表現よみの授業入門      2015・01・07記





 
表現よみ授業の指導計画のたて方



問い


    【何からどう指導していけばよいか】

    わたしの音読指導は、文章をすらすら読めるようにする、
    すらすら読めればそれで終わり、という指導でした。
    これからは、計画的に継続して表現よみ指導を始めよう
    と思います。すらすら読み段階から、メリハリのついた
    情感たっぷりな音声表現の読み方を指導しようと思いま
    す。そのためには、どのように指導していったらよいで
    しょうか。

  

答え

 これまでも学習指導案を読むと、単元の全体目標には、音読に関する指導
目標が書かれていました。全体目標が三つ、四つとある中の一つに音読に関
する目標が書かれていることがありました。次のようにです。

 ○はっきりした発音で音読できる。
 ○文章の内容が表れるようにくふうして音読できる。
 ○読みとった内容が表れるように音読することができる。

 しかし、これらの全体目標が一時間ごとの本時目標として書かれているこ
とはほとんどありませんでした。音読に関する全体目標がお題目のように書
いてあるだけでした。全体目標を具現化する本時の指導目標は皆無が殆どで
した。あなたがおっしゃるようにすらすら読めればそれで終わりという指導
指導実態がほとんどでした。
 表現よみ指導は、解釈深めと音声表現との絶えざる相互作用の方法で進め
られます。解釈したことを音声表現してみる、声で表現してみる。満足した
音声表現に表れ出ていなければ、こういう解釈(意味内容)だからにして、
こういうふうな音声表現・読み声になっていなければならない、その意味内
容になるようにめざして更なる音声表現を試みる、まだ不満足だ、これらを
繰り返すことによって解釈が深まり、音声表現が上手になっていく、という
わけです。

 
音読指導には、大きく二つの方法があります。

(1)解釈深め→音声表現
  (解釈深め話し合いをしてから音声表現をする。まず解釈深めの話し合
   いをして、その話し合いをもとに音声でどう表現よみしていったらよ
   いかを全員で話し合い、次に実際の音声表現をさせる、表れ出た読み
   声について全員で共同助言をする。という指導順序に重点をおいた指
   導方法である)
   
(2)音声表現→解釈深め
  (表れ出た音声から解釈深めを話し合う。まず音声表現をさせる、声に
   出して読ませる。その実際の読み声を素材・手がかりにして、その読
   み声について全員で共同助言をして、更なる解釈深めの話し合いをし
   ていく、という指導順序に重点をおいた指導方法である)

 もちろん、実際の授業では、どちらに重点があるのか区別がつかない、同
じ時間内では両方が入り混じったような指導場面もあります。つまり、解釈
深めのために音読を手がかりにしつつ解釈深めの指導をさせる、深めた意味
内容を音声に出させてみる、その読み声について全員で検討する、そして解
釈深めをする、という授業方法もあります。



問い

   【表現よみしやすい文章、しにくい文章】

    表現よみしやすい文章と、しにくい文章があると思います。
    音読指導を始めるとすると、初めにはどんな教材文を使っ
    て指導していくとよいですか。


答え

 文字で書かれている文章は、すべて音声化できます。しかし、文章の意味
内容を音声で容易に表現しやすい文章、しにくい文章の区別はあります。

     
(1)音声表現しやすい文章の条件

○視覚的イメージが豊かに描かれている文章。事件の起伏・論理の運びが 
 はっきりしていて、ドラマ性のある文章。
○対象を冷たく、つき離して書いた文章でなく、語り手・書き手の印象、観
 念を主観的に織り込んで書いている文章。
○地の文が特定の人物の目から描かれていて、読み手がその人物に感情が移
 入しやすく、のり移りやすい文章。(三人称客観の視点の文章よりも、一
 人称や三人称限定の視点の文章のほうが読みやすい)
○会話文は、話し手の表現意図(気持ち)が明確で、読み手がその人物に容
 易に入り込みやすい話し言葉口調の会話文体。(書き言葉文体の会話文は
 音声表現しにくい。話し言葉文体がよい)
○会話文は、話し手の生きた生活をもったコトバ、肉声がリアルに聞こえて
 くるコトバで書かれ、短い対話で語られている文章が読みやすい。(一人
 の人物が長ったらしく語っている会話文は、話し口調の持続が困難とな 
 る)

     
(2)音声表現しにくい文章の条件

○読み手の生活実感、生活体験、生活論理とかけ離れた内容が書いてある文
 章。抽象的・思弁的内容は読みにくい。
○複雑な心理描写や因果関係、哲学的思弁的な観念世界を描いている文章。
○事件・事柄が複雑に入り組んでいて、理知的技巧的に走ったレトリックが
 あったり、ごたごたしてまとまりがない内容であったり、かなり長く読ま
 ないと区切りがはっきりしない文章。
○観念的な幻想的な世界、非現実世界、抽象的な世界(抽象度の高い論理世
 界)を描いている文章。
○グラフ、図表のある文章、数字がやたら多く出現する文章。
○曖昧模糊とした不透明な文章。
○活字の組み方や配列、字体や大きさ変え、漢字・ひらかな・カタカナの区
 別使用、リフレーンの配置変え、行変えなど、文章の視覚的効果やそれに
 よる音楽的効果を利用した文章(詩に多くある)。



問い

   【初めの第一歩は何から指導すればよいですか】

    音読指導を始めようと考えています。初めに、どこから、
    どんな計画を立てて指導していったらよいですか。


答え

 第一歩から指導を行う場合は、まず、次のような初歩的な指導から開始し
ましょう。

 やや古い資料ですが、国立国語研究所報告の「読みの実験的研究」(195
5)には、次のような「読みあやまり」の実態があると書いてあります。

  1、文字の読みが分からない。
  2、とばし読みをする。
  3、おきかえ読みをする。
  4、つけ加え読みをする。
  5、繰り返し読みをする。
  6、ひろい読みをする。
  7、意味を無視して休止する。
  8、途中でためらう。
  9、句読点を無視して読む。
  10、アクセントが違う。
  11、はじめ、または終わりの発音がはっきりしない。
  12、読みが著しく速くなったり、遅くなったりする。
  13、はじめ読み間違え、のちに正しく読み直す。
  14、唇読みをしたあとで、普通に発音する。

 その他、わたしは次のような実態を加えます。挙げればきりがないので、
十個だけにします。(詳細は、拙著『表現よみ入門』151ぺ〜159ぺ参照)

  1、声が小さく、内にこもる発音で読む。
  2、重っ苦しい発音で読む。
  3、にごった、ざらついた声で読む。はぎれが悪い。
  4、ガ行鼻濁音、母音の無声化発音がよくない。
  5、声がすべって、不正確発音、不明瞭な発音で読む。
  6、間をとらないで平板な一本調子読みをする。
  7、せかせかといそがしい読み方をする。
  8、弱々しい声で読む。聞き取れない蚊の鳴くような声で読む。
  9、文末や文節末ではね上げ読みをする。
   ……でえーす。……しまーしたー。……があ……をお……してえ…
  10、へんな読み調子・読み癖をつけて読む。

 以上を参考にして、あなたの学級の四月当初の児童の実態に応じて、どの
ような指導内容から、どのような順序で指導していくかの段階プログラムを
計画しましょう。段階指導にこれという定石はありません。児童の実態と、
教材の文章・文体がどんな音声表現の技術を要求しているか、これらによっ
て教師が主体的に指導計画を立てていくようにします。
 音読指導は意味内容を音声で立体的に表現する、意味内容を音声で立ち上
げることですから、あれもこれもすべて含みます。しかし、初めは基礎とな
る発声発音声量などの指導を中心として指導しましょう。次に、地の文と会
話文とを区別して読む指導をしましょう。会話文の指導では相手と対話して
いる雰囲気にして会話口調を出して読む指導をしましょう。次には、地の文
を情感づけて読む指導をしていきます。(地の文の指導については下記にあ
る)

 音読の年間指導計画は、学年段階や児童の実態によってちがってきます。
一般論でいうと、次のような順序になるでしょう。一つの参考としてご利用
ください。
(月別重点指導計画例)
4月……音声の基本練習
5月……文字を一つ一つきちんと拾って、ゆっくりと、声にパワーをつけて、
    はぎれよい声で読む。
6月……意味内容のまとまりの区切り(切れる、続ける)に気をつけて読む。
7月……会話文、地の文を区別して読む。会話文の話しぶりに気を使って読
    む。
9月……客観的な地の文を、外から解説するように冷たく淡々と表情をつけ
    て読む。
10月……主観的な地の文を、語り手の感情を入りこませて読む。
11月……記号づけができる。説明文では、論運びの筋道が声に表れるよう
     に論理的力点をつけて読む。
1月……友達の音声表現を聞いて、よい点、もっと工夫した方がよい点など、
    共同助言ができる、言える。
2月……同じ文章に、幾種類かの音声表現を試みて、その中から一つを選択
    できる。
3月……ごつごつした堅い読み方でなく、軟らかい読み方ができる。
(上記は、上達段階を月別に強引に配当した、一応のめやすであります。1
年は12カ月なので上達レベルを12段階に配当しただけであって、もし20カ月
ならば20段階に配当づけることもできます。教師は上達の最終段階レベルの
見通しをもって指導していくことが重要、それを意識しているかいないかは
重要ということから強引に12段階(実際は夏休みなどもあるので9段階にし
ている)に作成しているだけです。実際はこのように順調に上達レベルが進
行していくわけではありません。教師が努力目標をどこに置いて集中指導す
るかによって、また児童の音読能力や練習努力のちがいによって上達の実態
はばらばらになります。)



問い

   【授業の指導方法はどうするか】

    音読初期は、指導の順序として、まず、どんなことから
    授業を開始していったらよいですか。


答え

 音読の初期指導は、「解釈深めの話し合いから音声表現へ」の順序がよい
でしょう。
 「音読→解釈深め」(まず音読して、その読み声を材料にして解釈深めの
話し合いへもっていく)の方法もありますが、これは学級児童がかなり音読
学習に慣れ、音声表現のコツがつかめてきた段階でないと困難です。
 まず、解釈深めの話し合いをします。その後、音声表現のしかたを考えさ
せます。じっくりと黙読をさせます。どの文章個所をどのように音声表現し
ていったらよいか、そのポイントを考えさせます。音読記号を指導していれ
ば、記号をつけさせたりもします。
 黙読をしていくと、だんだんと場面の表象(イメージ、感情表象)がのっ
た音声の全体像が読み手のアタマの中に浮かんできます。声に出すのに比べ
て、黙読は自由勝手なメリハリづけができますので、さまざまな読み声の表
情を浮かべるようにします。間のあける場所はどこか、いくつぐらいの間を
あけるか、どれぐらいの長さにするか、いろいろと黙読しつつアタマの中で
言ってみたりもします。強弱変化をつける個所はどこか、強調変化をつける
個所はどこか、抑揚づけ個所、リズム変化などの個所も考えさせます。黙読
で小声で種々に試みてみさせます。テンやマルで機械的に間をあけるのでな
く、意味内容の句読点を大切にして間をあけるように考えさせます。
 文章(段落・場面)全体の区切りや雰囲気をつかんで、意味内容がこま切
れにならないように分散しないように全体の切れ続きに気を使います。主語
(何が)、述語(どうした)、修飾語(どのように)の関係も検討します。
一文内(文章全体)をどう大きく区切るかも考えさせます。
 説明文では、接続語の読み方に注意します。特に逆接の接続詞は注意を要
します。転調が多いからです。会話文は、だれが、だれに、どんな気持ちで
語っているか、どんな顔付で、どんな声の出し方で、言い振りで話している
かを思い浮かべさせます。
 こうした指導内容は、音読初期では、こういう点に配慮しなければならな
いことを実際の文章に当てはめながら教師がやってみさます、初めは教師が
コツを教え込みます。当初は、教師がコツをやってみせ、語ってみせます。
次に、「さあ、みんなも先生の真似をしてやってみよう」と誘いかけます。
教師の真似をして児童にやらせてみます、発表させてみます。ちょっとでも
発表ができたら、うんと称賛してやり、自信を持たせてやりましょう。ほめ
て、音読好きのさせます。ほめるのがコツです。



問い

   【音読の学習活動をどう位置づけていけばよいか】

    音読指導を、指導展開の中に、どんな効果を期待して
    取り入れるのですか。一時間の授業展開の中に、どの
    ように音読の学習活動を位置づけていけばよいのです
    か。


答え

       
従来の音読指導はこうだった

 従来、音読指導は、授業の導入段階に、または、終末段階に取り入れられ
るのが普通でした。
 導入段階では、二、三名の児童に指名読みをさせ、本時授業の学習範囲を
確認したり、読めない漢字がないか、つっかえないで文や語句のまとまりと
して読めるかどうかを調べたりするために音読をさせていました。
 終末段階では、これまで話し合い、読み深めた意味内容を音声にのせて読
めるかどうかを調べるために音読をさせていました。話し合いが延びたりす
ると、まとめの音読は削除されるのでした。通常は話し合いが延びるので、
音読はカットされるのが普通でした。
 たまには、一時間の途中で内容精査のために、あるいは話し合いが行き詰
ってしまった場合など、教師が考えさせたい文章個所を選んで、そこだけ音
読させ、教師の求める答えを引き出させるという音読使用の方法もありまし
た。
 つまり、従来の音読指導は、「解釈深めと音声表現」の相互作用による指
導が欠如していました。「音声解釈」(文章を音声化することによって解釈
を深める指導、深めた解釈内容を音声にのせていく指導、音声表現を使うこ
とによって解釈を深め、音声表現が上手にできる)と切断したところで、音
読させる指導が行われていました。授業展開の途中で「音声解釈」の手法を
取り入れていく授業がありませんでした。
 これでは、生まれつき感覚的に巧みに音声表現できる特別な児童1,2名
の独擅場でしかありませんでした。ほんの一部児童の活躍する音読指導にな
っていました。学級全員の読解能力と音読能力を高めていく授業とはなり得
ていませんでした。
 子どもたちは、文章を声に出して読むことが好きです。このことは、わた
しの経験から断言できます。話し合い活動には積極的に参加できない遅れた
児童も、文章を声に出して読むことはできます。下手でも読めれば、教師が
ちょっとでも褒めれば、その子は国語が好きになり、音読が好きになります。
遅進児なりに、気分よく、強めたり、弱めたり、上げ下げしたりなど、メリ
ハリをつけて、工夫をしながら、楽しみながら読むようになります。教師は
学級の雰囲気として音読することの楽しい気分を作ることが先決であり重要
です。声に出して読むことが楽しい、好きという雰囲気をつくってみましょ
う。教師は下手でもいい、楽しい顔付をいっぱいにして、いい気分で、児童
の前で読んで見させます。当たり前の顔つきで大胆にやや大げさに表現して
みせ、けろりとして児童の前で音声表現してみせましょう。


      
音読指導を、いつ、どこで行うか

 音読指導をどの段階で行うかは、第一義的には本時目標と文章内容によっ
て規定されます。また、これまでどんな音読指導を行ってきたか、学級児童
の音読実態がどのレベルにあるか、などを考慮して何を指導するかの指導計
画を立てる必要があります。
 解釈深めには、いろいろな方法があります。入りこみ法、くわしい話しか
え法、みじかい話しかえ法、小見出しづけ法、文図法、図解法、動作劇化法、
文章構成法、要約法、つけたし読み法などがあります。それに音読法も加わ
ります。
 ここの個所は音読法を手段にして解釈深めをしていくのに適している、こ
こは音声で意味内容の律動と陰影と生気を浮かび上がらせ、音声の響き合い
で美的世界を体感させるのがよいというように、ここぞという文章個所を教
師が選択して音読の指導計画を立てていくようにします。
 一時間の授業展開の中に音読をどう取り入れていくかは、種々の場合があ
ります。一時間の導入部において前時の想起と本時へのつなぎとして音読を
取り入れる場合もあります。一時間の途中で、数分間だけ、あるいは断続的
に解釈深めのために音読を取り入れる展開もあります。一時間の後半部で、
仕上げ・しめくくりとして本時部分を情感をこめて音読させることにねらい
をおいた音読もあります。



問い

   【音読記号の指導について】

    文章の行間に音読記号をつけるのはよい方法だと思い
    ます。わたしも学級独自の音読記号を作って、文章の
    行間に音読記号つけさせています。子どもたちは音読
    記号の通りには初期には音声表現できませんでしたが、
    しだいに音読記号の通りに読めるようになってきてい
    ます。音読記号で留意すべき点はなんですか。


答え

 一般的に定式化して使用されている音読記号(楽譜づけ)はありません。
学級独自の記号を作成して指導していくのがよいでしょう。その文章個所で
要求している音声化テクニック、つまりメリハリづけの技術を記号化して、
その都度、必要に応じて行間に書き入れていくのが音読記号です。学級独自
の記号を児童と相談しながら決めていくようにします。記号化出来ない場合
もあります。その場合は、メモで文章の右側に小さく書き込むようにします。
そうっと、のばして、いかりくるって、さびしそうに、一つ一つ区切って、
つまらなそうに、ふしぎそうに、ぽつぽついう、のようにです。
 児童に「なぜ、ここに、こういう記号をつけましたか、その理由を一つ一
つ言いましょう」と児童に要求することは無理というものです。プロの朗読
家でも、その理由を一つ一つ考えて朗読しているわけではありません。朗読
プロでも一つ一つに理由をつけて言うことはとてもできません。プロの朗読
家やアナウンサーの場合、長年の経験から直観的にひとりでにそのような音
声表現になってしまっているというのが本音でしょう。音声表現は総合解釈
による直観的な音声表現です。一つ一つの文章個所に分析解釈をして音声表
現してはいませんし、そうすることはできません。音声表現は総合的、直観
的、聴覚的な即座即興の解釈であり、話し合い学習のように分析的、論理的、
解明的な解釈ではありません。まして、小学生や中学生に、その文章部分に、
なぜ、その記号をつけたか、一つ一つに理由を言わせること、そうした要求
をすることは無理というものです。
 ただし、場面・文章個所によっては、理由を言える個所があるでしょう。
言えたら、自主発表をさせて、褒めてあげるのもよいでしょう。また、教師
の指導目標として、ある文章場面では、全員に理由を考えさせ、理由を発表
させて、全体で共通意識を持たせて、この文章場面を、こうだから、こうい
うふうに音声表現させよう、というめあてを持った指導場面もあるでしょう。
教師の指導目的によっては、理由を言わせる授業場面もあります。わたしが
強調していることは文章の一つ一つに、いちいち理由を言わせないようにし
ようということです。けっこう言わせてお通夜のようにしーんとなってしま
う研究授業を多く参観しているものですから。



問い

   【地の文の指導のしかた】

    文学作品には、会話文と地の文とがあります。会話文
    の音声表現は、会話文らしく、会話口調をだして、相
    手に語りかけている音調にして音声表現するように指
    導すればよいと思います。地の文の音声表現の仕方が
    難しいです。
    単に淡々と読めばいいというものではないと思います
    が、どう考えたらよいのでしょうか。地の文の音声表
    現の指導の仕方を教えてください。


答え

 地の文の音声表現の仕方については、本ホームページの第5章「上手な地
の文の読み方」に詳述しています。会話文の指導の仕方については、第4章
に詳述しています。ここでは地の文についてだけ簡単に書きます。
 まず、地の文がどんな語り口になっているかを調べます。語り口の違いに
よって、音声表現のしかたが違ってくるからです。
 地の文には五種類の語り口の文体があります。これら五種類を区別して音
声表現することが大切です。
 (1)語り手が直接に語り聞かせている語り口
 (2)一人称人物の目や気持ちを通した語り口
 (3)ある三人称人物の目や気持ちによりそった語り口
 (4)語り手や人物の目や気持ちがひっこんだ語り口
 (5)語り手がすべての人物の目や気持ちに自由に出入りした語り口


(1)語り手が直接に語り聞かせている語り口

 例文「大造じいさんとガン」(椋鳩十)の冒頭部分
 知り合いのかりゅうどのさそわれて、わたしは、イノシシがりに出かけま
した。イノシシがりの人々は、みな栗野岳のふもとの、大造じいさんの家に
集まりました。じいさんは、七十二歳だというのに、こしひとつ曲がってい
ない元気な老かりゅうどでした。そして、なかなか話上手なひとでした。
【解説】
 ここの文章部分は、「わたし」が語り手となって、聞き手に向かって「大
造じいさん」はこんな人ですよ、と紹介して、語って聞かせています。「わ
たし」が語り手となって直接に聞き手に語り聞かせていますので、読み手が
「わたし」語り手になったつもりで、語って聞かせているように音声表現し
ていくとうまくいきます。


(2)一人称人物の目や気持ちを通した語り口

 例文「ヒロシマのうた」(今西祐行)
 わたしはそのとき、水兵だったのです。
 広島から三十キロばかりはなれた呉の山の中で、陸戦隊の訓練を受けてい
たのです。そして、アメリカの飛行機が原爆を落とした日の夜、七日の午前
三時ごろ、広島の町へ行ったのです。
 町の空は、まだ燃え続けるけむりで、ぼうっと赤くけむっていました。ち
ろちろと火の燃えている道を通り、広島駅の裏にある東錬兵場へ行きました。
 ああ、そのときのおそろしかったこと。広い錬兵場の全体が、黒々と、死
人と、動けない人のうめき声で、うずまっていたのです。
【解説】
 この物語は、登場人物「わたし」の目や気持ちを通して語っています。
「わたし」の目に見えた事柄、感じた気持ちが直接に語られています。です
から、読み手は「わたし」の目や気持ちになったつもりで音声表現していく
とうまくいきます。


(3)ある三人称人物の目や気持ちによりそった語り口

 例文「大造じいさんとガン」(椋鳩十)
 じいさんは、「はてな」と首をかしげました。
 つりばりをしかけておいた辺りで、確かに、ガンがえさをあさった形跡が
あるのに、今日は一羽もかかっていません。いったい、どうしたというので
しょう。
 気をつけて見ると、つりばりの糸が、みなぴいんと引きのばされています。
 ガンは、昨日の失敗にこりて、えをすぐには飲みこまないで、まず、くち
ばしの先にくわえて、ぐうと引っ張ってみてから、いじょうなしとみとめる
と、初めて飲みこんだらしいのです。これも、あの残雪が、仲間を指導して
やったにちがいありません。
【解説】
 前記した冒頭(前書き)を除いた本文全体は、すべて三人称人物「大造じ
いさん」の目に見えた事柄を、大造じいさんの気持ちに寄りそって描かれて
います。
 主語「大造じいさんは……」と書いてあり、語り手はじいさんを対象人物
にして見ています。しかしながら、じいさんの目と気持ちに入りつつ、語り
手とじいさんがきわどく重なり、きわどく離れた描写文(地の文)となって
描かれています。つまり、「じいさんいなって、全く重なって」ではなく、
「じいさんに寄りそった」語り口の描写文体にになっている地の文です。大
造じいさんの、その時々の心理感情の移りかわりにに寄りそいつつ、物語世
界を音声表現していくとよいでしょう。大造じいさんを全く対象人物として
語ってよい語り口の地の文、大造じいさんと全く重なってよい語り口の地の
文、その二つに美妙な重なり・離れ方をしている語り口の地の文(これが最
も多い)、などいろいろあります。


(4)語り手や人物の目や気持ちがひっこんだ語り口

 例文「やまなし」(宮沢賢治)
 つぶつぶのあわが流れていきます。かにの子どもらも、ぽつぽつぽつと、
続けて五、六つぶあわをはきました。それは、ゆれながら水銀のように光っ
て、ななめ上の方へ上っていきました。
 つうと銀の色の腹をひるがえして、一ぴきの魚が頭の上を過ぎていきまし
た。
 お魚が、また上からもどってきました。今度はゆっくりと落着いて、ひれ
も尾も動かさず、ただ水に流されながら、お口を輪のように円くしてやって
きました。そのかげは、黒く静かに底のあみの上をすべりました。
【解説】
 語り手が物語世界の外に、後ろに引込んでいます。語り手は物語世界の外
から、後ろから、離れて、登場人物たちの行動、周囲の様子、事件の流れが
ながめているように前へ差し出しているだけの語り口の文体です。
 音声表現するときは、人物たちの行動、事件の流れを、覚めた気持ちで、
つき放して、物語世界をそっくりそのままポンと前へ差し出すだけの読み音
調にします。
 この語り口の音声表現は、誤解があることを恐れずに話を分かりやすくす
るために言えば、アナウンサーがニュースを語って聞かせているように、
淡々と冷たく客観的に、読み手の思い・感情を押さえて、描写されている事
実・事柄だけを声で前にポンと差し出すだけの音声表現にするとうまくいき
ます。


(5)語り手がすべての人物の目や気持ちに自由に出入りした語り口

【解説】
 (5)の語り口の文章は、小中学校の国語教科書の教材文にはありません。
この語り口は、神の視点からの描写と言われ、語り手が自由勝手に作品世界
に出たり入ったりしている文体です。それで、ここに書くことは割愛します。
小中学校の教科書に多くある語り口の文体は、(2)と(3)と(4)の語
り口文体です。(1)は絵本の文章に多くあります。



問い

   【説明文の音声表現のしかた】

    物語の音声表現の仕方については分かりました。
    では、説明文の音声表現の仕方はどうすればよ
    いのですか。


答え

 説明文の音声表現の仕方については、本ホームページの第14章「説明文に
おける表現よみ指導」に詳述しています。ここでは簡単に書きます。
 説明文は論理的抽象的な書かれ方になっています。直接に対象を指示して、
客観的に観念的な文章で書かれています。音声表現の仕方は、論理の展開、
論の運び方が音声の力点としてはっきりと出るように読みます。筆者の表現
意図、主張点、訴えたい伝えたいことを押し出して、それがはっきりと分か
るように読みます。筆者の思考の筋道や考え方の順序が露呈するように、論
理的な力点(強調点)がくっきりと音声に浮かび出るように音声表現します。
 説明文は、筆者が読者に伝達したいこと、その筆者の声を音声表現してい
くことになります。筆者の意図、読者に訴えたい事柄、その事実の文脈上の
論理的な力点、論の運び方の筋道などが音声の流れの中にアクセントとして
表れ出るように読んでいくようにします。


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