音読授業を創る そのA面とB面と 08・06・22記 表現よみ指導のコツ 教師は音読下手でも指導はできる こんな声を聞くことがあります。「わたしには表現よみを指導する資格 がありません。わたしの声はざらついて、かすれて、とても汚い声です。そ れに音読下手です。わたしより上手な学級児童がいます」と。 ちっとも心配はいりません。荒木も音読下手です。荒木にこんなことを 語った教師がいます。「荒木先生の読み声を聞いて、わたしは自信を持ちま した。決して上手とは言えず、わたしにも表現よみ指導ができると自信がつ きました」と。 声に自信がないとおっしゃいますが、演歌歌手の森進一や和田アキ子の 話し声を聞いたことがあるでしょう。お世辞にも澄んだ、きれいな声とは言 えません。しかし二人の歌声はノイズが個性的な歌となって聴衆を魅了して います。山内志朗(慶大教授、哲学)は、森進一の歌声について「歌謡曲は ひたすら情念を歌い上げるものだ。人間の情念を唄うのに天使の声は似合わ ない。森進一のだみ声は、あれは情念がそのまま声になったような感じがす る。」(東京新聞、2011・1・25)と絶賛していました。あなたの声も味のあ る個性的な声だと考え、各人はそれぞれに自信を持ちましょう。それぞれに 声の持ち味があるのです。 小学校教師は全教科を教えます。体育では、跳び箱やサッカーや水泳を 教えるが、教師は体操選手やサッカー選手や水泳選手でなくていいのです。 音楽を教えるからと、ピアニストや声楽家でなくていいのです。教師はすぐ れたコーチャーであればいいのです。どこを、どう指導していくと児童の能 力が伸びるか、そのコツを知って、上手な引き出し役であればいいのです。 居直りと開き直りの雰囲気作り 音読に自信がないからと、照れくさく、恥ずかしいからと、音声表現に 臆病になって、こぢんまりと小さくまとめないことです。失敗をこわがり、 遠慮しいしい、目立たぬように、ためらいがちに音声表現をしないことで す。このことは教師も児童たちも同じです。 羞恥心を捨て、開き直って、大胆に音声表現しましょう。やけくそに なったつもりで、遊びつつドカーンと楽しんで音声表現すると案外うまくい くものです。振幅の度合いを大きく、のびのびと音声表現するとよいでしょ う。 教師も児童も弱気にならず、呑んでかかって、荒削りでよい、膨らませ る個所はうんと大きく膨らませて音声表現します。もしオーバー気味なとこ ろが出たら、それはそぎ落としていけばいい。音読初期は膨らまないから困 るのです。膨らみすぎのそぎ落としは簡単にできます。膨らまないのが一番 困るのですから。 先に教師はその道の専門家である必要はない、すぐれたコーチャーであ ればよい、居直りと開き直りの態度で自信をもって堂々と指導していこうと 書きました。 すぐれたコーチャーということは、子どもの音読実態から、どこを、ど う指導していけばよいか、その指導のポイントやコツを知っていることがと ても大切です。音読・表現よみ指導で、ポイントやコツにはどんなものがあ るか。それらの数は、そう多くはありません。特に重要なものは10個前後 でしょう。主なものは、間のあけかた、イントネーション(抑揚)、強調( 強弱変化)、テンポ(遅速変化)、転調、会話文の二種類、会話文の話しぶ り、語り口をつかむ、声の大小(声量変化)、はぎれよい発音などです。 下記の拙著には、現行教科書の文章を使って、それらのポイントやコツ を具体的に記号づけをしたりしながら詳しく解説しています。よい参考書に なると思うので紹介しておきます。 『すぐ使える音読練習プリント・低学年用』(ひまわり社、1900円+税) 『すぐ使える音読練習プリント・中学年用』(ひまわり社、2000円+税) 『すぐ使える音読練習プリント・高学年用』(ひまわり社、2000円+税) 聞き手ゼロの誤解をとく 表現よみは聞き手ゼロで読みます。表現よみは、聞き手を意識した、聞 き手に媚びた、わざと親切に誇張した、過剰な音声表現を嫌います。 表現よみは聞き手ゼロですが、聞き手は存在しています。劇空間で考え てみましょう。舞台俳優は大勢の観客が見ていることは知っているが、観客 に向かっては演技していません。演技相手は舞台上の人物同士です。舞台上 の劇空間にのみ身を置き、そこに没入し、そこの出来事にのみ集中して演技 しています。観客を意識して演技したら、それは空芝居じみた嘘っぱちの演 技になってしまうでしょう。 表現よみも同じです。聞き手がいることは承知していますが、聞き手を 意識から消して・後退させて、音声表現している意識の前面には作品世界の 音声による創造のみに集中しています。ですから、表現よみは「聞き手ア リ、そして聞き手ナシ」の境地での音声表現なのです。つまり、「聞き手ナ シ」と「聞き手ゼロ」とは全くちがうことを知ってほしいのです。 音読記号づけはテクニック指導ではない 音読指導でよく言われます。「気持ちをこめて読もう。思いをこめて読 もう」と。気持ちや思いをこめれば表現豊かな音声表現になるかと言えば、 そう簡単ではありません。音声表現化技術が必要です。危急の場面は速く追 い込んで読むとか、感情の高ぶった人物の声は高音で早口で読むとか、沈着 冷静な人物の声は低く丸くゆったりと読むとか、種々のテクニック(音声表 現化技術)があります。 つまり情感表出の音声化技術(間、抑揚、強調、転調、緩急変化、声の 大小)が必要です。学校現場ではこれら音声化技術指導として音読記号づけ 指導があります。 文章のどこを、どう音声化技術でめりはりをつけるか、それは文章内容 をどう解釈するかで決定します。めりはりづけのテクニックは文章の内容把 握のありようと密接に結びついています。文章のそばに音読記号をつけてめ りはりを工夫するという指導は、読み深めの読解作業をしているのです。ど こに、どんな音読記号ををつけるかは、音声表現のテクニック指導と考えて はいけません。音読記号づけは読み深めの読解指導なのです。つまり表現よ み指導は音声解釈(オーラル・インタープリテーション)の指導なのです。 音声で解釈を深める指導なのです。 学級児童の音読実態から開始しよう あなたの学級児童の音読実態はどうですか。次のような音読実態はあり ませんか。もし、ありましたら、これらをなくす指導からスタートしましょ う。 (1)小声読み(静態に域が当たらない。のどが開いてない) (2)発音不明瞭(もぐもぐ発音。口の開きが不十分) (3)ずらずら読み(平板な一本調子の読み) (4)口先読み(口先だけの空読み) (5)句末や文末のばし読み(おじいさんはー、山へー、しばかりにー、行 きましたー。これはー、花デース。) (6)節つけ読み(妙な読み音調。独特な節回し) (7)つっかえ読み(文字を声にするのが精一杯な読み) (8)早口読み(ゆっくり、たっぷり、きっちりと読めない) (9)気取り読み(文末、句末をしゃくりあげ、すまして、とりつくろた読 み。高学年女子に多くみられる) 先ず折り目正しく端正な読み方をさせる 発声発音指導のかなめは、のどを開いて、声帯にしっかり息を当て、身 体(頭、顔、胸、腹)に共鳴した、響きのある声をだして読ませることで す。小声の児童には張り気味にして声を出させると、うまくいきます。 発音不明瞭な児童には、口の開きと舌の位置に注意して、母音をしっか り出させます。「すすきがゆれる」文ならば「uuiaueu」の母音を しっかりと意識して出させます。 音読入門期は、十分な声量で、折り目正しい端正な読み方を指導させま す。妙な読み癖のない、素直な、整然とした、客観的に伝えるだけの読み方 にします。誇張や飾りのない、控え目な、物足りないほど淡々とした読み方 です。アナウンサーがニュースを読む音調がいちばん近いです。意味内容の 区切りがはっきりし、事柄を正確に分かりやすく声にのることのみに集中し た読み方です。 次にめりはりをつけた指導をする 折り目正しく端正な読み方ができたら、次に文章内容が要求するめりは りをつけた読み方を指導します。めりはりとは、音声表情のことで、その主 なものは、間、抑揚、強調、転調、音調、緩急や声量の変化などがありま す。 これらの中で最も重要なものは「間」の開け方です。音読の上手下手は 間の開け方で七割は決まると言えるほどです。文章内容の区切りできちんと 間を開けて読めば、分かりやすく、明晰に意味内容が声にのる読み方になり ます。間によって文章内容が際立って区切られ、音声のかたまりとして構造 化して組み立てられた音声内容となって伝わります。音声の区切りがしっか りしてないと何が語られているのか意味不明な読み方となります。 子ども達が、この文章個所で間を三つあけて読む記号をつけたとする と、早口で123と数えて、実際は一つ分しかない間あけで読んでしまい、 間がたりない走った間開け読みにしがちです。間あけは、あけすぎると思わ れるほど長く、たっぷりとあけて読むようにします。 記号づけは手段でしかない 音読記号には、間の一つ分、二つ分、三つ分、抑揚(イントネーショ ン)の上げ下げ、強調、転調、音調、遅速変化、声の大小などの種類があり ます。各教師によってこれらに配当される記号が考案され、記号づけによる 音読指導がおこなわれています。 音読記号は解釈を深めるためにあり、その解釈に即して文章内容を情感 豊に音声表現するためにあります。子ども達はとかく記号を間違わないで読 もうとするあまり、記号に引きずられ、いっこうに気持ち・思い入れが入ら ない、単に機械的に記号の通りに間違わないでなぞるだけの空読みをしがち です。文章内容を音声にのせようとする努力なしに、機械的に記号どおりに 音声化してしまうようではいけません。意味内容を音声にのせようとする緊 張関係なしに形式的に機械的に記号どおりの読み方になってはいけません。 ひとつ一つの音読記号には、なぜその記号をつけたか、その思い・気持 ちをこめて、それを先立て、押し出して読むようにさせます。思いや気持ち の内的緊張なしの記号通りの機械的読みではいけません。読み手の頭の中は その思いをいっぱいにして、作品世界を音声で呼び起こすことに集中し、そ れを前面に押し立ててひとつ一つの音読記号を表現していくようにします。 音読している最中で解釈が変わったり、またはそれまでの読みの音調のつな がりの中で、この音読記号を変更したほうがよいと判断したときは、その場 で、直ちに変更して読みすすめていくようにします。 音読記号はなければ、ないほうがよいのです。記号づけは教育指導上か ら考えられた一つの指導技術であり、方法・手段でしかありません。上達し た表現よみ段階では、記号づけはごくわずかか皆無となっているはずです。 全体の貫通線を明確にして 貫通線はスタニスラフスキーの作劇術の重要な一つです。表現よみ指導 においても重要な要素の一つです。音声表現においては全体を流れる情調、 一貫する貫通線を意識して読むことはとても大切です。いま音声表現しよう としている文章部分を一貫して流れるテーマ(主調、情調、雰囲気)は何 か、それを把握(体感、身体共振)して、それを押し出して読み進めていく ようにします。こんな情調や雰囲気にして、こんな創造世界を作って、こん な貫通線を浮き立たせて音声表現してしていきたい、事前に目当てを持たせ て読んでいくようにします。そうした全体情調にひたり漂い、流れつつ、文 章内容というよりは文章表現を音声で味わい、楽しんで、声で読みひたって いくようにします。これが声で作品世界を楽しむ本来的な音声表現というも のでしょう。 この会話文は、人物のこんな気持ち(表現意図)を押し出して読みたい です。この地の文は、こんな場面なので、こんな雰囲気、感じにして読みた いです。という事前のめあてをはっきり持って、それを声に乗せようと努力 させます。冒頭はこんな感じにして、山場はこんな感じにして盛り上げ、終 末はこんな感じ(たとえば、思いをあとに残してゆったりと読むとか)、そ うした目当てを持って読み進めていくようにします。 教師がいま読もうとしている児童に「あなたはこの文章部分をどんな気 持ちや思いをこめて読もうとしていますか。どんなことに気をつけて読みた いですか。どんな雰囲気にして読もうとしていますか。」などと問いかけま す。児童から「わたしは「春の歌」の詩を、かえるがはじめて顔を出した、 うきうきした、はずんだ気持ちを、かえるになって、うれしい喜びの声にし て読みたいです」のように発表させます。 さぐり読みと、まね読みと 文章をいきなり読むのでなく、下読みでさぐり読みをさせます。微音読 をしながら、どこを、どう音声表現したらよいかのさぐり読みをさせます。 どこを、どれぐらいの間をあけるか、どこを強め、どこを密やかにそっと読 むか、どこを速め、どこをゆっくり、どこを下降させて読むか、上昇させて 読むか。会話文はどんなしゃべり口調にするか。一種類だけでなく、種々の 読み方(めりはりづけ)でさぐり読みをさせます。 一番ぴったりした読み方を選択させます。最良だと選択する基準は、自 分が納得できるめりはりであるかどうかです。小中学生に音声表現における 品格とか洗練とか雅趣とか粋とか言っても分かりません。自分で納得できる か、満足できるか、です。納得できなければ、さらに他の読み方を種々にさ ぐり読みを試みさせます。 上手な音声表現が児童から出ない場合もあります。下手な音読のままで 済ましていたら、いつまでたっても下手なままです。下手は移り、学級全体 の下手が恒常化してしまいます。 学級児童の中には、音読上手な子が何人かはいるものです。ある文章部 分だけは上手に読む子もいるでしょう。そうした子の音声表現を学級全員で 模倣します。同一文章を数人の子に表現よみさせ、その中から一番よい子を 選択させ、こうして音声感覚を身につけ、上手な子の音声表現を全員で模倣 します。「学ぶ」とは「真似ぶ」から由来したとかや、技術・技能に関わる ものは「模倣する。まねる」ということがとっても役立ちます。 教科書会社発行で俳優が朗読しているCDがあります。それを聞いて、 まねる、連れ読み(平行読み、なぞり読み)してまねる、ほんの短い文章部 分を一時停止しつつ全員で口移しでまねる、などの方法もあります。 こうして上手な音声表現の美的感受性を身につけさせます。文章内容に 合った音声表現の上手さ・下手さ・声を出す時の語勢や出だしのタイミング のうまさ、速さや上げ下げや強弱変化のうまさ、間の取り方のうまさ、これ らを自分の身体に共振させて体感として身につけさせます。 模倣なくして創造はありません。創造的な音声表現の獲得は、既存のも のの変形、組み換えから出発します。模倣は身体図式として創造変奏への更 新を導き、その増幅を発芽させます。新規の文章部分に入ったら、教師が 「さあ、今度は自分の実力で工夫しながら表現よみしてごらん」と誘いかけ ます。児童たちの音声表現能力は必ずや着実にレヴェルアップしていくこと でしょう。 語り口に即して音声表現する 文章には語り口があります。語り口に即した音声表現をしなければなり ません。語り口とは、語り手が語っている話しぶり、個性的な語り癖、話し の口ぶり、語りの特質、語りの音調やリズムやスタイルのことです。 説明文は、筆者が語っています。議論文は自説を相手に論理的に説得し ていく語り口になっています。取扱説明書は、機器の取り扱い方について図 解を示したりしつつ操作方法が分かりやすく順序を追って説明していく語り 口になっています。説明文の音声表現のしかたは筆者の語り口、つまり論理 の展開、論の運び方が語りの音声の力点(強調点)となってはっきりと出る ような読み方にします。 文学作品は、作家が語っています。作家が書いているのですが、作家は 語り手を登場させて、語り手に物語世界を語られている語り口になっていま す。作家が消えて・後退して、読者は物語世界に直接に参入して想像世界の 出来事をはらはらしながら読み進める語り口になっています。 文学作品には、地の文と会話文とがあります。これらふたつを、どう音 声表現していけばよいか、考えましょう。 文学作品の地の文には、五種類の語り口があります。これら五種類の語 り口を区分けして、それぞれの語り口に即して音声表現していくようにしま す。五種類とは次のとおりです。 (1)語り手が直接に語り聞かせている語り口 (2)一人称の人物の目や気持ちをとおした語り口 (3)ある三人称人物の目や気持ちによりそった語り口 (4)語り手や人物の目や気持ちがひっこんだ語り口 (5)語り手がすべての人物の目や気持ちに自由に出入りしている語り口 文学作品を音声表現するときは、地の文がどんな語り口になっているか 調べます。五種類の中のどれの地の文でしょうか。これが分かれば、らくに 音声表現ができるようになります。 文学作品には、地の文のほかに会話文があります。会話文は、登場人物 が語っています。登場人部との気持ち(表現意図)をおしだして語っていく ようにします。この会話文は、だれが話しているか、誰には貸しているか、 どんな場面で、どんな気持ちで、どんな言いぶりで話しているかを明確に意 識して、伝えたい内容や気持ちを押し出して語っていくようにします。 会話文には、二種類があります。目の前の相手に語っている会話文と、 ひとり言の会話文です。これら二つを区分けして会話文を音声表現していく ようにします。 ★本稿は、児童言語研究会発行『国語の授業』(一光社、2008年2 月号)に掲載した原稿「声で読みひたり楽しもう」の再録です★ トップページへ戻る |
||