音読授業を創る そのA面とB面と   06・5・25記




「今日からはじまる」音読授業をデザインする




●「今日からはじまる」(高丸もと子)の掲載教科書……………学図6上




           今日からはじまる
                  高丸もと子

         あなたに会えてよかった
         空が青く
         大きいことも
         あなたがいて気づいた
         この光もいま届いたばかり
         一億五千万キロのかなたから
         今日からはじまる
         何かいいこと

         みんなに会えてよかった
         すてきなものが
         そばにあること
         みんながいて気づいた
         いまもどこかで命が生まれる
         子犬も小鳥も草の芽も
         今日からはじまる
         何かいいこと

         わたしに会えてよかった
         胸の鼓動も
         ときめきも
         わたしがいて気づいた
         だれも知らない音だけど
         わたしの殻をやぶる音
         今日からはじまる
         何かいいこと



           
作者について


  高丸もと子。1946年生まれ。元小学校教諭。日本児童文学者協会・
日本童謡協会・関西詩人協会・詩と歌曲の会会員。
  著書に「高丸もと子詩集」「三センチありがとう」「地球のコーラス」
などがある。

           
わたしの解釈


  この詩はいろいろな解釈ができる詩です。こう読まなければならないと
いうものはありません。読み手によって種々の解釈・読み方ができます。で
すから音声表現のしかたも解釈によっていろいろと変わってきます。
  教師は、子ども達の、自分はこう解釈しました、自分はこう感じまし
た、自分はこう読み取りました、という一人一人の個人的な読みとり内容を
保障してやることが必要でしょう。
  以下、わたし(荒木)なりの個人的な解釈でこの詩の指導方法について
書いてみます。


 ●文章形式(詩の構成)で分ってくること

(1)三つの連で構成されている。
(2)各連とも、1行目と4行目とは同じ形式になっている。

  第一連  「あなたに会えてよかった」(1行目)
        「あなたがいて気づいた」 (4行目)

  第二連  「みんなに会えてよかった」(1行目)
       「みんながいて気づいた」 (4行目)

  第三連  「わたしに会えてよかった」(1行目)
       「わたしがいて気づいた」 (4行目)

  各連での違いは、第一連が「あなた」、第二連が「みんな」、第三連が
「わたし」の語句です。これらの違いが、その連の表現内容を規定している
ことが分ります。

 ●各連の、7行目と8行目で分ってくること

  各連の、7行目と8行目は同じ言葉になっている。

  「今日からはじまる」(第一連と第二連と第三連との7行目)
  「何かいいこと」  (第一連と第二連と第三連との8行目)

 ●各連の、5・6行目で分ってくること。

  各連の、5・6行目には、新情報が提示されている。

     第一連 「この光もいま届いたばかり
          一億五千キロのかなたから」

     第二連 「いまもどこかで命が生まれる
          子犬も小鳥も草の芽も」

     第三連 「だれも知らない音だけど
          わたしの殻をやぶる音」

 ●題名および7・8行目から分ってくること

  題名は「今日からはじまる」です。同じ言葉が7・8行目に「今日から
始まる 何かいいこと」という繰り返しが三つの連に最後のまとめ表現の言
葉として書かれてあります。
  詩「今日からはじまる」は、「国語教科書・6年上」の冒頭に掲載され
ています。小学校最高学年のスタートに当たり、最高学年としての矜持を
もって意気込んで行動していく行動態度を形成させたいという意図からの冒
頭配当になっているように思われます。6年生の出発に当たり、心を入れ替
えた、新しい気持ちでの出発に当たり、何かいいことが起こりそうと、そん
な期待感を抱かせる態度作りの格好の詩として冒頭掲載されているのでしょ
う。

 ●「あなた」とは、何か?

 「あなた」とは、誰のことでしょうか。「空が青く、大きいこと」「も」
「いて」気づいた、それが「あなた」です。「一億五千万キロのかなたから
この光が届いた」という「あなた」からです。
  「あなた」は、どうも太郎とか花子とかいう現実の人間でなく、「空」
とか「大きいこと」とか「光」とかが例に挙げているところから、第一連の
「あなた」は「限りなく大きいもの、限りなく広大なもの、無限無窮の世
界」をさしているようです。
  一億五千万キロのかなた(太陽と地球との距離なのでしょうか)にいる
「あなた」。「あなた」とは、どうも「地球」とか「宇宙」とか「天体」と
か「太陽」とかを指しているように思われます。

 ●「みんな」とは、何か?

  第二連の「みんな」は「すてきなものが傍にあること」が「いて」「気
づいた」と書いてあります。ですから、自分の身の回りの日常世界にあるも
の、「家族」とか「友達」とか「愛するペット」とか、自分の毎日の活力あ
る生活にかかわっているものを指しているように思われます。そうした身近
な世界にある美しいもの、素敵なもの、素晴らしいもの、秀逸なもの、身近
な存在を指しているように思われます。また、すべてに命が生まれ・生き生
きと躍動し・活力に溢れているものの存在への気づきに出会えてよかったと
いっているようにも思われます。

 ●「わたし」とは、何か?

  第三連の「わたし」とは、「胸の鼓動」「ときめき」の例を挙げていま
す。第三連の「わたし」は、自分の殻を破って、新しい自分に出会えるそう
した出会い、弾んだ跳躍感やリズム感、力動感や生命力の活力ある鼓動、胸
をふるわせて跳び、そして駆けている自分への気づきと発見、自分のパワー
が飛翔している姿への気づきと喜悦、そうしたことを指しているように思わ
れます。

 ●まとめ

  第一連の「あなた」は「宇宙」、第二連の「みんな」はその「宇宙」の
中にいる「自分の身の回りにいる人々・存在」、第三連の「わたし」はその
「身の回りにいる人々・存在」の中の「自分自身」というように、広大なス
ケールの出会いから、しだいに狭小な自分への出会いへと範囲が狭まり、それ
ら存在の生き生きした活力や元気さへの出会いと期待感へと、叙述内容がせ
ばまっています。
  第一連の「光」、第二連の「命」、第三連の「自分の殻を破る」への出
会いの期待感へと、そして森羅万象の光あふれる、生命力旺盛なものに出会
えることへの喜悦、何か今日からいいことが始まりそうな予感、胸のときめき、喜び、期待感、そうしたことを表現している詩ではないでしょうか。 
  第一連では、宇宙・天体・太陽・星雲に「出会えてよかった」と嬉々とし
て語っています。これは、日常茶飯事にあくせくしているわたしたち人間に
は気づかない事柄です。気づかない出会いを与えてくれています。
  宇宙飛行士が語った「地球は青かった」という言葉が有名になりました。
この宇宙という広大な天体に住んでいるという幸せと素晴らしさと喜悦と賛仰
と自負と、そして住みよい地球環境にしていく責任の自覚、そして宇宙・天
体というようなスケールの大きな何かいいことに出会えるかもという期待感を
持たせられる、何かごちゃごちゃと書いていますが、この詩によって、わたし
達はこうした広大無辺な、スケールの大きな出会いと喜びもあるのだというこ
とに気づかされます。


           
音声表現のしかた

【第一連】

 「あなたに会えてよかった(少し長い間)」
  【会えた喜びと満足感の気持ちをこめて、ゆっくりと】

 「空が青く(ちょっとの間)大きいことも(ちょっとの間)あなたがい
 て(ちょっとの間)気づいた(少し長い間)」
  【ひとつながりの意識で】

 「この光も(ちょっとの間)いま(ちょっとの間)届いたばかり
 (少し長い間)一億五千万キロの(ちょっとの間)かなたから(少し長い
  間)」
  【「一億五千万キロのかなたから」は「この光もいま届いたばかり」
 のフレーズに意味内容をつけくわえる気持ちで軽く読み足すようなつも
 りで音声表現する】

 「今日から(ちょっとの間)はじまる(ちょっとの間)何かいいこと」
  【「いいこと」を粒立ててしり上がりに強調して読む】
 
【第二連】

 「みんなに会えてよかった(少し長い間)」
  【会えた喜びと満足感の気持ちをこめて、ゆっくりと】

 「すてきなものが(ちょっとの間)そばに(ちょっとの間)あること
(ちょっとの間)みんながいて(ちょっとの間)気づいた(少し長い間)」
   【ひとつながりの意識で】

  「いまもどこかで(ちょっとの間)命が生まれる(少し長い間)子犬も
 (ちょっとの間)小鳥も(ちょっとの間)草の芽も(少し長い間)」
   【「命が生まれる」はゆっくりと読む。「い・の・ち・が・う・ま・
    れ・る・」のように区切ってしだいに降調にして読むのもよい。】

 「今日から(ちょっとの間)はじまる(ちょっとの間)何かいいこと」
   【「いいこと」を粒立ててしり上がりに強めて読む】

【第三連】
  
  「わたしに会えてよかった(少し長い間)」
   【会えた喜びと満足感の気持ちをこめて、ゆっくりと】

  「胸の鼓動も(ちょっとの間)ときめきも(少し長い間)わたしがいて
  (ちょっとの間)気づいた(少し長い間)」
    【全体をひとつながりの意識で。「気づいた」を強めに読む。】

  「だれも知らない音だけど(ちょっとの間)わたしの殻を(ちょっとの
    間)やぶる音(少し長い間)」
    【「やぶる音」は、はぎれよく目立たせて読む】

  「今日から(ちょっとの間)はじまる(ちょっとの間)何かいいこと」
    【「いいこと」を粒立ててしり上がりに強めて読む】


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