本稿の目次 2018・05・07記 第1節 文末の音声表現のしかた (1)文末表現(動詞、助動詞)の音声練習をしよう (2)文末表現(終助詞)の音声練習をしよう (3)述部表現「のだ」の音声練習をしよう (4)イントネーションの変化で音声練習をしよう 第1節 文末の音声表現のしかた 文末表現には、語り手の主観的な判断、態度がこめられています。語り手 が聞き手に対してどんな気持ち・態度で話しているかを見極めて音声表現す る必要があります。命令、禁止、さそいかけ、疑問、推量、感動、強意など いろいろあります。 (1)文末表現(動詞、助動詞)の音声表現をしよう 文末表現には、語り手の伝達意図がはっきりと出ている言い方があります。 強い言い方、やわらかい言い方、いろいろあります。 、同じ「食べる」でも、「食べましょうね。」「食べましょうか。」と比 べて、「食べろ」「食べなさい」「食べてはいけない」「食べてはだめで す」などは強い言い方です。同じ「食べろ」でも、叱りつけるような「食べ ろ」もありますし、「たべましょうね」という気持ちでそっと、低く、やさ しくいう言い方もあります。 文章内容によって、語られる場面によって、つよい言い方、柔らかい言い 方、いろいろと違ってきます。強い言い方は、語り手の強い意志や要求がこ められており、音声表現では強調した目立たせた言い方になります。 次は、強い言い方の文です。そのように表現よみしてみましょう。 1、ごはんを食べろ。 (命令) 2、ごはんを食べなさい。 (命令) 3、ごはんを食べてはいけない。 (禁止) 4、ごはんを食べてはだめです。 (禁止) これらは、語り手の強い意志や要求がこめられており、音声表現では目立 たせた命令口調の強い言い方になります。 次は、同じ内容での、やわらかい言い方です。表現よみしてみましょ う。 1、ごはんを食べましょう。 (さそいかけ) 2、ごはんを食べましょうね。 (さそいかけ) 3、ごはんを食べましょうか。 (さそいかけ) 4、ごはんを食べましょうよ。 (さそいかけ) これらは、愛情のこもったていねいな言い方になります。しかし、語られ てる場面によってはやや強い言い方の音声表現になる場合もあります。 強い言い方の音声練習(その1) 文末表現には、強く言いきった断定的表現、自分の考えを強く押し出てい る言い方、確信をこめ自信をもって相手に語ってる言い方などあります。 この言い方は、語り手の独断的な色彩が強い言い方です。「命令形、はずだ。 はずである。はずがない。ねばならない。のだ。のである。」などがそうで す。 次の文を「強い言い方」で読んでみましょう。どんな場面か自分で自由に 想像しながら、文意が外へ表れでるように「強い言い方」で表現よみをしま しょう。遠慮しないで、思いきって、出し渋りしないで、図太く、大胆に、 ドカンと表現していくことが上手に読むコツです。 (練習文1)うるさい、だまって聞け。(命令) (練習文2)うるさい、だまって聞きなさい。(命令) (練習文3)さっさと歩け。(命令) (練習文4)さっさと歩きなさい。(命令) (練習文5)食事中に立ち歩くのはやめろ。(禁止) (練習文6)食事中に立ち歩くのはやめなさい。(禁止) (練習文7)ぼくは、ぜったいに行きません。(強い意志) (練習文8)ぼくは、ぜったいに行かない。(強い意志) (練習文9)歩きながら本を読んではいけない。(禁止) (練習文10)もう、帰って。(強い命令) (練習文11)さあ、どいた、どいた。(強い命令) 強い言い方の音声練習(その2) (練習文1)ぼくは、行かないつもりだ。(強い意志) (練習文2)行きたい、行きたい、ぜひ行きたい。(強い希望・願望) (練習文3)君は、絶対に行くべきだ。(当然・強い命令) (練習文4)君は、絶対に行かねばならない。(当然・強い命令) (練習文5)小学生になったら、近所の人には進んで挨拶をしなさい。 (当然) (練習文6)そんなこと、あるはずがない。(打ち消し) (練習文7)静かにしなさい。(強い命令) (練習文8)うそをついてはいけません。(強い命令) (練習文9)ぐずぐずしないで、早く出発しろ。(強制、命令) (練習文10)もう少し、はやく歩いてくれ。(非難、命令) 両方(強い、柔らかい)の音声練習 次の練習文を、上段は「柔らかい言い方」で、下段は「強い言い方」で 読んでみましょう。 (練習文1)だまって、私の話しも聞いてちょうだい。 (練習文1)だまって、私の話しを聞け。 (練習文2)さあ、急いであるきましょう。 (練習文2)さあ、急いであるけ。急げ、急げ。 (練習文3)食事中に立ち歩くのはよしましょう。 (練習文3)食事中に立ち歩いてはだめだ。 (練習文4)小学生になったら、近所の人に進んで挨拶をしましょう。 (練習文4)小学生になったら、近所の人に進んで挨拶をしなさい。 (練習文5)これを、はこんでちょうだい。 (練習文5)これを、はこべ。 (練習文6)静かにしましょう。 (練習文6)静かにしろ。 (練習文7)これを、そっと、見てごらん。 (練習文7)これを、そっと、見ろ。 (練習文8)この本を、ぼくに貸してください(くれません?。くれません か)。 (練習文8)この本を、ぼくに貸して。(貸せ)。 やわらかい言い方の音声練習 語り手の主観的意志が入った言い方に「だろう」「そうだ」「ようだ」 「らしい」「かもしれない」「ちがいない」「まい」などの文末表現があり ます。推量の根拠や確信の度合いが不確かな言い方です。これら文末表現は、 どちらかというとやわらかな言い方になります。どんな場面かを自由に想像 しながら表現よみしていきましょう。 次の文を「やわらかい言い方」で読んでみましょう。 (練習文1)この秋も、台風は、三つは上陸するだろう。(推量) (練習文2)彼はその頃はまだ小学生だったそうだ。(推量) (練習文3)この成績では、遊んでばかりで勉強しなかったようだ。 (推量) (練習文4)彼の話からすると、私は随分うらまれているらしい。 (推量) (練習文5)彼の話からすると、私は随分うらまれいるみたいです。 (推量) (練習文6)明日の試合は、練習量からみて優勝することはあるまい。 (推量) (練習文7)彼はひょっとすると、すでに家に帰っているかもしれない。 (推量) (練習文8)ことしの冬は、きょねんの冬よりさむそうです。 (推測) (練習文9)たかし君、きょう、サッカー練習に行くみたいだ。(推測) (練習文10)ひょっとすると、すでに母は家に帰っているかもしれません。 (推量) (練習文11)さっき出て行った人は、きっと山田先生にちがいない。 (推量) (練習文12)この秋も、台風は少なくとも三つは上陸するでしょう。 (推量) (2)文末表現(終助詞)の音声表現をしよう 終助詞は文の終止に用いられ、語り手の主観的な判断、態度を表していま す。終助詞は、疑問、禁止、感動、強意、驚き、非難など、種々の態度をあ らわします。 次の練習文を、文意にそって、強めの言い方で、読んでみましょう。語っ てる事柄(表現内容)がはっきりと分かる読み方で表現よみしてみましょう。 ( )の中の種々の場面によって表現よみのしかたが違ってきます。 終助詞の音声練習(その1) (練習文1)ほんとに百円で買えるんですか。(疑問、質問、驚き) (練習文2)そんなこと、わたしにできるものですか。(反語) (練習文3)やっぱり、あなたでしたか。(驚き、問いかけ) (練習文4)もう、そろそろ出かけますか。(問いかけ、質問非難) (練習文5)きょろきょろするな。(禁止) (練習文6)近寄ると、犬にかまれるぞ。(強い指示、忠告) (練習文7)あしたハイキングに行こうよ。(誘いかけ) (練習文8)早くこっちへ来いよ。(要求) (練習文9)ほんとうに知らないんですね。(念押し、確かめ) (練習文10)駅には三十分で行けますよ。(確認告知) (練習文11)そこはあぶないよ。そんなことをしてはいけないよ。 (確認・念押し) (練習文12)そんなこと、あるものですか。(反語) 終助詞の音声練習(その2) (練習文1)ここは静かだねえ。(感動、詠嘆) (練習文2)これで、間違いはないね。(念おし、確かめ) (練習文3)そんなこと、するなよ。(要求) (練習文4)実にみごとな食べっぷりですね。(感動) (練習文5)まあ、きれいなバラの花ですこと。(感動、詠嘆) (練習文6)へんだわ、おかしいわ。(強意) (練習文7)みなさん、ふざけるのはよしましょうよ。(誘いかけ) (練習文8)もうすこし静かにしてくれませんか。(お願い) (練習文9)どうして、毎年毎年同じようにお米を作り続けることができ たのでしょうか。 (問いかけ) (練習文10)きょう、図書館へ行って、おもしろい本を読んだよ。 (強意) (練習文11)犬小屋に近づくな。犬にかまれるぞ。 (な。禁止)(ぞ。強い指示) (練習文12)きみは、行くか。 行くとも。 (か。質問)(とも。確実な断定) (3)述部「のだ」の音声表現練習をしよう ここでは、形式名詞「の」が文末にある文の音声表現のしかたについて 学習します。 形式名詞には、「の、こと、ところ、とき、あと、わけ、ていど、ひと、 もの、ほう」などがあります。形式名詞は、学者によって「形式体言」とか 「準体助詞」とか「吸着語」とか「吸着辞」とか呼んだりもします。 (主部にある形式名詞「の」については、つまり、(主部……のは……だ。) という「主部「のは」」については、本章12節「主部まとめの「の」の音 声表現のしかた」を参照しましょう) 述部「のだ」の音声表現のしかた (例文1)アフリカと南アメリカ大陸は、元は一つの大陸だったのだ。 (例文1)の形式名詞は、述語部分「大陸だったのだ」の「の」です。 「の」は、文の述語の一部分を構成しています。 形式名詞「の」は、「の」の前までの文「アフリカと南アメリカ大陸は、 元は一つの大陸だった」をひとくくりにくくって「の」でまとめをしていま す。「の」は、「の」以前の部分を名詞化する働きをしています。「の」に 断定の助動詞「だ」が接続して、断定した文終了の陳述統括をしています。 「のだ」は断定機能を強める言い方の文末表現です。 「……のだ」という言い方は、語り手の主観的な強意の価値評価を加えて 語っている言い方です。語り手が自信をもって「こうである」と断定して語 っている言い方です。語り手の確信的な断定的な判断をこめた言表態度です。 相手に、強く印象づける、説得同意にひきこもうとする言い方です。語り 手が「これは、こうなのだ」と説明口調で、自分の主観的な解釈、評価を加 え、その情報を強調して語ってる言い方です。 ですから、「……のだ。……のです。」を音声表現するときは、この個所 に音声的力点(アクセント)をおいた読み方になるのがふつうです。「元は 一つの大陸だったのだ」と、「のだ」の個所に自信をもって堂々と語ってい る(主張している)言い方になります。 ただし「のだ」だけが強くとびだした読み方にしてはいけません。文全体 の流れを大切にして、文全体の流れに気をつけて読むようにしましょう。 述部「のだ」の音声練習 では、実際に声に出して、次の赤字個所を強調する音声表現で読んでみま しょう。自信をもって、確信をもって断定する言い方の音声表現にしましょう。 「の」以前の事柄をすべて「の」でひっくるめて、「のだ」と強調する言い 方で読みましょう。 次の練習文の文末「のだ。のです」部分を、自信をもって確信をこめて 堂々とした言い方で読んでみましょう。 (練習文1)先生は、わたしたちのことを心配して、一生けんめい考えてく れているのだ。 (練習文2)コンピュータもブルドーザーもなかった時代に、古代の職人た ちは千年たってもびくともしない建物をつくり上げたのだ。 (練習文3)古代の建て方とできるかぎり同じ方法で、現代に再現しようと いうのです。 (練習文4)大陸移動説は、科学の進歩によって見事に証明されたのだ。 (練習文5)みな、かれに背を向けて、口をきく者さえだれもいない。クク ルの気持ちなど、だれ一人分かろうとしないのだった。 (「さえ」「など」は副助詞なので、これも強めに読んでいい。) (練習文6)アネハヅルの群れはヒマラヤ山脈をこえてインドにわたってい くのです。 (練習文7)こうして、サクラソウとトラマルハナバチは、おたがいにぴっ たりの、よい協力者となっているのです。 (練習文8)わたしはそのとき、水兵だったのです。 広島から三十キロばかりはなれた呉の山の中で、陸戦隊の訓 練を受けていたのです。そしてアメリカの飛行機が原爆を落 とした日の夜、七日の午前三時ごろ、広島の町へ行ったので す。 今西祐行「ひろしまのうた」 (練習文8の解説)回想場面の「のです」です。強調というよりも、「の」 までの前文を「の」でとりまとめる読み方、回想しながら相手に説明してい る音声表現にします。 (練習文9)二人で話し合った結果、まず、なぜ富士山の噴火に備えた訓 練がこれまでなかったのか、なぜ訓練をすることになったのか、 この二つの疑問を中心に取材しようと決めたのだった。 (練習文9の解説)にある「なぜ」は、陳述副詞です。陳述副詞の呼応で、 「なぜ」とくれば、結びは「か。の。」です。「なぜ………か。」の、ひと つながりがはっきりと分かる読み方、相手に説明している読み方にします。 参考資料(練習文8,9に関連して) 次の(例文1)と(例文2)とをくらべてみましょう。 (例文1)先生は、わたしたちのことを心配して、一生けんめい考えてく れているのだ。 (例文2)先生は、わたしたちのことを心配して、一生けんめい考えてく れているのだった。 (例文1)の「のだ」は現在形、(例文2)の「のだった」は過去形、過 去からの継続形です。 (例文1)と(例文2)とは、意味内容に少しばかり違いがあります。 (例文1)は、確信をもって断定している言い方です。語り手が論理的に 「こうである」と自信をもって断定している言い方です。語り手の主観が強 く出ている決めつけている言い方です。 (例文2)の「のだった」は、文学的、詩的な言い方です。物語や小説や 詩などに多く使われる言い方です。 (例文2)の言い方は、これまでの過去を思い出して回想し、ある種の情 緒的な気分にひたって過去を追想し、過去に思いをめぐらしている言い方で す。音声表現のしかたは、余情や余韻を残している読み方になります。過去 を思いめぐらし、余情や情趣や感興をたっぷりと現在にまで引きずっている、 過去の思いがまだ残っていて切れてない、残響の余韻が継続しひびきあって いる読み方になります。 「た」には、回想・追想のほかにも、いろいろな意味を表します。 あれは、昨日のことだった。(回想・追想) きょうは遠足だった。(過去) いま、帰りました。咲いた、咲いた。(完了) 旅に出たときは、人の情けが身にしみる。(継続) わかった、わかった。(確認、質問) さあ、どいた、どいた。(命令) 【ほかにもある形式名詞】 形式名詞は「の」のほかにもいろいろあります。ほかにも形式名詞はたく さんあります。 下記に形式名詞が文末表現になっている文を集めています。「ところ」「はず」 「わけ」「こと」「とおり」「ばかり」などです。 音声表現のしかたは、「のだ」「のです」と同じ読み方です。そのつもり で声に出して読んでみましょう。 (練習文1)いま、ちょうど、食事が終わったところです。 (練習文2)人身事故があったんですか。道理で電車が混んでいたはずだ。 (練習文3)二人は立場が違うのだから、意見が合わないはずです。 (練習文4)人身事故があったんですか。道理で、電車が混んでいたはずだ。 (練習文5)どうやらこれで一件落着というわけです。 (練習文6)それは、とんでもないことです。 (練習文7)遊びたければ、早く宿題を終わらせてしまうことです。 (練習文8)ちょうどよかった。今、君に電話しようと思ってたところだ。 (練習文9)いま、君に電話しようと思っていたところだ。 (練習文10)ただただ朝から晩まで働くばかりだ。 (練習文11)そら、ごらん、ぼくが言ったとおりだ。 (4)イントネーションの変化で音声練習をしよう イントネーションによるモダリティ表現 モダリティとは、語り手の発話時の心的態度、主観的な言表態度のことで す。「発話時の心的態度、主観的な言表態度」の音声表現は、種々のイン トネーションの変化で表現することができます。イントネーションとは、音 声表現における上げ下げ変化、強弱変化、緩急変化、声量変化、リズム変化 などの音調変化を指します。 読み声によるイントネーションの変化でモダリティを表現してみよう。 下記の「 」の文を、(1)と(2)の意味内容になるようにイ ントネーションの変化で表現よみしてみましょう。意味内容に合うように文 全体のイントネーショの変化をつけて音声表現してみましょう。 「いたくない。」 (1)打ち消して言う。 (2)質問して言う。 「ごみ、ちらかしてかまいません。」 (1)質問して言う。 (2)「いいです」と認めている。答えている。 「これはなんですか。」 (1)相手に質問してる。答えを求めている。 (2)相手を大声でしかりつけいる。 「ドッジボールするの。」 (1)うれしい気持ちで質問している。 (2)ドッジボールは嫌いなの。いやだなあ、という気持ちで質問して る。 「勝った。」 (1)ばんざあい。勝ったぞ。うれしい気持ちで叫ぶ。 (2)疲れたなあ。やっと勝ったよ。ひとりごとで口からふっと出た。 「ワン、ワン」 (1)かわいらしい小犬の鳴き声 (2)こわそうな、大きな犬の鳴き声 「なに」 (1)怒って言う (2)もう一度、言ってください。 「はい」 (1)喜んで返事している (2)つまらなそうに返事している (3)名前を呼ばれて返事している 「行く。」 (1)君は行くか。と、相手に質問している。 (2)ぼくは行くつもりだ。自分の意思を語っている。 (3)「行くなんて嫌だ。と自分の不満を語っている。 以上の文例は、拙著『音読の練習帳3(ことばのきまりと音読のしか た)』(一光社、1989)から引用しています。このような文例は、拙著 『すぐ使える音読練習プリント』(ひまわり社、2000)低中高別の三冊な どにも、たくさん掲載してあります。 |
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