「話しぶりの書いてある会話文」 2011・10・28記 「話しぶりの書いてある会話文」の 音声表現 会話文の前後に、こういう話しぶりで語られたという文が書かれているこ とがよくあります。その場合の音声表現は、書かれている話しぶりに規制され て読まれなければなりません。 話しぶりの書いてある会話文(1) 「ちいちゃんのかげおくり」(あまんきみこ、3年教材)に次のような 会話文があります。 その帰り道、青い空を見上げたお父さんが、つぶやきました。 「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」 「えっ、かげおくり。」 と、お兄ちゃんがきき返しました。 「かげおくりって、なあに。」 と、ちいちゃんもたずねました。 「十、数える間、かげぼうしをじっと見つめるのさ。十、と言ったら、空を 見上げる。すると、かげぼうしがそっくり空にうつって見える。」 と、お父さんがせつ明しました。 【解説】連続している会話文です。対話者は、父親・お兄ちゃん・ちいちゃ んの三人です。父親が、わが子二人に「かげおくりとは」について説明して います。 ここの会話文には、こんな話ぶりで話した、という但し書きが書いてあ ります。作者がそう書いてあるのですから、そのように音声表現するのが当 然になります。 ・「お父さんが、つぶやきました。」 ・「お兄ちゃんがきき返しました。」 ・「ちいちゃんもたずねました。」 ・「お父さんがせつ明しました。」です。 それぞれに「つぶやいた」ように、「聞き返した」ように、「たずね た」ように、「せつめいしてる」ように音声表現すべきでしょう。 児童に指導するときは、「話しぶりの言葉」に注目させ、それを取り出 して、その指示に従って音声表現するようにさせます。 話しぶりの書いてある会話文(2) 「白いぼうし」(あまんきみこ、4年教材)に次のような会話文があり ます。 「道にまよったの。行っても行っても、四角いたて物ばかりだもん。」 つかれたような声でした。 【解説】、女の子が松井さんに語りかけた言葉です。 この会話文の話しぶりは「つかれたような声でした」と書いてあります。 つかれたような声の話しぶり、4年生児童にはちょっと難しいかもね。疲れ た原因は「行っても行っても」にありそうです。歩き疲れた、走り疲れた、 100メートルを思いっきり走った後の状態、などを想像して、息切れや声 に力がない音声表現を想像させたらどうでしょう。 「早く、おじいちゃん。早く行ってちょうだい。」 松井さんは、あわててアクセルをふみました。やなぎのなみ木が、みるみる 後ろに流れていきます。 【解説】「早く、おじいちゃん。早く行ってちょうだい。」には、話しぶり が書いてありませんが、この会話文の意味内容からして、また松井さんのあ わてて車を発進させた状況からして、どんな話しぶりであるかが容易に推測 できます。 このように前後の意味内容・場面状況から、その会話文がどんな話しぶ りであったかが分かる場合もたくさんあります。 おどるように飛んでいるちょうをぼんやり見ているうち、松井さんには、 こんな声が聞こえてきました。 「よかったね。」 「よかったよ。」 「よかったね。」 「よかったよ。」 それは、シャボン玉のはじけるような、小さな小さな声でした。 【解説】話しぶりが「シャボン玉のはじけるような、小さな小さな声でし た。」と書いてあります。「シャボン玉のはじけるような」「小さな小さな 声」について子ども達と話し合ったらどうでしょう。その話し合いの中で随 時、実際に声に出して発表させてみたらどうでしょう。 四つの「よかったね」の記述が段差が上下しています。蝶の仲間たちが 上下に飛びながら、嬉しそうに語り合っているのかもね。たくさんの蝶が飛 びつつ「よかったね」と語り合っているとしたら、学級全員が蝶になって、 あっちから、こっちから、こだまのように言わせるのも、おもしろいかもね。 話しぶりの書いてある会話文(3) 「ろくベえ待ってろよ」(灰谷健次郎、1年教材)に次のような会話部分 があります。 「ろくべえ。がんばれ。」 えいじ君が、大きな声でさけびました。 「ワン、ワン。」 うれしいのか、ろくべえの鳴き声は、前より 大きくなりました。 【解説】話しぶりは、えいじ君が「大きな声でさけびました」です、ろくべえ は「うれしいのか、鳴き声は前より大きくなりました」です。それぞれの会 話文の音声表現は、これらの話ぶりに規制されて音声表現されなければなり ません。1年生児童は、喜んで音声表現するでしょう。えいじ君になって、 ろくべえになって、配役を決めて、分担読みをすると喜ぶでしょう。 話しぶりの書いてある会話文(4) 「大造じいさんとガン」(椋鳩十、5年教材)に次のような会話部分があ ります。 大造じいさんは、がんがどんぶりからえさを食べているのを、じっと見つ めながら、 「今年は、ひとつ、これを使ってみるかな」 と、ひとりごとを言いました。 昨ばんつりばりをしかけておいた辺りに、なにかバタバタしている物が見 えます。 「しめたぞ」 じいさんはつぶやきながら、むちゅうでかけつけました。 「ほほう、これはすばらしい」 じいさんは、思わず、子どものように声を上げて喜びました。 【解説】大造じいさんは「と、ひとりごとを言いました」です。ひとり言で 音声表現すべきでしょう。 「じいさんはつぶやきながら」です。つぶやいて音声表現しなければな りません。 「じいさんは、思わず、子どものように声を上げて喜びました」です。 「思わず、子どものように声を上げて喜びました」の「ほほう、これはすば らしい」です。この会話文を「声に出ている」と解釈したら「喜びの大きな 声で表現する」でしょう。「声に出ていない」心内語の喜びの声だとしたら 「小さな、息だけのような、ささやき声で表現する」ででしょう。他にもい ろいろあるでしょう。 話しぶりの書いてある会話文(5) 「ガラスの花よめさん」(長崎源之助、3年教材)に次のような会話部分 があります。 「ふうん、あなたって物知りなのね。」 女の子は、大きなひとみを丸くして、さも感心したように、ちょっと首をか しげました。 「それほどでもないよ。」 アキラはすっかりてれてしまいました。 【解説】「ふうん、あなたって物知りなのね。」は、話し手は女の子です。 何歳とするかによって、表現の仕方がかなり違ってきます。「大きなひとみ を丸くして、さも感心したように、ちょっと首をかしげ」ながら言う、です。 女の子の身体表情を十分に表象して、または読み手も自分自身の身体表情を イメージで作ってその中に身を置いて音声表現するとよいでしょう。 「それほどでもないよ。」は、「すっかりてれて」言う、です。照れた 動作をしながら音声表現するのもよいでしょう。 「お姉ちゃんが教会で結婚式をあげたとき、こういうドレスを着たのよ。と てもすてきだったわ。」 女の子はそのときのことを思い出して、うっとりして言いました。 「二人で結婚式ごっこをやりましょうよ。」 「えっ、結婚式ごっこ?」 「あたしが教えてあげるから、ねえ、いらっしゃいね。きっとよ。」 その言い方には、ぜったいいやだとは言えない強さがありました。 【解説】女の子は、「うっとりして」言う、です。読み手自身がうっとりし た表情を作り、気持ちになって音声表現するとよいでしょう。 「その言い方には、ぜったいいやだとは言えない強さがありました」で す。強い強制力を持った言い方です。絶対に服従せよ、強い命令口調の話し 方です。「あたしが教えてあげるから、ねえ、いらっしゃいね。きっと よ。」の太字個所が力をこめて念を押した、強く目立たせた音声表現にする のも一つの方法でしょう。 話しぶりの表現よみ練習をしよう 次の会話文のすぐあと、またはすぐ前に、話しぶりの但し書きが書いて あります。分かりやすく赤字にしてあります。 赤字の言葉の指示にしたがって実際に声に出して表現よみをしてみま しょう。 例えば、(練習文1)は、兵十が大声で、怒って、どなりたてている音 調で、(練習文2)は、うれしそうな音調で、(練習文3)は、おこったよ うに声に出して読みます。 では、次の赤字の言葉のように、遠慮しないで、ドカーンと、思いっき り表情豊かに押し出して、表現よみをしていきましょう。 (練習文1) 兵十が、向こうから、 「うわあ、ぬすっとぎつねめ。」 とどなりたてました。 新美南吉「ごんぎつね」 (練習文2) 「下を見てごらん、山脈だよ。」 と、先頭の大きなつるが、うれしそうに言いました。 花岡大学「百羽のつる」 (練習文3) おじいちゃんは、いつも、あまり笑わなくて、タケオが何時間もテレビを 見ていると、 「こんなつまらないものばかり見てると、かしこくなれないぞ。」 そうおこったように言う。 宮本輝「手紙」 (練習文4) 「そうそう、お指をお染めいたしましょう。」 「お指?」 ぼくはむっとしました。 「指なんか染められてたまるかい。」 ところが、きつねは、にっこり笑って、 「ねえ、お客様、指を染めるのは、とてもすてきなことなんですよ。」 と言うと、自分の両手を、ぼくの目の前に広げました。 「きつねの窓」安房直子、 (練習文5) 「君は、たから物というものを知らないのかい?」 わにのおじいさんは、おどろいて、すっとんきょうな声を出しました。 川崎洋「わにのおじいさんのたから物」 (練習文6) おひゃくしょうさんは、 「どれ、もうひとっぱたらきするか。」 ひとりごとをいいながら、田んぼをたがやしはじめました。 今西祐行「おいしいおにぎりを食べるには」 (練習文7) 「だめだと言ったら、だめなんだよ。」 主人は、おこったように言います。 木村静江「おしゃれな牛」 (練習文8) 昨晩つりばりをしかけておいた辺りに、何かバタバタしている物が見えま す。 「しめたぞ。」 じいさんはつぶやきながら、むちゅうでかけつけました。 「ほほう、これはすばらしい。」 じいさんは、思わず、子どものように声をあげて喜びました。 椋鳩十「大造じいさんとガン」 (練習文9) 「あれは、ぼくのだ。」 ぼくは、とっさにそう思いました。 安房直子「きつねの窓」 (練習文10) 「すぐ引き返すんだ。」 ぼくは、自分に命令した。 安房直子「きつねの窓」 (練習文11) ぼくは、むっとした。 「指なんか染められてたまるかい。」 安房直子「きつねの窓」 (練習文12) 「今ごろお母さんは、きっとパンを作ってると思うわ。だって、お父さんは、 とてもパンが好きですもの。おい、ひとつパンを作ってくれよ、って言っ たにちがいないわ。」 瑞枝は、なつかしいおうちを心いっぱいに思いうかべているようなまなざ しをして言いました。おい、ひとつパンをつくってくれよ、とお父さんの口 ぶりをまねたのがおかしくて、みんなで笑いました。 壷井栄「石うすの歌」 |
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