第13節・説明文の表現よみ指導 2012・11・28記 「花を見つける手がかり」の授業づくり はじめに 本章の第1節から第12節までの論稿は、荒木が表現よみ実践研究会で 提案し、出席者たちからの助言を受けて若干の補筆を加えて、ここに掲載し ています。 下記の論稿は、朝比奈昭元先生(元東京都練馬区立谷原小学校)が表現 よみ実践研究会に提案し、若干の補筆を加えて、ここに寄稿していただいた ものです。朝比奈先生からここに掲載することの快諾を得て、再録していま す。寄稿していただいた朝比奈先生、ありがとう。 説明文「花を見つける手がかり」は、教育出版の4年上に掲載されてい る教材文です。朝比奈先生は、「花を見つける手がかり」の授業を表現よみ 指導を中心活動にして指導計画案を立てています。なお、朝比奈先生は一読 総合法の読解指導方法で指導計画案の立案をしています。 読者の方々が説明文の音声表現の指導をしたり、説明文の音声表現の授 業計画・学習指導計画案を立てたりするときの参考にしていただけたらうれ しく思います。 説明文「花を見つける手がかり」の授業づくり 2010年4月10日 朝比奈 昭元 1、教材について この教材のオリジナルは、羽田澄子監督の記録映画『もんしろちょう』 (1968年、岩波)である。それをテレビの『生きものばんざい』シリースで リメイクし、『モンシロチョウの恋』(1974年)として放映された。そのシ リーズが金の星社から『モンシロチョウのなぞ』として出版され、その前半 部分が教科書向けにリライトされた教材文である。 2、題材について (1)『モンシロチョウのなぞ』(吉原順平文・大田次郎監修・金の星社・ 1976) 本書では、前半部分が「モンシロチョウは何を手がかりに花を見つける か」、後半部分が「モンシロチョウのオスは、どのようにしてメスを見分け るか」という、二つの疑問について実験・観察をもとに、それが解明されて いくプロセスが書かれている。 (2)仮説・実験・検証型の説明文 この題材では、モンシロチョウの生態についての多くの謎の中から、 「モンシロチョウは何を手がかりにして花をみつけるか」という一側面が切 り取られ、選び出されて、対象化されています。 モンシロチョウが菜の花などにとまって、密を吸う姿は私たちには見慣 れた光景です。しかし、「モンシロチョウは何を手がかりにして花をみつけ るか」については、長い間、謎とされてきました。この疑問に科学者が挑戦 し、仮説→実験→検証という科学的な方法によって、次第にその謎が解明さ れていく過程が書かれています。日ごろ、見慣れた自然の営みの中にも多く の謎が隠されていること、その疑問を解明しようとする科学者の姿勢、着想 のすばらしさ、おもしろさ、科学的な思考方法を児童が学ぶにふさわしい教 材であると考えます。 3、文章分析 (1)文章の構成 この文章は、大きく六つの意味段落で構成されています。 [1]モンシロチョウの紹介……形式段落1 [2]問題提示……形式段落2 [3]実験方法と準備……形式段落3・4 [4]実験観察 実験1 どの花に集まるか……形式段落5・6・7・8 実験2 色かにおいか……形式段落9・10 実験3 色か形か……形式段落11・12・13 [5]結論……形式段落14 [6]まとめ・筆者の考え……形式段落15 (2)文章表現の特徴……消去法という文章展開の論理 ある現象を論理的に解明するためには、あらかじめ仮説がたてられます。 いったい、もんしろちょうは、何を手がかりにして、花を 見つけるのでしょう。花の色でしょうか。形でしょうか。 それとも、においでしょうか。 このように、モンシロチョウが花を見つける手がかりとして推測・予測さ れる色、形、においの三つが選択肢として取り上げられています。その真偽 の検証は、実験・観察によって確かめられます。 [実験・観察1] たくさんのモンシロチョウを、赤・黄・むらさき・青と四種類の花が咲 いている花壇に放します。その結果、チョウがよく集まる花とそうでない花 とがあることが分かります。赤い花には、あまり集まらないことも分かりま す。 この実験で、花によって集まり方が異なっても、チョウが花に集まると いうことが確認されます。ここで問題になるのが、なぜ赤い花にはあまり集 まらないかという疑問です。 そこで、考えられることは、赤い花がたまたま、においを出していなか ったのではないかという仮定的推測です。ここで、色かにおいかを確かめる ために別の実験が行われます。 [実験・観察2] 今度は、においのしないプラスチックの造花(赤・黄・むらさき・青) を使って行われます。その結果、チョウはプラスチックの造花にも集まり、 中には密を吸おうとするものもいることが確認されます。ということは、に おいではなく、色か形ということになります。こうして、においが消去され ます。この場合も、赤い花にはあまりやって来ないのです。そこで、花の色 か形かを確かめるために、次の実験が行われます。 [実験・観察3] 今度は、花の代わりに、四角い色紙を使ってみます。その結果、チョウ は色紙にも集まり、中には密を吸おうとするものもいます。念のため、赤い 色紙には、密をつけたものを用意したのですが、チョウは来ませんでした。 この実験で、形が消去され、モンシロチョウは色によって花を見分ける こと、赤い花は見えないらしいことが確認されたのです。このように、消去 法を用いて偽なるもの、否なるものを順次消していき、最後に残ったものを 真とする科学的な方法、考え方を学ばせたい。 4、全体計画 (1)全体の指導目標 @もんしろちょうが花を見つける手がかりは、色か、形か、においかを消 去法で解いていくおもしろさが分かる。 Aもんしろちょうは、色で花を見分けることが分かる。 B筆者の書きぶりから、筆者の科学的な態度、考え方を学ぶことができる。 C筆者の論運び(論理的な筋道)が音声にのるように表現よみをする。特に 目立たせる個所、ゆっくり読む個所に気をつけて表現よみをする。 (2)全体の指導計画 第1時………(立ち止り範囲、形式段落1・2) 指導目標 ・題名読みができる。(読みの構えづくりをする) ・もんしろちょうについて知っていることを発表できる。 ・もんしろちょうの花を見つける手がかりについて問題意識がもて る。 ・筆者の問題意識、論運びにそった記号づけをしたりして表現よみ を試みる。 読み取らせたい内容 ・題名から浮かんだことや予想されること ・もんしろちょうについて知っていること ・もんしろちょうが花を見つける手がかりは、色か、形か、においか。 取り上げたい表現 ・手がかり ・日本じゅうどこにでもいる ・あるふれた ・花の色、形、におい 学習活動 ・発表・話し合い ・ひとり読み ・小見出しづけ ・表現よみ 第2時………(立ち止り範囲、形式段落3・4) 指導目標 ・大がかりな実験の必要性が分かる。 読み取らせたい内容 ・実験には、たくさんのもんしろちょうが必要なわけ ・青虫から育てなければならないわけ 取り上げたい表現 ・日高敏高先生と東京農工大学の人たち ・大がかりな実験 ・一度に百ぴき、二百ぴき ・えいがのカメラで記録して ・キャベツをえさに青虫を育て 学習活動 ・前時までの想起 ・ひとり読み ・話し合い ・小見出しづけ ・表現よみ 第3時………(立ち止り範囲、形式段落5・6) 指導目標 ・いっせいに、花壇に向かって飛んでいくちょうの動きが読みとれる。 ・筆者の問題意識、論運びにそった表現よみを試みる。 読み取らせたい内容 ・実験1 ・花壇には、四種類の色の花が咲いていること ・生まれてから、花を見たことのないちょうを使うわけ 取り上げたい表現 ・花だんの花 ・赤・黄・むらさき・青 ・生まれてから見たことのない ・生まれながらに、花を見つける力 学習活動 ・前時までの想起 ・ひとり読み ・話し合い ・小見出しづけ ・表現よみ 第4時………(立ち止り範囲、形式段落7・8) 指導目標 ・ちょうがよく集まる花とそうでない花があること、赤い花にはあま り集まらないことが分かる。 ・たまたま、赤い花に、においがなかったのではないかということか ら、別の実験が必要になったことが分かる。 ・筆者の問題意識、論運びにそった表現よみを試みる。 読み取らせたい内容 ・ちょうのよく集まる花とそうでない花とがあること ・赤い花には、あまり集まらないこと ・早計に色と決められないわけ ・色かにおいかを確かめるための実験が必要なこと ・科学者の科学的なものの見方・態度 取り上げたい表現 ・ちょうのよく集まる花と、そうでない花 ・赤い花には、あまり来ていない ・でも ・赤い花がおいしそうなにおいを出していない ・色か、においか ・別の実験 学習活動 ・前時までの想起 ・ひとり読み ・話し合い ・小見出しづけ ・表現よみ 第5時………(立ち止り範囲、形式段落9・10) 指導目標 ・プラスチックの造花を使うことの意味が分かる。 ・ちょうは、プラスチックの造花にも集まり、密をすおうとしたこと が分かる。 ・この実験で、においが消去されたことがわかる。 ・筆者の問題意識、論運びにそった表現よみを試みる。 読み取らせたい内容 ・プラスチックの造花を使うわけ ・もんしろちょうが飛んでいく様子、密をすおうとする様子 ・においが消去され、色か形かにしぼられていくこと ・この場合にも、赤い花にはあまり来ないこと 取り上げたい表現 ・においのしない花 ・プラスチックの造花 ・赤、黄、むらさき、青 ・みつをすおうとするもの ・においではなく、花の色か形 ・赤い花にはあまりやってきません 学習活動 ・前時までの想起 ・ひとり読み ・話し合い ・小見出しづけ ・表現よみ 第6時………(立ち止り範囲、形式段落11・12・13) 指導目標 ・四角い色紙を使うことの意味が分かる。 ・ちょうは、色紙にも集まり、密を吸おうとしたことがわかる。 ・赤い色紙には、密をつけてみたが、それにも来なかったことが分か る。 ・筆者の問題意識、論運びにそった表現よみを試みる。 読み取らせたい内容 ・四角い色紙を使うわけ ・色紙の色は前と同じ四種類 ・臨場感あふれるもんしろちょうの動き ・むらさき、黄色、青の順に集まったこと ・赤い色紙に密をつけたわけ 取り上げたい表現 ・四角い色紙 ・花の形が問題なのではなく ・色は前と同じ4種類 ・二百ぴきほど ・ねんおため ・みつをつけたもの ・ます〜。ます〜。ます〜。 学習活動 ・前時までの想起 ・ひとり読み ・話し合い ・小見出しづけ ・表現よみ 第7時………(立ち止り範囲、形式段落14・15) 指導目標 ・三回目の実験で、形が消去されたことが分かる。 ・もんしろちょうは色によって花を見つけること、赤い花は見えない らしいことがわかる。 ・筆者の科学的な態度、考え方が読みとれる。 ・筆者の問題意識、論運びにそった表現よみを試みる。 読み取らせたい内容 ・形が消去されたこと ・もんしろちょうは色によって花を見つけること、赤い花は見えない らしいこと、 ・赤い花にも、ちょうが来るわけ ・筆者の自然に対する態度、考え方 取り上げたい表現 ・このような実験から ・色によって花を見つけること ・赤い花は見えないらしいこと ・黄色いおしべ・めしべ ・すじ道を立てて ・実験と観察 ・その生活の仕組み 学習活動 ・前時までの想起 ・ひとり読み ・話し合い ・小見出しづけ ・表現よみ 第8時………(立ち止り範囲、形式段落全) 指導目標 ・聞き手に正しく伝わるように、表現よみをする。 ・自分の好きな、読みたい文章個所を表現よみ発表をする。 ・副題づけや感想発表をする。 学習活動 ・表現よみ ・副題づけ、話し合い 「花を見つける手がかり」全文の 音声表現のしかた 下記に、説明文「花を見つける手がかり」全文章の詳細な、逐条的な音声 表現のしかたが書いてあります。これらを読むことで、読者のみなさんは、 どこの文章個所を、どのように音声表現していけばよいかの有益な参考意見 を得ることができるでしょう。 これらの全部を指導することはとてもできません。これらを参考にして、 読者のみなさんが必要と思われる表現よみの指導事項をピックアップなさる ことを希望します。1時間の授業の中で、一個所でも、二個所でも、三個所 でも、音声表現の指導に役立てていただくことを希望します。いいかげんな でき具合にして終わらせるのではなく、毎時間、1個所でも、2個所でも、 ある程度は徹底して指導しましょう。ある程度まで上手になるまで指導しま しょう。こうした指導が、他の文章個所を音声表現するときの大きな力とな って働いていくようになるのです。 ★第1時の「形式段落1・2」の音声表現のしかた★ 花を見つける手がかり 吉原順平 「形式段落1」の本文………<もんしろちょうの紹介> もんしろちょうは、日本じゅうどこにでもいる、ありふれた ちょうです。みなさんも知っているように、もんしろちょうは、 花にとまって、そのみつをすいます。 この段落の音声表現のしかた 筆者は、児童が題材について興味関心が持てるようにと、冒頭で日常的な 話材を出して、児童の興味を引きつけようとしている。もんしろちょうは、 児童の興味を引き付ける話材である。筆者は、読み手がもんしろちょうにつ いての知識やイメージを喚起しやすいように、やさしく語りかけるように書 き出している。 ・「もんしろちょうは、日本中どこ〜」で始まる冒頭は、語りかけるように ゆっくり、はっきりと読み出す。 ・「日本じゅうどこにでもいる、ありふれたちょうです」は親しみをこめて 目立たせて読む。 ・「みなさんも知っているように」は、読者を意識し、問いかけて語りかけ ている口調で読む。 「形式段落2」の本文………<問題提起> いったい、もんしろちょうは、何を手がかりにして、花を見 つけるのでしょう。花の色でしょうか。形でしょうか。それと も、においでしょうか。もんしろちょうにきいてみればわかる のですが、そんなわけにはいきません。 この段落の音声表現のしかた 筆者は、もんしろちょうの飛び方でもなく、羽の色や形でもなく、体の仕 組みでもなく、もんしろちょうは何を手がかりにして花を見つけるのか、と いう一側面に限定して問題を提起している。筆者のこの思いをこめてこの段 落全体を読み進めていく。 ・「いったい、〜花を見つけるのでしょう」の「いったい」は陳述副詞であ り、下に呼応する「みつけるのでしょう」までかかるように音声表現し ていく。「いったい」は、疑問を強める言い方であり、筆者の問題意識 に添うような音調で音声表現する。 ・「花の色でしょうか。形でしょうか。それとも、においでしょうか」 ここで筆者は、予想される手がかりとして、色、形、においの三つを取り 上げ、読み手に問いかけている。ここは「色・形・におい」を選択的に、 対比して、間をあけて、区別して、取り立てるように音声表現する。 ★第2時の「形式段落3・4」の音声表現のしかた★ 「形式段落3」の本文………<実験者の紹介> 日高敏高先生と東京農工大学の人たちは、このぎもんをとく ために、大がかりな実験をしました。 この段落の音声表現のしかた 筆者は、この疑問を解くために、大がかりな実験をしたことを紹介してい る。この段落は、実験者を紹介しているという思いをこめて読み進める。 ・「日高敏高先生と東京農工大学の人たち」は、固有名詞であり、固有名詞 や数字などは、はっきり、ゆっくり、目立たせて読むようにする。 ・「大がかりな」を強調して読む。 「形式段落4」の本文………<実験の方法と準備> 実験には、たくさんのもんしろちょうが必要です。一度に百 ぴき、二百ぴきというもんしろちょうを放し、花を見つける様 子をえいがのカメラで記録して、くわしく観察するためです。 キャベツをえさに青虫を育て、実験に使うもんしろちょうを用 意しました。 この段落の音声表現のしかた 筆者は、この段落で、実験にはたくさんのもんしろちょうが必要な理由を 語っている。その準備が書いてある三文を、意味内容のひとまとまりで区切 って、聞き手にわかりやすく伝わるように読んでいく。文字を読むのでなく、 文字を声にするのでなく、意味内容が声に表れ出るように音声表現すること が大切である。 ・A「実験には、たくさんのもんしろちょうが必要です。」 ・B「一度に百ぴき、二百ぴきというもんしろちょうを放し、花を見つける 様子をえいがのカメラで記録して、くわしく観察するためです。 Bは、Aのフォロー文であり、理由づけである。しかも、Bは重複文の上 に、文末にきて「ため」(形式名詞)でまとめられるという複雑な文であ って、分かりずらい。「一度に」の前に「なぜなら・それは」などの接続 詞をアタマにおいて読むと、意味内容のつながりがはっきりした読み方に なる。聞き手に分かりやすく伝わるように配慮して読みすすめることが大 事である。 ★第3時の「形式段落5・6」の音声表現のしかた★ 「形式段落5」の本文………<実験1> 実験は、まず、花だんの花を使って始めました。花だんには、 赤・黄・むらさき・青と四種類の色の花がさいています。少し はなれた所で、生まれてから花を見たことのないもんしろちょ うを、いっせいに放しました。 この段落の音声表現のしかた 第3時の立ち止り範囲は、三つの形式段落からなっている。花壇に放たれ たもんしろちょうの動きがよく分かるように音声表現いくことだ。実験1は、 四種類(赤・黄・むらさき、青)の花が咲いている花壇の花を使って行われ る。 ・「実験は、まず、花だんの花を使って始めました。」 「まず」は、最初の実験であることを示しているので、強調する音調で読 む。 ・「花だんの花」は、実験の重要な条件なので、目立たせて読む。「赤・ 黄・むらさき、青」も重要な条件なので、一つ一つをピックアップするよ うに、ゆっくりめに取立てて読む。 ・「少しはなれた所で」は、どこから少しはなれた所なのか、「どこ」から の距離をイメージ化して読みたいところである。 ・「生まれてから花を見たことのないもんしろちょうを」の「生まれてから 花を見たことのない」は、大事な実験条件であると同時に、もんしろちょ うにかかる連体修飾になっているので、なめらかにつながるように音声表 現することが大切である。 「形式段落6」の本文………<実験1のつづき> もんしろちょうは、いっせいに、花だんに向かって飛んでい きます。もんしろちょうは、生まれながらに、花を見つける力 を身につけているようです。 この段落の音声表現のしかた 「もんしろちょうは、いっせいに、花だんに向かって飛んでいきます。」 は、観察者と一体になって、ちょうの行方を目で追うような感じで読む。ち ょうの飛んでいく流れをイメージしながら読み進めていく。 ・「いきます」は、現在の継続態で、ちょうの動きが見えるように描写さ れているので、臨場感のある音声表現を試みてみよう。 ・「いっせいに」は、花壇に向かって直進するちょうの動きを表しているの で、強めて読む。 ・第6段落は、前文のちょうの動きを見ての筆者の判断である。「ようで す」は推量表現なので、推し量る気持ちをこめて読む。 ★第4時の「形式段落7・8」の音声表現のしかた★ 「形式段落7」の本文………<実験1のつづき> 花だんは、たちまち、ちょうでいっぱいになってしましまし た。注意して見ると、ちょうのよく集まる花と、そうでない花 とがあります。赤い花には、あまり来ていないようです。もん しろちょうは、色で花を見分けているのでしょうか。 この段落の音声表現のしかた 「花だんは、たちまち、ちょうでいっぱいになってしまいました。」 ・ここは完了形である。「てしまいました」は、補助動詞であり、観察者の 驚きや感動が伝えられる音調にして読むとよい。 ・「注意して見ると」からは、観察者の目の確かさ、鋭さが感じとれる。 「注意して見ると」のあとで軽く間をあけて次への期待を持たせるとよい。 ・「ちょうのよく集まる花と、そうでない花とがあります」は、二つを対比 的に区別して、取り立てて読むとよい。 ・「赤い花には」は、目立たせて読む。 ・「もんしろちょうは、色で花を見分けているのでしょうか。」 ここは、前文を受けての筆者の判断(推量)であるから、筆者に寄りそい ながら、読者に問いかけている音調にして読む。 「形式段落8」の本文………<実験1の検証と仮説> でも、そう決めてしまうのは、ちょっと早すぎます。たまた ま、花だんに植えた赤い花が、おいしそうなにおいを出してい ないのかもしれないからです。色か、においか、───そこの ところをたしかめるには、別の実験をしなければなりません。 この段落の音声表現のしかた この段落は、形式段落7の「赤い花には、あまり来ていないようです」を 受けての筆者の検証であり、吟味である。もんしろちょうが、赤い花にはあ まり集まらなかったことから、色か、においか、を更に確かめる実験を行う ことになる。 ・「でも、そう決めてしまうのは、ちょっと早すぎます」 ここで筆者は、「でも」と逆接を使って、早計に色と決めてしまうことを 戒めている。筆者の慎重な姿勢、判断に迫れるような音調で、強めの出だし で音声表現していくとよい。 ・「たまたま、花だんに植えた赤い花が、おいしそうなにおいを出してい ないのかもしれないからです」 ここは、前文を受けての筆者の推量・判断である。「いないのかもしれな い」という二重否定の不確かな判断である。筆者の慎重な姿勢が感じとれる ような音調で読むとよい。「から」は、原因理由を示す助詞であり、前文を 理由づけていることをアタマにおいて読むとよい。 ・「色か、においか、───そこのところを」は、ひとつながりになる意識 で読む。「そこ」の指示内容(色か、においか、どっちだ)をはっきりと アタマに入れてつながるように読み進めていくとよい。 ・「色か、においか、───そこのところをたしかめるには、別の実験をし なければなりません。」の「か」は、選択を示す助詞である。したがって、 「色とにおい」を選択的にピックアップするように取り立てて読む。ダッシ ュには「色か、においか」を読み手に訴えかけようとする筆者の強い思いが こめられている。したがって、「色か、(間)においか」軽く間をあける。 ・「しなければなりません。」は、筆者の強い意志が伝わるように、強調し て、はっきりと読む。 ★第5時の「形式段落9・10」の音声表現のしかた★ 「形式段落9」の本文………<実験2とその検証> そこで、今度は、においのしない花───プラスチックの造 花を使うことにしました。色は、花だんのときと同じ赤・黄・ むらさき・青の四種類です。 この段落の音声表現のしかた 第5時の立ち止り範囲は、二つの形式段落で構成されている。実験1とそ の検証を受けて、においのしないプラスチックの造花を使う実験である。 実験1を受けて、ちょうが集まる花にちらばりがあることから、色かにお いかを確かめるための実験が行われる。 「そこで、今度は、においのしない花───プラスチックの造花を使うこ とにしました」 ・「そこで、今度は」には、実験2に臨む筆者の意気込みがこめられている。 出だしは、転調(前の段落を閉じて、新しい場面・事柄を開くように明る く読み出す)して読み出す。 ・ダッシュは、同質のものに置き換える働きを担っているので、「つまり・ 実は・言い換えると」などのつぶやきを入れるぐらいの間をあけるとよい。 ・「、においのしない花───プラスチックの造花」は、対比するようにし て、取り立てて読む。 ・「色は、花だんのときと同じ赤・黄・むらさき・青の四種類です」 色が同じことは、実験の大事な条件なので、「赤・黄・むらさき・青」は、 一つ一つ取り立てるように、はっきりと区分けして読む。 「形式段落10」の本文………<実験2とその検証つづき> もんしろちょうを放すと、やはり、まっすぐに造花に向かっ て飛んでいきました。止まって、みつをすおうとするものもい ます。プラスチックの造花には、みつもないし、においもあり ません。ですから、もんしろちょうは、においではなく、花の 色か形にひかれていると考えられるでしょう。そして、造花の 場合も、赤い花には、あまりやってきませんでした。 この段落の音声表現のしかた 「もんしろちょうを放すと、やはり、まっすぐに造花に向かって飛んでいき ました。」 ・ 実験の開始である。文頭で間をあけ、転調して読み出す。 ・「やはり」には、実験1と同じようにという意味がこめられているので、 「飛んでいきました」まで係るように、強めの音調で読んでいく。 ・「止まって、みつをすおうとするものもいます。」は、実験の重要なポイ ントになるので、ちょうの動きをイメージしながら、ていねいに読んでい く。 ・「ですから、もんしろちょうは、においではなく、花の色か形にひかれて いると考えられるでしょう。」 ここは、実験結果を受けての筆者の推量的判断である。推し量っている気 持ちをこめて読む。 ・「ですから」は、実験の結果を受けての順接であるから、後ろの文に自然 につながるようにな音調で読んでいく。 ・「においではなく、花の色か形にひかれて」は、一つ一つ選択してるよう に際立てて読む。 ・「そして、造花の場合も」は、実験1の場合もそうだったという思いをこ めて、「赤い花には、あまりやってきませんでした」を際立ててはっきり と読む。 ★第6時の「形式段落11・12・13」の音声表現のしかた★ 形式段落11の本文………<実験3の準備> 次の実験では、花の代わりに、四角い色紙を使ってみました。 色紙にも集まってくれば、花の形が問題なのではなく、色だけ が、もんしろちょうをひきつけているということになるでしょ う。用意した色は、前と同じ四種類です。もんしろちょうは、 色紙を花だと思ってくれるでしょうか。 この段落の音声表現のしかた 実験2で、においが消去されたので、色か、形か、を確かめるための実験 が行われることになる。 ・「次の実験では〜」は、期待感をこめて、文頭を転調して読み出す。 ・「花の代わりに、四角い色紙」は、色か、形か、を検証するための大事な 条件である。二つを対比させるように際立てて読む。 「色紙にも集まってくれば、花の形が問題なのではなく、色だけが、もん しろちょうをひきつけているということになるでしょう。」 ・ここは、筆者の仮定的判断である。しかも、筆者の期待感もこめられてい る。ここは、筆者の思い、期待感に寄りそった音調で読んでいく。 ・「用意した色は、前と同じ四種類です。」は、四つの色を思い浮かべなが ら音声表現していく。 ・「花の形が問題なのではなく、色だけが、もんしろちょうをひきつけてい る」は、はっきりした発音で目立たせて、強調して読んでいく。 形式段落12の本文………<実験3> いよいよ、二百ぴきほどのもんしろちょうを放してみました。 ただの紙なのに、やはり、ちょうは集まってきます。むらさき の色紙に止まったものもいます。黄色の色紙に止まったものも います。止まったちょうは、長い口をのばして、みつをすおう としています。もんしろちょうは、色紙を花だと思っているよ うです。 この段落の音声表現のしかた 放たれた二百匹ほどのもんしろちょうは、次々と色紙に止まる。密を吸お うとするものもいる様子が書かれている。 ・「いよいよ」には、筆者の期待感がこめられている。その思いをこめて読 んでいく。 ・「放してみました」これまでは、「放しました」「放すと」のように客観 性の強い表現になっている。「放してみました」には、色紙に向かって飛ん でいってほしいという観察者の思いが感じられ、主観性の強い表現になって いる。「てみました」補助動詞の試行態の働きに注目させて読みとらせ、表 現よみさせたい。 ・「ただの紙なのに、やはり、ちょうは集まってきます。」 ここは、前段の「色紙にも集まってくれば」という観察者の期待と結びつ けながら読ませたい。「ただの紙なのに」には、観察者の予測・期待が的中 したことへの感動さえ感じとられる。「やはり」と「集まってきました」と を呼応させながら、際立てて読むようにする。 ・「集まってきます」これまで二回の実験では、「花だんい向かって飛んで いくます」「造花に向かって飛んでいきました」のように、観察者がちょう を目で追う視点で描かれている。ということは、観察者が、かなり間近でち ょうを見ているということである。そのことは、「むらさきの色に止まった ものもいます」「黄色の色に止まったものもいます」「止まったちょうは〜 みつをすおうとしてしています」のように、ちょうの動きの細部がくわしく 描写されていることからも分かる。 しかも、現在形で、今のことが生き生きと描かれているので、臨場感に富 むように、躍動的に読んでいきたい。今のことの情景が一つ一つをたたみか けるように重ねて音声表現していきたい。 ・「もんしろちょうは、色紙を花だと思っているようです。」 ここは、ちょうの動きを見ての筆者の推量的判断である。筆者の確信的な 判断(推量)をこめて読みたい。 形式段落13の本文………<実験3の検証> 集まり方を色別に調べてみました。いちばん集まったのはむ らさき、二番めが黄色、青に来たものは少なく、赤には、ほと んど来ませんでした。ねんのため、赤い色紙にみつをつけたも のを用意してみましたが、これにもちょうは来ませんでした。 この段落の音声表現のしかた 実験の結果から、むらさき・黄・青・赤(赤にはほとんど集まらない)の 順に集まったことが書かれている。 ・「いちばん集まったのはむらさき、二番めが黄色、青に来たものは少なく、 赤には、ほとんど来ませんでした。」 ・ここで、初めて色別の集まり方がくわしく書かれている。「むらさき・ 黄・青・赤」を一つ一つ区別して、取り立てるように読む。 ・筆者は、一貫して、ちょうが赤い色にはあつまらないことに疑念をもって いたことが分かる。そこで、「ねんのため」赤い色紙に密をつけたものを 用意したのである。 ・「ねんのため」は、「用意してみましたが」までかかる勢いで読み進め、 「が」のあとで軽く間をあける。「来ませんでした」をはっきりと読む。 ・「いちばん」には何が、にばんには何が、青はどんなで、赤はこうだった、 という区分けをはっきりと声に出したい。 ★第7時の「形式段落14・15」の音声表現のしかた★ 形式段落14の本文………<結論> このような実験から、もんしろちょうは、色によって花を見 つけること、赤い花は見えないらしいことがわかりました。 「そんなことをいったって、赤い花にもんしろちょうが来てい るのを見たことがあるよ。」 と言う人が、いるかもしれません。そういう人は、ちょっと思 い出してください。赤い花のまん中に、黄色のおしべ・めしべ がありませんでしたか。もんしろちょうは、その黄色を目あて に、やってきたのでしょう。 この段落の音声表現のしかた この実験で、形も消去され、もんしろちょうは色で花を見分けることが結 論づけられている。最終結論個所「もんしろちょうは、色によって花を見つ けること、赤い花は見えないらしいことがわかりました。」は、きっぱりと、 はっきりと、ゆっくりと、堂々とした語り口で読み進めていく。 ・「このような実験から」の文頭で間をあけて、転調して読み出す。指示語 句の「このような」を目立たせて読む。 ・「色によって花を見つけること、赤い花は見えないらしいことがわかりま した」は、「こと」(形式名詞)で、しっかり区切って、二つを列挙して いるように読み進める。前者は確認されたことで、後者は推量的な結論で あるという思いで音声表現する。 ・「そんなことをいったって、赤い花にもんしろちょうが来ているのを見た ことがあるよ。」は、唯一の会話文である。会話文の音調にして読む。 ・「そういう人は、ちょっと思い出してください。赤い花のまん中に、黄色 のおしべ・めしべがありませんでしたか。」は、筆者の問いかけである。 やさしく語りかけ問いかけているように読む。 ・「おしべ・めしべ」については、花の仕組みをイメージしながら読む。 「形式段落15」の本文………<筆者の考え・まとめ> 昆虫は、何も語ってくれません。しかし、考え方のすじ道を 立てて、実験と観察を重ねていけば、その生活の仕組みをさぐ ることができます。 この段落の音声表現のしかた 筋道を立てて、実験・観察を重ねることの重要性について書いてある。 ・「昆虫は、何も語ってくれません」 ここは、筆者の昆虫に寄せる思いを想像しながら読んでいく。 ・「考え方のすじ道・実験と観察・生活の仕組み」を際立てて読んでいく。 ゆっくりしたテンポで、言い納めるように音声表現していく。 ・以上で、朝比奈先生からの寄稿文は終わりです。 ・一般的に、説明文の音声表現のしかたは、筆者が読者に何を伝えたいか、 訴えたいか、伝えたい・訴えたい事柄を、筆者の立場・気持ちになって音声 表現していくとよい。意味内容の論理的区切りで区切って、意味のまとまり でひとくくりにして、これをしっかりと固めて読み進めることである。また、 筆者の論理展開の筋道や論の運び方(こうだから、こうなった。こうしたから、 こうなった。こうなった、それはこうこうだったからだ)が読み声の音調・ 語勢の強弱アクセントやリズムの流れに表れ出るように音声表現することが 大切である。 説明文の授業録音 最後に、説明文の表現よみ授業の録音テープの紹介をします。そのほか説 明文の音声表現に関する指導録音テープの紹介をします。 荒木の著書の中には説明文の授業録音テープが付属しているものがありま す。それを紹介します。 説明文の1時間の授業のそっくり録音や部分録音、説明文の児童の読み声 録音、児童読み声のどこが良く、どこが悪いか、どこをどう指導していけば よいかの朗読プロや現場教師たちによる指導助言のコトバが録音されて付属 している拙著があります。物語文も付属していますが、説明文だけを下記に 紹介します。 拙著『音読指導の方法と技術』(一光社、1989)付属のカセットブック 「たんぽぽのちえ」(光村、2上)1時間全部の授業録音 「おにの話」(光村旧版、3上)授業の一部分録音 「手のしごと」(光村旧版、2下)学級児童の読み声録音 「どうぶつの赤ちゃん」(光村、1下) 児童たちの読み声について日本コトバの会講師三人による「指導助言の コトバ」と講師たちの模範読みが録音されている。 「貝塚が教えるなぞ」「またとない天敵」(光村旧版、6上) 児童たちの読み声について朗読プロ(俳優座俳優・滝田裕介)による 「指導助言のコトバ」と、滝田さんの模範読みが録音されている。 拙著『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社、2000)の付属CD 「森に生きる」(光村旧版、3上)学級児童の読み声録音と指導助言録音 |
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