動き・律動のことである、規則的
な繰り返しのある動き・変化のことである。

(2)リズムは、メロディー・ハーモニーとともに音楽の基本的三要素を構
成する。規則的に反復する拍節的なリズムである。音の長さに単位のない自
由リズムもある。

(3)日本語では、詩歌の音数律のことをいう。五七調や七五調などをいう。
また、語句連続に同じ母音の繰り返しがあるなどもいう。
 文章・話しの音声化に伴って表れ出る抑揚・律動・節奏などの調子のこと
をいう。つまり音声の上げ下げ変化、強調変化、明暗変化、遅速変化、緩急
変化、音色変化などがつくりだす律動のことをいう。

(4)事物の形態変化の周期的な繰り返しをいう。視覚領域における図形を
単位とする形・色彩・明暗などの規則的な変化、その連続的な動きの繰り返
しのことをいう。
 聴覚領域(物理音、音楽、音声)の周期的繰り返しのことをいう。これは
(2)と(3)とに重なるものもある。


           
一応のまとめ


(1)は、リズム一般の総花的(総論的)な定義である。
(2)は、音楽プロパーでいわれてるリズムである。
(3)は、文芸・演芸プロパー(文章・話し・語りなどの音声表現)でいわ
   れてるリズムである。
(4)は、視覚的な形態・図形の配置変化の繰り返しでいわれてるリズムで
   ある。
(1)はリズム一般であり、(2)と(3)は聴覚的な音声に関わるリズム
   であり、(4)は視覚的な形態・図形に関わるリズムである。
 また、(1)は、リズムについての広義の定義であり、(2)と(3)は、
時間連続体としての周期的反復に関わるリズムのことであり、(4)は、空
間連続体としての周期的反復に関わるリズムのことである。


     
規則的な周期反復、ルーズな周期反復


 先に「リズムとは」の一般的な定義として「規則的な反復、周期的な繰り
返し」のことだと書いた。しかし、そうは言っても、その「規則性」はかな
りあいまいで、ルーズな性質を持っているものも多い。必ずしも規則性な繰
り返しがあるとは言えないリズムも多くある。
 「規則的な時間間隔で反復」するものといえば、その代表格はメトロノー
ムである。動力が途絶えることがなければ、いつまでも同じ時間間隔で動き
続けるはずである。
 「あいまいさ、ルーズさの時間間隔で反復」するものの例をあげれば、
「わたしの、日常の生活リズムは規則正しい」という場合のリズムがそうで
ある。「わたしの、朝・昼・晩の食事時間のリズムは規則正しい」「就寝時
間と目覚め時間のリズムは規則正しい」「排尿・排便のリズムは規則正し
い」といった場合は、そのリズムの規則正しさの時間間隔はかなりあいまい
で、ルーズな時間間隔をさしていることは言うまでもない。
 リズムは「規則的な反復、周期的な繰り返し」だとは言っても、
「時間間隔の規則正しい反復」もあれば、「時間間隔のあいまいさ、ルーズ
さのある反復」もあるということである。


         
 リズムの分類


 それで下記のようなリズムの分類法を試みてみた。自然界におけるリズム
の使用例と、人間界におけるリズムの使用例とに大きく区分けした。さらに、
それぞれを小分類にしてみた。

(A)自然界におけるリズム
    @規則的な時間間隔のリズム
    Aルーズな時間間隔のリズム
(B)人間界におけるリズム
    @日常の生活行動のリズム
    A身体生理のリズム
    B動植物生態のリズム
    C社会習俗慣習のリズム
    D芸能や運動技能の熟練リズム
    E音楽プロパーのリズム
    F文芸プロパーのリズム
    G形態変化のリズム




       
リズムの使用場面例



 下記の「リズムの使用場面例」にある個々の文は、引用文以外は、荒木の
自家作成による文である。「リズム」の語を中にはめ込んで作成できそうな
文を思いつくままに書き出してみた。それらを上記分類の中に当てはめて順
不同で列挙している。こなれない文もあるかもしれないが、大目にみていた
だきた。


(A)自然界におけるリズム


 ここには天体の運行に関するものの大部分が入る。天文学上の物理法則に
よる規則的な時間間隔の周期で動くものが入る。恒星、惑星などの運行が入
る。しかし、これらと関連する地球における雨季と乾季の周期や、四季交代
の周期などは、地球表面の気象条件によって時間間隔の周期にかなりのばら
つきあり、それを判定する人によっても違いがある。


  
 @規則的な時間間隔におけるリズム使用例


〇天体(太陽、恒星、惑星、衛星、彗星、星団、星雲など)の運行は規則的
 なリズム周期で運行している。
〇太陽は宇宙の中心に静止し、地球が自転しながら他の惑星とともに太陽の
 周りをそれぞれの公転リズムで回っている。
〇惑星、衛星、彗星などは、それぞれが運行する軌道上を宇宙リズムの法則
 にのっとって周回している。
〇恒星に対して月は天球上を27.321662日の周期リズムで一周している。
〇音波、光波、電波には、それぞれに一定の波形リズムがある。


   
Aルーズな時間間隔におけるリズム使用例


〇インドや東南アジアには、雨季と乾季とが周年リズムで繰り返す生活であ
 る。
〇日本は、春夏秋冬の四季交代の周年リズムがある。四季による気温変化に
 応じてさまざまに生活のしかたが変化する。
〇寄せては返す海岸の水波、潮の干満は、太陽と地球と月の移動のリズム 
 に組み込まれておこる。四季の交代ももちろんそうである。


(B)人間界におけるリズム


     
@日常の生活行動おけるリズム使用例


〇人間は朝昼晩夜のくりかえしリズムで行動する。わたしは夜勤の仕事なの
 で昼夜が逆の生活リズムをおくっている。
〇一週間は日曜日で始まり、土曜日で終わる。これが正式な一週間の開始と
 終了である。カレンダーもそうなっている。しかし、日常生活の実感では、
 月曜日が仕事の始まり、土曜日が仕事の終わりである。日曜日が休業日で、
 一週間の疲れを休める日である。このように一週間は、月曜日で始まり、
 日曜日で終わるという生活リズムが実感的である。
〇小学校の児童は、45分授業の生活リズムで学校生活をおくる。中学校の
 生徒は、50分授業の生活リズムで学校生活をおくる。
〇スポーツの応援で、観衆全員が「ニッポンチャチャチャ」と言いながら手
 拍子をリズム調子よく合わせて打つ。会場が割れんばかりに盛り上がる。
〇宴会で、歌い手の歌のリズムに合わせて全員が手拍子を打って宴会の雰囲
 気を盛り上がる。


     
 A身体生理におけるリズム使用例


*生体リズム

〇人間の臓器の生命活動のサイクルが体内リズムを形作っている。
〇体内の諸器官の調和が変調をきたすと体内リズムに狂いが生じ、健康に悪
 影響を及ぼすようになる。
〇医師は聴診器を患者の胸に当て、呼吸の音や心臓の音が、正常なリズムを
 刻んでいるかを診察する。
〇心臓から血液が規則的に押し出されるたびに動脈は周期的なリズムで運動
 する。これを脈拍リズムという。成人で1分間で60〜100拍である。指で
 手首に触れて正常かどうかを数をかぞえてはかる。
〇わたしは、現在のところ、覚醒と睡眠の規則正しいリズム交代で健康です。
〇人間には、レム睡眠とノンレム睡眠とのくりかえしによる周期リズムがあ
 る。年齢に応じて、睡眠時間や排尿排便時間のリズムは違ってくる。
〇基礎体温と排卵日の規則的な周期を月経リズムという。最近、月経リズム
 の変調があり困っている。

*体内リズム(体内時計を含む)
〇はげしい運動には、ほどよい休養が必要です。休養が不足すると体調リズ
 ムが狂ってきて、精神的にも不安定になり、怒りっぽくなったり、事件を
 起こしたりすることにもなります。
〇先月まで、わたしの体調リズムの調子がとてもわるかった。不規則な生活
 の連続で生活リズムが狂っていた。が、今月からはまじめに働いているの
 で、生活リズムが回復してきて、体調がよくなってきた。
〇朝、昼、晩の規則正しい食事習慣のリズムをつけることはとても重要です。
 食事時間が乱れたり、朝食を食べなかったりすると、体調リズムに変調を
 きたします。
〇小学生も中学生も、一週間の学校時間割にそって行動している。通常の一
 週間のリズム行動が乱れると、精神的にも不安定になり体調を悪くする。
〇あなたの生活リズムの乱れを直すには、規則正しい食事(暴飲暴食)と睡
 眠(昼夜逆転)から始めることです。
〇ピアジェによると、子どもの認識能力には四つの発達リズムがあるという。
 感覚運動期(0〜2歳)、前操作期(2〜7歳)、具体的操作期(7〜1
 2才)、形式的操作期(12才以降)という四段階を経過して成長すると
 いう。

   
  B動植物生態におけるリズム使用例


〇生物(動植物)の運動や生理現象にサーカデアンリズムというものががあ
 る。
〇同種の動植物は、同じ環境の中では、同じ生態型のリズムで成長する。
〇草食動物は昼行性、肉食動物は夜行性とういう日リズムで行動する。
〇カマキリのオスは交尾を終えたあと、メスにかじられて死んでいくという
 一生涯リズムをもつ。
〇カイコは、幼虫期に4〜5回の脱皮をして蛹(さなぎ)となり、さらに一
 回脱皮して成虫となる年リズムがある。
〇ヘビ、カエル、コウモリ、シマリス、クマなどは、冬眠するという年リズ
 ムがある。
〇渡り鳥は逗留地を交代するという年リズムがある。渡り鳥には、渡りの状
 態から三種類がある。夏鳥(ツバメ、カッコウ、ホトトギス)と冬鳥(ガ
 ン、カモ、白鳥、鶴)と旅鳥(シギ、チドリ)とである。
〇鮭は、川で生まれ、海に下って成長し、産卵のため生まれ故郷の母川に戻
 る。雌は母川の川底に穴を掘って産卵し、砂や小石で上をおおう。産卵後、
 親は死ぬ。孵化した稚魚は春、母川を下って海に入って、2〜5年で成魚
 となって母川に戻り産卵する。鮭はこうした回遊という一生涯リズムがあ
 る。
〇朝顔、昼顔、夕顔、それぞれに開花時間としぼむ時間の日リズムをもつ。


   
  C社会の習俗慣習におけるリズム使用例


〇世界の人々は、それぞれの国の風習、慣習、習俗の伝統行事にしたがった
 行動リズムで生活している。一例をあげれば、イスラム教のラマダーン、
 キリスト教の日曜礼拝、日本の正月行事などである。
〇下記は、拙著『学級懇談会の話材集』(一光社、1987)より引用
 日本各地には、伝統的な年中行事があります。おせち料理、お年玉、初詣、
 書き初め、どんど焼き、節分、ひな祭り、端午の節句、七夕、盆踊り、年
 越しそば、縁日、秋祭り、町内運動会、村の神社祭礼、みこし、村の芸能、
 演芸会、その他、地域をあげての四季折々の年中行事があります。村の 
 人々はこうした年中行事のリズムをこなしていき、生活の変化を楽しんで
 います。
  年中行事は、わたしたちの単調で平板な毎日の生活に、同じように繰り
 返す日常生活に、豊かさとうるおいを与え、メリハリとアクセントとリズ
 ムを与え、毎日の閉塞した精神に生気と活力を与えてくれます。一部の 
 人々は古い因習によるバカ騒ぎのおろかな行事と軽蔑するかもしれません
 が、この大いなる物質的そして精神的なムダがわたしたちの極度に単調で
 平板な日常生活に活気と楽しさと豊かさを与えてくれるわけで、むだを豊
 かに楽しむことは文化であるわけです。伝統的な年中行事のリズムを楽し
 むことは、閉塞した生活空間を意匠化し、デザイン化し、干からびた生活
 空間を、変化に富んだ潤いのある生活空間に構築し直してくれます。  


   
D芸能や運動技能の熟練におけるリズム使用例


〇空海の書は、脈々と呼吸している筆づかいが感じられ筆跡リズムがすばら
 しい。
〇お父さんのパソコンのキーボードを打つ手の動きが、リズム調子よく、快
 く響いている。
〇ベルトコンベアーで分担作業している労働者たちの作業リズムに乱れがな
 い。
〇おばあさんの編み物をあむ手作業は、現在はリズム調子よく動いているが、
 あと二十分もしたら疲れて、リズムが乱れ始めるでしょう。
〇少年がサッカーボールでリフティングの練習をしている。その上手なこと。
 軽やかな、リズム調子よい身のこなし方はすばらしい。
〇枯れ枝に残っている1枚の葉がヒラヒラヒラヒラ、同じリズムで風にたな
 びいている。その姿が人生の哀れさと重なって悲しい。
〇マラソン競技で、いまのところ山田選手は、軽やかなリズム調子で走り続
 けている。このリズム調子でゴールまで走り続けていけたら優勝するでし
 ょう。


    
 E音楽プロパーにおけるリズム使用例


〇音楽には三つの基本要素がある。メロディー、ハーモニー、リズムである。
 メロディーやハーモニーのない音楽は考えられるが、リズムのない音楽は
 考えられない。
〇音楽用語で、拍子は、音の進行で強拍と弱拍を一定の法則で単位とした 
 ものをいう。楽譜では小節と一致する。2拍子、3拍子、4拍子、6拍子
 などのリズムがある。
〇一つの小節の中の個々の拍は、その位置によって強弱のリズムがつくもの
 とつかないものが決まっている。四分の二拍子は強弱・強弱・強弱であり、
 四分の三拍子は強弱弱・強弱弱・強弱弱である。


    
   F文芸におけるリズム使用例


〇俳句は、575のリズムである。
〇短歌は、57577のリズムである。
〇現代詩は、新体詩と比べて、音楽的なリズム感よりも、視覚的、絵画的な
 要素が大きくなり、イメージの追求が主になってきている。リズムは内在
 的になり、表立たなくなってきている。
〇西洋の詩は十九世紀までは定型詩であった。押韻、脚韻、オート、ソネッ
 ト、ヴァース、音数律、発音上のリズムについてさまざまな約束があった。
〇文章におけるリフレーン(同じ一節をくりかえす修辞法)や、対句(類似
 している二つの一節を相対してならべる修辞法)は、音声表現に快いリズ
 ムを与え、上手に使えば、とてもよい表現法だ。
〇下記は本HP第1章「星とたんぽぽ」(金子みすず)より引用
  第一連の詩句「青いお空のそこふかく、海の小石のそのように、夜がく
 るまでしずんでる、星のお星はめにみえぬ。見えぬけれどもあるんだよ、
 見えぬけれどもあるんだよ。」は、「3+4+5」の語群からなり、75
 調のリズムを構成している。
〇下記は本HP第1章「おむすびころりん」(羽曾部忠)より引用
 「おむすびころりん」(羽曾部忠)には、くりかえし言葉が使われていま
 す。「おむすび ころりん すっとんとん。ころころ ころりん すっと
 んとん。」が四回も、繰り返されています。
  その他、「ころころ ころりん かけだした。」と「すっとんとんと 
 とびだした。」のリズムの対応が音読していておもしろいところです。
 「おどった おどった すっとんとん。こづちを ふりふり すっとんと
 ん。」と「しろい おこめが ざあらざら。きんの こばんが ざっくざ
 く。」の対応リズムも音読していておもしろいところです。「じぶんも
 あなへ すっとんとん」と「おじいさん ころりん すっとんとん。」
 との対応リズムも音読していておもしろいところです。
  この作品には、「すっとんとん」の言葉のくりかえしが12回もありま
 す。「ころころ ころりん」が、5回もくりかえされています。「おどっ
 たおどった」のくりかえしが、7個もあります。
  子ども達は、くりかえし言葉が好きです。子どもにとっては、くりかえ
 し言葉を音読することは一種の遊びです。ゲームで遊ぶようにくりかえし
 言葉を楽しみます。くりかえし言葉は物語の流れを単純にして、分かりや
 すくします。この単純さ、分かりやすさが、子ども達に好まれるのです。


       
G形態変化おけるリズム使用例


≪本節Gは、規則的に繰り返される事物(多くは無機物、図形・形態・色
彩・音響)の形態変化(色 彩、図形、明暗、強弱、遅 速)で連続して繰
り返す場面における「リズム」使用の文例である ≫
〇水道の蛇口からしたたり落ちる水滴の音は、 強弱・遅速の等間隔のリズ
 ムを刻んでいる。
〇心電図の図形グラフは正常なリズム曲線を繰り返していて、異常はみられ
 ません。
〇電車の車輪の回転音が、規則正しい強弱・遅速リズムで繰り返していて、
 いつの間のか寝入ってしまった。
〇砂漠の砂紋が描く図形構成リズムは、まるで芸術品のようだ。
〇楠の大木の年輪を見ると、その年輪構成リズムには、北西の風に堪えてき
 た長い年月の歴史が刻まれていることがわかる。
〇交差点の信号機は、緑・黄・赤の点滅リズムを繰り返して発信している。


    
総称的な概念としての「リズム」


 わたしは、リズムの分類として、「自然界におけるリズム」と「人間界に
おけるリズム」に分け、さらに前者を二個に、後者を八個に分け、計十個に
分類した。リズム使用場面の文例を計十分類のいずれかに差し入れて書いて
きた。しかし、差し入れにはかなり迷った文例もあった。わたしの十分類は
かなり曖昧な分類であり、あっちにもこっちにも挿入できそうな文例があっ
た。どこに挿入しようか迷った文例もあった。
 「交差点の信号機は、緑・黄・赤の点滅リズムを繰り返す」の文例でいえ
ば、「緑・黄・赤」の点滅は「色彩の連続する規則的な繰り返し」であると
すれば「G形態変化おけるリズム使用例」個所へ挿入となる。また、「緑・
黄・赤」の点滅は、時間間隔では、等時間間隔でなく、多くの信号機は
「黄」が短く、「緑」と「赤」は、人と車との交通量過多によって緑が長か
ったり、赤が長かったりするわけで、異時間間隔の周期的な機械的な繰り返
しであって、そこに注目すれば、「自然界におけるリズム」の「Aルーズな
時間間隔におけるリズム使用例」にも入りそうだし、「人間界におけるリズ
ム」の「@日常の生活行動おけるリズム使用例」にも入りそうである。ちょ
っとばかり深くほじくりだして考えていくとあちこちに入りそうで迷ってし
まうことになる。
 リズムの分類は、大雑把に二、三個に分けるとよいのかもしれない。こう
すれば迷うこともなくなる。リズムを二、三個に分類している識者もいる。
三木成夫は『人間生命の誕生』(築地書館、1996)の中で、リズムを
(1)生物リズム(人間世界)
(2)四大リズム(天体世界) (四大=地水火風)
に分けている。
藤田竜生は『リズム』(風濤社、1976)の中で、リズムを
(1)等間隔という時間的要素
(2)文化論視点から
(3)人間の生活や生き方視点から
に分けている。

 上記した使用例を読んでいて分かることは、リズムという語は、いろい
ろな使用場面で多様な意味内容で使われていることが分かる。多義的概念で
あり、その使用場面で、それぞれの限定された顔(限定概念)を表出してい
していることが分かる。であるから、「リズム」という語は、一義的な概念
内容でなく、総称的な概念内容であることが分かる。


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付録        2021・07・07記
             (上記「リズムとは何か」から9年後に執筆付記)



 上手な
 リズム表現のしかた




          
            
場面と場所

本稿では、音声のリズム表現のしかたについて書くことにします。説明文の
音声表現は除外し、物語・小説と俳句・短歌の音声表現のしかたについて書く
ことにします。
初めに、物語・小説の上手なリズム表現のしかたについて書きます。

物語・小説の音声表現は、「場面」を音声表現することになります。「場所」
ではありません。場面と場所とは、どう違うのでしょうか。

場所は客観的に存在する対象物であり、場面は、主観的に、個人的に存在す
る状況としての対象物です。

場面とは、登場人物が行動するとき、その時々において、その場面場面にお
いて、それぞれの諸事情に囲まれ、それぞれの諸事情に制約や影響を受けて
いる場所のことです。

場面とは、登場人物たちが置かれている、登場人物たちの行動を成りたたせ
ている状況としての場所のことです。人物たちの行動を、時間的に空間的
にとりまいて、制約している場所のことです。


          
歌詞「雪が降る」


実例で、場面と場所の違いを考えてみましょう。

イタリア生まれのベルギー人歌手アダモが歌った世界的な大ヒット曲「雪が
降る」(Tombe la Neige) の日本語訳の歌詞を例にして考えてみましょう。

      雪は降る
(1)雪は降る。あなたは来ない。雪は降る。重い心。空しい夢。白い涙。
   鳥は飛ぶ。夜は更ける。あなたは来ない。いくら呼んでも。白い雪が。
   ただ降るばかり。
(2)雪は降る。あなたは来ない。すべては消えた。この悲しみ。このさび
   しさ。ひとりの夜。涙の夜。あなたは来ない。いくら呼んでも。白い
   雪が。ただ降るばかり。

この歌詞には、「雪が降る。雪が降っている」という客観的な自然現象とし
の事実を語っている意味内容の側面があります。客観的な自然現象をさして
いる場合は「場所」ということになります。
この歌詞には、「雪が降っている」という自然現象としての客観的事実のほ
かに、自分の受けた失恋の悲しみ・痛手・失意の気持ちが語っている意味内
容の側面もあります。
この歌詞には、客観的な「雪が降っている、という自然現象」と、主観的な
「失恋による痛手の気持ち」、これら二つのダブルイメージ(相似的心情の
重なり)を語っている意味内容の重なりがあります。景色に気持ちが重なり、
二つの意味内容が交流し合体しています。叙景が抒情へと変質しています。


         
「雪が降る」のテーマ

繰り返していうと、この歌詞の「場面」は、「雪が降る」という自然現象の
事実と、失恋の痛手・失意の気持ちとの重なりということになります。ここでは、
後者が本意であり、筆者の訴えたいテーマということになるでしょう。二つ
のダブルイメージの重なりが、この歌詞全体の「場面」ということになります。

音声表現は表現よみや朗読だけでなく、歌唱をも含めて、「場所」でなく、
「場面」(状況)を音声で表現することが求められます。物語・小説の音声
表現は、すべて「場面」を、音声にすることです。


         
場面の気分・雰囲気


「場面」には、全的に支配し、取り囲んでいる状況としての気分・雰囲気が
あります。気分・雰囲気は、われわれの意志的活動とは別個に、独立して存
在しています。「場面」をとりかこんでいる気分・雰囲気は、「場面」の音
声表現を統制し支配していきます。

読み手は、その時々の場面の気分・雰囲気を音声表現していくことになります。
読み手は、気分・雰囲気を捕らえ、捕らえられつつ、場面に没入して音声表
現していくことになります。

アタマで分析し、読み深めた結果を声にしていくのではありません。その場
その場で即時的即自的に「からだに感じた情緒・気分・雰囲気を声にあらわ
していくようにします。からだ全体で情感性を感受し、肌で読みとった結果
を音声表現していくようにします。

場面の気分・雰囲気が音声表現の身体をシフトさせます。場面の気分・雰囲
気が、身体がおこすアクションを生起させます。こうして心身の構えが作ら
れていきます。

意味内容をはっきり音声表情に現れ出したい、混沌としたものに文節・語句
の流れに情感性の探りを入れつつ挿入し、大本では音声の切れ続きを作成し
つつ、音声表現にしようと努力していきます。音声は、文字に比べてはるか
に多義的で、豊かな情感性を伝える力を持っています。

現れ出た音声表情に満足できる場合もあれば、満足できない場合もあります。
しっくりしない、ピッタリこない、満足できないことに気づく能力はとても重
要です。素早くしっくり、ピッタリがくるようにするには、繰り返しの練習が
必要です。

            
獲得と習熟


読み手は「自分がこれまでに獲得した、身につけた音声化技術・テクニッ
ク・表現法の内でしか読むことができません。つまり、読み手はいつも「自
分なりの流儀」で音声表現していることになります。
表現よみ初期には、読み手の個人的なしゃべり癖のようなものが刻印されて
読むことも多くあります。

音声表現の習熟は、時間をかけた身体的練習によるところが大です。練習
のくりかえし、反復練習に負うところが大きいです。時間をかけて身体に宿
った、埋め込まれた技・スキル・知識の獲得が重要となります。
この点、音声表現の上達のしかたは、スポーツや芸事の技・スキルの習得と
酷似していておます。子どもがスイミングスクールやサッカークラブで熱心
に時間をかけて練習すれば、それなりに上達は速い。それと同じです。


          
身体まるごと反応


活字は、言葉の抽象性だけが前面に押し出されています。口先で文字ずらを声
にしてるだけではいけません。場面の状況(雰囲気)を身体まるごと反応で、
声にしていくことです。人間のコトバは、身体全体が呻きながら喘ぎながら生
み出したものです。ちょっと大げさかな。

音声表現する主体は、身体であり、読み手の意識ではありません。意味内容
を受けとり拾いあげるのは身体全体です。身体の感情まるごと反応で受けとめ、
音声で表現していっているのです。
身体の感受性、表象選択の差によってさまざまに音声表情は変化します。場面
の情感(気分・雰囲気)の受けとめ、身体まるごと反応、その身体反応の切
実さ・切迫さの受けとめの程度により、また音声化技術の優劣スキルの差に
よって、音声表情は多様に変化してきます。


        
音声指導の優れた点


話し合いだけの読み取りでくどくどと読解学習するより、音声表現による学
習を取り入れたほうが場面の様子・人物の心理感情の綾がよりこまやかに理
解でき、登場人物の心理の機微を理屈でなく、身体に響かせ、肌に感じとっ
て理解できるようになります。場面の中に身体ぐるみで巻き込まれて、体感
的な造形空間で音声表現することはとても重要です。

読み手による「場面」の受けとめ方は、体験ではなく、体感することで生起
します。知覚ではなく感じとることによって生まれ出ます。「場面」は、物
語世界の時間の流れのなかに、意味内容(情感・情趣)のかたまり(大小、
硬軟)の流れとして生まれ、表現されています。

硬軟大小のかたまりとして生成している意味内容(情感・情趣)の流れは、
対他的でなく、対自的であり、対自的というよりも即自的な性質をもってい
ます。
即自的になればなるほど、その場面としての状況の理解と表現は不分明にな
り、読み手の受動的総合力が大きく要求されます。


         
表象形成と感情喚起

場面の状況をありありと音声で浮き上がらせるには、場面を想像豊かに表象
することが重要です。表象の積み重ね、豊かな表象の形成が感情を喚起す
る装置となります。豊かな表象の形成が音声の感情表現の多様な綾を増幅さ
せる基礎となります。読解指導では、まず表象形成の指導を、それが感情
喚起の基礎となります。

つまり、表象喚起とそれの積み重ねによる話し合い学習、いわゆる「表象の
形成=表象形成=表象の構築と集積」の学習がとても重要、ということです。


(参考)三人の学者の表象と感情についての論稿より

感情は表象することはできないが、表象することによって感情を喚起するこ
とはできる。(北条元一・元東京工大教授))

感情は、対象に対する主体の、その時点での構えの体験である。だから、感
情は表象できない。あるものを表象している現在の自分の感情を体験するこ
とはできる。(乾たかし・元法政大教授)

表象の中にとりつかれると、文字が消えて、場面の中に自分が一緒に生活し、
行動しているようになる。(垣内松三・元東京高師教授)


          
表象とイメージ


国語科学習指導案に、次のような物語文の指導目標が書いてあることを
よく見かけます。
「○○場面をありありとイメージする話し合いをさせる」
「○○場面をありありと表象する話し合いをさせる」

上の指導目標は、同じ文面ですが、「イメージ」と「表象」の語句の個所に
違いがあります。

「イメージ」と「表象」とは、同じ意味内容なのでしょうか。違うのでしょ
うか。

わたしは、違うと思います。

通常、「イメージ」というと、外的対象物を「目に思い浮かべる」という視
覚的な側面が強い意味内容になります。

「表象」というと、視覚(目)だけでなく、触覚(皮膚)、聴覚(耳)、臭
覚(鼻)、味覚(舌)、これら五つの感覚器官すべてを使って外的対象物を、
感覚的、具体的に心(脳髄)に思い浮かべる、という意味内容になります。

「表象する」とか「表象化」といえば、これら五つの感覚器官のすべてを使
って、場面をありありと思い浮かべる、という意味内容になります。目に思
い浮かんだこと、肌に感じたこと、耳に聞こえたこと、匂ってきたこと、味
として感じたこと、これら五感を使って外的対象物(場面)をありありと心
(脳髄)に思い浮かべる、という意味内容になります。

上述とつなげれば、場面の表象学習の積み重ね、これらの話し合いの積み重
ねと音声表現の試み、こうした学習が感情を喚起する装置・基礎となる、と
いうことになります。


             
「地」と「図」


「場面」とは「地」のことです。「地」から浮かび出たゲシュタルトが
「図」であります。「場面」の気分・雰囲気は移ろいやすいです。「地」と
「図」とはゆるぎやすいです、変化しやすいです。

身体まるごとの反応は、意味内容の誘発力によって「地」から浮上し「図」
を形成します。「図」は、作品世界の「場面」から内発的、自動的に現出して
きます。「図」は流動的で、さまざまなゲシュタルト「図」として現出してく
るようになります。

音声で表現することで「図」は場面から遊離し始めます。脳中では場面とべっ
たりとくっついているが、音声へ移行しようとしはじめると、自己表出しは
じめ、指示表出へと変わります。こうして作品世界は身体から立ち上がり、
身体から離れていくようになります。


        
種々の音声化技術


読み手の身体反応としての共感・感情移入・情緒的反応、知的興奮など、こ
れらはさまざまな音声表情を形成します。身体の感受性、表象選択のありよう、
情感(気分・雰囲気)などの受けとめ方よって、さまざまに音声表情は変化
していきます。

音声表情はいくつかの音声化技術によって作られます。主な音声化技術として
次のようなものがあります。
声の高低変化、大小変化、遅速変化、強弱変化、イントネーション、間、タメ、
ピッチ、強調、転調、リズム変化、勢い変化、音色などがあります。
詳細は、本ホームページの第13章「表現よみ授業の指導方法・その6を。

問題は、小手先(口先)の音声化技術のテクニックではありません。焦点が
あてられるべきは、口先から音声を出す以前の身体の「構え」(メルロー=ポ
ンティーの身体図式)です。読み手の身体図式を介して物語世界を受け取り、
物語世界を音声表現していくことが重要です。


            
同化と異化


「同化」とは、読み手が登場人物と同じ気持ち・感情になって読み進めるこ
とです。「異化」とは、読み手が登場人物(事件・事柄)に反発・批判しな
がら読み進めることです。通常の読みの姿は、同化と異化とがないまぜにな
って進行していきます。

同化によって、物語場面の雰囲気、気分を把握することはとても重要です。
物語場面の雰囲気・気分の中に自分を没入させる、場面の雰囲気・気分を身
体に取り入れ、響かせ、襲われ、虜にされる、こうした身体図式になること
が音声表現においてはとても重要です。物語世界の雰囲気、気分の中に捕ら
えられ、貼りつき、沈み込み、溶け込む心的状態で地の文や会話文を音声表
現していくようにしましょう。物語場面を単に客体として認識しているので
はなく、ともに生きている、実存している「生」の身体感覚で音声表現する
ようにしましょう。

会話文の音声表現は、読み手と登場人物との呼吸を合わせることから始まり
ます。例えば、患者にご飯をスプーンで運んでいくときにしゃべる会話文
「いいですか、あーーん」なら、実際には自分の口を「あーーん」と動かし
ていないけれど、相手の口の動きを見ながら、自分も口を動かしている場面
を頭に想い描きながら、そんな身体感覚に没入しながら、音声表現していく
ようにします。つまり、物語場面に同化することです。

会話文の音声表現では、登場人物の声(会話文)が読み手の心の中に溶け込
むことが大切です。どこまでが読み手で、どこからが登場人物のしゃべりか、
区別がつかなくなってしまうような会話文のしゃべりでありたい。それには、
物語場面に同化することです。

会話文の音声表現は、文字を単に声にするのではなく、相手のしゃべり内容
をよく聞いて、そのリアクションでしゃべるようにします。相手が話してい
る話し内容の、途中途中で聞き手が反応したことがら、その気持ちを押し出
して話すようにします。相手が話している部分部分に、こちらが、どう、強
く反応したか。自分(聞き手)の言いたいこと(反応)を、強めにした音調
でしゃべるようにします。相手が話し終わってから、それから、おもむろに
話し手の考えを作って、それから話し出すのでは平板になってしまいます。

子どもには、音声表現で「慣れにおぼれる」現象がみられます。会話文など、
すっかり言い回しを覚え込んでしまうと、時間が経過してしまうと、今度は
何か一本筋が抜けてしまったような感動の乏しい、心のこもらない言い回し
になって表現することがあります。
これは、同化の探求的な初心を忘れた音声表現となってしまっているからで
す。単なる言い回しのはきだしをしている音声表現になってしまっているか
らです。物語場面における人物の気持ちに感情同化しよう、人物と同じ気持
ちになって・入り込んで、溶け込んで、同一化して音声表現しようとする努
力が欠如していることによっておこります。

異化の音声表現については、本ホームページの
   第14章 説明文の表現よみ指導
   第6節  私的感情の入れ方
          文学的文章における私的感情の入れ方
を、参照しましょう。


            
間だ、間だ


種々の音声化技術の中でも、最も重要なのは「間」です。わたしはかつて
本ホームページの第8章に「間のあけ方で音声表現の7割は決まる」「間は
たっぷりめに開けよう」と書いことがあります。「間のあけ方で音声表現の
上手下手の7割が決まる」なんと大胆な言い方をしたものだと、われながら
驚いています。それだけ、間のあけ方は音声表情にとって重要だということ
です。下手な読み方は間がない読み方です。間がないと、せかせかした読み
方になり、ずらずら読み・平板な読みになってしまいます。

間で音声表情は引き締まります。思い入れ、感情ののせ方は、間を保ったリ、
間の長短や配置で決まる部分が大きいです。間によって次の出だしの勢い・
タイミングが規制されてきます。間に自分の思い入れを投企し、その緊張関
係をはらむ中で、息づかい・呼吸を調整しつつ読み進めていくようにします。
間は、想い(場面の状況・雰囲気)が膨らみ、次の読みリズム(息づかい・
呼吸・タイミング)が起動していく場所でもあります。

間とは、音声表現の流れの群団化の休止・無音の拍でもあります。間は音声
表情の流れの群団化の起動源でもあります。音声表現の流れの中のグルー
ピングは、フレージング、つまり呼吸・息づかいと密接に連関しているのです。

音声表現のリズムは、ことばのまとまりと、その区切りと、呼吸のひとまと
まりで構成されています。つまり、間です。間に導かれたダイナミックな流
れです。

間とは、作品世界を音声表現するときの呼吸のタイミングであります。区切
り方(間のとり方)の呼吸のタイミング・息づかい、つまり、タメの強弱・
長短など、が、リズムに変化をもたらします。こうしてリズムが生成します。
音声表現している過程のチャンク(かたまりに区切ること)が、呼吸の群化が、
リズムとなります。リズムのおもしろさ・変化は、呼吸の群化のおもしろさ
でもあります。

           
リズムの生成


カスタネットを打つとき、カスタネットが拍子をとっているのではありません。
カスタネットは人間と独立したものでなく、人間の身体全体と一体化した、身
体の一部としてカスタはリズムをとっているのです。身体まるごとが共振し、
身体まるごと反応に連動し、その結果としてカスタはリズムをとっているのです。

プロレスやボクシングなど、格闘技をテレビで観戦しているとき、ひいきの
選手がやられたら、観ている自分もやられている身体になることがあります。
ひいきの選手の動きに対応する感情反応が生まれ、ピクッと身体が動いたり、
力が入ったり、弛緩したリ、呼吸が激しくなったりすることがあります。

間は、想い(場面の状況・雰囲気)が膨らみ、次の読みリズムが起動してい
く場所です。作品世界(場面・雰囲気・状況)に、読み手の身体が引っ張
られ、身体まるごと反応がおこると、間とリズムとは、連動してきます。間は
リズムを刻む大きな要素で、その流れ(切れ続き、ダイナミズム)を支配し
ています。

読み手の内的な心理感動の脈動・鼓動によってリズムが生まれ出てきます。
作品世界と読み手の息・呼吸が連動してきます。文章の前部分に続く潜流と
してのリズムが、今読んでいる現時点の文章部分のリズムとして受け継がれ、
流れていき、次々と脈動・鼓動の潜流する心理的リズム、テンポが受け継がれ
ていきます。

心拍リズムは、呼吸に同期します。心拍リズムは、呼吸リズムによって変調さ
れます。文字は音声にすることで心理的な高揚感が生まれ出ます。生き生き
と弾んでいる状態、ノッている状態になる。ノッているとは、非反省的意識
の中で、作品世界に読み手がつりこまれる、さそいこまれる、のりうつる、
同じ気持ちになって一緒に行動する、身体の波長が合う、共振作用がある状態、
つまり、リズムが合ってる状態ということです。

読み手が意味内容をどう把握しているか、把握の仕方のありようによって、
音声表情の口調・音調・言い振りが変化していきます。ということは、意味
内容の把握の仕方・ありようによって、読み手の息づかい、リズムや明暗や
抑揚となって変化していくということでです。作品世界の違い、解釈の違い
は、リズム(口調・音調・言い振り)の違いとなって現れ出てきます。

このように読み手の全身的な受容の営みとしてリズムは生まれ出てきます。
リズムの感受は、作品世界の意味内容に随伴して生まれ出てきます。意味内
容が身体にゆさぶりをかけ、心理的感情的な波動(脈動・鼓動)を引きおこ
します。こうして生じた波動(脈動・鼓動)が、それと連動した呼吸が、音
声表情の拍節を伴うリズムとなって生まれ出てきます。

作品の意味世界が身体内部に流れ込むと、脳髄に共鳴・共振を引き起こします。
身体内部に弾むもの{心理的感情的な波動(脈動・鼓動)}があらわれ出て
きます。音声表情に種々の活力変化が生じてくるようになります。からだの
中のエネルギーの波(リズム)がひとまとめになって種々の音声表情として
注ぎ込こもうという状態になります。こうして、種々の音声化技術を伴って、
メリハリのついた音声表現となって現れ出てくるようになります。

{心理的感情的な波動(脈動・鼓動)}を伴う拍節の切れ続き、そのリズム
の流れは、声に出している道中では呼吸・発音・発声を伴って、意味内容の
区切りの切れ続きに規制されながら、メリハリづけ(強調変化、強弱変化、
遅速変化、タメ、イントネーション、転調など)となって現象するようにな
ります。
メリハリづけの例
強調変化(ある語句を強めに高く読んだり、そっと弱く低く読んだり)
遅速変化(ある文章個所を追い込んで速めに読んだり、ゆったり・のろく読
     んだり)
イントネーション(ある会話文の文末を上げたり、下げたり、上げて下げ 
     たり、下げて上げたり)
タメ(ぐっと息をのみ込むようにして、喉の奥で種々の想いを膨らます。間
     の一種)
転調(多くは、段落の冒頭で、これまで読み進めてきた音調を変化させる)
詳細は、本ホームページの第13章「表現よみ授業の指導方法・その6を。

理解がスムーズにいっているときは、リズムがよい。リズムとメリハリの連
結がうまくいってないときは、リズムがわるい。心地よいリズムで読む、誰
でもがそう希望しています。しかし、なかなかそうはいかないのが世の常で
あります。

「ここの文章個所を、こんなメリハリにして読みたい」というイメージ(想
い)を持とう。そのイメージ(想い)を、文章の線条性にそって、間と呼吸
を土台にし、種々の音声化技術を加えて、躍動するように読み進めていきた
いものです。

         
音数律とリズム表現


等時的拍音形式としての音節のことを音数律といいます。つまり、一音節ご
とに同じ時間をかけて発音される語の重なりが生み出すリズムです。
日本語の拍は、だいたい仮名一字に対応しています。「あ」「か」「さ」
「た」「な」は、それぞれ一拍です。

「キャ・シュ・チョ」の拗音は、例外的で、一泊が、二字に対応します。
日本語には、特殊な拍があります。促音「っ」、撥音「ん」、長音「−」は、
一泊です。

俳句は五、七、五の音数律であり、短歌は五、七、五、七、七の音数律であ
ります。音節(5音と7音)の規則的な組み合わせによって構成されています。

音数律については、本章(第15章)で、「日本語のリズム(1)音数律」
の節で詳述しています。そこには、俳句、短歌、長歌、旋頭歌、今様、小唄、
童謡などを紹介しています。参考にせられたい。

日本語は、一音一拍という単調なリズムです。発話しているときは、一音
一拍という意識は薄いが、皆無だとは言えません。日常生活では、一音一拍で
区切っているというより、「さ、く、ら、」なら、「さくら」というひとつ
ながりの意味概念で区切っている、そうした意識が強いです。

「等時的拍音」については、本章(第15章)で、時枝誠記『国語学原論』
を引用しながら詳述しています。「等時拍」とは、要するに「さくら」の
「さ」も「く」も「ら」も、これら発音に要する時間は同じだ、ということ
です。

これまで上述してきた物語・小説のリズムは内在律といいます。内在律は、
音声表現においては意味先行であります。
これに対して、俳句や短歌などの音数律の組み合わせは外在律といいます。
外在律は、音声表現においても拍節先行であります。

俳句(5・7・5)や短歌(5・7・5・7・7)の音声表現は、拍節先行
です。ですから、5音・七音の拍節リズムが強すぎて、意味世界がかもしだ
す感化的情緒的な場面の生き生きしたムーブメントを、種々の音声化技術を
付け加えながら、種々の音声表情で表現することはできない、というか、で
きにくいです。

下記に、正岡子規の短歌と俳句を一つずつ書いています。声に出して表現して
みよう。5音と七音のまとまりの拍節リズムが強すぎて、種々の音声化技術
を付け加えて種々の音声表情で表現することはできない、できにくいことが
分かるでしょう。

くれないの 二尺伸びたる 薔薇の芽の 針やはらかに 春雨のふる
                            (正岡子規)
(赤く二尺(約六十センチ)ほど伸びているバラの芽のまだしなやかなトゲ
に、やわらかに春雨が降り注いでいることよ。)

赤蜻蛉 筑波に雲も なかりけり    正岡子規
(雲一つない澄み切った秋空に群れ飛ぶ赤とんぼ。かなたには筑波山がそび
えている。)

たとえば、「くれないの」「春雨のふる」「赤蜻蛉」「なかりけり」など、
たまたま冒頭と句末の語句を選んでみましたが、こららを、大胆に強めて大
声で読んだり、そっと弱めて密やかに読んだり、早口で追い込んで読んだり、
ゆったりと・のろく読んだり、種々の音声化技術を付け加えて音声表現するこ
とはできない、というか、できにくいですよね。通常は、そんな音声表現はし
ていませんです。

俳句や短歌の音声表現は、5音と7音のかたまりごとに淡々と平板に読むの
が通常の音声表現の姿であろうと思います。5音と7音のかたまり、そのし
ばりが強すぎて、多様な音声表情はつけにくい、つけられられません。

下記は、歌舞伎・お嬢吉三のひとり言の外在律です。7音と5音のかたま
りで繰り返す75調の音数律です。

「月もおぼろに白魚の、かがりもかすむ春の空、つめてえ風もほろ酔いに、
心持よく浮かうかと、浮かれ烏のただ一羽、ねぐらへ帰る川端に、竿の滴が
濡れてで粟……」

これの音声表現は、意味内容はどうでもよく、といえば語弊があるが、意味
内容よりも、七五調の語り、7音と5音のかたまり、その連続が繰り返す音
数律の響きの流れが、心地よくうっとりと聴衆の耳に入り込むように語られ
ることがとっても重要です。意味内容よりも、吉三の哀切きわわりない七
五調の節回しが身にせまるように語られること、聴衆の耳に入り込むこと、
これが重要となります。

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