群読授業を創る そのA面とB面と       07・5・15記




         
群読台本の作り方




            
台本づくりの準則

  
  学校生活で群読が行われる場面は、大きく分けて二つあるでしょう。
  一つは、学校・学年・学級の行事の中の群読です。
  卒業式・一年生を迎える会・卒業生を送る会・学習発表会・朝の会・終
わりの会などの学校・学年・学級行事で児童全員が声をそろえて呼びかけ形
式で群読をするときです。
  もう一つは、国語授業の中の群読です。
  日常の国語科授業の中で、文学作品などを群読表現にして楽しむ国語授
業の中の指導です。教科書にある文学作品(物語・詩)を読解指導している
ときに、文章の一部分を群読に作り変えて指導する学習場面があります。
  そのとき、群読の台本づくりは教師がやるのがふつうです。
  高学年などでは原案は児童作成であってもよいですが、最後の見直しは
教師がやるべきでしょう。教師が作り変えた場合は、どういうわけで、そう
作り変えたか、そうしたほうがよいわけを子ども達が納得できるようにてい
ねいに説明してやることが必要です。

  群読台本の一般的な作り方の準則は次のようになります。

(1)地の文のブロック分けは、文章内容が聞き手に分かりやすく伝
   わる(理解できる)ひとまとまりで区切ります。意味内容のひ
   と区切りです。区切る範囲はできるだけ短くしたい。区切り方
   が長すぎると、だらだらした読み声が続く、しまりのない群読
   表現になりがちだからです。

(2)ソロの声を引き立て、ソロの声を際立てるために集団読みがあ
   ると考えた方がよいです。群読とはいっても、所詮ソロ(ナレ
   ーター)の一人読みが主調となって語り全体を引っ張っていく
   読み方だと考えた方がいいのです。
   物語文の群読台本では、どちらかというと学校行事の呼びかけ
   形式に比べてソロ個所が多くなり、学校行事の呼びかけ形式で
   は集団読み個所が多くなるといえます。

(3)強調したい、印象に残したい、訴えたい重要な語句や文は、集
   団読み(数人読み、全員読み)の台本づくりにします。

(4)集団読みは、二人、三人、四人………全員と、読み手人数を変
   化させて配当していきます。読み声全体に起伏や高低の彩りを
   添え、単調さを避けることからそうします。
   同じ人数が連続しないように、変化を与えます。男、男、男
   や、女、女、女と続くよりは、男、女、男、女のような変化も
   考慮します。

(5)文章内容が音声のメリハリでありありと浮上させる台本づくり
   をすることです。文章内容の主張点・力点が鮮明に集団音声に
      現れ出るようにします。こうした集団音声で立体感、重量感、
   ステレオ感を作り上げるために、これが目的で、そのために集
   団読みを取り入れた群読形式にするわけだからです。

(6)群読台本に作り変えるということは、文章内容に力動感、立体
   感、重量感、迫力感、ステレオ感が浮上するようにするためで
   す。また、美的、感化的な音声表現にするためです。これを忘
   れた単なる一斉音読を一部分に取り入れた群読表現であっては
   いけません。

(7)以上のことを目標において群読の台本づくりをしていきましょ
   う。


          
台本づくりでの留意点


●ナレーターとキャスト
  地の文は、語り手(話者、ナレーター)が語っている言葉です。
  会話文は、登場人物(作中人物、キャスト)が語っている言葉です。
  この二つの性格の違いが台本作りの基本となります。地の文は事件・事
柄を引っぱっていく語りとなり、会話文は人物たちの台詞となります。

●ナレーターの役割
  地の文の音声表現では、物語全体を引っぱって説明していく一人のナ
レーターが必要です。ナレーターは、ストリーの筋を音声で運んでいく中心
となる読み手(語り手)です。このナレーター(読み手、語り手)は、スト
リー全体の流れを主導的に物語っていく役割を果していく中心人物です。
  この中心となるナレーターは、集団読みの語り全体の情趣や雰囲気の枠
組みをリードしていく読み手となります。

●ナレーターの声
  中心となるナレーターは、よく通る、よく響いた声の持ち主が最適で
す。ナレーターは、語りの主調となる情調を一貫して導く読み手(語り手)
ですから、はぎれがよい、張りのある声で、りんりんと響く、聞いていてさ
わやかな声の持ち主が最適です。はぎれがわるい、もぐもぐ発音、低くくぐ
もった声の子どもではいけません。

●ソロのために集団の読み声がある
  群読の音声表現では、ソロ(一人読み)の読み声をいかに美しく聞かせ
るか、ソロの読み声をいかに美しく引き立てて音声表現していくかがとって
も重要です。ソロの読み声をいかに美しくするか、そのために集団の読み声
があるのです。ソロの中に集団読みを効果的に入れていくこと、これが、台
本づくりの準則です。
  無原則に単に集団読み(二人、三人、四人、………、多人数、全員)を
取り入れて、やたらに集団読みの連続がだらだらと続くようではいけませ
ん。集団の読み声が連続すると、逆に強調性が弱められてしまいます。単に
多数の大声読み声がずらずら続くだけで、うるさいだけで、騒々しいだけ
で、意味内容はちっとも浮上してきません、沈降していくだけ、場面の状況
がちっとも浮かんできません。


       
「ヒロシマの歌」の台本づくり例


  
「ヒロシマの歌」(今西裕行)の文章の一部分を群読台本に作り変えて
音声表現させることにします。その例を書いていくことにします。
  なぜこの文章部分を群読にして音声表現させるか、その理由は、こうで
す。この文章部分をすんなりと「あ、そう」と読み流してほしくないからで
す。日本が世界でただ一つの原爆被爆国として、広島と長崎は凄惨かつ残酷
な甚大な被害を受けました。この光景を深く記憶に留めておいてほしいから
です。すんなりと、すらりと読み流してほしくないからです。凄惨かつ残酷
な被害を長く記憶に留めて、将来こうした戦争の惨禍を再び起こしてほしく
ないからです。こうした悲願から、この文章の一部分を群読台本にして音声
表現させることにします。

  この物語は、主人公「わたし」が原爆直後の広島の町を目撃した様子の
描写から始まります。広島の町を見たままに、わたしの気持ちを通して描か
れています。
  次のようなブロックに分け、人数配分をして台本づくりをします。
カッコ内は音声表現で留意すべき事項です。ソロの読み手は同じ児童とは限
りません。全員が参加できるようにするためソロの読み手も変えたほうがよ
いでしょう。
  発表会では、ソロの読み手は最良音声の持ち主の児童に担当させるよう
にします。ソロの語り手は、物語全体の枠組みを作って、事件の流れを語り
で引っぱっていく重要な役割をしています。ソロの語りで群読全体の雰囲気
を作っていくといってもよいでしょう。
  「男三」とは、男子児童三人で読むというしるしです。「三人」とあっ
ても、学級の実態によって人数を変えてかまいません。群読の読み声は実際
に声に出してみないと最良の集団音声が見つかりません。台本は机上作成の
台本にしかすぎません。実際に声に出してみて、その現れ出た読み声によっ
て群読全体の表現を作っていくようにします。一人ひとりの声量の違いや音
色や声量の大小や情感の違いによって、読み手児童が変われば、各人の配当
や人数配分が変わってきて当然です。


        
わたしの冒頭部分の群読台本例


ソロ  町の空は、まだ燃え続けるけむりで、ぼうっと赤くけむっていまし
    た(「ぼうーっと」と、のばして目立たせる)。
ソロ  ちろちろと火が燃えている道を通り、広島駅の裏にある、東練兵場
    へ行きました(聞き手を意識して、説明して語って聞かせているよ
    うに、ゆっくりと)。
ソロ  ああ、そのときのおそろしかったこと(「こと」の「と」をはね上
    げ、思いを残す)。
全員  ああ、そのときのおそろしかったこと(「こと」の「と」をはね上
    げ、思いを残す)。
ソロ  黒々と、
全員  黒々と、
ソロ  死人と、
全員  死人と、
ソロ  動けない人の、うめき声で、
全員  動けない人の、うめき声で、うずまっていたのです。(うずまって
    いた」を強く目立たせて)
ソロ  やがて東の空がうす明るくなって(軽い間)夜が明けました。
全員  わたしたちは、地ごくの真ん中に立っていました(軽い間)。ほん
    とうに、足のふみ場もないほど人がいたのです。(「ほんとうに足
    のふみ場もないほど」を強く、目立たせる)
ソロ  暗いうちは見えませんでしたが(間)、
女全  それが(間)みなお化け(間)。
男全  目も耳もない(軽い間)のっぺらぼう。
女三  ぼろぼろの兵隊服から、ぱんぱんにふくれた素足を出して死んでい
    る(軽い間)兵隊たち。
男三  首だけおこして、きょとんとわたしたちをながめている(軽い間)
軍馬。(「きょとんと」を目立たせて読む)
女三  だれも話している者はありませんでした。
男三  ただ、うなっているか、わめいているばかりです。
ソロ  そして、まだまだ、町のほうからぞろりぞろりと、同じような人た
    ちが、練兵場に流れてくるのです。(「ぞろりぞろり」をゆっくり
    読んで目立たせる)
全員  町のほうから、ぞろりぞろりと、同じような人たちが、練兵場へ流
    れてくるのです。(「ぞろりぞろり」をゆっくり読んで目立たせ
    る)。


         
この台本づくりで留意したこ


  地の文のグルーピングは意味内容の切れ目で区切りとしました。
  薄明かりの中に見えてきた一つ一つを順繰りにひと区切りとしました。
お化け、兵隊、軍馬、わめき声、行列、それぞれをひと区切りとしました。
  実際の音声表現では、これら一つ一つを区切りつつも、たたみかけるよ
うに、追いかけていくように、重なっていくようにしたいものです。
  とくに印象づけたい異様が事態はリピート(繰り返し)を入れて強調さ
せるようにしました。
  ソロのあとに集団読みを入れ、次にソロを入れるとか、同一人物の繰り
返しでも、男女での組み分けをしてめりはりをはっきりさせるとか、音声に
明確な区切りと分かりやすさを与えるようにしました。


         
グループ練習での留意事項


  上記した群読台本は、1グループの人数は10人前後を予定しました。
人数が多すぎると練習にまとまりがなくなり、少なすぎると声にボリューム
感がなくなります。
  グループ内の誰がソロになってもよいように群読全体を流れる主調とな
る情調や雰囲気や気分を全児童に身体化させておくことが必要です。語り全
体のリズム、呼吸、タイミング、語勢、遅速、強弱、高低など、群読させる
以前に授業として、本文文章の一斉音読で繰り返し練習させていくことが必
要です。群読をする以前に、学級全員による一斉音読を繰り返し練習してお
くことです。一斉音読によってその場面の語り全体を流れる主調となる音声
の雰囲気・情調・語勢・リズムを身体にしみこませておくことです。
  こうした一斉音読によって、全児童の身体に語り全体の音声・音調の
トーンやリズムを沁みこませておくことです。これをしないで、はじめから
「さあ、グループごとに声に出して勝手に練習しなさい」だけでは、読み声
の一定レベル段階への到達は時間がいくらあっても足りません。
  また、各グループの練習時間をできるだけかけないで群読の完成をはや
めるには台本を前もって学級全員に渡しておくようにしましょう。事前に台
本を読み慣れておようにします。
  グループ全員で最良の音声を作り上げるには、他人の読み声を自分の耳
で聞きながら、自分の読み声をそれに合わせつつ、更にもっとよい読み声に
リードしようとする心づかいも大切です。さらに自分でより上手な表現効果
が上がる読み声にしようと、全員に合わせつつも自分がリードしようとする
気持ちを持って音声表現していく配慮も大切です。
  つまり、全員が、他人の読み声を受けて、広げて、より上手な音声に展
開していく集団創造を心がけさせる、そうした一人ひとりの配慮が必要なの
です。

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