「ひとり言の会話文」の(A) 2011・10・28記 「ひとり言」会話文の音声表現 「ひとり言」とは 「ひとり言」とは、自分の頭の中だけで言葉操作している会話文です。 黙って頭の中で考えていたり、頭の中だけでひらめいている心内語としての 言葉です。頭の中だけの考え言葉です。自分の頭の中・心の中だけの言葉操 作です。黙ってある事柄を思い浮かべたり、ふとつぶやいたり、咄嗟に口か らぼそっと出てしまうような言葉がそうです。ひとり言は、相手へわざと聞 えよがしに言う場合もありますが、これは特別の場合で、通常は、ひとり言 は相手への伝達意図はありません。自分に向けて語っている、黙って自分の 頭の中だけで思考操作しているだけの考え言葉です。 すべての会話文が誰かと対話している会話文とは限りません。会話文に は、だれかと対話している会話文と、もう一つ「ひとりごと」の会話文があ ります。たとえば次のような会話文の例です。「ひとり言を言いました」 「つぶやきながら」は、「ひとりごと」で、口の中でぶつぶつと小さくつぶ やいているように音声表現しなければなりません。一般に、ひとり言は、声 のひそめ方、しぼり方、つむぎだし方やその間合いの取り方・空け方などが 重要となります。 「ひとり言」会話文の音声表現のしかたは、人物の、そのときの気持ちに なって、ひとり言してる感じや雰囲気を作って読むようにします。ひとり言 は、声に出ている場合と、声に出ていないで頭の中に浮かんだだけの場合と があります。声に出ていないからといって、無言でいて、読んだということ にはなりません。どちらの場合も、低い、小さい声で、ぼそぼそとつぶやく 音調にして音声表現することになります。 四種類の「ひとり言」会話文 「ひとり言」会話文には、四種類があります。 下記の(A)(B)(C)(D)です。 【1】カギカッコつき「ひとり言」会話文……(A)と(B)の二種類あり 【2】カギカッコなし「ひとり言」会話文……(C)のみ 【3】( )の中にある「ひとり言」会話文……(D)のみ (A)(B)(C)の違いを説明すれば次のようになる。 (A)改行し独立個所にして書いてある、カギカッコつき「ひとり言」会話 文 (B)地の文の中にはめこまれて書いてある、カギカッコつき「ひとり言」 会話文 (C)地の文の中にはめこまれて書いてある、カギカッコなし「ひとり言」 会話文 (D)改行し独立個所にして書いてある、( )の中にある「ひとり言」 会話文。 つまり、 (A)は、改行し、独立した行に、「 」つきで記述されている「ひとり 言」会話文です。 (B)は、地の文の中にカギカッコつきではめこまれている「ひとり言」会 話文です。 (C)は、地の文の中にカギなしではめこまれている「ひとり言」会話文で す。全体としては地の文であるが、その中に「ひとり言」会話文が含 みこまれている場合です。 (D)は、「 」の代わりに( )が使われ、( )の中に「ひと り言」が書かれている場合です。 「ひとり言」の音声表現の仕方は、小さな声で、そっと、ひそやかに、ぶつ ぶつと、ぼそぼそと、思いをたぐりよせ、心内語の言葉をたどりよせ、頭の 中で言葉を紡ぎだしているように音声表現します。 前章「相手に話しかけている会話文(A・B)」と、本章「ひとり言 (A・B・C・D)」と、両方を整理してまとめると、下記のようになりま す。それぞれの名付けが長いので、略記して書きます。 「相手に話しかけている」会話文 (A)通常の、カギつき「相手に話しかけてる会話文」 (B)地の文の中にある、カギつき「相手に話しかけている会話文」 「ひとり言」会話文 (A)改行してある、カギつき「ひとり言」会話文 (B)地の文の中にある、カギつき「ひとり言」会話文 (C)地の文の中にある、カギなし「ひとり言」会話文 (D)( )の中にある「ひとり言」会話文 本稿では、「ひとり言会話文」の中の(A)について以下に詳述します。 (B)(C)(D)については、それぞれ次の別稿の章で書いています。 (A)改行し独立個所に書いてある カギつき「ひとり言」会話文の音声表現 改行しあてる、カギつき「ひとり言」会話文(1) 「おはじきの木」(あまんきみこ、5年生)に次のような改行「カギつ き」「ひとり言」の会話文があります。 (その1) だれもいない空き地のはずれの一本のにれの木の前に、やせた男の人がさ っきから立っていました。 げんさんです。げんさんは、 「この木か。この木の下か。」 と、いく度もうめくようにつぶやいていました。 (その2) 風がどおっとふき、空き地の短いひでりこの緑が波立ち、にれの木がざわ ざわ音をたてました。 「だれかいるのかな?」 女の子はそうつぶやいて、ひびわれた幹をトントンとたたきました。 【解説】 (その1) 但し書きに「いく度もうめくようにつぶやいていました」と書いてありま す。「うめくように、つぶやいて」です。ちょっとむずかしいですね。「つ ぶやく」感じは出して読みたいですね。「うめく」はむずかしいですね。 「幾度も」とも書いてあります。「この木か。この木の下か。」を、心の 中で幾度かつぶやいてみて、その中の一つを「声」に出して表現するのもよ いでしょう。 (その2) 但し書きに「つぶやいて」と書いてあります。つぶやいて音声表現します。 話し手は(その1)は、やせた男の人・げんさん・年配のおじさん、です。 (その2)は、子ども・女の子、です。音声表現するときは、だれが話し手 を意識することは第一に重要な条件です。これらにも配慮して音声表現しま しょう。 改行してる、カギつき「ひとり言」会話文(2) 「大造じいさんとガン」(椋鳩十、5年生)に次のような改行「カギつ き」「ひとり言」の会話文があります。 「しめたぞ。」 じいさんはつぶやきながら、夢中でかけつけました。 「ほほう、これはすばらしい。」 じいさんは、思わず子どものような声を上げて喜びました。 【解説】ここにある二つのカギカッコつき会話文は、「ひとり言」の会話文 です。それも、通常の「相手に話している会話文」と同じに、改行して、独 立個所として記述されている会話文です。 「しめたぞ。」には「つぶやきながら」と作者は但し書きを書いています。 小さい声で、ぶつぶつと、ぼそぼそと、つぶやいて音声表現すべきでしょう。 ここの場面の「しめたぞ。」は、早口でも、一字一字を区切ってゆっくりと 間をあけ言葉を絞り出すようにでも、どちらでも表現可能でしょう。 「ほほう、これはすばらしい。」には、作者は「思わず子どものように声 を上げて喜びました。」と但し書きを書いています。「しめたぞ。」は全く の内言(心内語)で実際は声に出ていないかもしれない「つぶやき」の言葉 ですが、後者は独り言ではあるが、「声を上げて喜びました。」ですから、 思わず口から声が漏れ出た、子どものような喜びの声です。喜びに満ちてや や力んだ声の音調にして読むとよいでしょう。 改行してある、カギつき「ひとり言」会話文(3) 「ちいちゃんのかげおくり」(あまんきみこ、3年生)に次のような 改行「カギつき」「ひとり言」の会話文があります。 「体の弱いお父さんまで、いくさに行かなければならないなんて。」 お母さんがぽつんと言ったのが、ちいちゃんの耳には聞こえました。 【解説】 お母さんが「ぽつん」と言った、と但し書きが書いてあります。お母さ んの口からふと洩れた言葉です。言おうと思って言った言葉ではありません。 つまり、ひとり言なわけです。この会話文は、ゆっくりと、ぽつぽつと、ぽ つんと、つぶやいたように音声表現するとよいでしょう。 会話文の直前とか直後には、会話文がこう語られた、という但し書きが 地の文として書かれていることがよくあります。「ぽつんと言った」と書い てあります。但し書きが書いてある場合は、その但し書きの指示に従って音 声表現すべきでしょう。 但し書きは、会話文の直後や直前に書いてある場合が多いです。そうし た指示が書いてない場合もたくさんあります。書いてない場合は、読み手の 主体的な判断で、どんな話しぶり・音調にして語っていくかを自分で判断し て音声表現していくようにします。 改行してある、カギつき「ひとり言」会話文(4) 「おにたのぼうし」(あまんきみこ、3年生)に次のような改行「カギつ き」「ひとり言」の会話文があります。 豆まきの音を聞きながら、おにたは思いました。 「人間っておかしいな。おにはわるいって、きめているんだから。おににも、 いろいろあるのにな。」 そして、古い麦わらぼうしをかぶりました。角かくしのぼうしです。 こな雪がふっていました。道路も、屋根も、野原も、もうまっ白です。 おにたのはだしの小さな足が、つめたい雪の中に、ときどき、すぽっと入 ります。 「いいうちが、ないかなあ。」 でも、今夜は、どのうちも、ひいらぎの葉をかざっているので、入ること ができません。ひいらぎは、おにの目をさすからです。 小さな橋をわたった所に、トタン屋根の家を見つけました。おにたのひく い鼻がうごめきました。 「こりゃあ、豆のにおいがしないぞ。しめた。ひいらぎもかざってない。」 どこから入ろうかと、きょろきょろ見回していると、入口のドアが開きま した。おにたはすばやく、家の横にかくれました。 「いまのうちだ。」 そう思ったおにたは、ドアから、そろりとうちの中に入りました。 こっそりはりをつたって、台所に行ってみました。 「ははあん───。」 台所は、かんからかんにかわいています。米つぶ一つありません。大根一 切れありません。 「あのちび、何も食べちゃいないんだ。」 おみたはむちゅうで、ダ音読頃のまどのやぶれたところから、さむい外へ とび出していきました。 【解説】 ここには、六つのカギつき会話文があります。 (1)「人間っておかしいな。おにはわるいって、きめているんだから。お ににも、いろいろあるのにな。」 (2)「いいうちが、ないかなあ。」 (3)「こりゃあ、豆のにおいがしないぞ。しめた。ひいらぎもかざってな い。」 (4)「いまのうちだ。」 (5)「ははあん───。」 (6)「あのちび、何も食べちゃいないんだ。」 これら六つは、全ておにたの頭の中に浮かんだ考え言葉・ひとり言です。 六つとも、言葉に出ている「ひとり言」とも、言葉に出てない「ひとり言」 とも考えられます。いろいろな読み方が考えられます。 たとえば、声に出ているつぶやき(1)(3)、頭の中だけで思ったつ ぶやき(2)(4)(5)なども考えられます。主体的に判断して頭の中に 浮かんだ言葉として音声表現していきます。 改行してある、カギつき「ひとり言」会話文(5) 「かさこじぞう」(岩崎京子、2年生)に次のような改行「カギつき」 「ひとり言」の会話文があります。 うすやきねを売る店もあれば、山からまつを切ってきて、売っている人も いました。 「ええ、まつはいらんか。おかざりのまつはいらんか。」 じいさまも、声をはりあげました。 「ええ、かさや、かさや。かさこは、いらんか。」 けれども、だれもふりむいてはくれません。しかたなく、じいさまはかえる ことにしました。 「年こしの日に、かさこなんか買うもんは、おらんじゃろ。ああ、もちこも もたんでかえれば、ばあさまはがっかりするじゃろのう。」 いつのまにか、日もくれかけました。 じいさまは、とんぼりとんぼり町を出て、村はずれの野っ原まで来ました。 風が出てきて、ひどいふぶきになりました。 ふと顔を上げると、みちがたに、じぞうさまが六人立っていました。 おどうはなし、木のかげもなし、ふきっさらしの野っ原なもんで、じぞうさ まは、かたがわだけ雪にうもれているのでした。 「おお、お気のどくにな。さぞつめたかろうのう。」 じいさまは、じぞうさまのおつむの雪をかきおとしました。 【解説】 引用個所には四つの会話文があります。 (1)「ええ、まつはいらんか。おかざりのまつはいらんか。」 (2)「ええ、かさや、かさや。かさこは、いらんか。」 (3)「年こしの日に、かさこなんか買うもんは、おらんじゃろ。ああ、も ちこももたんでかえれば、ばあさまはがっかりするじゃろのう。」 (4)「おお、お気のどくにな。さぞつめたかろうのう。」 これら四つの会話文は、全てが改行して独立個所に書いてある、カギつ き会話文です。ですが、これら四つの音声表現の仕方それぞれに違っていま す。 (1)と(2)とは、「相手に話しかけてる会話文」です。町行く人々に 大声で語りかけています。ひとり言ではありません。大声です。 (3)と(4)とは、改行して独立個所に書いてある「ひとり言」です。 ただし、(4)は、「ひとり言」であるか、「語りかけ」であるか、かなり 微妙です。 (1)の音声表現の仕方。この作品の場所は雪国です。東北地方でしょう、 年末の「正月物売り」の賑やかな市場風景が描写されています。町のメイン ストリートに市場が出店して、町行く人々に大声で「ええ、まつはいらんか。 おかざりのまつはいらんか。」と呼びかけています。大声を張り上げて呼び かけているように音声表現します。遠慮した声で読んではいけません。ド カーンと思いっきり大声を出して表現していいです。呼びかけてる音調が決 め手となります。 (2)の音声表現の仕方。(2)の会話文のすぐ後に「じいさまも、声をは りあげました。」と書いてあります。前にある松飾り売りの呼び声(売り 声)に負けず劣らずに大声を張り上げ、町行く人々に呼びかけて音声表現す るとよいでしょう。 (3)の音声表現の仕方。おじいさんの笠は売れませんでした。これではお 正月のお餅を買って帰って、おばあさんを喜ばすこともできません。おじい さんは、がっかりしています。先ほどの物売りの元気な呼び声とは反対に、 (3)の会話文は気落ちした、張り合いが抜けた声で、低く、ぼそぼそと、 落胆した声で、失意に沈んだ、力のない声で音声表現します。 (4)の音声表現の仕方。寒そうに立っている六地蔵さんの姿を見て、「か わいそう」とはっと気づいて、咄嗟に出た言葉です。 「小さな声のひとり言」で語っていると も考えられますが、それも可能ですが、わたしは「ちょっとだけ大きいひと り言」として愛情たっぷりな口調の「語りかけ」で音声表現したいです。こ の会話文は、「ひとり言」とも考えられるし、「語りかけ」とも考えられま す。どちらかと言えば「語りかけ」の意味が強いでしょうか。わたしなら、 そう読みます。読み手個人によって違ってくるでしょう。 「かさこじぞう」はすべて、三人称客観の視点で描かれています。語り手 は、登場人物たちの言動のすべてを外から対象化して語っています。つまり、 語り手や登場人物の目や気持ちがひっこんで、語り手が作品世界を外から差 し出すような語りをしています。語り手の主観的な気持ちを入れないで、 正月買い物の市場の様子はこうでしたよ、じいさまは、こういうことを話し たよ、こういう行動をしたよと、事実をそのまま読者の前へポンと差し出す ように音声表現していくようにします。客観的に冷静に差し出し、淡々と紹 介するだけの音声表現にします。 |
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次へつづく |