「ひとり言の会話文」の(B)          2011・10・28記




 (B)地の文の中にはめこまれた
     カギつき「ひとり言」音声表現





  地の文の中にはめこまれている「ひとり言」会話文には、
(1)カギカッコがついている「ひとり言」会話文
(2)カギカッコがついてない「ひとり言」会話文
との二種類があります。
 ここの章では「地の文にはめこまれたカギカッコがついているひとり
言」会話文の音声表現の仕方について書きます。
 次章では同じく「カギカッコがついてないひとり言」について書くこと
にします。




地の文の中にあるカギつき「ひとり言」会話文(1)


「きいちゃん」(山元加津子、6年生)に次のような「カギつき」の「ひ
とり言」の会話文があります。

 式が進むにつれて、結婚式に出ておられた何人かの方が、きいちゃんを見
て、何かひそひそ話しているのです。「きいちゃんは、どう思っているのか
しら。やっぱり出ないほうがよかったのではないかしら。」と、そんなこと
を考えていたときでした。花よめさんが、お色直しをして、とびらから出て
きました。


【解説】
 きいちゃんは障害者です。小さい時に高熱が出て、それがもとで、手や足
が思うように動かなくなってしまいました。高校生になった今も訓練を受け
ています。この身体でお姉さんの結婚式に出るべきかどうか悩んでいます。
お姉さんに手や足が動かない子どもが生まれるのではと式参加の人々に誤解
されるのではと心配しているのです。
 きいちゃんは、結婚式に出ることにしました。地の文にはめこまれた「カ
ギカッコがついている会話文」は、「わたし」が「きいちゃんは、どう思っ
ているのかしら。やっぱり出ないほうがよかったのではないかしら。」と想
像した(頭の中でひとり言した)と書いています。但し書き「そんなことを
考えていた」とあります。ほんの軽く「ひとり言」口調を出して、前後の
淡々とした状況説明のなかにちょっと浮き立たせて音声表現していくとよい
でしょう。





地の文の中にあるカギつき「ひとり言」会話文(2)

「ごんぎつね」(新美南吉、4年生)に次のような「カギつき」の「ひと
り言」の会話文があります。

 
 十日ほどたって、ごんが弥助というお百姓のうちのうらを通りかかりま
すと、そこのいちじくの木のかげで、弥助の家内が、お歯黒を付けていまし
た。かじ屋の新兵衛のうちのうらを通ると、新兵衛の家内が、かみをすいて
いました。ごんは、「ふふん、村に何かあるんだな。」と思いました。「な
んだろう、秋祭りかな。祭りなら、たいこや笛の音がしそうなものだ。それ
に第一、お宮にのぼりが立つはずだが。」
  こんなことを考えながらやって来ますと、いつの間にか、表に赤いいど
のある兵十のうちの前へ来ました。

  「ああ、そう式だ。」とごんは思いました。「兵十のうちのだれが死ん
だんだろう。」
 お昼がすぎると、ごんは、村の墓地へ行って、六地蔵さのかげにかくれて
いました。いいお天気で、遠く向こうには、おしろの屋根がわらが光ってい
ます。

  「ははん、死んだのは、兵十のおっかあだ。」ごんは、そう思いながら
頭をひっこめました。

  兵十は、今までおっかあと二人きりで、まずしいくらしをしていたもの
で、おっかあが死んでしまっては、もうひとりぼっちでした。「おれと同じ、
ひとりぼっちの兵十か。」こちらの物置の後ろから見ていたごんは、そう思
いました。


【解説】
  ここには、地の文の中にはめこまれたカギつき「ひとり言」の会話文が
あります。拾い出してみましょう。
(1)「ふふん、村に何かあるんだな。」
(2)「なんだろう、秋祭りかな。祭りなら、たいこや笛の音がしそうなも
    のだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが。」
(3)「ああ、そう式だ。」
(4)「兵十のうちのだれが死んだんだろう。」
(5)「ははん、死んだのは、兵十のおっかあだ。」
(6)「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か。」


  これら六つ全てが、地の文にはさみこまれたごんのカギつき「ひとり
言」です。

 
(1)の直後に「と思いました」と書いてありますから、「ひとり言」だ
と分かります。
 
(2)の直後に「こんなことを考えながらやって来ますと」と書いてあり
ますから、「ひとり言」だと分かります。
 (3)の直後には「とごんは思いました。」と書いてありますから、「ひ
とり言」だと分かります。
 
(4)「兵十のうちのだれが死んだんだろう。」の前後には何も書いては
いません。すぐ改行になって、他の事柄(六地蔵さんのかげにかくれたこ
と)が書いてありますが、意味内容から、ひとり言だと推定できます。
 
(5)の直後に「ごんは、そう思いながら頭をひっこめました。」と書い
てあるから、「ひとり言」だと分かります。
  
(3)と(4)は、「ああ、そう式だ。兵十のうちのだれが死んだんだ
ろう。」のようにひとつながりのひとり言と考えることもできます。二つと
も、ひとつながりの音調にして、実際の音声表現では二つに分けて、ひとり
言で音声表現するとよいでしょう。
  いずれの「ひとり言」も、ごんの頭の中に浮かんできた考え言葉ですか
ら、低い声で、ぼそぼそと、ぽつぽつと、考えを手繰り寄せてるように音声
表現します。(1)(3)(5)の「ひとり言」は、かなり確信を持ってひ
とり言してるようですので、ちょっぴり自信ある口ぶりで音声表現するとよ
いでしょう。
  
(6)の直後に「ごんは、そう思いました」と但し書きが書いてありま
す。「思った」んですから、つぶやくような「ひとり言」にして低くぽつり
と音声表現するとよいでしょう。

次へつづく