音読授業を創る そのA面とB面と 11.02、22記 表現よみ指導のコツ(続) ろくすっぽな音読もできずに ろくすっぽな音読もできない学級児童で、ろくすっぽな音読指導もせず に、あなたは国語教育をやっていると言えますか。 いささか挑発的なこの言葉は、本稿読者のあなたには当てはまらない言 葉です。ご安心ください。どこかにいそうな、音読指導が不熱心なごく一部 の教師たちに向けた言葉です。 一般に音読指導は、教育現場ではあんがいないがしろにされているので はないでしょうか。国語授業の最後で時間の余裕ができたから本時部分を音 読させ、チャイムが鳴ったら、はい、そこで、終わり、となっていないでし ょうか。 本来、子どもは音読が好きです。喜びます。特に斉読すると解放感があ り、思い切って自由に表現ができ、読み終わった達成感があり、子どもは精 いっぱい音読を気楽に楽しむことができます。一斉音読(斉読)は下手であ っても、自由に読めて、みんなで読めば、こわくない、楽しいです。 黙読だけだと、読めない漢字や難語句があっても、そこで立ち止ること なく、無視して、先へ先へと読み進めてしまいます。いいかげんな理解とな ってしまいます。語句のかたまり、意味のかたまりとして、内容の区切り・ 係り受けがいいかげんな読み方になってしまいます。これでは、授業はス タートから成立していないことになってしまいます。授業の成立は、まず文 章がつかえないで、すらすら音読できることから始まるのです。 わたしはこれまで研究授業の参観で、教師と三、四名の発言チャンピオ ン児童との高度な読みとりの話し合いはあったが、授業の最後に音読させる と、大多数の児童はたどたどしい聞くにたえない音読しかできてない、とい う授業をたくさん見てきました。これでは授業はスタートから成立していな いと言えましょう。話し合いの土台(文章のすらすら読み)ができていない のですから。 すべて学力の基礎は国語力です。国語の基礎は、まず読む力です。読む 力の基礎は音読・表現よみです。黙読と比べて音読は、うんと神経を使いま す。音読すると、黙読での、いいかげんな、あいまいな読みは許されなくな ります。音読すると、意識が集中し、意味内容の理解に積極的に立ち向かわ ざるを得なくなります。 ほめて、おだてて、好きにさせる 音読を上手にさせるコツは、教師が児童の音読をほめてやることです。 上手に読めたところを、ほめ言葉をかけ、高い評価を与えてやります。小さ な、ちっぽけなことでもよい。下手な児童でもむりによかった点を探し出し て、ほめてやりましょう。うそでもいいから、ほめてやりましょう。 児童が音読している途中で、教師は、うんうんと軽いあいづちを入れ、 よく聞いている態度を示します。読み終えたら、すかさず「うーーん、いい ねえーー。じょうずだったねえーー。すばらしい読み方だったよ〜」と心底 から真顔で、うれしそうな表情で応答します。児童はきっと音読好きになり ます。これは筆者の体験からいえる効果的な方法です。ほめられて、音読嫌 いになる子はいません。 児童は、ほめられたことで音読が好きになり、音読に自信を持ちます。 楽しんで音読に取り組むようになるでしょう。かすかに現れたよい点を拡大 してほめてやりましょう。ここが上手だった、よかったとほめてやります。 小さなこと、よいところを探し出して、ほめてやりましょう。 ・昨日より今日は口の開き方がよく、はぎれよく読めたね。 ・今日は大きな声で読んでいて、とってもよかった。 ・つっかえたところが少なく、とてもよかった。おうちで練習してきたんで しょう。すばらしくよかったよ。○○ちゃんは音読が上手になったね。 ・いいねえ、じょうずだったよー。人物の気持ちをこめて会話文がとても上 手に読めていたよ。もう四回読んでよ。さあ、皆さん、A君の後について そっくりまねて読みましょう。あとで、まね読みが誰が上手かの発表を してもらいます。 児童が「下手だと思っていたのに、ほめられた。え、ほんとう。わたし もやればできるんだ。自信がわいた、よし、がんばろう」という意欲を持た せたら、しめたものです。あなたは、ほめ上手と言えます。 初めからこぢんまりと固めない 教師が一児童を指名して「ここの文章部分を表現よみしてごらん」と指 示します。子どもはとかく「小さく、こぢんまりと、委縮した」音声表現を しがちです。こぢんまりと、こぎれいにまとめるのは最後の最後、最後のま とめの作業にしてよいのです。最初から「遠慮した、出し渋りをしない」こ とです。照れないで、太っ腹で図太く、大胆に、大きく、ドカーンと、広が りと膨らみを出して、音声表現させます。開き直って、思い切り、恥ずかし がらないで、からだごと、想いを、声にぶつけて、音声表現させます。 教師の音声表現も大胆に、大きく 教師のお手本の音声表現も、豪放らいらくに、大胆に、大きく、ドカー ンと音声表現してみせましょう。子どもたちが、教師の突然の、恥ずかしげ もない、大胆な読み声に驚くほどでいいのです。教師は、そしらぬ顔して、 ツーンとすましています。教師は、下手でいいのです。教師は下手でも、け っこう、子ども達は、教師の想いがつたわっていて、上手に音声表現してく れるものです。教師の想いを、上手に伝えることが大切です。 こうした教師による雰囲気づくりが大切です。この雰囲気の流れの中で、 子ども達は教師をまねて、大胆に、大きく、思い切りドカーンと、音声表現 していくようになります。 さぐり読みの時間を与えて 初めは、こんな読み方はどうか、あんな読み方はどうか、こう読んでみ たらぴったりしない、こう変えて読んでみよう、これもだめだ、他の読み方 を考えださなくちゃ、と大胆に変化させ、はみだすぐらいに変化した読み方 を多様に試みさせます。神経を図太くさせ、種々の探り読みを試みさせます。 照れないで、大胆に、ドカーンと、種々の読み方を探らせ、いろいろな 音声表現を試みて楽しませます。自由奔放に、大枝小枝を出させ思いっきり 変化させて、ワイルドに膨らませて表現させてみましょう。黙読では出現し てこなかった思い・感情が、声に出して読むと湧き出てきます。それをボー ンと出させ、ちぢこまらせないで、大胆に大きく出させましょう。 最後には「これがよかった、あれがよかった」と選択させ、納まるとこ ろに納まる読み方になってきます。しだいにいちばん納得のできる読み方が 選択されてくるでしょう。 教師も児童たちの前で、恥ずかしげもない、大胆な、いろいろな試みの 音声表現をして見せてもやりましょう。教師が種々の試みの読み方の手本を 子どもの前で示してやりましょう。その教師の顔付や態度は、素知らぬ顔で、 当たり前にやってみせます。照れたり、はにかんだり、恥ずかしげな顔付で やってはだめです。当然という顔付で、何食わぬ顔でやってみせます。これ はてんでだめ、次はちょっとよくなった、三回目、だいぶよくなってきたぞ、 そうした幾回かの試みの音声表現をしてみせます。子どもにも、そうした試 行の探り音声表現をさせる時間を与えます。そうした教室の雰囲気作りを教 師から率先して作っていくようにします。 表現よみ指導は数か所を選択して 教材文の全文章を音声表現する授業は時間的に無理です。そのような時 間の余裕はありません。全文章の数か所を選択して表現よみ指導をするよう にします。どこの文章を取り上げるか、四つぐらいあります。 (1)教師が「ここの文章部分は音声を手がかりにして意味内容の理解を深 めたい」という文章個所。 (2)教師が「ここの文章部分は重要場面、心情理解の会話文、構文や語法 の指導個所、素敵な描写文、美的な言語感覚を養うのに適してる」と いう文章個所。 (3)児童が「ここの文章個所は好きだ。声に出して読みたい」と自分から 選択した文章個所。 (4)教師または児童が「心ゆくまで声に出して場面の情調や気分にどっぷ りとつかり、漂い、ひたりきって読みたい、味わいたい、味わわせた い」という文章個所。 記号づけは解釈深めの作業でもある 音読記号を文章の余白に書き入れる指導はよく行われます。みなさんも 教科書の余白に音読記号をつけさせて音声表現の指導をしてることでしょう。 一つ分の間、二つ分の間、三つ分の間、読点があっても間なしで読む間、速 く読む、ゆっくりと読む、強く読む、弱く読むなどいろいろの音読記号があ ります。 音読記号とは、どう上手に音声表現するかという音声化技術(抑揚、間、 強調、転調、強弱変化、緩急変化、声量変化など)を記号に置き換えて文章 余白にしるしをつけていく作業です。これが記号づけの直接の目的です。 直接の目的はそうですが、音読記号を書き入れることは、同時に文章内 容の解釈深めをしている作業でもあります。こういう意味内容だから、こう いう音声表現のめりはりの記号にするとよい、こういう意味内容だからこう いう音声化技術の記号を使って音声表現するとよい、という思考操作をして いることになります。だから、音読記号をつけることは単なる音声表現のた めのテクニック指導ではありません。同時に解釈深めの作業(思考操作)を していることになります。記号づけは、単なる音声表現のテクニック指導で はありません。上手に読む技術指導だけではありません。音読の記号づけ指 導は、音声で解釈を深める、オーラル・インタープリテーションの指導でも あるのです。(記号づけ指導についての詳細は、拙著『音読練習プリント』 や『表現よみ指導のアイデア集』や『群読指導入門』などを参照してくださ い。) 他児童の上手な読み声を模倣させる まわりが下手な読み声の児童たちばかりで、いつも下手な児童に取り囲 まれていては、いつまでもどんぐりの背比べの中にいることになり、いつま でたっても上達しません。 授業の中で一児童から上手な読み声が出たら、ほんのちょっとでも上手 だったら、それを学級全員にまねさせます。あとおいでまね読みをさせます。 それも一回だけのまねでなく、四、五回と繰り返してまね読みさせます。繰 り返して身体に沈殿させることが大切です。まね読みで、他の文章個所も上 手に読めるようになっていきます。 教科書会社発行のCDも利用しよう。一文や二文や三文ごとに一時停止し て、その部分だけをまね読みさせます。前もってテープに録音しなおして聞 かせると幾回も使えます。ある段落を、小声でCDの読み声と同時に追いかけ 読みをして、それを繰り返す練習方法もよいでしょう。 上手な読み声のリズム調子や情調や雰囲気を感じとって身体に共振させ て、呼吸を合わせてまね読みをさせます。一回だけのまね読みでは効果はあ りません。同じ文章個所を繰り返してまね読みさせると効果が上がります。 こうして模倣読みから学んだ音声表現のしかたは、新しい文章に出会っ たときに転移していきます。いつのまにか上手な読み方が身体化し(転化) ており、上手な読み方が身についていくようになるでしょう。 表現よみ学習は文法的思考を高める 表現よみ学習は、児童の文法的思考を高める指導にもなります。音声表 現の仕方を学習することで、目に見えなかった文・文章の文法則や構文則が 見えてくるようになります。例えば、「花がさいた。」の文では、音調によ って完了文、感嘆文、疑問文、反語文になったりします。「行くの。」の文 では、疑問文、命令文、強い意志文になったりします。重文や複文はどこで 間をあけるかの学習で構文の理解ができます。体言修飾語や用言修飾語や副 詞は、どの部分がどの部分にかかるように音声表現するかで文内構造(修飾 関係、主述関係、補語関係)が理解できます。このように冷たい文字の羅列 では見えなかったものが音声表現することで現れ出てきます。 これまでの文法指導は、文字に書かれた文だけを対象にしてきたきらい があります。ソシュールのラングのみを扱ってきた傾向があります。パロー ルは文法論の対象外とされてきました。けれど、パロールは言いぶりや音調 の変化で意味内容に大きな違いが出てきます。文字に書くと同じなのに、パ ロールになるとメリハリ変化で意味内容がいろいろと違ってきます。 小学校の文法指導は日常の言語生活を向上させる実用に富むものである べきです。これは従来の学校文法(橋本文法)の批判と反省からも言えるこ とです。品詞や活用の形態論重視、細かな暗記強要の重視、パロール軽視で、 文法嫌いを作ってきました。 現在の文法指導は、日常の言語生活の理解や表現に文法的思考がはたら くような指導が求められています。日常使用している文・文章の音声表現か ら日本語の文法則や構文則を見出していく指導が求められています。音声表 現だけでそれらの全てをおおう指導はできませんが、文法的思考高めにかな りの効果を発揮します。 音声表現の指導をとおして理解させていく日本語の文法則や構文則はた くさんあります。例えば、どこで区切るか、どこまでひとくくりに読むか、 どこをひとつながりに畳みかけ、どこまで追い込んで一気に読むか、どこで 間をあけるか、どこを強調するか、などを考えることは、文の文内構造(主 語、述語、修飾と被修飾、句の対立や対比など)や、文章の構文構造(文相 互の意味関連、段落相互の連関など)を明らかにしなければ音声で上手に表 現することはできません。 静的に客観的に文法則や構文則を扱うだけでなく、パロールの音声変化 で扱うことで、文・文章の構造や法則と随伴して文法則や構文則を扱うこと ができます。それも生きたコトバで楽しく学習することができます。意味内 容が語法則、文法則、構文則を統制しているのです。意味内容を生き生きと 表現する音声変化によって種々の「ことばのきまり」を日常の言語生活の中 から掘り起こしていく指導ができるのです。 言語を構成する要素は、音声と意味であるという言語構成観は一般に認 められています。文章は適切な音声で表現することによって、文章の意味内 容は十全に甦り、冷たい文字の羅列は生き生きと立ち上がり、踊り出すよう になります。 自画自賛になるが、拙著『音読の練習帳・第三巻・ことばのきまりと音 読のしかた』(一光社)は、音声表現と文法則や構文則について書いた日本 で初めての音読学習帳であり、先駆的な優れた本として光輝を放ち枯野を照 らしています。 表現よみ学習は黙読能力高めにもなる 黙読を高める指導は、学校現場では殆ど指導されてきませんでした。そ の理由は、黙読を高める具体的な指導方法が見出せなかったからです。黙読 を高めるのに表現よみ指導があるのです。 黙読している時でも、人間は頭の中で(内言で)音声に出して読んでい ます。舌筋肉の運動はしています。表現よみの学習で繰り返しぴったりした 音声を浮かべる練習をしていくと、黙読している時でも頭の中に意味内容と ぴったりと合った音声が瞬時に浮かべて読めるようになります。音声に出し ての表現よみを繰り返して(ここが重要です。継続して繰り返し重ねていく と、です)しだいに瞬時に、文章内容とぴったりと合った音声(心内音)が 脳中に浮かべられるようになってきます。いつのまにか黙って読んでいる時 でも、文章内容とぴったりと合致した内聴音(心内音)が素早く浮かぶよう になってきます。こうして継続しての表現よみ学習を重ねていくと、高度に 訓練された黙読能力が身につくようになります。 文章の意味内容によって場面には何らかの情調、雰囲気、気分というも のがあります。試合に勝った場面の歓びにあふれている雰囲気や情調の文章 個所、家族の死に出会い悲しみに沈んでいる雰囲気や情調の文章個所、悔し さで怒り心頭になっている場面の文章個所など。表現よみ練習を重ねていく と、黙読時でも、文章内容がかもしだす雰囲気や情調や気分にひたり漂いな がら豊かな音声表現をしていくようになっていきます。表現よみ練習を繰り 返して学習していく中で、こうした場面々々の豊かな表情音声を素早く浮か べつつ黙読する能力が身についていくようになります。 ★本稿は、児童言語研究会発行『国語の授業』(一光社、2010年6月号)に 掲載した原稿「楽しく取り組む音読・表現よみの授業」の再録です。一部 に補筆、削除を加えています。★ |
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