ここから始めよう音読授業(7) 
            01・11・25記




 第七ステップ・説明文の音読指導のポイント 




      
(1)物語と説明文との音読方法の異同点

 
  物語文も説明文も、音声表現の技術は同じです。間、プロミネンス、イ
ントネーション、テンポ、転調、声の大小、明暗、リズム、全体の貫通線、
句読点などはすべて同じ音声化技術が求められます。文章内容を考えながら
読み、文章内容が音声にのっかり、意味内容が浮き立つように音声表現する
点も同じです。

 説明文の文体の特徴

 しかし、物語文とちがって説明文には、その文体の特殊性からくる音声表
現の独自性があります。
 説明文の文体の特殊性とは何でしょうか。説明文は、対象について説明・
解説した文章です。読者を納得させ、説得するように書き表された文章で
す。文章が論理的展開(論理的構造・整合性)になっており、読者が納得す
るように工夫された書きぶりになっています。説明文の読解学習は単に内容
を読みとるだけ、情報を獲得するだけ、ではありません。内容の獲得に到達
するまでの、途中の読みとり方の手立てを身につける学習が重要です。文章
の形式的側面の叙述分析を通した内容理解指導、これが国語科プロパーの指
導事項です。これが社会科や理科の時間の読みと、国語科の読みとが違うと
ころです。


      
(2)叙述の有り様で音読方法が決まる


 説明文の読み指導では、次のような文章形式の叙述分析をよく行われます。
以下、それらをランダムにメモで挙げていきましょう。さしあたって、17個
、挙げておきました。

(1) 問いの文(問題提示文)の指導。何が問題(疑問)になっているの
    か。児童は興味を持ったか。知りたい、はっきりさせたいの意欲を
    持たせる。

(2) 序論ー本論ー結論、の各部分の区分け。

(3) 仮定設問文ー解答文、の各部分の区分け。

(4) 事実(データ)−理由づけー結論、の各部分の区分け。

(5) 実験・観察ー結論づけ(概念化、法則化)、の各部分の区分け

(6) 中心語句、キーワード(重要語句)、キーセンテンス(主題文)に
    着目。

(7) 段落分け。段落相互の関連づけ。段落の呼応(連鎖の切れ、続き、
    まとまり)、段落展開のしかたはどうか。

(8) 段落ごとの要点・、小見出しづけ(題づけ)、全文章の大意把握
   (副題づけ)。

(9) 全文章の段落構成とそれらの構造化の把握。プラン作り。

(10) 指示語・接続語の働き。

(11) 演繹的展開と帰納的展開。

(12) 図解化、図式化、文図化。

(13) 感想意見だし。
      ・よくわかった、と思うこと。
      ・なるほど、と思うこと。
      ・まだよく分からない、と思うこと。
      ・はてな、と思うこと。
      ・おかしい、反対、と思うこと。
      ・もっと詳しく調べたい、と思うこと。
      ・予想、見通し。
      ・別の見方、考え方、あり。

(14) なるほどと納得させ、読者を説得させるための書き表しかたの工夫
    や心遣いの分析。それが叙述のどこに表れているかの指摘。題名、
    書き出し、叙述展開、修辞の指摘。

(15) 筆者の発想と論理展開の骨を洗う。筆者は、どんな問題意識を持
    ち、どんな問いを出し、どんなデータを取り上げ、どう理由づけを
    し、どうつなぎ合わせ、文章全体の段取りをどう組み立て、どんな
    結論を出しているか。
   読者への訴えかけは何で、読者をどこ(結論)へ連れていこうとして
   いるか、どう行動させようとしているか、を見抜き、それを指摘する。

(15) 対象(事象)は同じでも、その事象の認識のちがいで全く異なる記
    述になることを知る。発想のちがいは記述(述べ方)のちがいにな
    ることを知る。

(16) 授業のまとめ。子ども達のものの見方、考え方,感じ方はどう広が
    り、深まったか。感想発表(感想文、感想意見だし)をする。

(17) 上記(2)、(3)、(4)、(5)、(7)段落分けでは、指導方
    法として、各区分を分担読みすると、その区分けが音声でわかりや
    すく理解させることができる。例えば、問題文をA児(Aグループ)
    が読み、それの理由づけ文をB児(Bグループ)が読み、結論文を
    C児(Cグループ)が読む、というようにする。また、(6)には、
    プロミネンスがおかれることが多い。

  以上、述べてきたことはあまり音読とは関係ないのでは、という質問があ
りそうです。そんなことはありません。大いに関係ありです。これまで、わ
たしは小中学生の標準的な読み声は「表現よみ」であるべきだ、と書きまし
た。
  表現よみは、音声解釈の音読のしかたです。声に出しつつ解釈を深め、解
釈したことを声で表現する、これの繰り返し(往復作業)で音声表現力を高
め、同時に解釈を深める学習です。文章を声に出して読むこと、それは文章
内容が音声にのっかり、文章内容が自然に素直に浮き立つように、そのこと
に最大の意識を集中して音声表現する、これが、表現よみです。表現よみは
解釈深めの学習と音声表現力高めの学習とを一体化させたものです。
 表現よみは、意味内容と切れた読み声、口先だけ、ことばだけ、字づらだ
け、うわっつらだけをすらすら読むだけを最も嫌います。


       
(3)説明の論理や論運びを音声に表す


   説明文は論理的な記述になっている文章です。ですから、その音声表
現は、論理的な読み方になります。論理の展開、論の運び方が音声の力点と
してはっきりと出るように読まなければなりません。筆者の意図(発想)や
思考の筋道が露呈するように,そこに力点をおいて、それが読み声にくっき
りと浮かぶように音声表現していきます。筆者の発想(意図)が、どのよう
な述べ方(記述)になっているか、問題提示が何であり、どんなデータ(根
拠)を選びとり、どう結論づけているか、そうした論理展開の筋道を音声で
表現します。論運びのしかた、筋道の運び方が音声に浮き立つように、そこ
に音声表現の力点・アクセントを置いて読んでいきます。
 説明文の音声表現は、論理展開のしかた、「こういうわけだから、こうだ」
という因果関係が声にはっきりと出るように読みます。「こういうわけだか
ら、こうなるのだ」という論理の運び方や筋道が声に出るように読みます。
転調するところは、はっきりと調子を変え、新しく論理が展開していくこと
が分かるように読みます。筆者が言いたかったこと、重要なフレーズは、強
調し、目立たせて読みます。
  説明文の読みは筆者の認識と読者の認識とのぶつかり合いですから、読者
の感想意見(同調、共鳴、疑問、批判)が意識せずとも密やかに、ときに明
からさまに加わることになります。


      
(4)説明文の例文に即して解説しよう


 次に、幾つかの説明文を例示し、それら文章の音声表現のしかたについて
書いていきます。

 (例文1)

 カブトガニは、実は、二億年もの昔から、ほとんど形を変えることもなく
生き続けてきた動物です。なぜ、そんなにも長い間生き続けることができた
のでしょうか。
 第一の理由は、海の底のどろの中でひっそりと生活してきたことです。そ
のため、てきにおそわれることが少なく、気候の大きな変化にも,えいきょ
うを受けなくてすんだのです。
 第二の理由は,食べ物が少なくてすむということです。何も食べなくて
も、半年以上もどろの中で生きていられるのです。
 第三の理由は、たまごを数百こずつ分散して産むことです。そのため、た
まごがぜんめつする心配がありません。
          光村四上  土屋圭示「カブトガニを守る」



 「なぜ、そんなにも長い間生き続けることができたのでしょうか。」説明
文にはよく見られる問いの文(問題提示文)です。読者に問いかけて、質問
している音調で読みましょう。文末を昇調にして、目立つように音声表現
します。
 三つの理由文は、こうします。第一、第二、第三、それぞれの出だしは転
調にして音声表現します。前段落を閉じ、新しい話を開く音調にして読み出
します。第一の理由はこうだ、第二の理由はこうだ、第三の理由はこうだ、
三つの区切りと区分けが鮮明になるように音声表現します。

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(例文2)

 全長およそ六十センチメートル、するどいつるぎのようなしっぽをもち、
いかめしいかぶとのような頭をしています。
         光村四上  土屋圭示「カブトガニを守る」


 この一文に、カブトガニの体長、しっぽ、頭について説明しています。一
文を、三つの部分に分けて読むこと、そして、全長はこうだ、こんなしっぽ
だ、こんな頭だ、ということを意識して音声化します。これを意識してるか、
してないか、この違いは、実際の音声表情に微妙な影響を与えます。一文内
部でも、意味内容の区切り、かかり受け(修飾関係)をよく分析して音声表
現することです。そうした、切れる、続く、の論理が作りだす語勢やリズム
やアクセントを大切にして音声表現することです。


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(例文3)

 ここに、二枚の世界地図がある。この地図を見て、何か気づくことはない
だろうか。
 右の地図は、わたしたちが学校などでよく目にするものである。この地図
では、日本が真ん中に、東側に南北アメリカ、西側にアジア、ヨーロッパ、
アフリカ、南側にオーストラリアがある。 左の地図は、ヨーロッパなどで
よく見かける世界地図である。この地図では、ヨーロッパとアフリカが真ん
中にある。さて、日本はと見ると東のはずれの方に位置している。
             光村五上  永田力「地図が見せる世界」


 「ここに、二枚の地図がある。この地図をみて、何か気づくことがないだ
ろうか。」問いの文です。問いかけ音調にして音声表現します。
 「右の地図は」、「左の地図は」と、左右の地図を対比して記述していま
す。右の地図段落個所をひとまとまりに、左の地図段落個所をひとまとまり
にして、二つの対比がくっきりと声に表れるように読みます。そのためには、
「左の地図は」の前でたっぷりと間を開け、「左の地図は」を転調して読み
出します。
  右の地図は「私たち、日本でよく目にする地図だ。日本は真ん中で、東
側は何、西側は何、南側は何、」この文意の区切りと区別化をはっきりさせ
て音声で表現します。西側の(アジア、ヨーロッパ、アフリカ)というカッ
コの中をひとつながりに読むように気をつけます。
 左の地図は「ヨーロッパでよく見かける地図だ。何と何が真ん中で、日本
はどこに位置している」この文意の区切りをはっきりと音声表現します。
 「真ん中。東側。西側。日本は」などは、文意の区切りをリードする重要
語句なのでやや強調してアクセントをつけた読み出し方にするとよいでしょ
う。

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(例文4)

 日本が真ん中にある世界地図ばかり見ていると、日本を中心に世界が動い
ているように思えてくる。ところが、ヨーロッパが真ん中にある地図では、
ヨーロッパが世界の中心のように考えがちである。
           光村五上  永田力「地図が見せる世界」



 これは、一段落二文の文章です。前文と後文とは、「ところが」で連接さ
れ、対比表現になっています。「日本が真ん中にある世界地図」−−「日本
が中心」、「ヨーロッパが真ん中にある世界地図」−−「ヨーロッパが中
心」、に音声で論理的力点(強調)をおき、「ところが」で転調し、意味内
容が逆になっていることを対比した音声で表現します。

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(例文5)
 ここに、カードとカルタとカルテという三つのことばがある。カードは、
もともとは図書館などでかきこむ紙、カルタは、百人一首のように遊びに使
うもの、カルテは、医者がかん者の病気の様子を書きこむ紙のことである。
 この三つの言葉は、なんの関係もなさそうだが、書き並べてみると、似て
いる点があるのに気づく。三つとも「カ」の音で始まる。終わりの音は、全
く同じとはいかないが、「タ」行、「ダ」行の音だという点が似ている。そ
して、似ているのは音だけではない。三つの言葉の指すものは、みんな紙で
できている。それも、ちり紙のようなうすいものではなくて、かなり厚みの
ある紙である。また、ちり紙のように何も書かずに使うのとはちがい、印刷
したり書いたりする点も同じだある。
           光村六下  渡辺実「外来語と日本文化」



 第一段落は「ここに、何と何と何という三つの言葉がある。」「カードは
こう」 「カルタはこう」 「カルテはこう」という区切りになっています。
これら意味の区切りを文意の流れに即して音声表現します。三つはこういう
使われ方をしている、と使われ方を説明する気持ちをこめて音声表現します。
 第二段落は、「三つの言葉の似ている点は、これである。似ているのはこ
れ(音)だけでなく、厚みの紙でできており、印刷したり書いたりする点も
同じだ」という、おおさっぱな文意の区分けを音声で表現します。このこと
を頭に入れておいて音声表現することが大切です。
  第二段落は「三つの言葉には、似ている点がある」「カの音で始まる」
 「タ行、ダ行で終わる」 「似ているのは音だけではない」 「みんな紙
でできている」 「かなり厚みのある紙だ」 「印刷したり書いたりする点
が同じだ」の区分けをはっきりさせておきます。このおおざっぱな大意の区
分けを頭において、そこに区切りと内容の力点とリズムをおいて音声表現し
ていきます。「カード、カルタ、カルテ」の語句に軽い力点をいきます。

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(例文6)

 一つの国が、他の国の言葉を使うようになるには、まずその国との間に交
わりがなければならない。そして、いくら交わりがあっても、使い慣れた言
葉があるものには、わざわざ他の国の言葉を借りないのがふつうである。
「ご飯」という言葉があるのに、わざわざ「ライス」とよぶことがあるけれ
ども、こういうことはふつうは起こらない。つまり、今までなかった品物や
習慣・度、初めて教わる技術や学問・芸術・宗教など、ひっくるめていえ
ば、新しい文化が、外国から入ってきたときに、それを表す外国の言葉を採
り入れるのがふつうなのである。そのうえ、国と国との交わりも、友達の交
わりと同様に、いつごろ、どのような交わりを結んだかによって、受けるえ
いきょうもさまざまである。     
             光村六下  渡辺実「外来語と日本文化」


        
(5)接続詞の音読の仕方


 ここでは、接続詞の音読のしかたについて書きます。
 上の文章部分には、「そして」、「つまり」、「そのうえ」の、三つの接
続詞があります。接続詞は、文と文とのあいだにあって、二つの文を、単に
つないでいるだけの言葉ではありません。
 接続詞は、文の成分としては感動詞とともに独立語として扱われていま
す。しかし、独立語でないとする学説もあります。松下文法では一品詞とし
ないで副詞に含め、山田文法では副詞の一類として接続副詞とし、芳賀やす
しは承前副詞としています。時枝文法では、「辞」として扱っています。接
続詞は前件を受けて後件を誘導する点では副詞と似ているところがありま
す。修飾的性格があることは否定できません。
 したがって、接続詞は、上の文と下の文とをつなげているだけでなく、下
の文がどんな内容かを切り出している言葉でもあります。音読するときは、下
の文がどんな意味内容であるかを頭のなかに入れておき、下の文の述語まで
係っていくように接続詞を音声表現するとよいでしょう。

 上の文章では、「そして」は、単にそこで意味が切れるのではなく、「借
りないのがふつうである。」まで係るように読むと前後の文の論理的な関係
がはっきりと声にでるようになります。
 「つまり」は、「採り入れるのがふつうなのである。」まで係るように気
持ちだけでも入れて読み進めます。「そのうえ」は、「えいきょうもさまざ
まである。」まで係るように読み進めます。

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 もう、ここで、終わりにします。声に出して、お読みくださいましたか。
自分の声で確かめてくださいましたか。目で読むだけでは身につきません。
声に出して、自分の体に響かせて、試行してみてください。自分の体に響か
せて確かめる学習がとても重要です。そうしてくださると、あなたの音読能
力は、まちがいなく、グ−ンとレベルアップして、まわりの人々が目をパチ
クリして驚くこと、まちがいなしです。


           
(6)参考資料


  わたし(荒木)が説明文の音読のしかたについて語っている録音テープ
があります。実際に説明文を荒木が音声表現しつつ、説明文と物語文との音
読の違いについて語っている録音テープです。説明文の音声表現の特長につ
いて語り、幾つかの教材文の音読のしかたについて具体的に音読しながら説
明しているテープです。
  詳細は、本ホームページの『上手な地の文の読み方』の第二部の最後尾
の「参考資料」をお読みください。



             次へつづく