音読授業を創る  そのA面とB面と     07・1・16記




     
鼻濁音の発音の指導方法




            
鼻濁音とは


  「が行音」(が、ぎ、ぐ、げ、ご)には、
濁音で発音する音(おと)
と、
鼻濁音で発音する音(おと)とがあります。
  二つの発音は、どう違うのでしょうか。その違いを子ども達にどう指導
すればよいのでしょうか。
  これについて、以下に詳述していくことにします。


     
(1)が行音には二種類の発音がある


  「が行音」(が、ぎ、ぐ、げ、ご)には、濁音で発音する「が行音」の
言葉と、鼻濁音で発音する「が行音」の言葉とがあります。詳細は、本稿の
下段(7)を参照のこと。
  「
いこつ」の「」、「んこう」の「」、「んたい」の
」、「んき」の「」、「はん」の「」は、濁音で発音する
「が、ぎ、ぐ、げ、ご」です。
  「め
ね」の「」、「おにり」の「」、「もら」の「」、
「まつ
」の「」、「さい」の「」は、鼻濁音で発音する「が、ぎ、
ぐ、げ、ご」です。


(2)「破裂音の濁音」と「通鼻音の鼻濁音」の二種類だ


  「学校」や「楽器」の「
」は、濁音で発音する「 」です。名詞の
語頭に位置する「
」は、殆んどが「破裂音の濁音」で発音します。鼻をつ
まんでも出る「が」の音です。
  ちなみに、午後(ごご)はどうでしょうか。(
)ですね。

  「か
み」や「まん」の「」、「兄きた」の助詞「……が」は、
鼻濁音で発音する「
」です。名詞の語中や語尾に位置する「」は、殆ん
どが「通鼻音の鼻濁音」で発音します。鼻濁音は息を鼻からぬいて出す鼻腔
共鳴の音です。ですから、鼻濁音は、鼻をつまむと出ません。鼻をつまんで
出る「が」の音は、上記の「破裂音の濁音」の音となります。


        
(3)地域差がある


  鼻濁音の発音には、地域差があります。地域によって、鼻濁音で発音す
る地域と、鼻濁音をすべて濁音にして発音する地域とがあります。
  鼻濁音と濁音との二種類を区別して発音する地域、鼻濁音をすべて「破
裂音の濁音」にして発音してしまう地域、いろいろあります。
  また、同じ地域内でも個人差があります。同一地域内でも、きれいな鼻
濁音で発音する人がいれば、鼻濁音をすべて濁音にして発音してしまう人も
います。鼻濁音と濁音との区別があやふやで・どっちちかずであいまいな発
音をする人などもいます。いろいろです。


    
(4)鼻濁音と濁音との音感の相違


  「
破裂音の濁音」は、息を破裂させて出す音です。聞いた感じがごつご
つしていて、おもく、かたく感じる音です。がつがつしていて、するどく、
強い感じ、相手に押し付けるような感じ、鼻濁音と比べれば、どちらかとい
うと汚く感じます。

  「
通鼻音の鼻濁音」は鼻腔内にひびかせて、共鳴させて出す音です。聞
いた感じがやわらかく、ごつごつしてなくて、ソフトに感じます。まろやか
で、なめらかで、かるい感じの音です。鼻濁音で話している人のを聞くと、
濁音に比べて、どちらかというと澄んでいて、きれいで、やわらかく感じま
す。


   
(5)消えていく鼻濁音、残したい鼻濁音


  最近は、東京でも、若い世代ではこの鼻濁音で発音しなくなる傾向にあ
ります。また、外来語の影響もあり、語中・語尾の「が行音」に鼻濁音を用
いなくなっている傾向があります。
  話しぶりがやわらかく、なめらかで、すんだ発音で、きれいな感じがす
る、このすてきな鼻濁音の発音を日本語から消滅させてしまいたくありませ
ん。日本語の伝統ある鼻濁音の発音を共通語として残して磨き上げていきた
いのもです。このことは、発音にかかわる仕事をしている人々、日本語を大
切にしようと思っている人々は、だれでも願っていることです。
  はるか以前の話ですが、美智子皇后様が皇太子様(現・天皇様)と結婚
が本決まりとなったというとき、美智子様は当時は鼻濁音の発音が十分に出
なかったそうで、急遽、鼻濁音の発音練習をなされたという話を聞いたこと
があります。
  日本語から少しずつ鼻濁音が消えていく傾向にあることはとても残念で
ならないことです。美しく、澄んだ、きれいな感じのする鼻濁音を日本語か
ら絶対になくしてしまいたくありません。


     
(6)鼻濁音で発音する練習方法


  鼻濁音が正確に出ない子どもには、次のような指導をしましょう。
  「ンーーガ」と発音させます。「ンーー」とハミングや鼻歌のようにし
て息を鼻から出して「ンーー」とのばします。そして濁音「ガ」を発音しま
す。
  だんだん「ンーー」とのばす間隔をつめていきます。しまいには「ンとガ」
とを一音にするように、つまり「ンとガ」とを同時に発音します。
  このとき息が鼻へぬけるのを確かめさせてください。息が鼻にぬけると
鼻濁音になります。
  「ンとが」だけでなく、同じようにして「ンーーギ」、「ンーーグ」、
「ンーーゲ」、「ンーーゴ」、の間隔を少しずつ狭めていきます。最後に、
それぞれを同時に一音のようにして発音します。息が鼻にぬける間隔を確かめ
させます。息が鼻から抜けると鼻濁音になります。
  この練習を繰り返すと、鼻濁音の「が、ぎ、ぐ、げ、ご」の音がでるよ
うになるでしょう。きれいな鼻濁音の発音ができるまで下記(7)のテキス
トで繰りかえし練習をさせましょう。
 本ホームページの第9章にある「卒業生からの寄稿文・表現よみを体験して
(その2)」を参照してみましょう。そこで教え子の大久保忠宗君が、わたし
から受けた鼻濁音の指導について、彼の個人的体験とエピソードを語ってくれ
ています。大久保君は、学校の授業だけでなく、家に帰ってからも、これの練
習を繰り返したと書いています。


    
(7)が行鼻濁音の発音練習テキスト


 次のことばを、太字に気をつけて発音しましょう。
(1)と(2)との違い・区別を自分の耳で聞きながら、正しい口形(息の
出し方)で繰り返し練習しましょう。

(1)は
濁音(鼻をつまんでも出る音)で発音する言葉です。
(2)は、
鼻濁音(鼻から息がぬけ出る音)で発音する言葉です。

  
┌─(1)
くぶち んこ っこう っき いこつ 


└─(2)か
み まん けわ あまさ めね て



┌─(1)
んこう んいろ ざ んなん りチョコ


└─(2)きり
りす ふし こつね こむ おにり やな



┌─(1)
うぜん んたい っすり っしょり 


└─(2)も
ら ういす まろ ゆうれ てぬ



┌─(1)
んき んかん っこうかめん ひん こう


└─(2)まつ
 わた くら おみや なる に



┌─(1)
はん み ぜん きぶり ぼう リラ


└─(2)なき
え こく さい ひとりと りん




 
問題

  次の「学校」の「」は、濁音で発音しますか。
  それとも、鼻濁音で発音しますか。「音楽」の「」はどうですか。


 (1)小学校   (2)中学校   (3)高等学校
 (4)大学    (5)大学校   (6)音楽学校


 答え
  (1)ショーッコー   (
鼻濁音
  
(2)チューッコー   (
=鼻濁音)
  (3)コートーッコー  (
=濁音)
  (4)ダイク      (
=鼻濁音)
  (5)ダイッコー    (
=鼻濁音)
  (6)オンッコー  (オン
ク=鼻濁音。ッコー=濁音)

  「答え」で参考にした資料
    NHK編『発音アクセント辞典』改訂新版・第9刷より

 荒木のコメント
  
原則として、語頭は濁音、語中と語尾は鼻濁音で発音する。
  複合語は、一語としての結合力が強いか弱いか。つまり、一語か二語
  かの強さ、弱さ、切れ目意識の強さ、弱さに関係しているみたいだ。




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