本稿の目次 2018・08・29記 第13節 指示語の音声表現のしかた 語をさす指示語の音声練習をしよう 語句をさす指示語の音声練習をしよう 文をさす指示語の音声練習をしよう 文章をさす指示語の音声練習をしよう 文意をさす指示語の音声練習をしよう 第14節 はめこみ文の音声表現のしかた はめこみ文の音声練習(1)をしよう はめこみ文の音声練習(2)をしよう はめこみ文の音声練習(3)をしよう 第13節 指示語の音声表現のしかた 次の(例文1)と(例文2)とを比べてみましょう。 (例文1) ぼくは、きのう本屋さんで植物図鑑を買ってきました。今、ぼくは、きの う本屋さんで買ってきた植物図鑑の本を見ています。 (例文2) ぼくは、きのう本屋さんで植物図鑑を買ってきました。今、ぼくは、それ を見ています。 二つの文章を比べると、(例文1)は、同じことをくりかえして、ごたご たした文になっています。(例文2)は、すっきりとわかりやすい文になっ ています。同じ言葉を使わないで、「それ」という言葉を使っているからで す。 「それ」は、「きのう本屋さんで買ってきた植物図鑑の本」の代わりに用 いられており、何かをさす言葉として使われています。 「それ」のような言葉を「指示語」あるいは「こそあど言葉」と言います。 指示語には、「それ」のほかにも「これ」「あの」「ここ」「あちら」「ど こ」など、いろいろあります。 指示語を一覧表で示すと、下記のようになります。 代名詞 代名詞 代名詞 連体詞 連体詞 副詞 こ(近称) これ ここ こちら この こんな こう こっち そ(中称) それ そこ そちら その そんな そう そっち あ(遠称) あれ あそこ あちら あちら あんな ああ あっち ど(不定称)どれ どこ どちら どの どんな どう どっち 指示語は、指示代名詞と呼ばれることがありますが、必ずしも代名詞ばか りではありません。上記表のタテ列で見てください。連体詞、副詞も含んで います。これらすべてを「指示語」または「こそあど言葉」と言います。 「こそあと言葉」は、佐久間文法で、各称の共通する語頭に注目して「コソ アド」と呼んだのがはじまりです。 指示語は前文の内容を後文に取り入れる働きをしています。同じ言葉を 使わなくてもよいように文と文とをつなぐ役目をしています。この点で接続 詞や接続助詞と似ているところがあります。 指示語を音声表現するときは、指示語は何をさしているか、指示内容を 頭の中にイメージしながら音声表現することがとても大切です。指示語は前 文にあった指示内容を受けている言葉ですから、その指示している意味内容 を頭に入れて音声表現することが重要です。 指示語にちょっとした強めのアクセントをつけて音声表現すると、前後の 意味内容の論理的関係がはっきりと音声に浮き出るようになります。いつも いつもちょっとした強めのアクセントをつけて読むというということではあ りません。前後の文章の意味内容のつながりかたによってちがってきます。 指示語は、どちらかというと、平らに、すんなりと、起伏なしに音声表現す るほうが多いといえます。前後の意味内容を考えてどう読むかを判断してい きましょう。 指示語の音声表現のしかた 具体的な例文に即して、指示語の音声表現のしかたを考えてみましょう。 (例文1)「ひとつだけちょうだい。」 これが、ゆみ子のはっきり覚えた最初の言葉でした。 今西祐行「一つの花」 「これ」が指示している事柄は、「ひとつだけちょうだい。」です。 音声表現では、「これ」だけが強調されることは少なく、「これが」まで が強調されるのが普通でしょう。「ひとつだけちょうだい。」も目立たせて 読むこともできるし、「はっきり」だけを強調して読むこともできるし、 「はっきり覚えた」全体を強調して読むこともできます。また「最初の言 葉」をゆっくりと読んで強調することもできます。どれが正しく、どれが 間違いということではありません。読み手の解釈のありようや、前後の読み のリズムや、思い入れの押し出し方の違いによって音声表現のしかたは変わ ってきます。 (例文2) 向こうに、三階建の、クリーム色の建物が見えるでしょう。あ れが市役所です。 「あれ」が指示しているものは、「向こうに(見える)三階建の、クリー ム色の建物」です。 音声表現のしかたは、指示語「あれ」だけが強調されるのでなく、「あれ が」まで全体をやや強めて読むとよいでしょう。「三階建の、クリーム色の 建物が」は全体をゆっくり気味に読んで強調し、「が」のあとで気持ち間を とってから、「見えるでしょう」と読みすすめるのもよいでしょう。 指しているものは「クリーム色の建物」だけではありません。「三階建 の、クリーム色の建物」です。ここは、ひとつながりにして読むとよいでし ょう。 この一文が、どんな前後の文脈になっているか。それによって決まります。 平らに、すんなりと、強調なしに音声表現する場合も、もちろんあります。 (例文3)「ろくべえ、元気だしい。」 エイジ君は、そう言って、「どんぐりころころ」の歌をうた いました。 「そう」が指示している言葉は、「ろくべえ、元気だしい。」です。 音声表現では、「そう」だけが強調されることは少なく、「そう言っ て」全体が強調されるのが普通でしょう。「そういって」のあと、軽く間を あけると目立たせられます。「ろくべえ、元気出しい。」は、力強く、呼び かけて、奮い立たせる気持ちをこめて読むとよいでしょう。 (例文4)じいさまは、うりもののかさができると、それをしょってまち へでかけました。 岩崎京子「かさこじぞう」 「それ」が指示している言葉は、「(うりものの)かさ」です。 音声表現のしかたは、「それ」を、たいらに、すんなりと、平板に、目立 たせないで読んでいいでしょう。誰もが知っている昔話です。前後の文脈か ら考えて、どこかを強調して読んだりしたら、へんに聞こえてしまいます。 「それをしょって」のあとで軽く間をあけると、「それをしょって」の行為 が聞き手に分かりやすく伝わります。 (例文5)たかし君は、宝島の地図を作りました。この地図を見ながら、 たかし君は、たから物をを手に入れるまでのことを想像して楽 しみました。 「この」が指示している言葉は「宝島」です。 音声表現のしかたは、「この地図を見ながら」個所を強調して目立たせて 読むこともできますし、すんなりと平らに目立たせないで読むこともできま す。前後の文章内容によって、または読み手の思い入れの違いによって変わ ってきます。 指示のしかたの分類 指示語には、指示のしかたにいろいろあって一様ではありません。本稿で は、下記のような型の分類にして音声表現のしかたを考えることにしました。 (1)語をさしている指示語 (2)語句をさしている指示語 (3)文をさしている指示語 (4)文章をさしている指示語 (5)文意をさしている指示語 では、実際に声に出して、指示語の音声練習をしていきましょう。 下記の(1)(2)の順序で、実際に声に出して音声表現していきましょ う。 (1)まず、指示語がさしているものは何か。練習文の中から探し出してみ よう。 わたしなりの答えは下段に書いてあります。答えは、一例にしかすぎ ません。わたしの通りでなくてもいっこうにかまいません。わたしは 上記した指示語の指示のしかたの分類に従って答えを書き出してみた つもりです。 (2)指示語がさしている答え(事物・事柄)をアタマに思い浮かべて実際 に声に出して音声表現してみましょう。 指示語をやや目立たせて音声表現しましょう。指示語だけを強めに 読むのでなく、文章内容に合わせて、ほかのところも強めに読んだ方 がよいところがあったら、そこも強めに読んでもましょう。 また、平らに、すんなりと、平板に、強調なしで音声表現してみま しょう。 両方をやってみて、どちらがよいか判断しましょう。前後の文章内 容の文脈の流れが分かりませんので、何ともいたしかたありませんが、 トレーニングとして両方の音声表現でやってみましょう。大事なこと は、強調するとか、しないとかではなく、書かれている限りの意味内 容で判断して音声表現することです。 語をさす指示語の音声練習をしよう (語とは、一単語または一事物名のこと) (練習文1)青木さんが、さかだちをしています。それを3分間もつづけま した。すごいと思いました。 (練習文2)だいずには、不思議な力がある。昔の人々は、これを投げつけ れば、おそろしいオニもにげだすと考えていた。 (練習文3)火山からふきだすようがんのあなの底には、ガスがたまってい て、それを吸うと、死ぬことがあります。 (練習文4)妹が人形で遊んでいます。あれは、おばあちゃんが、きのう、 おもちゃやさんで買ってくれた人形です。 (練習文5)昨日、家族みんなで青木湖へ行きました。そこは、長い林道を 通りぬけたところにありました。 (練習文6)「おそくなってしまったけど、君からかりた『お笑い天国』の 本を返します。」 「ああ、その本か。いつでもよかったのに。」 (練習文7)金魚ばちの中で、金魚が泳いています。そこへえさを入れてや ると、底にいた金魚もいっせいに集まってきます。 (練習文8)原田君が絵をかきました。先生が、それをさしながら話し始め ました。 (練習文9)三年生の教科書には、姉、横、暗の漢字が出てきます。これら の漢字は、どれも右と左に分けられます。 (練習文10)じぞうさまが、空ぞりをひいてかえっていくところでした。の き下には、米のもち、あわのもちのたわらがおいてありました。 そのほかにも、みそだる、にんじん、ごんぼやだいこんのかま す、おかざりのまつなどなどがおいてありました。 岩崎京子「かさこじぞう」 指示語が指しているもの (練習文1)さかだち (練習文2)だいず (練習文3)ガス (練習文4)人形 (練習文5)青木湖 (練習文6)『お笑い天国』 (練習文7)金魚ばち(の中) (練習文8)(原田君が黒板に書いた)絵 (練習文9)姉、横、暗 (練習文10)米のもち、あわのもちのたわら 語句をさす指示語の音声練習をしよう (一語句だけでなく語句の集まりを含む) (練習文1)たんぽぽの綿毛が、公園の近くの草むらに着陸しました。来年 は、あそこにたんぽぽの芽がでるでしょう。 (練習文2)やえもんが、あせをかきかき、都会の駅までやってきました。 すると、そこには、いろんな列車が集まっていました。 (練習文3)トンボは、こん虫のなかまです。金魚は、魚のなかまです。 キツツキは、鳥のなかまです。この三つのなかまをまとめて いう言葉は、動物です。 (練習文4)アメリカにウイルソンという学者がいました。この人は、あり の行列をかんさつして、ありの研究をしました。 (練習文5)冬の間、たまごからさけの赤ちゃんが生まれます。大きさは、 1センチメートルぐらいです。はじめは、ちょうど、赤いぐみ に実のようなものをおなかにつけています。しだいにそれがな くなって、3センチメートルぐらいの小魚になります。 (練習文6)植物には、土の中の養分がとても大切です。水はあっても、養 分が少ない土地もあります。そんな土地は植物がよく育ちませ ん。 (練習文7)野口英世は、福島県やま郡おきなじま村のまずしい家に生まれ ました。子どものころは、名を清作といいました。清作は、一 才のとき左手に大やけどをしました。その村にも、近くの村に も、医者はいませんでした。 指示語が指している言葉 (練習文1)公園の近くの草むら (練習文2)(あせをかきかきやってきた)都会の駅 (練習文3)(トンボ、金魚、キツツキ)または(こん虫、魚、鳥) (練習文4)アメリカのウイルソンという学者 (練習文5)赤いぐみの実のようなもの (練習文6)水はあっても養分が少ない (練習文7)福島県やま郡おきなじま村 文をさす指示語の音声練習をしよう (一文だけでなく文の集まりを含む) (練習文1)「はあて、ふしぎな。どうしたこっちゃ。」 おかみさんは、そう思いながら、土間でごはんをたきはじめ ました。 (練習文2)「マッチは、手前から向こうにむけてこすります。」 「そんなことは、知ってるよ。」 (練習文3)「ねえ、わたしを買ってください。あんたが買ってくれたら、 うれしいな。」 おみつさんには、雪げたがそうよびかけているように思われ ました。 杉みき子{わらぐつの中の神様」 (練習文4)出がけに父親が、こう言うた。 「これ、吉四六。うちのかきは今年が初なりじゃ。お前、気をつ けて見ちょれや。」 (練習文5)もしも、ことばというものがなかったらとしたら、どんなに不 便でしょう。 みなさんは、こんなことを考えてみたことがありませんか。 (練習文6)砂地の植物の根は、ふつうよりも広がっていたリ、長くのびた りしています。これは砂地に成長するための仕組みなのです。 (練習文7)山も、野原も、畑も、田んぼも、みんなまっ白な雪におおわれ ています。そのまん中にぽつんと一つ、小さな村。ちょうどだ れかのわすれ物みたいな。 木下順二「夕鶴」 指示語が指している言葉 (練習文1)「はあて、ふしぎな。どうしたこっちゃ。」 (練習文2)「マッチは、手前から向こうにむけてこすります。」 (練習文3)「ねえ、わたしを買ってください。あんたが買ってくれたら、 うれしいな。」 (練習文4)「これ、吉四六。うちのかきは今年が初なりじゃ。お前、気を つけて見ちょれや。」 (練習文5)もしも、ことばというものがなかったらとしたら、どんなに不 便でしょう。 (練習文6)砂地の植物の根は、ふつうよりも広がっていたリ、長くのびた りしていること (練習文7)山も、野原も、畑も、田んぼも、みんなまっ白な雪におおわれ ているところ・場所 文章をさす指示語の音声練習をしよう (文章とは、文+文……のこと) わたしたちは、顔をあらうとき、手で水をすくいます。おかしを食べる とき、手でつまみます。ドアをノックするとき、手でたたきます。また、手 でひっぱって、糸を切ったり、紙をちぎったりします。 このように、わたしたちの手は、さまざまなはたらきをしています。 けれども、わたしたちの手ではできないことも、たくさんあります。そ ういうときは、どうぐをつかいます。 水は、手ですくうことができます。けれども、あついスープやおゆを手 ですくったらやけどをしてしまいます。それで、スプーンやひしゃくをつか います。 ドアは手でたたくことができますが、くぎを手でたたいてうちこむこと はできません。それで、金づちをつかいます。くいをうつときは、大きなハ ンマーをつかいます。野球でボールをうつときは、バットをつかいます。 糸や紙なら手で切ったりちぎったりすることができます。けれども、太 いはりがねやあついぬの、木などは、手では切れません。それで、はりがね を切るときは、ペンチをつかいます。ぬのを切るときは、はさみをつかいま す。木を切るときは、のこぎりをつかいます。 このように、どうぐは、わたしたちの手のはたらきをたすけ、たいへん べんりなものです。このほかにも、わたしたちは、毎日、たくさんのどうぐ をつかって生活しています。どうぐは、人間が作りだした、もう一つのべん りな手なのです。 指示語が指している言葉 上段の「このように」は、第一段落の文章全体をさしています。「わたし たちは、顔をあらうとき」から「紙をちぎったりします」までです。 下段の「このように」は、第三段落「けれども、わたしたちの手ではでき ないこともたくさんあります。」から第六段落のおしまい「木を切るときは、 のこぎりをつかいます。」まで、道具を使った事例個所全体をさしています。 このように、そのような、こんなふうに、そうした、こういった、などの 連語(二つの単語が連結して一つの単語と似た働きをしている語)も、全体 を一つの指示語として扱うことができます。 指示語がついた連語にも、指示語と同じ働きをしている言葉がいくつもあ ります。これらの指示語の品詞はいろいろです。 「そのため」接続詞。「そのうえ」接続詞。「そのかわり」接続詞。「そ のくせ」接続詞。「それで」接続詞。「それから」接続詞。「それとも」接 続詞。「その場かぎり」名詞。「その節」名詞。「それだけ」名詞。「そう して」副詞。「そのまま」副詞。「それきり」副詞。「それとなく」副詞。 「これから」=「(これ・代名詞)+(から・格助詞)」など、いろいろで す。 これら連語全体は、ひとつの指示語と似た働きをしているので、音声表現 するときは、連語全体をほんのちょっと強めのアクセントをつけて、ひとつ にまてめた、そうした思いを込めた読み方にするとよいでしょう。これも文 脈によって、そうならない場合もあります。 文意をさす指示語の音声練習をしよう (文脈からとれる文意をさししめしている。 ことばの補充を必要とする) (練習文1)わたしたちは、だれかに何かを知らせたいとき、それを言葉に して知らせます。 (練習文2)ちょうや、がの幼虫を「いもむし」と言うでしょう。これは、 形がころころとふとっていて、ちょっと、いもの形ににている からです。 (練習文3)新かん線のホームに、十両編成の特急「ひかり号」が停車して いる。流線型のスマートな車体である。最前部はちょうど飛行機 の機首のように、まるく前方につきでている。その左右に大きな ライトが光っている。 (練習文4)春になると、たんぽぽの黄色いきれいな花がさきます。二三日 たつと、それはしぼんで、だんだん黒っぽい色の変わってきます。 (練習文5)自動車が急ブレーキをかけて止まりました。その自動車の下か ら、小さいネコがとつぜん走りだしました。 (練習文6)電車の中でタバコをのむと、その近くの人がめいわくをします。 (練習文7)じぞうさまの数は六人、かさこは五つ。どうしてもたりません。 「おらのでわりいが、こらえてくだされ」 じいさまは、じぶんのつぎはぎだらけの手ぬぐいをとると、いち ばんしまいのじぞうさまにかぶせました。 「これでええ、これでええ」 岩崎京子「かさこじぞう」 (練習文8)むかし、ある山のふもとに、一人のおばあさんが住んでいまし た。 このおばあさんは、美しいにしきをおることができました。 そのにしきの中におられている花や鳥は、みんな、まるで本物 のように、いきいきしているのです。ですから、人々は喜んで おばあさんのにしきを買いました。おばあさんは、せっせとに しきをおっては、町へ売りに行きました。そのお金で三人の子 どもを育ててきたのです。 中国民話 チワンのにしき 君島久子訳 指示語が指している事物・事柄 (練習文1)だれかに何かを知らせたいこと だれかに知らせたい何か (練習文2)ちょうや、がの幼虫を「いもむし」と言うこと (練習文3)新幹線「ひかり号」の最前部にある、飛行機の機首のようまる くつきでている個所 (練習文4)(春になるとさく)たんぽぽの黄色いきれいな花 (練習文5)急ブレーキをかけて止まった (練習文6)「タバコ」ではない。「タバコをのんでいる人」または「タバ コをのんでいる場所」 (練習文7)いちばんしまいのじぞうさまに、じぶんのつぎはぎだらけの手 ぬぐいをかぶせること (練習文8)(この)むかし、ある山のふもとに住んでいた (その)おばあさんがおった美しい(にしき) (この)おばあさんがおったにしきを町で売った(お金) 第14節 はめこみ文の音声表現のしかた はめこみ文とは、一文の中に他の文が完全な形ではめこまれている文 です。次のような文です。 (1)大作は女の子というものが、男の子とちがって、ひどく痛みやすい 感情をもっているものだと思った。 (2)しかは、自分をうちそこなった猟師は、今ごろは家の中でじゅうの 手入れをしているだろうと考えた。 (3)アキラは、はじめて会ったのに、ずいぶんなれなれしい子だなと思 いました。 これらの文内構造は次のようになっています。 (1)は、「大作は、……………と思った。」の青色の点線個所に完全な 形の文がはめこまれています。 (2)は、「しかは、……………と考えた。」の青色の点線個所に完全な 形の文がはめこまれています。 (3)は、「アキラは、……………と思いました。」の青色の点線個所に 完全な形の文がはめこまれています。 このような「だれが、……………と思った。」の形を「母型文」と呼ぶ ことにします。点線部分を格助詞「と」で受けて、「思う。考える。言う。 たずねる。話す。聞く。答える。要望する。発表する。命令する。受け取る。 信じる」などの動詞でしめくくっている文です。はめこまれた点線部分には、 情報がたくさん詰め込まれて、全体としてかなりの長文になっているものも 多くあります。 はめこみ文の音声表現は、母型文の主語と述語のあいだに長い点線部分 がはめこまれており、母型文の主述の位置が離れています。ですから、音声 表現するときは母型文の主語と述語との照応があいまいになってしまいがち です。母型文の「だれが」部分と、「と思う」部分が結びつくように音声表 現することがとても重要です。 はめこまれた点線部分の長い文を読んでいるうちに息が切れてしまって、 間があいたり、途中で言い納めの読みぶりになってしまったりしがちです。 これでは、全体の意味内容のつながりが切れて、文全体が何を語っているの かが、分からなくなってしまいます。母型文の主述のつながりに気をつかっ て読むことがとても重要です。 また、母型文の主述と、はめこみ文(…………)部分とは、それぞれが ひとまとまりになるように読むことも重要です。 前出の(1)(2)の音声表現は、こうします。 (1)の文では「大作は………と思った。」までひとまとまりに、つなが る息づかいで読みすすめていきます。…………部分もひとまとまりになるよ うに読んでいきます。 (2)の文では、「しかは………と考えた」までつながる息づかいで読み すすめていきます。途中で意味内容が途切れてしまう読み方にならないよう に注意します。…………部分もひとまとまりになるように読みすすめます。 「と」の音声表現のしかたについて特記すべき事項があります。 児童たちの読み声を聞いていると、「………と言いました」の「と」を、 「と」だけを、力強く・高く・はねあげて・読む悪い癖があるということで す。「…………と(力強く・高く・はねあげる)言いました」のような読み 方です。 これはいけません。引用の格助詞「と」は、どちらかというと、低く下げ て、押さえ気味に、ごく軽く音声表現するぐらいでよいのです。重要なのは 「と」の前後の意味内容です。「と」は、ほんの軽く読むぐらいにしましょ う。 もう一つ、「と」の音声表現についてあります。 母型文と、はめこまれた文とのあいだに、軽く間を入れて読むと聞き手に 分かりやすく伝わるということです。また、その間のあけ方にも二種類があ るということです。例文で具体的に説明しましょう。本節の冒頭例文を使っ て説明します。 間のあけ方(その1) 大作は(ほんの軽く間をあける)女の子というものが、男の子とちがって、 ひどく痛みやすい感情をもっているものだ(ほんの軽く間をあける)と思っ た。 間のあけ方(その2) 大作は(ほんの軽く間をあける)女の子というものが、男の子とちがって、 ひどく痛みやすい感情をもっているものだと(ほんの軽く間をあける)思っ た。 間のあけ方は、「ほんの軽く、短く」です。あけなくてもよいのですが、 あけた方が聞き手に分かりやすく伝わる、ということからです。 (その1)と(その2)との違いは、引用の助詞「と」の前であけるか、 後ろであけるか、です。そのどちらでもかまいません。本稿では、説明記述 のわずらわしさを避けるために(その1)の前であける、に統一しています。 後ろでもかまいません。下記の練習文の(答え欄)はすべて(その1)「前 であける」に統一しています。 では、実際に声に出して練習していきましょう。 はめこみ文の音声練習(その1)をしよう 次のはめこみ文を実際に声に出して表現よみしていきましょう。 (1)赤色と青色の色えんぴつで横線を引いて色づけしてみましょう。 (2)……………部分の、中にはめこまれた、ひとまとまとまりの長い文 は、途中で少しずつ小さく息を吸いながら読んでいってもいいですが、 前と後ろの赤色どうしが結びつく息づかいで読んでいきましょう。 (練習文1) 良平は、みやげなんか、なくてもいい、健にいさんの元気な顔が、はよ う見たいと思った。 (練習文2) 子ぎつねは、その歌声は、きっと、人間のお母さんの声にちがいないと 思いました。 (練習文4) 友達が、もし、オリンピックに、動物が選手として参加したら、金メダル は、みんな動物にとられるだろうと、笑いながら言った。 (練習文5) マザー・テレサは、貧しくて学校へは行けないけれど、みんな文字が読 めるようになったらいいと思った。 (練習文6) アンリ・ヂュナンは、うえや病気、戦争や暴力などは、世界中の人々が 手を取り合って、みんなで立ち向かわなければ、何も解決できないと考える ようになった。 (練習文7) ウエゲナーは、アフリカと南アメリカだけでなく、現在、海をへだてて はなればなれになっているすべての大陸は、大昔は一つにつながっていたの だ、と考えるようになった。 (練習文8) 金子みすずは、この世に存在するすべてのものが、それぞれちがうからこ そ大切で、すてきなのだということを、「わたしと小鳥とすずと」という詩 の中で語っています。 (練習文9) 母さんぎつねは、かわいいぼうやの手にしもやけができたらかわいそう だから、夜になったら、町まで行って、ぼうやのおててに合うような毛糸の 手袋を買ってやろうと思いました。 (練習問題10) ママは、パパが返ってきたとき、むかえてくれる人がだれもいなかった ら、すごく、がっかりするだろうって思っています。 答え (練習文1) 良平は、(間)みやげなんか、なくてもいい、健にいさんの元気な顔が、 はよう見たい(間)と思った。 (練習文2) 子ぎつねは、(間)その歌声は、きっと、人間のお母さんの声にちがい ない(間)と思いました。 (練習文4) 友達が、(間)もし、オリンピックに、動物が選手として参加したら、金 メダルは、みんな動物にとられるだろう(間)と、笑いながら言った。 (練習文5) マザー・テレサは、(間)貧しくて学校へは行けないけれど、みんな文 字が読めるようになったらいい(間)と思った。 (練習文6) アンリ・ヂュナンは、(間)うえや病気、戦争や暴力などは、世界中の 人々が手を取り合って、みんなで立ち向かわなければ、何も解決できない (間)と考えるようになった。 (練習文7) ウエゲナーは、(間)アフリカと南アメリカだけでなく、現在、海をへ だててはなればなれになっているすべての大陸は、大昔は一つにつながって いたのだ、(間)と考えるようになった。 (練習文8) 金子みすずは、(間)この世に存在するすべてのものが、それぞれちがう からこそ大切で、すてきなのだ(間)ということを、「わたしと小鳥とすず と」という詩の中で語っています。 (練習文9) 母さんぎつねは、(間)かわいいぼうやの手にしもやけができたらかわ いそうだから、夜になったら、町まで行って、ぼうやのおててに合うような 毛糸の手袋を買ってやろう(間)と思いました。 (練習問題10) ママは、(間)パパが返ってきたとき、むかえてくれる人がだれもいな かったら、すごく、がっかりするだろう(間)って思っています。 はめこみ文の音声練習(その2)をしよう (練習文1) 人間にとって、最もつらいことは、自分がだれからも必要とされていな いんだ、と感じることなのです。 (練習文2) 正夫君は、こたつにあたってみかんを食べているとき、お母さんはこんな 吹雪に寒くないのかなあ、早く帰ってくればいいなあと考えた。 (練習文3) わたしは原爆ドームが、規模が小さいうえ、歴史も浅い遺跡であること から、果たして世界の国々によって世界遺産として認められるだろうかと思 った。 (練習文4) 保存反対論の中には、「原爆ドームを見ていると、原爆がもたらしたむ ごたらしいありさまを思い出すので、一刻も早く取りこわしてほしい。」と いう意見もあった。 (練習文5) 残された日記には、あの痛々しい産業奨励館だけが、いつまでも、おそ るべき原爆のことを後世にうったえかけるだろう、と書かれていた。 (練習文6) 国連憲章には、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心 の中にとりでを築かなければならない。」と記されている。 (練習文7) 自由民権運動とは、国民一人一人の自由と平等を主張し、国民の代表を送 って国会を開き、民主主義の日本をつくろうと唱えるものである。 答え (練習文1) 人間にとって、最もつらいことは、(間)自分がだれからも必要とされ ていないんだ、(間)と感じることなのです。 (練習文2) 正夫君は、こたつにあたってみかんを食べているとき、(間)お母さんは こんな吹雪に寒くないのかなあ、早く帰ってくればいいなあ(間)と考えた。 (練習文3) わたしは(間)原爆ドームが、規模が小さいうえ、歴史も浅い遺跡である ことから、果たして世界の国々によって世界遺産として認められるだろうか (間)と思った。 または わたしは原爆ドームが、規模が小さいうえ、歴史も浅い遺跡であること から、(間)果たして世界の国々によって世界遺産として認められるだろう か(間)と思った。 (練習文4) 保存反対論の中には、(間)「原爆ドームを見ていると、原爆がもたら したむごたらしいありさまを思い出すので、一刻も早く取りこわしてほし い。」(間)という意見もあった。 (練習文5) 残された日記には、(間)あの痛々しい産業奨励館だけが、いつまでも、 おそるべき原爆のことを後世にうったえかけるだろう、(間)と書かれてい た。 (練習文6) 国連憲章には、(間)「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、 人の心の中にとりでを築かなければならない。」(間)と記されている。 (練習文7) 自由民権運動とは、(間)国民一人一人の自由と平等を主張し、国民の代 表を送って国会を開き、民主主義の日本をつくろう(間)と唱えるものであ る。 はめこみ文の音声練習(その3)をしよう (練習文1) 沢田君は、テレビで、山の斜面に階段のように広がるたな田がしだいに耕 されなくなり、荒れ地に変わってきている、というニュースを見ました。 (練習文2) わたしは、母の話を聞きながら、母がもっとすてきな仕事をしてほしいし、 もっと楽な仕事をしてほしいと思いました。 (練習文3) アンリ・ファーブルは、ヒジダカバチは、ますいざいの役目をする液を、 それがいちばんよくきくところに注射し、えものを殺さずに、動けなくして いるのだということを明らかにしました。 (練習文4) 大造じいさんは、たかが鳥のことだ、ひとばんたてば、またわすれてやっ てくるにちがいないと考えて、昨日よりも、もっとたくさんのつりばりをば らまいておきました。 (練習文5) ちょうどそのころ、こうもりを研究している動物学者たちのあいだで、こ うもりは、口から音を出し、そのはね返ってくる音を聞いて、きょりをはか ったり、物をみわけたりする、ということを知られ始めていました。 (練習文6) 本当を言うと、わたしは、きいちゃんがゆかたをぬうのは、難しいかもし れないと思っていました。でも、わたしはミシンもあるし、いっしょに針を 持てばなんとかなると、考えていました。 (練習文7 ねこは、やとわれても、やとわれなくても、自分ではどちらでもいいと 思っているような顔をしていました。 (練習文8) ママはため息をつきながら、 「今までだって、何回も、人間は戦争をしてきたのよ、初めてじゃないの よ。」って言うけれど、わたしにとっては、初めてだもの。じょうだんじゃ ないわ。まったく、いやになちゃう。 答え (練習文1) 沢田君は、テレビで、(間)山の斜面に階段のように広がるたな田がしだ いに耕されなくなり、荒れ地に変わってきている、(間)というニュースを 見ました。 (練習文2) わたしは、母の話を聞きながら、(間)母がもっとすてきな仕事をしてほ しいし、もっと楽な仕事をしてほしい(間)と思いました。 (練習文3) アンリ・ファーブルは、(間)ヒジダカバチは、ますいざいの役目をする 液を、それがいちばんよくきくところに注射し、えものを殺さずに、動けな くしているのだ(間)ということを明らかにしました。 (練習文4) 大造じいさんは、(間)たかが鳥のことだ、ひとばんたてば、またわすれ てやってくるにちがいない(間)と考えて、昨日よりも、もっとたくさんの つりばりをばらまいておきました。 (練習文5) ちょうどそのころ、こうもりを研究している動物学者たちのあいだで、 (間)こうもりは、口から音を出し、そのはね返ってくる音を聞いて、きょ りをはかったり、物をみわけたりする、(間)ということを知られ始めてい ました。 (練習文6) 本当を言うと、わたしは、(間)きいちゃんがゆかたをぬうのは、難しい かもしれない(間)と思っていました。でも、わたしは(間)ミシンもある し、いっしょに針を持てばなんとかなる(間)と、考えていました。 (練習文7 ねこは、(間)やとわれても、やとわれなくても、自分ではどちらでも いい(間)と思っているような顔をしていました。 (練習文8) ママはため息をつきながら、(間) 「今までだって、何回も、人間は戦争をしてきたのよ、初めてじゃないの よ。」(間)って言うけれど、わたしにとっては、初めてだもの。じょうだ んじゃないわ。まったく、いやになちゃう。 コメント (練習文7)について (練習文7)は、母型文は「ねこは、……………と思っている」個所です。 はめこまれた文個所は、「やとわれても、やとわれなくても、自分ではどち らでもいい」部分です。 (練習文7)の文全体は、「(ねこは……………ような)顔をしていまし た」です。 「ねこは(これこれのような)顔」という「顔」の前部に「(………よう な)顔」という比喩の連体修飾部分がついています。「ような」は助動詞 「ようだ」の連体形で、母型文+「ような」まで前部が「顔をしています」 という述部とつながっています。 音声表現のしかたは、こうなるでしょう。 ねこは(間)、やとわれても、やとわれなくても、自分ではどちらでも いい(間)と思っているような顔をしていました。 (練習文8)について (練習文8)の「はめこまれた文」は、ママの会話文すべて「今までだっ て、何回も、人間は戦争をしてきたのよ、初めてじゃないの。」です。母型 文は、「ママはため息をつきながら、…………って言う」です。これに接続 助詞「けれど」が接続して、次へとつづく重文を形作っています。「けれ ど」の下部に「わたしにとっては、初めてだもの。じょうだんじゃないわ。 まったく、いやになちゃう。」というママの心内語の後文がつづいています。 こうして前文と後文との重文を形作っています。 つまり(練習文8)全体は、前文+後文との重文になっております。 (練習文8)全体は、話し手(ママ)の心内語(ひとりごと、つぶやき)の 語りからできているとも考えられます。後文だけでなく、前文も、つぶやき の一種でしょう。誰かに語り掛けている対話文であると同時にひとりごとで もあるように思われます。少しばかりに対話口調と、それにつぶやきもまざ った音声表現にするとよいでしょう。 「ためいきをつきながら」と書いてあります。どの程度の「ためいき」だ ったのかしら。ママの話し全体が深いためいきの語りだったのか、浅いため いきの語りだったのか、このへんの解釈のしかたによっても音声表現は違っ てくるでしょう。 |
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