音読授業を創る                1011・4・17記



   
表現よみを授業に取り入れた指導効果



授業に表現よみを取り入れると、どんな指導効果があるのでしょうか。


1、すべての子どもが授業に参加できる

  声が出る子どもなら音読授業に誰でもが参加できます。上手に読めない
子は読めない子なりに、上手な子は上手な子なりに授業に参加できます。話
し合い授業では興味を示さなかった子どもも、声が出ればだれでも音読授業
に参加できます。
  文字を声にすることで、一人一人がその子なりに力いっぱい文章内容を
表現しようとがんばるようにします。沈滞した話し合いだけの授業が活気づ
きます。声に出して読むと、身体が活性化します。それぞれが自分の思いや
考えを文章にこめて音声表現するようになります。いいかげんな読み飛ばし
や読み落としをしなくなります。ずらずらの一本調子よみをしないようにが
んばるようになります。文字を声に出すことなら自分だってできるぞと、自
信が与えられます。どんな子も容易に授業に参加できるようになります。


2、沈滞しがちな国語学習が活気づく

  黙読中心の話し合い学習では、数人の発言チャンピオンだけの学習とな
り、多くの児童たちは聞いてるだけの授業となりがちです。数人の発言チャ
ンピオンだけの高度の読み深め授業になりがちです。高度な授業のあと、授
業終了時に音読させると、多くの児童はたどたどしい音読しかできないとい
う悲しい現実がみられることがよくあります。
  児童たちはもともと表現することが好きです。国語授業に表現よみを取
り入れると、気持ちが開放されます。声にすると身体のこわばりや緊張がと
れます。身体内にため込まれているエネルギーが外へ放出することになり、
開放されます。身体が開き、身体内部の応答関係ができ、身体レベルと言葉
レベルとの通路が緊密となり、身体に響かせ、肌に感じとって理解し、それ
を音声表現できるようになります。アタマだけでなく、身体に響かせた読み
深めになります。話し合い学習でくどくどと問答するより、音声表現による
学習の方が人物の心理感情の綾がよりこまやかに理解でき、音声で表現でき
るようになります。
  音声表現をすることにより、話し合いの分析中心の読解指導から、理解
を声の表現に一段高めた体感を伴った読解指導へと移行できます。音声表現
することで意味内容の掘り下げが身体に響いて出現するようになります。自
分の内なる声がもろに出現して、潜在している内言の表現力を鍛え、想起し
た心象を声で形象化する能力が身につくようになります。
  書かれている内容を楽しむだけでなく、音声を楽しむ、語句と語句との
響き合いを楽しむ、リズムを楽しむことができルyうになります。声で内容を
自由に創造することができるようになります。声の調子や間とりかたなど、
工夫ひとつで、自分の読み方を自由に創り上げていく楽しみや喜びが覚えま
す。表現することに充実感を覚えるようになります。声に出すことで、新た
に見えてくるものがたくさんあります。


3、音読で読みとりや理解の程度がつかめる

  表現よみ学習は、文章を理解しつつ声で表現し、声で表現しつつ内容理
解を深めるという、声による「理解」と「表現」の相互作用からなる学習活
動です。声に出して読むことは音声で解釈を深めることです。音声表現する
ことは文章から意味を引き出すことです。声によってイメージを浮かべ、人
物に共感したり反発したりしながら状況の中に入り込んで読み進めることに
なります。音声表現は、ありありとした表象と人物の感情を引き出すエネル
ギー源となるのです。
  音声のあらわれは、自分が文章内容をどう理解しているかが正直に現れ
出てきます。読みとりの程度、音声表現能力の程度を示しています。教師は
そこの実態から授業の方向、進め方を決めることができます。また、声には
その時点の心理感情を反映しています。書かれている事柄だけでなく、読み
手の感じたこと、どう理解し感情反応しているかが声となって現れ出てきて
います。
  自分の音読を、自分の耳で聞くと、自分の内容理解の程度を知ることが
できます。黙読だけで読んでいた時には気づかなかったものが音読すると出
現してきます。黙読ではすんなりと読んでいたものが、音読するとこう音声
表現(めりはりづけ)しなくちゃとよけいな神経をいろいろ使うようになり
ます。
  音読すると、今まで自分の内容理解の不足に気づきます。また、文章を
声に出して読むことは、声で解釈を深めることであり、新たな内容理解がお
こり、よりぴったりした音声表現を求めるようになります。


4、めりはりの工夫で、深い読みとりへ導ける

  音声表現なしの、黙読だけの一問一答授業では、何が書いてあるか、事
柄を知るだけの授業となります。音声表現すると、登場人物に感情同化し、
登場人物になって行動し、わくわくどきどきの準体験をしながら想像世界に
生きるようになります。声による内容表現は、黙読だけでの話し合い学習と
比べてずっと深い文学的体験ができるようになります。
  音読授業では記号づけ指導がよく行われます。音読記号の指導は、一本
調子な読み方でない読み方、メリハリのある読み方を工夫する指導です。音
声に表情を与えて、どう文章内容にぴったりした音声表情をつけて読むかの
指導です。音声に表情を与えることで、文章内容をより深く身体に響かせて
理解できるようになります。より深い読みとりへ導き、感動を声に表したり
できます。
  声に出すことで、気持ちが入ります、気持ちをのせようとします、理解
したことを声にのせようとします。メリハリづけには、高低、緩急、強弱、
抑揚、声量の変化などがあります。また場面の雰囲気、情感を出すために、
静かによむ、明るくよむ、しみじみよむ、怒り狂って読むなどのメリハリづ
けもあります。これらのメリハリによって情感豊かに臨場感のある音声表現
ができるようになります。言葉の響きを楽しむようにもなります。


5、声にすることで、集中力や記憶力が高まる

  ひとたび音声表現すると、黙読時と比べるといいかげんな飛ばし読みや
流し読み、ずらずら読みができなくなります。一字一句をていねいに拾って、
感情をこめて音声表現しなければならなくなります。意味内容を音声に乗せ
て音声表現しなければならなくなります。当然に読み手には意識の集中が要
求されてきます。音読は黙読とくらべて緊張が求められ、内的体験がいっそ
う切実となり、文章の内部世界への入り込み度が深くなります。音読すると
黙読とくらべて集中して文章へ立ち向かう積極的な態度が形成されます。
  最近の脳科学の研究によると、音読すると脳の前頭前野が活性化し、そ
れが効果的な刺激となって脳機能を向上させ、記憶力と集中力と高めるとい
う結果が出ています。脳の中で音声に反応する細胞と神経回路が強固になり、
音読は黙読と比べ、目、耳、口、声帯などをすべて使用するので脳への刺激
が多くなり、脳の活性化が活発になるということです。
  みんなで声を合わせて音声表現すると、読みの能力の劣っている子も、
他児童と調子を合わせて読まざるを得なくなります。どさくさに紛れていつ
のまにか上手になるという引き上げ効果があります。気の弱い子、音声表情
をドカーンと出せない気の小さい子、読み方の遅い子などをも巻き込んで、
集中して、緊張感を持って音声表現するようになります。みんなで読めば気
楽に個人的な負担なく音声表現できます。みんなの中で楽しく表現する喜び
も得られます。
   

6、文体が身体化し、作文力が身につく

  音声表現を繰り返しているうちにいつの間にか虫食い個所のように文章
のあちらこちらを暗唱してしまうようになり、やがて全文章を暗誦してしま
うようにもなります。とくに低学年の国語教材の文章は短いですし、詩もそ
うですが、いつのまにか暗唱してしまいます。表現よみ練習を繰り返してい
くと、文章が身体に沈殿して刷り込まれま文章が身体化し、自己の新しい認
識方法に転移し、新しい自己形成をしていくようになります。
  暗唱で身体に覚えてしまった、その文章にある単語や語句やひとまとま
りの言い方(フレーズ・言い回し方)や文型や文章構成の仕方が、日常話し
たり書いたりする時に本人が無意識のうちに利用し、役立っていくようにな
ります。知らず知らずのうちにそれらの語句やフレーズを利用し、それらの
文型や文章構造に似せた言語表現をしていくようになります。
  音声表現を繰り返して身体に沈殿することで、語いが増え、文体が豊か
になります。理解語いが表現語いに転化し、日常生活で話したり書いたりの
使用に使われるようになります。文章の構文は思考の枠組みであり、推論過
程や論証をするためのパターンの枠組みです。繰り返して音声表現をするこ
とにより、いつのまにか日常表現に使っていけるようになります。


7、豊かな言語感覚が身につく

   表現よみは身体を使って、身体に響かせて、身体まるごとで文章内容
を音声で表現します。音声表現なしの、一問一答式の話し合い授業だけでは
身につかなかった文章内容を身体に響かせて、身体まるごとで読みとる力が
育成できるようになります。文章内容を納得のいくまで身体に響かせて音声
表現していく中で、日本語の美的な音声表現とはどんなものかが分かるよう
になってきます。美しい響きの日本語を作り出す努力をするようになります。
そうした担い手を育成することになります。
  音声表現は、言葉の美的感性を高めます。日本語の美しさ、日本語のつ
らなりの表現の美しさ、言葉の響き合いの美しさなどを楽しむことができま
す。他人の話しを聞いたり、文章を読んだりしたとき、心のこもった美しい
表現であるかどうかを注意深く聞き分けられるようになります。こうして美
しい日本語を追い求め、作り出して使えるようになります。

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