ここから始めよう 音読授業(2)              01・5・24記




 第二ステップ・「ニュース読み」をまねる   




          
(1)大きな声で読む


 大きな声とは、ばかでかい声ではありません。
大きな声とは、よく通る声のことです。よく通る声とは共鳴のついた声のこ
とです。
 共鳴のついた声の出し方については、『表現よみ指導のアイデア集』に詳
述しています。一つだけ書けば、声を頭のてっぺんの方向から出してみるこ
とです。女性教師が体育館や運動場で「みなさーん、ここへ集まりなさ−
い」と大声で呼ぶ時、どんな発声をしているでしょうか。声を頭のてっぺん
に向けて、声を大きく高くして、つまり共鳴をつけさせて、呼んでいます。
無意識に共鳴をきかせてつまりよく通る声を作って、遠くにいる児童に声を
届けようとしているのです。


         
(2)へんな読み癖をなくす


 へんな読み癖をなくす、については、これも前掲書に詳述しています。こ
こでは、へんな読み癖がなくなった次の段階としての「棒読みをなくす」と
いうことについて書きましょう。棒読みは、ずらずら読み、平板読み、一本
調子読みのことです。ただ文字を音声に変えているだけで、意味内容が音声
にのっかていない読み声です。
 つまり、棒読みをなくすには、意味内容が音声にのっかる読み方にすれば
よいわけです。だからといって、情感たっぷりに、わざと声に表情をつけて
読ませればいいかというと、そうはきません。音読初期(練習の未熟な時
期)に情感たっぷりに表情をつけて読ませれば、それはこっけいというか、
笑うに笑えない、へんてこりんな、おかしな読み声(へんな読み癖)の表情
づけとなってあらわれます。

 へんな読み癖をつけないで読むには、情感をこめて読もうとすることを忘
れて、文字のひとつ一つをていねいに拾って意味のつながりと切れをはっき
りさせ、ゆっくりと淡淡と読むようさせます。アナウンサーのニュース読
み、あれの口調を手本に初期指導をするとよいでしょう。へんに感情を入れ
ようとせず、意味内容の区切り、ひとかたまりに気をつけて、中立的に、簡
潔に、淡淡と読むようにさせます。


        
(3)「ニュース読み」を手本に


 前述に、初期指導では「アナウンサーのニュース読み、あれを手本にする
とよいでしょう」と書いたことについて、詳しく説明をします。

 ニュースの読み方について石野博史氏(NHK放送文化研究所研究員)は
つぎのように書いています。「ニュースの読みは、極端に言えば、内容が正
しく(間違いく)、かつ分かりやす伝わればよく、それがスムーズに達成さ
れるのがよい読み、そうでないのが悪い読みである。読み手も人間である以
上、ニュースの内容によっては喜怒哀楽の情を禁じえないこともあろう。 
     しかし、それを読みに反映させてはいけないとされる。マスメ
ディアの伝達するニュースは客観的でなければならない。そのためには、読
み手は個人的な感情を抑えて中立的に読み、内容についての判断は聞き手に
委ねる必要があるとされる。」(『日本語学』1987年12月号、明治書院,32
ぺ)と書いています。

         
(4)石野博史氏の参考意見


 また石野博史氏は次のようにも書いています。「ニュースの読みは文芸作
品の読み
(演技や芸を必要とする朗読)とは質的に別物である。アナウンサーの文芸
作品の朗読は舞台俳優などの朗読と比べて、ニュースの節奏の抜けない平板
で、淡々とした読みになりがちである。アナウンサーが最も苦手とするのは
せりふの部分で、感情移入が下手で、そのことの裏返しが淡々調となる。」
(前掲書、32ぺ)とも書いています。

 石野博史氏の「アナウンサーは文芸作品の朗読は下手である」という見解
は、NHKに勤務する人間としての遠慮深い謙遜から出た言葉で、割り引い
て受け取る必要があるでしょう。
 NHKには、優れた朗読の読み手 (わたしが主張する「表現よみ」の優
れた読み手)であり、わたしが絶賛している読み手の一人である加賀美幸子
さんもおられますし、最近は民間テレビ、ラジオ局のアナウンサー達の朗読
公演も盛んに実施されてきています。ただ、舞台俳優はアナウンサーと比べ
て、ニュース読みや天気予報の告知などは苦手、朗読は舞台俳優が得意、と
いう傾向は、その職業から考えて若干、あるのかもしれません。

 石野氏は、「ニュース読みは、内容が正しく、かつ分かりやすく伝われば
よい。読み手の感情を抑えて中立的に読み、内容についての判断は聞き手に
委ねればよい」と述べています。
 つまり、ニュース読みとは、ごくかいつまんで言えば「読み手の感情を抑
え、内容が正しく、分かりやすく伝える読み方」だとまとめられるでしょ
う。

       
(5)大きな誤解を承知で言うと


 わたしは、音読初期指導では、ニュース読みを手本に、それをまねして読
ませればよい、と前述しました。この言い方は大きな誤解で受け取られるこ
とを承知で、分かりやすく受け取っていただく一つの便法として、そう書い
ています。手本として日常的に存在し、だれもが容易に耳にすることができ
るという、理解の分かりやすさからです。真実は「内容が正しく、分かりや
すく表現する」読み方に目標をおいて指導していこう、ということです。
 つまり、「文章内容を正しく、分かりやすく音声で表現する」これのみに
意識を集中した指導をする、ということです。

 読者の皆さんは、石野氏の「内容が正しく、分かりやすく伝える」の「伝
える」の動詞を、わたしが「表現する」に変えていることに気づいたでしょ
うか。なぜ変えたかというと、「伝える」を意識すると、時として相手に伝
えることに集中すると、「読み手の感情を抑えて」にならず、文章内容とは
不似合いな、不自然な、無理な音声の情感づけになりがち、相手に伝えよう
とすることからくる、ひとりよがりで力んだ、媚びた誇張、口先の技巧づ
け、嘘っぱちな表現になりがちだからです。あくまでも文章内容の表現価の
みを音声にのせ、それのみに意識を集中して表現させたいからです。

 わざと視聴者の興味関心を引こう、おもしろおかしく伝えよう、視聴率を
上げようとして、絶叫型の格闘技(K1、プロレス)やスポーツの実況放送
があります。NG場面やハイライトシーンの振返っての、がなりたてるだけ
の実況放送、あれは不自然な、誇張された音声の表情づけ、わざとらしい作
為的な手の込んだ口先技巧だけの表情づけ(盛り上げ)です。これらは児童
達に絶対にまねさせてはいけません。音読初期指導では、聞き手に分かりや
すく伝えようとして、わざと作為的な表情づけの音声化をさせてはいけませ
ん。

    
(6)「ニュース読み」で、へんな読み癖を直す


 文章内容を正しく、分かりやすく音声で表現することにのみ意識を集中し
た読み方、この重要性がお分かりになったでしょうか。これを仮に、誤解を
恐れずに、わたしは分かりやすさ、伝わりやすさから、あえて「ニュース読
み」と名づけたのです。わたしは、ニュース読みは、行書読み、草書読みの
基礎基本だと思います。行書読み、草書読みはニュース読みの土壌に咲いた
花だと言えます。ニュース読み(楷書読み)は、情感豊かな音声表現の基礎
であり、音声表現技術の基盤です。ニュース読みが上手になった子には、7
5点をあげてよいでしょう。
 あとの25点は自然な情感性とか軽みとか小味な芸とかの情感表現の表情
などが付け加わった読み方だと言えます。

 へんな読み癖をつけない、意味内容の切れ続き、つまり間を開けて読む、
の大切さについて書きました。読み声の見本が「森に生きる」です。「森に
生きる」のCDを参照してください。声に出して読むことが楽しくなってき
ましたか。この調子で、継続指導を続けていきましょう。

 そうそう、視聴率を上げようとして、実況放送をするアナウンサー、双巨
頭は、古館伊知郎、辻よしなりの両氏ではないでしょうか。過激で刺激的な
語えらび、誇張されオーバーな音声表情づけ、作為的で芝居化たっぷりな顔
(身体)の表情づけ、視聴者におもしろおかしくつたえようとして、媚びて
おもねた絶叫型のアナウンス、これと「ニュース読み」とを比較して、どち
らが、小中学生が教科書の音読で手本とすべき音調かは、もちろん「ニュー
ス読み」ですね。


           
(7)参考資料


  
  へんな読み癖とはこんな読み声だ、こう指導するとよい、ということを
語っている荒木の録音テープがあります。こちらも参考になります。
  詳細は、本ホームページのトップページから「上手な地の文の読み方」
の第二部をクリックしてください。第二部の最後尾にある「参考資料」をお
読みください。


             次へつづく