音読授業を創る  そのA面とB面と    05・2・9記



    
1年生・入門期の音読指導



       
1年生の話しことばの実態


 音読指導は、パロールの指導の一領域です。はじめに1年生の話しことば
の実態について考えてみましょう。


          
遊びの中のことば


 日常の遊びの中でのおしゃべりと、教室でのあらたまった話とでは、その
質に大きな差があります。
 遊びの中でのことばはこうです。あっちだ。行くぞ。それ、走れ。だめ。
とまれ。はやく、とって。かっこいい。ずるいぞ。遊びの中の言語は、カタ
コトの言語・断片的な言語・一語表現が殆んどです。
 このような言語は、自分が一つの行動をしたとき、その行動とともに反射
的に発せられる情動的で間投詞的なことばにしか過ぎません。動物的なこと
ばといってもよいでしょう。
 これらのカタコトの言語能力しかもっていない子どもたちは、教室の中で
は筋道だった、きちんとした話ができません。彼らは、教室の中であらた
まった話をしようとすると、頭の思い浮かぶままに用言の連用形や接続助詞
で文をだらだらとつなげて話しだします。

(例) ぼくねー、きのうねー、おにいちゃんとねー、ファミコンをして
ねー、エート、おにいちゃんばっかししてねー、つまんないから、テレビ見
てたらねー、そしたら、雄太君が遊びに来たからねー、二人でまたテレビ見
たの。

          
教室の中のことば


 低学年の話しことばは、自分の経験を頭に表象として思い浮かべて、それ
をだらだらと続けるだけの話し方です。このようなだらだら文は、対象をこ
とばできちんと切り取って明確に言表する能力がなく、思考が未分化である
証拠です。このような表象ことばの水準の能力を、授業における筋道だっ
た、論理的に述べる話し方の水準に高めていく必要があります。つぎのよう
にです。

(例)ぼくは、きのう、おにいちゃんとファミコンをしました。お兄ちゃん
ばかりして、ぼくにやらしてくれません。つまらないから、テレビを見まし
た。そしたら、雄太君が遊びに来ました。二人でまたテレビを見ました。


      
筋道だった論理的な言葉操作を

 
 授業のことばは、遊びのおしゃべりのように反射的に出す片言のことばで
なく、知的で論理的なことばです。「すると。そしたら。だから。しかしな
がら。まとめると。結局。もし……ならば。こうしたら……こうなる。とし
たら」などの、論理的言語を使って思考を進めることば操作です。授業では
筋道だった論理的なことば操作が要求されます。対象をことばで切り取って
分析総合し、文法的に完備した文として、筋道だてて話さなければなりませ
ん。
 子どもは自分の言いたいことを初めからもっていて、それをことばにのせ
て話しているのではありません。ある漠然とした対象をことばで話してみ
る、そうすることによって、初めて自分が言表しようと意図していることが
しだいに明確になる、話してみることによって自分の思考が明確になる、話
してみることで対象の分析総合も明確になり認識が深まる、ということなの
です。
 遊びの中のことばをはやく脱却させ、整った文の連続で論理的に思考操作
をすることばの使い方を指導していかなければなりません。


         
気おくれせずに話す


 一年生を担任したら、まず教師が配慮すべきことは、子どもが気楽に話せ
る雰囲気を作ることです。気持ちよく声を出せるようにしてやることです。
安心して声が出せるようにしてやることです。声を出して言うことの恥ずか
しさを取り除いてやることです。
 今までは家庭では両親のたっぷりした愛情の保護のもとにあり、わがまま
も受け入れられていました。しかし、小学校に入学すると、両親も厳しい態
度をとるようになります。あまやかしの手加減をくわえるようになります。
子どもは小学校という環境の変化にとまどいを感じています。入学当初の彼
らの心は堅く閉じており、どうこうどうしたらよいかと不安やおそれを抱い
ています。
 まず、こうした心理的緊張を開放させてやる配慮が必要です。次のような
ことに配慮しましょう。

話す機会を多くつくる
  入学当初、児童の顔と氏名を覚えるのが教師の最初に必要なことです
が、出席をとるときに教師が話しかけてやります。元気よく「はい」と返事
をさせましょう。「はい、けさ、目玉焼きを食べてきました」とか「はい。
きのう、なわとびをして遊びました」とか「はい、けさ、七時10分に目を
覚ましました」とか、「はい」のあとに何か一言言わせます。教師も何か、
受け答えのことばをかけてやるようにします。

教師が積極的に話しかけてやる
  休憩時間などに、教師が話しかけたり、ふざけあったり、子どもがらく
な気持ちで学校生活が送れるように気を配ります。ふだん、教師から積極的
に話しかけたり雑談したり、おつかいやお手伝いを頼んだりします。時間を
作って、一緒に遊んだりします。

気楽に話せる雰囲気を作る
  授業中、発表で間違えた場合、気おくれを感じないように気を配りま
す。教室は間違えるところだ、間違えて当たり前、黙っているより発表する
方が勉強になるのだということを分からせます。他人の心無い嘲笑を許して
はなりません。間違えても、発表したことをほめたたえ、全員で拍手しま
す。
  音読の時間でも、多少つっかえて読んだり、声が小さかったりしても
、先ず褒めてやります。ひとこと褒めてやります。全員の前で声が出せて、
文章を読んだことを褒めてやります。
  また、今日は自信がなさそうで、読めなくても、明日はどう、あさって
は読んでね、約束できる?などのようにして無理強いをしないで、後日を待
つようにします。

話さない原因をみきわめる
  話さない原因は多様です。その原因を見極めることが大切です。頭ごな
しに「話せ。話せ」と強制してはいけません。容易に話せるような発問や話
しかけの言葉が大切です。無理に話させると登校拒否にだってなります。家
庭環境、生育歴、性格、家庭事情、交友関係、身体の状態など、様々な原因
がありましょう。個別に、気長に、根気よく、話せるように配慮した指導を
していきましょう。

          
大きな声で話す


 一年生の子どもたちの元気はつらつとした発表や受け応えは、聞いていて
かわいらしく、ほほえましく、心が洗われるように思う、誰もがそうでしょ
う。児童の中には蚊の鳴くような小さな声でしか話さない子がいます。心理
的な開放の指導が必要でしょう。また、発声器官が損傷して声がでない器質
的原因の子どももいるかもしれません。お医者さんの診察が必要でしょう。
 心理的開放を必要としている子には、次のような指導が考えられます。

(1)大きな声の子をまねさせる
  学級の中で一人や二人は、教室がわれんばかりの大声で「おはようござ
います」「さようなら」を言う子がおるものです。その子を賞賛します。そ
の子に負けないぐらいの声で言ってみよう、まねしてみようと誘いかけ、ま
ねさせます。

(2)丸の大きさの比較で分からせる
  小さな声で話す子には、黒板に小さな丸を書きます。普通の声の大きさ
の子には中程度の大きさの丸を書きます。大きな声で話す子には黒板いっぱ
いの丸を書きます。声の大きさを丸の大きさで有形化して示します。大きな
丸の声で話しましょう、大きな丸がもらえるようにがんばって声を出してみ
よう、とさ誘いかけます。

(3)大きな声で読む競争
  机が隣どうしで並んでいる青木君と山田君を起立させます。両君に同時
に、並んで、同一文章部分を読ませます。どちらが元気よく、大きな声で読
めていたかを、他児童たちに判定させます。グループのチャンピオンを決め
たりもします。

(4)大きな声を出す文章内容の例文を
  次の文章を、場面を想像して、大きな声で言わせます。
(おみこし)わっしょい、わっしょい。
(つなひき)よいしょ。よいしょ。よいしょ。
(よびかけ)おーーい、こっちだようーー。
(あいさつ)おはよーーう。さよならーー。
(おうえん)にっぽん、ちゃちゃちゃ。にっぽん、ちゃちゃちゃ。
(おうえん)かっとばせーー。かっとばせーー。
(おうえん)ふれーー、ふれーー、あかぐみ。
(おうえん)がんばれ、がんばれ、しろぐみ。

5)発音発声練習をする
  腹式呼吸の練習をします。腹から声を出す練習をします。アイウエオ体
操で練習をします。早口言葉でかつぜつの練習をします。のどを開いて、共
鳴をきかせて発声する練習をします。ばかでかい声を出さなくても、共鳴が
きいていれば、十分に響きのある、よく通る声になります。共鳴のある声の
出し方の指導はとても大切です。


          
絵について話す


 一年生の入門期の教科書は、絵が主、文章が従となっています。ですか
ら、一年生入門期の指導は、絵について話す学習活動が組まれることになり
ます。入門期の国語授業は、絵についての話す・聞くの学習活動で進められ
ることになります。
 絵について、何が書かれているか、誰が何をしているかなどについて話す
・発表する活動が組まれることになります。自分のことばで主述の整った文
で話させる指導をします。できるだけ整った文で話させます。前述した遊び
の中のことば、一語文ではいけません。教室の中のことば、筋道のあること
ばで話させます。
 「何が、どうしています。」「誰が、何をしています。」「なにが、どん
なです。」「なにが、どこに、どんなにあります。」「ここは、どこです。
なにがあります。」「なにが、どのように、どんなにあります。」のような
整った文で話させます。
 他児童たち、聞き手には、いくつの文で話したかを、自分の指を折って数
えさせます。
先生・さあ、みなさんはこの絵を見て、いくつの文で話せますか。先生は、
そうだなあ。(と言って考える)一つ……二つ……三つ……四つ………。先
生は六つの文で話せるよ。みんなはいくつの文で話せるかな。十でも二十で
も、たくさん話せた子が頭がいい子だよ。聞いてる人は、いくつの文で話し
ていたか、指を折って、数えながら聞いてごらん。
 こうして聞き手に他人の話を意識的に聞くように指示をします。これで文
意識が育てます。
 いくつの文で言えるか、一人一人に頭の中で言わせる時間を与えます。子
どもたちは自分はいくつの文で言えるだろうかと指を折りながら、考え始め
ます。教室がシーンとして、ばらばらに独り言を言いながら考えます。あち
こちから、ぼくは五つ言えた、わたしは六つ言えたと声があがります。

先生 さあ、だれかに発表してもらおう。聞いている人は、いくつの文で言
   えたか、指を折りながら数えてみよう。A君、発表してごらん。
A君 ぞうさんがなわとびをしています。女の子が赤い風船をとばしていま
   す。ねずみとぶたとりすが、おにごっこをしています。木の上に小鳥
   の巣があります。うさぎとたぬきが手をつないでいます。おにごっこ
   で、ねずみさんがにげています。
先生 さあ、A君は、いま、いくつの文で言えましたか。そうですね。六個
   の文で言えましたね。すばらしいです。聞いている人、六本の指を折
   っていましたか。

 こうすると、文意識が育ち、文で話す力が身につくだけでなく、作文を書
くときに整った文で書く力が身につきます。また、集中して聞く態度が身に
つきますね。
 こうした指導の後で、思いつきのように、目についたところをあちこちと
ばらばらに話すのではなく、場面や出来事のまとまりで話すように教師が
リードしていきます。

(例)ぞうさんたちが、なわとびをしています。ぞうと男の子が、ながなわ
をまわしています。うさぎとたぬきが手をつないでとんでいます。じょうず
にとんでいます。すぐ近くで、ねずみとぶたとりすがおにごっこをしていま
す。以下略。


        
発音・発声の基礎練習


 
●口の筋肉を柔らかくする訓練

(1)レロレロ運動(舌の運動)
  赤ちゃんをあやすつもりで、レロレロと声を出しながら舌を出したり
引っ込めたりします。いくら早口で長く続けてもレロレロの発音が明瞭でな
ければなりません。

(2)ペロペロ運動(舌の運動)
  レロレロの要領で声を出さないでやります。舌を口の外に押し出し、次
に奥に強く引っ込める練習です。これを繰り返します。

(3)グルグル運動
  口を大きく開け、舌を大きくぐるぐると右回り、左回りを継続して練習
します。

(4)下あごの上下・左右の運動
  下あごをできるだけ強く下げ、次に上げる練習をくりかえします。ま
た、下あごをできるだけ大きく左と右に移動させる練習をくりかえします。

(5)くちびるの運動
  くちびるを強く前に突き出し「ウ」と言わせます。次に後ろに強く引っ
込め「シ」と言わせます。ウ・シを繰り返し言わせます。


 ●
発音練習


(1)正しい姿勢
  イ、背筋をまっすぐに伸ばす。
  ロ、からだの緊張をなくす。とくに首や肩の力を抜く。以下、エオ練習、
    イアウ練習、アエイウ練習、発声練習の時もからだを柔らかく、軽
    くゆすったりしながらやるとよい。

  ハ、あごは軽く引く。目は正面を向く。
  二、口は大きく開ける。もぐもぐ発音をしない。
  ホ、声は前へ突き出すようにして発音する。こもった、のみこんだ、声
をださない。

(2)エオ練習
  舌の開け方と、口の開け方に注意して、力強く、はっきりと、エ・オ・
エ・オ・エ・オを繰り返す練習をする。

(3)イアウ練習
  イ・ア・ウ・イ・ア・ウをくりかえし練習します。これも舌の位置と、
口の開け方が大切です。声を前へ突き出すつもりで力強くはっきりと、一つ
一つ発音させます。だんだん早口に発音させます。「イヤウイヤウ」になり
やすので注意します。

(4)アエイウ練習
        ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ
        カ・ケ・キ・ク・ケ・コ・カ・コ
        サ・セ・シ・ス・セ・ソ・サ・ソ
        タ・テ・チ・ツ・テ・ト・タ・ト
        ナ・ネ・ニ・ヌ・ネ・ノ・ナ・ノ
        ………………………………………
  声帯に息を強く当て、一つ一つの音(おん)を明瞭に発音します。初め
はゆっくり、しだいに早口にしていきます。

(5)発声練習
  小学校低学年には、低い、小さい声でぼそぼそとしか話したり、本を読
んだりしかできない子が多くいます。大きな声で発音、発声する指導が必要
です。これについては、前述の見出し「大きな声で話す」のところで書いて
います。


      
「大きなかぶ」の実践から


(1)「うんとこしょ、どっこいしょ。」の音声表現
  子どもたちは、掛け声「うんとこしょ、どっこいしょ」を大概はリズム
調子よく、歌うように、軽い調子で読みます。これはいけません。かぶを抜
く動作をしながら言わせてみましょう。つぎに、体力測定で使用する背筋力
計を体育教師から借りてきて、それを引っ張らせながら「うんとこしょ、
どっこいしょ」と言わせてみましょう。てきめんに「うーーんとこーー
しょーー。どーーこいーーしょーー」(重い物を持ち上げるときに思わず出
る声、便秘のときにふんばるときの声)になるでしょう。

(2)入り込み法で音読
  おじいさんは、おばあさんをどんなことばで呼んだのでしょう、と問い
かけます。「おおい、おばあさん、かぶがおおきすぎて、抜かないんだよ
う。来て、てつだってくれ。」のような発表をするでしょう。それをおじい
さんになったつもりで、口にメガホンを当てる動作をして、ばあさんがいる
方角に向かって大声で呼びかけます。ほかの動物たちを呼ぶときも同じで
す。
  かぶが抜けたとき、みんなは何といったでしょう、と問いかけます。そ
れぞれの登場人物になって言わせます。しゃべりの口調、雰囲気に気をつ
かって言わせます。

(3)「かぶはぬけました」の音声表現
  この地の文は、五回くりかえして書かれています。一年生に「この文
は、どんな感じで、読みの調子で読めばいいですか」と聞くのはむりな要求
です。プロの読み手でも、そうたやすく言葉として出てこないでしょう。読
み調子を理屈で・言葉で言うのはプロでも難しいことです。
  まず教師が「明るくはずんで」「冷たく元気に」「がっかり声を落とし
て」などの読み調子の音声表現をして聞かせます。そして、その中から
「がっかり声を落として」の音調を選ばせます。こうすることによって、読
み調子に工夫が必要なことを知らせます。選んだら、それをばらばらにまね
して言わせます。よい読み声をまねさせることも一つの効果的な方法です。

(4)区切りの間
  地の文に、「かぶをおじいさんがひっぱって、おじいさんをおばあさん
がひっぱって、おばあさんをまごがひっぱって、」という文章部分がありま
す。この文章の表現よみは、区切りの間のとりかたが重要です。
  わたしのアイデアの一つを紹介します。教師が電車の車両(空のはこ)
をいくつか板書します。休まないで一息につづけて読む文章部分は一つの車
両(はこ)に、ちょっと休むところは連結器の場所にします。一つの車両の
中にはひとつながりで読むフレーズが入ります。間を開けて読む個所は連結
器部分になります。こうして車両のつながりが幾つかできます。
  幾つか連結している空の車両を書いた電車をプリントした紙を配布し
て、それにフレーズを書き込ませる方法もよいでしょう。書き込ませること
が目的ではなく音声表現するときの、間を開ける指導をすることが目的で
す。なにも電車の車両でなくともよいのです。


≪以下、一年生の入門期音読指導の詳細は、
  このHPの見出し『表現よみよの授業入門』の「低中高学年別の音読指
導のポイント」の中の「小学校低学年の指導ポイント」へとつづく。
  また、見出し『学年別教材の音読授業をデザインする』の中の一年生教
材「はなのみち」へとつづく。≫


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