音読授業を創る そのA面とB面と        2011・10・01記




  
 貫通線を明確にして音声表現させる




       
スタニスラフスキーの超課題


  貫通線はスタニスラフスキー(ロシアの俳優・演出家)の作劇術の重要
な一つとなっています。表現よみ指導においても重要な要素の一つと言えま
す。文章全体を流れる表現意図や情調、一貫する貫通線のことです。これを
意識して読むことはとても大切です。いま音声表現しようとしている文章を
一貫して流れるテーマ(主調、情調、雰囲気)は何か、それを把握(体感)
して、それを押し出して読み進めていくようにしなければなりません。こん
な情調や雰囲気にして、こんな創造世界を作って、こんな貫通線を浮き立た
せて音声表現していきたい、事前に目当てを持って読んでいくようにします。
そうした全体情調に浸り漂いながら楽しんで読み進めていくようにします。
  スタニスラフスキーはこれを「超課題」と言ってます。「超課題と一貫
した行動とは、作品そのものから有機的に生じてくる。それを毀す者は作品
を殺すことになる」(『俳優の仕事』千田是也訳、理論社)と書いています。
超課題によって一貫した行動が生まれ、超課題は作品(台本)から生まれる
と言っています。
  超課題とは、「作者の思想や感情、その夢や悩みや喜びを舞台に翻訳す
るのが、上演の主要な課題なのだ。すべての課題がそこに統一され、心的生
活のさまざまな起動力の創造的な志向や、俳優=役という統一体の内的状態
のすべての要素がそこへ向かっていく。この基本的・包括的な目標のこと
だ」(前掲書)と書いています。つまり、超課題とは、俳優が役を演じよう
とするとき、内的状態感情を作っていく、すべてがそこへ向かっていく、終
始、一貫した行動目標となる中核となるある種の感情・情緒的な観念・思い
に向かって行動していくということです。


      
一貫した表現意図や全体情調


  あなたの学級のこどもたちは、音読しようと起立して教科書を両手で持
ったとき、その子の頭の中に、書き手の表現意図をつかみ、作品内容がかも
しだす情緒・雰囲気という状態感情を一貫して終始、音声の堅牢な芯として
表出しようとする意識あるでしょうか。強いですか、弱いですか。こう読も
うという思いの終始一貫した音声による表現意図の堅い芯が聞き取れるでし
ょうか。あなたの学級児童の読み声から、この作品を終始こうした雰囲気や
情緒を帯びた音声表情で表現しようとする固く決意した意図で読もうとして
いる意識がみられるでしょうか。
  ここの文章個所をこう読みたいと事前に全員で話し合うのも一つの方法
です。また、指名児童に読む直前に「ここを、こう読みたい」という思い・
決意を語らせるのも一つの方法でしょう。また、文章の行間に全員で「ここ
の個所を、こんなふうに読もう」の記号づけをして、全員でそれを出し合っ
て語り合うも一つの方法でしょう。


      
「ここを、こう読みたい」決意


  こうした「一貫した思い」(超課題)をはっきりと意識化した指導はと
ても重要です。読み手に能動的な内的指向への思いを持たせる指導はとても
大切です。この「一貫した思い」(超課題)が、読み手の身体に響くと、そ
れは、かれの大動脈の血流となります。やがて全身の鼓動となって、血肉化
さた音声表現となって表出され出てきます。これがリズムやテンポや強弱へ
んかや遅速や明暗や抑揚の変化となって情感性(めりはり)となって表出さ
れてきます。一語句、一語句の音声表現がどうのこうのよりも、細かいこと
にこだわらず、全体を流れる一貫したテーマ、モチーフを押し出し、それを
浮き立たせて音声表現することが重要です。
  こんな情調や雰囲気にして、こんな創造世界を作って、こんな貫通線を
浮き立たせて音声表現していきたい、事前に目当てを持って読んでいくよう
にします。そうした全体情調に浸りただよい、文章内容を音声で味わい、楽
しんで読み進めていくようにします。

◎「この会話文は、人物のこんな気持ち(表現意図)を押し出して読みた 
  いです」
◎「この地の文は、こんな場面なので、こんな雰囲気、感じにして読み進 
  めたいです」
◎「……のような様子、気持ち、雰囲気、気分を出して読みたいです」
  こうした事前の一貫した強い思い(目当て)をはっきりと持って、それ
  にこだわって、ねらいをつけて、それを声にのせるように努力させます。
◎ 冒頭はこんな感じにして、次の場面はこんな雰囲気にして、
◎ その次の会話文はこんな気持ちをたっぷりと入れて、
◎ 山場はこんな感じにして盛り上げ、
◎ 終末はこんな感じに(例えば、思いを後に残してゆったりと、ぽつぽつ 
  と切って読むとか)、

  こうした目当てを読む前にはっきりと持って読み始めるようにします。
 教師が今読み出そうとしている児童に「あなたはこの文章部分をどんな気
持ちや思いを込めて読もうとしていますか。どんな雰囲気を作って読もうと
していますか。どんなことにきをつけて読みたいですか」と問いかけます。
  例えば、児童から「わたしは「春の歌」(草野心平)の詩を、蛙が冬眠
から覚めて、はじめて地上に顔を出した、うきうきした、はずんだ気持ち、
うれしい喜びの気持ちをいっぱいに出した声で読みたいです」のようにです。
これがその文章部分の音声表現の全体を流れる貫通線となります。

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