ここから始めよう 音読授業(3)                01・6・23記




      第三ステップ・折り目正しく読む     




       
(1)「折り目正しい」読み方とは


 みなさんは、誰でもがわがクラスに棒読みを一人残らず早くなくしたい、
という願いを持っていることでしょう。
 棒読みになる原因は、意味内容のまとまりはひとつづきに、意味内容の区
切りではきちんと(たっぷりしすぎているかなと思うくらいに)間をあけて
(区切って)読む、ということをしていないからです。感情をこめるという
ことは、あとの20%しかありません。ニュース読みがきちんとできること
がとっても重要です。棒読みにならない工夫として、ニュース読みの方法に
ついても前述しました。

 ニュース読みは、「折り目正しい」読み方です。「折り目正しい」読み方
は、とても重要です。「折り目正しい」とは、 
    (1)十分な声量で 
    (2)文字を一つ一つ正確に拾って
    (3)ゆっくりと 
    (4)はぎれよく 
    (5)へんな読み癖をつけないで
    (6)意味内容で区切って、  読むなどが主なものです。
 ニュース読みでは、これら要素に加えて、「個人的な感情を抑えて、内容
を正しく分かりやすく伝える(表現する)」もありましょう。


       
(2)息づかいに気をつかって


 これら要素はすべて重要ですが、特に音声表現で難しく、表現が容易でな
いのは「(6)意味内容で区切って読む」でしょう。棒読みは、この間
(ま)のとりかたのまずさに多くは原因があります。意味内容のひとつなが
りはひとまとまりに読み、意味内容の区切りでは、そこで息をためたままで
切ったり、息を吸ったりの時間にして、音声を中断します。
 音声表現しようと意図する思い(観念のカタマリ)が呼吸(息づかい)の
流れの連続と断止を規定します。呼吸(息づかい)は文意(文脈)の流れの
連続と断止に呼応して流れが形成されます。文意(文脈)の流れに呼応した
呼吸(息づかい)の流しかた、引きずり方、押さえ方、止め方、まとめ方が
重要となります。こうした間のとり方と同時に、呼吸(息づかい)の強弱や
長短や緩急や上げ下げや曲折やリズムや語勢などの変化が音声表現の生死に
かかわる要素として加わります。


      
3)「折り目正しい」読み方の手本


 教材「森に生きる」のCD録音は、楷書読み「折り目正しく読もう」に重
点をおいた指導の結果です。折り目正しく音読するための方法として、わた
しは4個の音読記号を教えました。三生ですから、4月の最初から音読記号
を教えました。初めからたくさんの記号を教える必要はありません。
 「森に生きる」で特に必要としている音声技術、4個だけを記号化して教
えました。「会話文、強調、転調、声の大小」の4個の記号づけです。
 どの文章個所に、どんな記号をつけたかは本文(『表現よみ指導のアイデ
ア集』)を参照して下さい。そこで実際の子供達の「折り目正しい読み」を
耳にすることができます。


      
(4)一学期でなくしたい、こんな読み声


 音読指導で、一学期中にぜひ指導してほしいことがあります。初期指導
で、ぜひ、なくしてほしい読み声があります。それは「その児童独自の、そ
の児童だけにある、一種、独特なへんな読み癖」です。児童全員が持ってい
るというわけではありません。一学級の中には一人もいないかもしれませ
ん。たったの一人かもしれません。ほんの数人かもしれません。クラスの半
分ぐらいかもしれません。その地域の全児童が持っているある種のへんな読
み癖かもしれません。

 へんな読み癖とはどんな音調のことか、という質問があるでしょう。こう
だ、と定式化して書くことができません。例えば、話を分かりやすくするた
めに、再度、アナウンサーのニュース読みで言いましょう。ニュース読みと
比較してみましょう。
  ニュース読みと違ったその児童だけが持つ一種独特なへんな読み癖・音
調に気づくことがありませんか。その児童だけが持っている独特なリズム、
独特な抑揚、独特なメロディー、独特な上がり下がりなど、ある種の妙な、
そして明確な癖のある読み口調のことです。


      
(5)読み癖と個性的な音声表現との違い


 「個性などと呼ばれるべきではなく、私性とでもいうべき癖による違い」
(鈴木忠志『演劇とは何か』岩波新書)です。鈴木氏のフレーズを、わたし
の全くちがう文脈の中に強引に取り入れて書いてしまったが、このフレーズ
の意味している限り、ピタリと当てはまります。良性の個性でなく、悪性の
私性とでもいうべき独特なへんな読み癖です。「読み声には、読み手の個
性、人格、人柄、人間性が表れる、一人一人の潤色、彩りがちがって個性的
な表現となる」などと言われますが、わたしはこのレベル内容で言っている
のではありません。

 これまた誤解があることを恐れずに言えば、アナウンサーのニュース読み
は、無色透明で中立的で、非人称的で、禁欲的で、整然とした知識を淡々と
語るだけ、飾らず冷静に、無定型で無垢で純で、限りなく無味無臭で、つま
り意図的な色づけやへんな読み癖には過剰なまでに希薄な語り口調、ただ伝
達するだけが目的の語りだと言えましょう。

 あなたの学級児童には、このニュース読みと比較して、有味有臭で悪味悪
臭な意図的な色づけなどというものでない、音読訓練の未熟さの荒地からく
る、ある種の、独特な、へんな読み癖がありませんか。
 もう、これ以上、説明のすべがありません。これくらで、ごかんべんを。


     
(6)へんな読み癖とは、こんな読み声だ


 へんな読み癖の読み声を、実際の音声で聞いていただくのがいちばんで
す。拙著『表現読み指導のアイデア集』(民衆社)のCD付録に「長ぐつネ
コくん」の児童数人のへんな読み声例を示しています。へんな読み癖の読み
声とはこんな読み声だ、この児童の読み声をこう直すとよい、直した読み声
はこうだ、という録音が収録されています。
 参考にして下さい。

 とにかく、音読初期に、へんな読み癖をできるだけ早く矯正しておくこと
です。二学期三学期へとずるずる引きずることないようにしましょう。その
児童にも、自分にあるへんな読み癖の読み声に気づかせ、それを意識的にな
くす努力をさせます。
 二つのちがいが理解できれば、その矯正は容易です。直すのに時間はかか
りません。


      
(7)楽しい作品で、楽しい授業を作る


 もう一つ、音読初期にはこんな指導をしてほしい、についてかきます。音
読への興味と楽しみを植え付けてほしいということです。声に出して読むこ
とが楽しいなあ、と思う子供にそだててほしいということです。

 そのためには、読んで楽しくなるような詩作品を与えて読ませるのもよい
方法です。
 オノマトペのある詩、ことば遊びの詩、リズムのある詩、ユーモアのある
詩などを与えると、子供は喜びます。

 オノマトペとは、擬音語(ガタガタ、ドンドン)、擬声語(ワンワン、ピ
イピイ)、擬態語(ひらひら、にょきにょき)を一つにまとめた言葉で、日
本語では声喩、写音語、写声語、象徴語、擬音詞、象徴詞、音声象徴、語音
象徴など何かむずかしい用語でいろいろと言われています。わたしは擬音語
と擬声語を一つにして音マネ言葉擬態語を様子マネ言葉と呼んで指導してき
ました。現行の教科書では音マネ言葉はカタカナで、様子マネ言葉はひらが
なで表記することになっています。子供達はオノマトペの音声化をことのほ
か喜びます。子供の作文や話し言葉の中にもオノマトペがたくさん出てきま
す。オノマトペは感覚的(聴覚、視覚)、肉感的、身体的な言表で、文字に
書かれた言葉と比べて表情豊かで精彩に富み、音声にすることで生き生きと
楽しんで表現することができます。

 オノマトペの音声表現は、さまざまな仕方で音声化ができ、さまざまなお
もしろいイメージを引き出すことができます。教科書にも「春の歌」(草野
心平)、「どきん」(谷川俊太郎)、「雨」(山田今次)などが掲載されて
います。

 ことば遊びの詩も、子供は喜んで音声表現します。現代詩はことばの実験
室といわれ、ことばの実用的な働きを超え、新たな意味を創造し、ことばそ
のものの新鮮さ、おもしろさに目を向けさせてくれます。谷川俊太郎の
「かっぱ」、「いるか」などは定番の詩教材となっています。

 リズムのある詩は、心地よい響きで音律を体感しつつ音声表現を楽しむこ
とができます。教科書には「おさるがふねをかきました」(まど・みと
お)、「あめのうた」(鶴見正夫)などがありました。ユーモアのある詩も
子供は大好きで、喜んで音声表現します。「たんぽぽ」(川崎洋)、「ドレ
ミファかえうた」(阪田寛夫)、「くまさん」(まど・みちお)などの詩が
そうです。詩の群読も子供達は喜びます。
 仲間と一緒に共同しての声合わせの心地よさ、掛け合いの身体まるごとの
楽しさで、喜んで音声表現します。

 拙著2冊には、ことば遊び詩の読み声録音がCD付録に収録されていま
す。拙著『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社)には「いるか」(谷川俊
太郎)、「ののはな」(谷川俊太郎)、「そうだむらの村長さん」(阪田寛
夫)、「かもつれっしゃ」(有馬たかし)。「どきん」(谷川俊太郎)、
「ひよこ」(まど・みちお)、「ぷぷんぷん」(荘司武)、拙著『群読指導
入門』(民衆社)には「おまつり」(北原白秋)、「あめ」(山田今次)が
収録されていて、実際の授業風景や読み声を耳にすることができます。拙著
2冊には、文章では伝えることができない、CDによる聴覚の補助・補完でご
利用いただけるテープ録音が付録としたあります。これらことば遊びの詩の
ほか、物語作品の読み声もたくさん収録されています。


          
(8)父母の皆様へ 


  わが家にお客様がみえられたとき、わが子に「お客様へ本(教科書、物
語、詩)を読んで聞かせてあげましょう」というような習慣が日本ではあり
ませんね。フランス、イギリス、ロシアなどの国々では普通の習慣になって
いるようです。これらの国々では文化として、朗読をとおして国語を大切に
する教育が行われています。あなたのご家庭から始めて見ませんか。(関連
記事。本ホームページ「音声・身体・文化について」の章、「朗読ブームに
ついて思う」を参照してください)

 ことば遊びの詩集は、これまでもたくさん出版されています。谷川俊太郎
「ことばあそびうた」(福音館)、阪田寛夫「まどさんとさかたさんのこと
ばあそび」(小峰書店)、がすぐ思い浮かびます。まどさんとは、まど・み
ちお、さかたさんとは、阪田寛夫のことです。はせみつこ編『しゃべる詩あ
そぶ詩きこえる詩』、『みえる詩あそぶ詩きこえる詩』(富山房)もありま
す。
 最近でた詩集(2001年3月)で、わたしが目にしたことば遊びの本で
推薦できる詩集は、伊藤英治編『ことばあそび○年生』(理論社)学年別6
巻があります。
 これらの詩集から、ほかの詩集からでももちろんよし、あなたの学級の子
供たちが喜びそうな、声に出すと楽しくなる詩を選んで、与えてみよう。声
で、ころがして、あそんで、たのしめば、それでいいのです。


              次へつづく