本稿の目次 第10節 接続詞の音声表現のしかた 20018・07・29記 (1) 接続詞の働き (2)「逆接の接続詞」の音声練習をしよう (3)「転換の接続詞」の音声練習をしよう (4)「選択の接続詞」の音声練習をしよう (5)「対比の接続詞」の音声練習をしよう (6)「理由の接続詞」の音声練習をしよう (7)「順接の接続詞」の音声練習をしよう (8)「まとめの接続詞」の音声練習をしよう (9)混在した接続詞の音声練習をしよう 第10節 接続詞の音声表現のしかた (1)接続詞の働き 接続詞は、文と文との中間に位置しています。前文と後文との間にあって、 両者の関係を示している言葉です。 学校文法では、接続詞は文の成分としては独立語として扱われております が、独立語でないとする文法学説もあります。松下文法では一品詞としない で副詞に含め、山田文法では副詞の一類として接続副詞としており、芳賀や すしは接続詞を承前副詞と並立連体詞とに二分しています。時枝文法では 「辞」として扱っています。 つまり、接続詞は前文を受けて、後文の文末まで係っていく副詞のような 働きをしているということです。独立語として中立的に結びつけている言葉 ではありません。 このように接続詞は前文の内容を後文へと持ち込んで、どんな関係にな っているかを示し、後文の文末まで係っていく、そうした副詞と似た働きを しています。後文への修飾語的性格を持っています。 接続詞は、後文がどんな内容かを切り出して予告している言葉でもあり ます。前文から後文へと、そのまま受けつぐもの、方向を異にするものな どいろいろあります。 接続詞の種類分けはいろいろありますが、ここでは次のように分けるこ とにします。 逆接の接続詞(だが、しかし、しかも、でも、けれども、ところが、一方、 とはいっても、それなのに、だけど) 転換の接続詞(ところで、さて、次に、では、ときに、でも) 対比の接続語(それに対して、一方は・他方は、それとも、それよりは) 理由の接続詞(なぜなら、なぜならば、だから、なんとなれば、ただし、 それで、すると、そのわけは、ゆえに) 選択の接続詞(それとも、あるいは、または、というより) 順接の接続詞(また、それに、それで、すると、そして、そうして、こう して、すると、それから、ですから) まとめの接続詞(このように、ようするに、つまり、したがって) 接続詞を音声表現するときは、後文がどんな意味内容であるかを頭の中に 入れておき、後文の文末まで意味内容が一貫してつながっていくように読み 下していくことが大切です。 一般的に逆接の接続詞、転換の接続詞、対比の接詞語、理由の接続詞、 選択の接続詞、まとめの接続詞は、強調して際立たせた音声表現になります。 これに対して順接の接続詞は、際立たせた強調は少ないと言えます。平 らに、すんなりとつながっていく平板な音声表現になります。 ただし、文章内容(文脈)によって、話し手の伝達意図によって、いずれ の接続詞も、際立たせたり、平板になったり、いろいろです。文章の中に接 続詞が出てくると、いつも強調した音声表現になるということではありませ ん。文章の中味をよく吟味して必要に応じて強めに転調した出だし音調にす るか、すんなりと平らな音調にするか、を使い分けるようにします。 例文で説明しましょう。 (例文1)行きますか。それとも、行くのをやめますか。 (例文2)雨が本降りになってなってきました。だから、きょうの遠足は 中止です。 (例文1)「それとも」は、選択の接続詞です。どちらを選択するかを示 している言葉です。話し手がどんな場面で、どんな意図で質問し ているかによって「それとも」の言いぶり、強弱表現が違ってき ます。いつまでも迷っていないで「そ」を、早く言いなさいよ、 いらいらした気持ちで問いつめている場合は際立てた強調した 「それとも」 の言いぶりになるでしょう。単に相手の気持ちを問うているだけ であったら、すんなりと平らに、際立てなしの「それとも」の言 いぶりになるでしょう。 いずれにしても「それとも」は「やめますか」の文末まで思い がつながっていくように音声表現していきます。 (例文2)遠足中止の理由に主眼を置いて語った場合は、「だから」「中 止です」を際立たせた強調した言いぶり、論理的な力点をおいた 言いぶりになるでしょう。 聞き手が熟知している事項を改めて報告している場合は、すんな りとした、平らな、際立たせなしの「だから」の言いぶりになる でしょう。 どちらも、「だから」は文末「中止です」まで思いがつながっ ていくように音声表現していきます。 (2)「逆接の接続詞」の音声練習をしよう 「逆接の接続詞」は、前文と後文では意味内容がくいちがってつながっ ています。ですから、通常は転調した音声表現になって、後文の文末へ係っ ていく読み方になります。転調とは、前文の読み調子を転換させた、文意を 逆転させた新しい起こしの、際立てた強めの音調の出だしで読みだすことで す。転調に導かれた後文全体も多くが強調した音調になります。 ただし、文章内容(文脈)によっては、そうならない場合もあります。す んなりと平らな言い方(転調、強調なしの言い方)になる場合もあります。 次の練習文を、両方(「転調、際立て強調」と「すんなり平らに」)の 音声表現でやってみましょう。 (練習文1)玄関で声がした。ところが、出て見ると、だれもいません。 (練習文2)成績が下がりました。しかし、私はがっかりしていません。 (練習文3)ぼくは何もしていません。それなのに、君はぼくの足をけっ たでしょ。 (練習文4)人間は作業を続けると体がつかれてきて、休息が必要となりま す。けれども、ロボットはつかれるということがありません。 (練習文5)あなたの言い分は分かりました。だけども、わたしはあなた の考えとはちがいます。 (練習文6) ガラスは、ふつう、表面がなめらかで美しく、かたくてき ずが付きにくい。けれども、もろくてわれやすい性質がある。 (練習文7)駅まで一生懸命に走った。だが、電車には間に合わなかった。 (練習文8)ひと口で、まぐろは、小さな赤い魚たちを一ぴきのこらずの みこんだ。 にげたのはスイミーだけ。 スイミーはおよいだ、くらい海のそこを。こわかった。さび しかった。とてもかなしかった。 、けれど、海には、すばらしいものがいっぱいあった。おもし ろいものを見るたびに、スイミーは、だんだん元気をとりもど した。 (練習文9)わたしたちは、竹ひごを、手でおることができます。けれど も、太いはりがねは、手ではおることができないので、ペンチ をつかってまげたり切ったりします。 けしゴムがおちたら、手でつまんでひろうことができます。 けれども、とけいの小さなねじは、手ではつまみにくいので、 ピンセットをつかってつまみます。 戸をたたくときは、手でたたきます。けれども、くぎをうつ ときは、手ではうちこめないので、かなづちをつかってたたき ます。 (練習文10)目の前に、大きくて強そうな茶色のうさぎがいました。小さ な犬は、うさぎに向かってほえました。 ところが、うさぎは逃げません。長い耳を左右にふったり、 やわらかい鼻をひくひくさせたりしながら、じっとすわって いました。 小さな犬は、せいいっぱい大きな声を出して、ウオーウ オーとほえたてました。それでも、うさぎは逃げません。 (3)「転換の接続詞」の音声練習をしよう 「転換の接続詞」は、これまで述べてきた意味内容を転換するわけです から、通常は転調した音声表現になる場合が多いといえます。転調とは、話 題換えした新しい起こしの、際立てた強めの音調の出だしで接続詞を読みだ すことです。前後の文章内容(文脈)によってそうならない場合も多くあり ます。 次の練習文を両方(「強い話題変え」と「弱い話題変え」)の音声表現 でやってみましょう。「強い話題変え」は聞き手に強い注意喚起を与える言 い方になります。 (練習文1)横道の話ばかりしちゃいました。さて、本題の話に入りまし ょう。 (練習文2)さて、山本君、こんどは、あなたの番ですよ。 (練習文3)きょうは大変に楽しい時間をすごせました。では、一週間後 にまた会いましょう。 (練習文4)では、さっそく学級会を始めましょう。きょうの司会は、山 田さんでしたね。 (練習文5)お元気そうでなによりです。ときに、今日はお願いがあって 伺いました。 (練習文6)ところで、みなさんは、自分がアジアの一員であるという自 覚を持っているでしょうか。 (練習文7)お見受けするところ、お元気で何よりです。ときに、きょう は、お願いがあって来ました。 (練習文8)昨日はお宅におじゃまをして大変にご迷惑をおかけしました。 ところで、例の件はどうなりましたか。 (練習文9)雨の中をお集まりくださってありがとうございまう。では、さ っそく始めましょうか。 (練習文10)さて、みなさんは、動物のミルクがミラクル(ふしぎなこ と)を起こして、さまざまな物に変身することを知ってい ますか。バター、ヨーグルト、チーズなどに変身することを 知っていますか。 (4)「選択の接続詞」の音声練習をしよう 「選択の接続詞」は、二つ、三つの中からどれを選択するかを決めると きに使います。音声表現のしかたは、場面や話し手の意図によってさまざま です。 (練習文1)を例にして音声表現のしかたを考えてみましょう。次のAB CDの四つが考えられます。Aは際立て強調がない平板な言い方です。ほか は赤字個所が強調されて、強めの音調になる言い方です。 A ラーメンにしますか、それとも、チャーハンにしますか。 B ラーメンにしますか、それとも、チャーハンにしますか。 C ラーメンにしますか、それとも、チャーハンにしますか。 D ラーメンにしますか、それとも、チャーハンにしますか。 次の練習文を、いろいろとやってみましょう。際立て強調にはBCD以 外にもいろいろあることに気づくでしょう。 (練習文1)ラーメンにしますか、それとも、チャーハンにしますか。 (練習文2)海へ行こうか。それとも、山へ行こうか。 (練習文3)ぼくが行くの? それとも、きみが行くの? (練習文4)思い切って言っちゃおうかな。それとも、やはり黙っていよ うかな。 (練習文5)右に曲がりますか。または、左に曲がりますか。 (練習文6)黒、または、青のボールペンで書いてください。 (練習文7)何かが起こるかもしれません。あるいは、何も起こらないか もしれません。 (練習文8)あしたの天気は、雨か、あるいは、雪でしょう。 (練習文9)原爆ドームを保存するか、それとも、取りこわしてしまうか、 戦後間もないころの広島では議論が続いた。 (5)「対比の接続詞」の音声練習をしよう 「対比の接続詞」は、二つ三つのものを並べ合わせて、それぞれの違い や特性を比べるときに使います。音声表現のしかたは、場面や話し手の意図 によってさまざまです。 (練習文1)を例にして音声表現のしかたを考えてみましょう。次のAB CDの四つが考えられます。Aは際立て強調がない平板な言い方です。ほか は赤字個所が強調されて、強めの音調になる言い方です。 A 兄は右の道を進んでいった。一方、弟は左の道を進んでいった。 B 兄は右の道を進んでいった。一方、弟は左の道を進んでいった。 C 兄は右の道を進んでいった。一方、弟は左の道を進んでいった。 D 兄は右の道を進んでいった。一方、弟は左の道を進んでいった。 次の練習文を、いろいろとやってみましょう。強調のしかたはBCD以外 にもいろいろあることに気づくでしょう。 (練習文1)兄は右の道を進んでいった。一方、弟は左の道を進んでいっ た。 (練習文2)兄はやせていて背が高いです。他方、弟はずんぐりと太って いて背が低いです。 (練習文3)それは、うれしいよ。一方で、わたしには残念に思えること もあるよ。 (練習文4)山田君は、ことばづかいが悪い。他方、自分から手伝ってく れたりして、とってもやさしいところもある。 (練習文5)友達や家族との付き合いでは、がまんしなければならな いことがたくさんある。それに対して、自分だけの世界ではだ れにもじゃまされたくない面もたくさんある。 (練習文6)ある料理を一から作ろうとすれば、いろいろな材料を買いそ ろえなければなりません。それに比べ、インスタント食品の場 合には、必要なもののほとんどが、必要な量だけ用意されてい るので便利です。 (練習文7)インスタント食品はたいへん便利であり、わたしたちの生活 に欠かせないものになっています。その一方で、栄養がかたよ るなど注意しなければならない点もあります。便利さを上手に 生かしながら、豊かな食生活をつくりあげていきたいものです。 (6)「理由の接続詞」の音声練習をしよう 「理由の接続詞」も、強調した強めの音声表現になる場合と、そうなら ない場合があります。どんな場面(文脈)で語られたか、語り手の伝え意図 はどうであるか、などによって違ってきます。「理由の接続詞」が際立て強 めの言い方になると、それに導かれた後文全体も多くが強めの言い方になり がちです。 次の練習文を、両方(「強めに・強調あり」と「平らに・強調なし」) の音声表現をやってみましょう。 (練習文1)兄が妹をからかっています。だから、妹は今にも泣きそうな 顔をしています。 (練習文2)林君は、サッカーのチームに入って練習しています。だから、 学校代表の選手に選ばれました。 (練習文3)電車の事故がありました。それで、会社に遅刻してしまいま した。 (練習文4)実験がある。それで、ぼくは理科が好きです。 (練習文5)わたしは本田君に同情しません。なんとなれば、彼には誠意 がないからです。 (練習文6)人間は、たんなる動物ではありません。なんとなれば、人間 は知性も感情も意志もあるからです。 (練習文7)あすの野球の練習は遅刻をするかもしれません。なぜなら、 歯医者へ行く予定があるからです。 (練習文8)5年2組は、今日、六名の児童が流感で欠席しています。し たがって、あすから三日間、5年2組は学級閉鎖となります。 (練習文9)朝から雨がはげしく降った。そのため、今日の運動会は明日 に延期になりました。 (練習文10)地下水の流れは、非常にゆっくりとしています。ふった雨が 地下にしみこみ、再び地表にわき出してくるには、三百年も五 百年もかかっているほどです。ですから、わたしたちは、江戸 時代の雨も飲んでいることになります。 (7)「順接の接続詞」の音声練習をしよう 「順接の接続詞」は、前文と後文とが自然のなりゆき、順当な原因、理 由としてつながっているときに使います。音声表現のしかたは、通常は、す んなりと、平らに、際立てなしでつながっていくように表現します。しかし、 場面や話し手の意図によっては強めの言い方になる場合もあります。 次の練習文を、「平らに・すんなりと・強調なし」の言い方で音声表現 してみましょう。際立て強調したくなったら、それでもやってみましょう。 (練習文1)雨が降っていた。そして、風もひどかった。 (練習文2)ひろし君は、鉄棒が上手です。それにサッカーも上手です。 それにピアノも上手です。 (練習文3)おしっこが我慢できません。それで、大急ぎでトイレに駆け こみました。 (練習文4)兄はスポーツ万能選手です。そして、頭がとってもいいです。 (練習文5)手をあらいました。それから、口の中をブクブクしてゆすぎ ました。 (練習文6)あの方は、歌手です。また、画家でもあり、すぐれたエッセ イストでもあります。 (練習文7)この掃除機は、値段が安く、それに、ゴミをよく吸い取りま す。 (練習文8)ごちそうになり、そのうえ、お土産までいただき、ありがと うございました。 (練習文9)暗くなりました。すると、星がかがやき始めました。 (練習文10)この道をまっすぐに行きます。すると、信号のある交差点に 出ます。そこを右に曲がると、すぐにお探しの建物があります。 (8)「まとめの接続詞」の音声練習をしよう 「まとめの接続詞」は、前文の事柄をひきうけて、後文ではそれらの解 説や説明をつけ加えてつなげていくときに使います。 「まとめの接続詞」の音声表現は、言い換えや転換の内容になるので、 際立て強調の音声表現にして読み出していくことが多くなります。下記の練 習文の接続詞を強めの出だしにして音声表現してみましょう。文章内容によ っては、強め方にも、濃い、薄いの差があります。あなたの判断で自由に表 現してみましょう。 (練習文1)朝、起きたら地面がぬれていた。つまり、夜中に雨がふった ということです。 (練習文2)あまり気がすすまないだって。つまり、君はこの仕事をする のがいやだと言いたいんでしょ。 (練習文3)あすは先生が休みます。したがって、ほかの先生が来るので、 叱られないように、いい子にしているんですよ。 (練習文4)ようするに、君はぼくが悪いということを言いたいんだね。 (練習文5)つまり、ぼくの言いたいことは、もっとまじめにやれという ことです。 (練習文6)このように、ヤドカリとイソギンチャクは、たがいに助け合っ て生きているのです。 (練習文7)言葉を使うと、相手に自分の意志を伝えることができます。目 の前にない物事を思い浮かべたり、いろいろなことを考えたり することができます。つまり、言葉は、伝達や思考にたいへん 役立っています。 (練習文8)ロボットと本物の犬を見比べて下さい。本物の犬は呼吸をして います。呼吸は、空気中の酸素を体に取り入れ、二酸化炭素を体 から出すことです。本物の犬はえさを食べ、水を飲んで、おしっ こやうんちを体から出します。 このように、生き物は、外から必要なものを取り入れ、内から 不必要なものを出して、内と外とで物質のやり取りをしています。 (練習文9)これらのかんさつから、ウイルソンは、はたらきありが、地 面に何か道しるべになるものをつけておいたのではないか、と 考えました。 (練習文10)この研究から、ウイルソンは、ありの行列のできるわけを知 ることができました。 (練習文9・10)は、大滝哲也「ありの行列」光村3上からの一部引用です。 「これらのかんさつから」と「この研究から」は接続詞ではありませんが、 まとめの接続詞的な役割をしている合成接続詞といってもよいでしょう。新 しい明るい起こしで転調して読み出すようにするとよいでしょう。) (9)混在した接続詞の音声練習をしよう 次の文章には接続詞が二つ、三つ、四つとふくまれています。接続詞を どのような音調(言いぶり)にして読むかは、その接続詞が使われている場 面や、話し手がどんな伝達意図で語っているかによって違ってきます。 さて、問題です。 下記のそれぞれの練習文の前に「一個の際立て」とか「二個の際立て」と か書いてあります。その練習文の中にある接続詞で、際立て(強めに強調し た音調)の読み方にするとしたら、どの接続詞でしょうか。指定している数 だけを選んで際立てた強調の音調で読んでみましょう。一般的に言えばこの 接続詞でしょう、と考えた接続詞を選んでみましょう。私の考えた答えは下 段に書いています。 (練習文1)「際立て一個」 水は、手ですくうことができます。けれども、熱いスープや、 お湯を手ですくったら、やけどをしてしまいます。それで、ス プーンやひしゃくを使います。また、一度にたくさんの土や砂 をすくうときは、シャベルを使います。 (練習文2)「際立て二個」 ぼくの家では、お父さんもお母さんも、外で働いています。だ から、ぼくが学校から帰っても、まだ、二人とも帰っていません。 ぼくは、玄関のドアのかぎを開けて、だれもいない家に入りま す。 家のかぎは、前はぼくが自分で持っていました。ところが、 どういうわけか、すぐなくしてしまうのです。それで、家に入れ なくて困ったことが、何度もありました。 でも、今はそんな心配はありません。チロっていう犬をかっ ていて、チロの犬小屋の中に、かぎをしまっておくからです。 (練習文3)「際立て六個」 わたしたちの手は、さまざまな働きをしています。顔をあらう とき、手で水をすくいます。おかしを食べるとき、手でつまみま す。また、手でひっぱって、糸を切ったり、紙をちぎったりしま す。 けれども、わたしたちの手ではできないことも、たくさんあ ります。そういうとき、わたしたちは、道具を使います。 では、どんなときに、どんな道具を使うのでしょう。 水は、手ですくうことができます。けれども、熱いスープやお 湯を手ですくったら、やけどをしてしまいます。それで、スプー ンやひしゃく を使います。また、一度にたくさんの土や砂をす くうときは、シャベルを使います。 ドアは手でたたくことができます。けれども、くぎを手でた たいて打ちこむことはできません。それで、金づちを使います。 また、くいを打つときは、大きなハンマーを使います。野球で ボールを打つときは、バットをつかいます。 糸や紙なら、手で切ったりちぎったりすることができます。け れども、太い針金や厚い布、木などは、手では切れません。だか ら、針金をきるときは、ペンチを使います。布をきるときは、は さみを使います。また、木をきるときは、ノコギリを使います。 このように、道具は、わたしたちの手のはたらきを助けていま す。道具は、たいへんい便利なものです。 (練習文4)「際立て四個」 むかしは、人々がよその土地の人と話すことが、ほとんどありま せんでしたから、方言だけを使っていて、何の不便もありませんで した。ところが、今日では、交通機関も発達し、また、生活の必要 から、人々がいろいろな地方へ出かけることが多くなりました。そ れに、いろいろな地方で生まれ育った人々がいっしょに生活するこ とも、めずらしいことではなくなりました。そうなると、方言だけ で話していては、おたがいに話が通じなかったり、意味をとりちが えたりすることが起こります。そこで、日本中のどこの人にも通じ る言葉が必要になりました。こうして共通語ができました。 方言は、その土地の生活や歴史と深いつながりがあり、特別な味 わいのあるふるさとの言葉です。しかし、方言でなければ話せない、 書けないというのでは、やはり不便です。だから、共通語も、十分 に話したり書いたりできる必要があります。つまり、方言と共通語 を、時と場合によって、自由に使い分けることが大切です。 答え(筆者・荒木の個人的な読み方例です。この通りでなくてもかまいま せん) (練習文1)「けれども」 (練習文2)「ところが」「でも」 (練習文3)「けれども」「では」「けれども」「けれども」「けれども」 「このように」 (練習文4)「ところが」「しかし」「だから」「つまり」 (特記事項) 井上ひさし『私家版日本語文法』(新潮社、1981)の中に「人類が最初に 発した品詞が感動詞なのに、接続詞は、ほかの品詞から転じたという事情も あってビリ、もっとも最近になって出来たものなのである」という文章個所 があります。 接続詞の成立について次のようなものをいたずらして作ってみました。 (1)朝から雨降りだ。だから、今日の運動会は中止だ。 (1)の接続詞の成立のしかたは、「朝から雨降りだ。雨降りだから、今 日の運動会は中止だ」前文の「雨降りだから」の「雨降り」が省略されて 「だから」となったと考えられます。「雨降りだ」を「だ」で代行している。 接続詞はこのように前文をひきついで、後文に係っていく機能を持っていま す。 前文をひきついでいることが分かるのは(6)の指示詞のある接続詞です。 「それだから」と指示詞が入っています。(7)の「それ」が省略されると 「だから」となったと考えられる。指示詞の省略形態とも考えられます。 井上ひさし氏の「接続詞はほかの品詞から転じた」に導かれて、こんなこ とを考えてみたが、本稿は接続詞の成立についてが目的でないので、ここで この話は止めにします。みなさんも考えてみて下さい。参考資料、三尾砂 『話しことばの文法』(法政大学出版局、1958)など。 (2)朝から雨降りだ。だけれど、今日の運動会は中止にならなかった。 (3)朝から雨降りだ。けれど、今日の運動会は中止にならなかった。 (4)朝から雨降りです。ですから、今日の運動会は中止です。 (5)朝から雨降りだ。けれど、今日の運動会は中止にならなかった。 (6)朝から雨降りです。それだから、今日の運動会は中止です。 (7)朝から雨降りです。(それ)だから、今日の運動会は中止です。 (8)朝から雨降りです。そこで、今日の運動会は中止になった。 (9)朝から雨降りです。それで、今日の運動会は中止になった。 (10)朝から雨降りです。それゆえ、今日の運動会は中止になった。 (11)朝から雨降りです。それでも、今日の運動会は中止にならなかった。 (12)朝から雨降りです。それだのに、今日の運動会は中止にならなかった。 接続詞とは、「接続」「つなぎ」という考え方より、「予告する」「方向 指示する」というふうに考えたほうがよいように思います。 という文章個所があり、低学年児童の作文指導や話の引き出し指導に参考に なる記事がありました。下記にやや長いですが引用します。 すべて表現(文章)というものは相手あっての表現です。話す場合でも、 書く場合でも、相手のことを意識しつつ、おのれの述べたいことを表現しま す。その際、これまで述べてきたを否定、打ち消すことをこの後述べるとす れば、あらかじめ、相手に対して<しかし><でも>とその旨をサインとし て出します。相手は、このサインを受けて、心づもり、心がまえをするはず です。とすれば当方のこれから述べようとすることを早合点したり、誤解し たりすることをさけられるはずです。 文章を書いている(あるいは話をしている)本人はこのあと話がいかなる 方向にすすめられるかは承知しています。しかし、相手は知りません。だか らこそ「接続詞」によって、話の方向がいずれに向かっていくかを予告する ことになるのです。 いっそ「接続詞」と名づけず、「予告語」とか「指示語」と呼ぶべきであ ったと思います。(「指示語」は他にありますから、この名称は残念ながら 用いられませんが) 10Pより 接続詞というものは一般に文法学者の間では文を接続する働きをする詞と いうことになっています。つまり文と文をつなぐという考えから文字通り 「接続詞」という用語に定着したものと考えられます。 しかし、書き手である子どもの文章を綴るときの意識というものを想像し てみると、おそらく文と文をつなぐ(接続する)というよりも、<そして> <それで>と書くことで、それをいわば踏み切り板にして次へ次へと飛躍し ていく、あるいはいけるのではないか、という気がします。もちろん、これ は客観的に検証する手段が今のところないため、私の仮説にすぎませんが。 たとえば外で事件を目撃したか、自分がある事件を経験したとき、家に帰 ってきた子どもが、母親に息をはずませて、そのことを語るとき、「あのね ……うンと……そいでね……」といった形でことばを紡ぎ出していくのをよ く見かけます。 子どもは話を語るときも、文章を綴るときも、これら接続詞をいわば「呼 び水」にして、次へ次へと文を引き出してくるでしょう。小さい子どもにと って接続詞は思考を展開し、文章を展開するときにきわめて便利な踏切板で あり、呼び水であるといえましょう。 ということになれば、低学年の子どもが、<そして><それで>を連発す ることを困ったこととして否定的にとらえ、これらの接続詞をあまり使わず に書きなさいと指導するよりも、むしろ、よくぞこれらの接続詞を使って、 次へ次へと文章を展開していってくれていると、逆に肯定的にとらえ、これ らの接続詞に感謝すべきであると思います。 そこで私は低学年の作文指導に一つの提言をします。 それは文章が途切れたら<そして><それで><それから>という接続詞 をどんどん使って、はずみをつけて文章を紡ぎ出していくように指導するこ とです。<そして><それで>と書けば、どうしてもその後をつづけないわ けにいきません。「なるべくくわしく、長く書きなさい」と指導するよりも ずっと効果的です。 多くの教師(親)は子どものことばをひきだしてやるとき、「それで?」 「それから?」と問いかけているではありませんか。子どもは「それで?」 ときかれると、「うん……それで……」と言って、その後をつづけていきま す。この一事をもっても、接続詞が思考や文章を展開するのにきわめて便利 な踏切板、呼び水であることがわかります。 そのねらいがある程度果せたら、今度は<そして><それで>といった接 続詞をいっぺん全部消しゴムで消させてみましょう。そして、読み返してみ て、どうしても<そして>や<それで>がないと、おかしいところ、わから ないところをあらためて書き入れさせる、という方法を試みてほしいと思い ます。 25Pより 荒木からヒトコト 低学年担任の先生方、西郷提案を参考に指導してみて下さい。その効果が みえたある時期、接続詞をいっぺん全部消しゴムで消させてみる指導も必要 でしょう。 接続詞の多い文章は、どうしても文脈の緊張度がゆるみ、説得力がうすれ てきます。接続詞をなるべく削ると、引き締まったいい文章になります。接 続詞なしが日本文の特色です。力強い文章表現のためには、なるべく接続詞 の使用を惜しんでいく方がよいのです。そうすると文章は勢いをまし、力強 くなります。こういうことを児童にかみくだいて教えることも必要です。 |
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