表現よみ授業を創る そのA面とB面と  2012・10・02記




   
 「方言と共通語」資料




  小学校学習指導要領(平成20年度では方言について指導は小学56年
生で指導するように書いてある。第5・6学年の「話すこと・聞くこと」欄
に「共通語と方言との違いを理解し、また、必要に応じて共通語を話すこ
と」と書いてある。以前は、方言は4年生で指導することになっていたが、
現在は5・6年生の国語教科書に方言についての教材が掲載されている。



            
横浜方言


  わたしはかつて長年、横浜市の小学校に勤務していた。現場教師だった
とき、下記のような横浜方言の事例を採集して指導していた。横浜地域は、
いわゆる共通語地域に入るのだろうが、横浜に居住している学級児童たちに
も探してみると日常生活で使用している幾つかの横浜方言が見出されること
ができた。それが以下の採集語いである。
(本稿では「横浜方言」と名付けてはいるが、わたしの勤務校地域で見出さ
れるということで、「横浜だけの方言」ということではない。広く関東近辺
なのか、その一部地域なのかどうか、方言学者でないわたしには不明です。)
  みなさんも、それぞれ居住する勤務校地域で方言を探し出して、または
児童たちに探し出させて、指導なさってみたらどうでしょう。

名詞
 一日(いちんち)  試合(しやい)  話し合い(はなしやい)
 まつかさ(まつぼっくり) ごぼう(ごんぼう)  五合(ごんごう)
 鮭(しゃけ)

形容詞
 悪い(わりい)  寒い(さみぃ、さめぇ)  うるさい(うるせぇ)
 恐ろしい(おっかない、おっかねぇ)  うまい(うめぇ)
 しょっぱい(しょっぺぇ)  すごい(すげぇ)  
 偉い(えれぇ)  やわらかい(やらかい) 小さい(ちっちゃい)
 さびしい(さみしい)  うまい(うめぇ)  すごい(すげぇ)  
 おもしろい(おもしれぇ)うるさい(うるせぇ)  痛い(いてぇ)
 ひどい(ひでぇ)  長い(なげぇ)  くさい(くせぇ) 
 きたない(きたねぇ)  大きい(でけー。でっけー。でっかい) 
 冷たい(つめてぇ。ひゃっこい)

形容動詞
 いやだ(やだ)  いやなかんじ(やなかんじ)
 まっすぐな(まっつぐな)

動詞
 落ちる(落っこちる)  落とす(落っことす) いばる(えばる)

助動詞(動詞の否定形)
 行かない(行かねぇ)  とらない(とんない、とんねぇ)
 来ない(きやしない)  間に合わない(まにあいっこない)

補助動詞
 行ってしまう(行っちゃう、行っちまう)
 行ってしまった(行っちゃった、行っちまった)
 行ってあげる(行ったげる)
 行ってしまえ(行っちゃえ、行っちまえ、行っちめえ)
 やってしまう(やっちゃい、やっちゃえ)

成句用言(複合助動詞)
 行くはずがない(行きっこない)
 負けるはずがない(負けっこない)
 行かなければならない(行かなきゃならない)
 行きやしない(行きゃしない)
 行くかもしれない(行くかも)
 仕方がない(しょうがない)
 分からない(わかんねー)

終助詞
 行ぐじゃん(肯定)
 ばかじゃん(断定)
 そうじゃん(念押し、強意、確認)
 行ぐもん(意志)
 行ぐべえ(さそいかけ、意志)
 行ぐが(問いかけ)

副助詞
 わたしばかり叱られた(わたしばっか叱られた)

副詞
 わりあい(わりかし)  やはり・やっぱり(やっぱし、やっぱ)
 あんまり・あまり(あんまし)  ぴったり・ぴたり(ぴったし)
 ちょっと(ちっと)

接続詞
 それで(そんで、それだし)

比喩表現
 風船みたいに見える(風船みたく見える)

ヒとシの混同
 お日様(オシサマ) 七(ヒチ) 七五三(ヒチゴサン)

  小学生の作文を読むと「ぼくの家」→「ぼくんち」「うちんち」、「帰
る」→「かいる」、「おさるさん」→「おちゃるちゃん」、「おととい」→
「おとつい」などの表記が見られる。これらも方言と言えなくもないが、こ
れらは低学年の作文によく見られる事例で、上学年になるとこうした表記は
見ららなくなる。それで、これらは幼児語的使用の誤表記と言えるでしょう。
 以上のようにして方言をみると、母音交替、母音脱落、子音挿入、二重母
音の一音化・長音化など、それに話し言葉の俗語表現の使用などに多く見ら
れることが分かる。



       
山形方言・鹿児島方言



  以下は、拙著『作文ワーク(小学4年生)』(草土文化発行、2000年)
からの引用です。昔話「ももたろう」を、山形方言と鹿児島方言で語ってい
ます。東京のおばあちゃんの語り、山形のおばあちゃんの語り、鹿児島のお
ばあちゃんの語り、それぞれを上下で対比して書いています。三つを読み比
べると、方言の違いがよく分かります。

東京のおばあちゃん

  むかし、あるところに おじいさんと おばあさんが
 すんで いました。
  おじいさんは、やまへ たきぎを とりに いきました。
  おばあさんは、かわへ せんたくに いきました。
  おばあさんが せんたくを していると、川上から
 大きな ももが どんぶらこ どんぶらこと 
 ながれて きました。
  おばあさんは、 
 「大きな ももよ、こっちへ おいで。」
 と、いいました。
  おばあさんは、ももを いえへ もって かえって
 二つに きってみると、ももの 中から
 かわいい 男の子が 生まれてきました。
  ふたりは、「ももたろう」と
 名まえを つけました。



山形のおばあちゃん

  むがす、あるどごろさョ じさまと ばさまが
 いだっけど。
  じさまは、やまさ たぎものとりさ 出かけだんだど。
  ばさまは、かわさ しぇんだくさ いったんだど。
  ばさまが しぇんだくさ しっだばよ、川の 上がら
 おっきな ももっこがョ どんぶらこ どんぶらこど
 ながれで きたっけど。
  ばさまは、
 「おっきな ももっこ、こっちさ こえ。」
 と、いったけど。
  ばさまは、ももっこ えさ もって けえって
 ひたつに きってみたらばよ、ももっこの なががら
 めごこい おどごのこが んまれてきたっけど。
  ひたりは、「ももだろ」って
 なめ つけだんだど。



鹿児島のおばあちゃん

  むかし、あるとこい じさんと ばあさんが
 すんどったっじょ。
  じさんな、やめ たんもんとりけ 出かけたっじょ。
  ばあさんな、かえ せんたくしけ いったっじょ。
  ばあさんが せんたきよ しおったら、かわんかみから
 ふとか ももが どんぶらこ どんぶらこと
 ながれて きたちゅうわい。
  ばあさんな、
 「ふとか ももよ、こっち けっ。」
 と、ゆわったじょ。
  ばあさんな、ももを いえ もっ かえって
 ふたち きっみっと、ももん なかなら
 もじょか おとこんこが うまれてきたっちゅうわい。
  ふたいしとって 「ももたろ」ちゅう
 名まえを つけたと いうこっじゃ。



【関連資料】
 わたしの方言についての私見は、本ホームページの下記にも書いています。

  第9章  音声・身体・文化についてのエッセイ
          「日本人は濁音が嫌い?」
          「作家へ質問・感想を送る」について(2)

  第8章  表現よみ授業入門
          「鼻濁音の発音の指導法」
 
このページのトップへ戻る