音読授業を創る そのA面とB面と 05・7・5記 本時授業の音読目標の立て方 はじめに 本稿では、一時間(本時授業)の音読目標の立て方について書きます。 国語科の指導目標には、価値目標と技能目標とがありますが、ここでは技能 目標について書くことにします。表現よみの技能の目標です。技能目標がは っきりすることが重要です。指導方法や授業の流れがよく理解できます。 表現よみ授業には、ふつう二つの指導の流れがあります。 ひとつは「まず解釈深めの話し合いをする。それから、その深まった表 象・感情の蓄積形成を土台に、情感たっぷりに音声表現をする」です。 もうひとつは「まず音声表現をする。次に、その音声表現を手がかり に、その読み声を材料にして解釈を深める話し合いをしていく」です。 もちろん、これら二つがごちゃ混ぜになった授業もあります。音声表現 と解釈深めを必要に応じ臨機に交代させる、読み声を材料にしながら解 釈深めの話し合いを同時にやる、解釈深めの話し合いの中に、よりよい 読み声を求めていく話し合いをする、実際に読み声をやってみる、とい う授業です。 本時の授業では、これらのどちらに重点を置くかで、その音読目標の立 て方がちがってきます。 ここでは、これら二つの表現よみ授業の目標の立て方について書きま す。 「解釈深め」から「音声表現」への場合 およその文型は、次のようになります。 ┌……の場面を ┐ ┌話し合わせ┐ │……の様子を │ + │読みとらせ│ + └……の気持ちを┘ └想像させ ┘ ┌……の雰囲気が表れるように┐ ┌音読させる。 ┐ │……の様子が声に出るように│ + │表現よみさせる。│ └……の気持ちをこめて ┘ └音声表現させる。┘ なにはともあれ例文をご覧になるとすぐにお分かりいただけるでしょ う。例文をご覧になれば、「なるほど、そうか」「音読授業はこういう指導 過程をとおるのか」ということがすぐにご理解いただけると思います。 下記に、その例文を列挙してみます。 ≪会話文音読での目標例≫ (例1)かさが売れなかった気持ちを想像させ、じいさまのがっかりした気持 ちになって、じいさまの会話文を音声表現させる。 (例2)おおかみとこぶたたち、二者の気持ちの違いを話し合わせ、二者の気 持ちになってそれぞれの会話文を役割音読させる。 (例3)母ぎつねの驚いた気持ちを話し合わせ、驚きの気持ちが会話文 の読み声に表れ出るように表現よみさせる。 (例4)ごんの「ひきあわないなあ」のひとりごと会話文を、不満の気持ち が出るように音声表現させる。 (例5)兵十と加助との連続する会話文の個所、二人の気持ちの違いを話し合い、 気持ちの違いが二人の会話文の音調に出るように工夫しながrqて役割 音読をさせる。 ≪地の文音読での目標例≫ (例1)語句(叙述)をおさえ、あわてている王様の場面(様子、気持ち)を 話し合わせ、王様のとりみだした行動が地の文の音声表現の強弱変化や 緩急変化に出るように音声表現を工夫させる。 (例2)化け物退治の緊迫した場面を表象豊かに話し合わせ、読みの速さや リズムの変化を工夫して地の文の表現よみをさせる。 (例3)かわいがっていた子牛が売られていくのを見送るおじいさんと、しん ぺいくんの気持ちを話し合い、その気持ちが声に表れ出るように地の文 の音声表現を工夫させる。 (例4)葬式の場面の音声表情のしかたを話し合い、低く・沈んだ・ゆっくり した音調で、暗く、沈んだ、悲しい場面の雰囲気が音声に出るように 地の文を表現よみさせる。 「音声表現」から「解釈深め」への場合 およその文型は、次のようになります。初発の読み声を手がかりに始める。 ┌音読を手がかりに ┐ ┌……場面を ┐ ┌想像させる ┐ │音声表現をさせて │ + │……の気持ちを│ +│読みとらせる│ └表現よみをとおして┘ └……の様子を ┘ └考えさせる ┘ ≪会話文音読での目標例≫ (例1)大造じいさんの独り言の会話文を表現よみさせ、読み声を手がかり に話し合う中で、大造じいさんと残雪との心の交流を読み深めさせ る。 (例2)ちいちゃんの会話文の音声表現のしかたを工夫させ、読み声の話し合 いを手がかり(材料、教材)にして、ちいちゃんの気持ちの移り変わ りを読み深めていく。 (例3)まず、がまくんとかえるくんの対話部分の役割音読をさせ、その音声 表現のしかたを手がかりに、かえるくんのがまくんへのやさしい心遣 いを音声に込めて表現よみさせる。 (例4)母ぎつねの会話文の表現よみをさせながら、その音声表情のよしあし を話し合うなかで、子ぎつねを心配している母ぎつねの気持ちを読み 深めさせる。 (例5)二人の連続する対話文の表現よみをとおして、二人の考え方の違いを はっきりと把握させる。 ≪地の文音読での目標例≫ (例1)間のあけかた、強弱変化やスピード変化を工夫させながら地の文を 音声表現させ、残雪とはやぶさとが必死に闘う、対決の様子をあり ありと想像させ、話し合う。 (例2)民話特有の語り口で読み、昔語りの文体を体感させる。 (例3)大造じいさんの目や気持ちによりそって表現よみさせ、大造じいさ んの決意の固さ・強さを身体に響かせて読みとらせる。 (例4)十年後の文章部分を、明るく・軽快に音声表現させ、ゆみ子がすく すくと快活に元気に成長している様子を身体に響かせて読み深める。 その他の授業場面で音読目標 ≪入門期での音読目標例≫ ○口の形に気をつけて発音する。 ○拾い読みでなく、語句のまとまりで音声化ができる。 ○教師のフラッシュカードで、一目読みがすばやくできる。 ○はぎれよい声で、響く声で読める。 ○へんな読み癖がない。子どもらしいすがすがしい清潔感のある読み声で読 める。 ≪発音・発声面での音読目標例≫ ○はっきりとした、はぎれよい発音で読める。 ○十分な声量で読める。かぼそい声で読まない。 ○張りのある、元気な声で、ゆっくりと読める。 ○二重母音、鼻濁音、母音の無声化に気をつけて音声化できる。 ○はぎれよく、よく通る声で読もうと努力している。 ○へんな読み癖(文末・句末のはねあげ読み、のばし読み、すかし読み、力 み読み、しゃくりあげ読み)をしないで読める。 ○読み手独自の、へんな読み癖がない、文章の意味内容だけが前面に出るよ うに読める。 ○苦しい息つぎ、むりな声の出し方をしないで読める。 ○響きのある声で読める。 ≪記号づけ指導での音読目標例≫ ○表現よみの音読記号を文章の行間に記入できる。 ○記号のとおりに音声表現ができる。 ○表現よみのいろいろな記号を使って、自力で、記入できる。 ○そのときの読みの調子で、臨機に記号を変更して音声表現することができ る。一つの記号づけにこだわらない。種々試みてみる。 ≪共同助言での音読目標≫ ○友だちの音声表現を聞き、それについて自分の感想を言うことができる。 ○友だちの音声表現を聞き、友達が工夫して音読していたところを指摘でき る。模倣できる。 ○友だちの音声表現を聞き、自分と違った解釈で音声表現していたことに気 づき、自分の感想を言える。 ○友だちの音声表現を聞き、読み間違い、へんな読み癖、発音のまずさなど が指摘できる。 ○友だちと違った読み声音調を、自分なりの読み声を、自分からすすんでみ んなの前に発表できる。 ≪情感づけでの音読目標≫ ○表象・想いをたっぷりと浮かべ、それを読み声にのせようと努力している。 あれこれと読み声を工夫して音声表現しようと努力している。 ○場面・会話文を、イメージ豊かに、たっぷりとした雰囲気にして音声表現 しようと努力している。 ○連続する会話文(対話文)は、やりとりしている感じ、対話している雰囲気 にして読める。 ○会話文は、相手に話しかけている・語りかけている音調にして読める。 ○間あけに気をつけて読もうとしている。間は、たっぷりめに開けるぐらいで よい。間なしの、ずらずら読みをしない。 ○荒削りだが、いろんな色彩にして、いきいきと表現しようとがんばって読 もうと努力している。 ○小さくまとめないで、大胆に、ドーンと押し出して音声表現しようとして努 力している。 ○地の文は、語り手になったり、寄り添ったりして読もうとがんばっている。 ○よりよい読み声を求めて、いろいろと表現のしかたを試行できる。いろ いろと、探り読みをすることができる。探し読みを試みることができる。 ○話し合ったことをもとにして、部分読みの表現よみをする。相手の上 手な読み声は模倣する。模倣も上達能力のひとつ。模倣上手になろう。 ○説明文では、論理の組み立てや展開がわかるように表現よみできる。 「問題の段落」と「答えの段落」と「実験の段落」と「推論の段落」 「結論の段落」など、を読み手を変えて・交代して、役割音読で表現して みよう。「事実」と「意見」の文章個所も、読み手を変えて表現よみし 読み手の人数を変化さセル方法もある。 ≪注記≫ ここでは、本時の一時間の授業における音読目標の立て方について書い てあります。もちろん、全体計画における全体指導目標もあります。これの 立て方については、ここでは書いていません。 全体の価値目標や技能目標もあります。一例だけを挙げておきます。 [価値目標の例] 「ごんぎつね」を表象豊かに読み、表現よみを通して文学作品を読むこ との楽しさを味わわせる。 [技能目標の例] 登場人物の気持ちが表れるように会話文の声調を工夫して音声表現させ る。 トップページへ戻る |
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