音読授業を創る  そのAと面B面と        09・3・5記




 「平和のとりでを築く」の音読授業をデザインする




●「平和のとりでを築く」(大牟田稔)の掲載教科書……………光村6下



              筆者について


 1930(昭和5)年〜2001(平成13)年。宮崎県えびの市に生ま
れる。広島大学卒業後、中国新聞の記者となる。論説委員会主幹理事などを
経て退社。この間、胎内で被爆した原爆小頭症患者と家族による「きのこ
会」の世話を、会の発足当初から続ける。1992年に広島平和文化センタ
ー理事長に就き、1999年の退社まで7年間、広島市の平和行政に携わり
活躍した。この文章は、1999年に書かれた。(この項、光村図書HPからの引用)



             語り口について



  文学的文章は作家が語り手を登場させて、その語り手が語っているのに
対して、説明的文章は筆者が直接に語っています。
  ですから、説明的文章は筆者の表現意図(読者に伝えたいこと、訴えた
いこと)を、筆者の思いになって音声表現していくようになります。筆者が
文章を書きすすんでいるときの気持ちのリズムの流れにそって、筆者の立場
にたって声に出して読んでいくようにします。
  筆者がこの文章で何を伝えようとしているか、何を訴えようとしている
のかを推察することがとても重要となってきます。

  「平和のとりでを築く」の文章では、冒頭部分で、筆者がこの文章を書
いたわけを述べています。冒頭部分で、筆者がこの文章で何を伝えようとし
ているか、その表現意図が推察できます。「広島市には「原爆ドーム」とい
う建物がある。この建物は、平和を築き、戦争をいましめる建造物だ。建築
されてから現在まで、この傷だらけの建物がたどってきた歴史(物語)を語
っており、この原爆ドームが訴えかけていることを書いていきたい」という
思い・表現意図があることが分かります。

  この文章の「なか」の本文では、筆者は「原爆ドームがたどってきた年
月」(原爆ドームがたどってきた経過、変遷、歴史)について語っています。
次に順番に書いてみよう。
  1、物産陳列館(のどかで、平和だった姿が書かれている。音声表現で
        は、それを押し出して読む)
  2、原爆投下(強烈な熱線と爆風。凄惨かつ残酷な惨状が書かれている。
        音声表現では、それを押し出して読む)
  3、原爆ドーム(丸屋根の鉄骨の残骸だけが残った無残な姿が書かれて
        いる。音声表現では、それを押し出して読む)
  4、保存運動(原爆ドームはおそるべき原爆を訴えている記念碑だ、保
        存して残そうとの人々の気持ちや運動の経過報告を、音声表現では
        それを押し出して読む)
  5、世界遺産登録(原爆ドームは戦争の被害を強調する、世界では最初
        の世界遺産となった記念すべきことだとの経過報告を、音声表現で
        はそれを押し出して読む)

  この文章の「なか」部分の本文では、筆者が読者に伝えたい思い・筆者
の表現意図が文章の連なりのリズムを構成していますので、筆者の気持ちに
なって読みすすんでいきます。文章の連なりの連続と区切りが音声表現にお
ける読み調子やリズムを作っています。読み手は、筆者の思い・意図に入り
込みながら、筆者のリズムに読み手の呼吸を合わせながら読んでいき音声表
現していきます。筆者の思いのリズムに、読み手の呼吸を合わせる息づかい
が重要となります。そうすることによって、筆者の表現意図がめりはりとし
てクリアーに音声表現されてきます。強調変化、緩急変化、強弱変化、声量
変化、イントネーションの変化など全体を流れるめりはり(音調作りとなっ
てきます。

  この文章の「むすび」部分では、筆者の結論を述べています。筆者が読
者に最後にまとめとして伝えたいこと、訴えたいこと、新たな認識をもって
ほしいことが書いてあります。痛ましい姿の原爆ドームが教えていることは、
核兵器を二度と使ってはならない、使わせてはならない。戦争は心の中から
生まれるものだから、心の中に平和を守る固い決意(行動のとりで)を持ち、
そう努力していくことが重要だ、と訴えかけています。音声表現では、そう
した筆者の気持ちを押し出して読むようにします。)



           音声表現のしかた



  本稿では、文章の線条性にそって冒頭文から順繰りに音声表現のしかたを
書くことはしないで、この教材文全体に多くみられる音声表現のしかたの傾
向性の要点を次にまとめて書くことにします。

  以下、下記の例文の22個だけを選んで、音読練習するだけでも、よい
音声表現の指導になるでしょう。



     (1)トキトコロはひとまとまりに読む

  この教材文には、長文のトキトコロを表す「いつ」の部分があります。
次の赤色部分がそうです。ここはかなり長い連文節個所ですが、ひとつな
がりになるように気をつかって音声表現するようにします。長いですから途
中で間をあけてもよいですが、ひとつながり・ひとまとまりになるように読
みます。ばらばらに離れた読み方になってはいけません。


(例文1)
原爆ドームが世界遺産の候補として、世界の国々の審査を受けることになっ
たとき
、わたしはちょっぴり不安を覚えた。

(例文2)
この原爆ドームが、平和を築き、戦争をいましめるための建造物として、ユ
ネスコの世界遺産への仲間入りを果たしたとき
、わたしは、建築されてから
この日まで、この傷だらけの建物がたどった年月を思わずにはいられなかっ
た。

(例文3)
1945年(昭和20年)8月8日午前8時15分、よく晴れた夏空が広が
る朝
、広島市に原子爆弾が投下された。

(例文4)
日本が1992年(平成2年)にユネスコの世界遺産条約に加盟した直後か
、広島では、原爆ドームを世界遺産にしようという動きが高まった。



       (2)重文は二つに区切って読む

  次の赤色部分と青色部分は、重文の前文と後文とになっています。二つ
の色部分は、それぞれにひとまとまりになるように音声表現しましょう。さ
らに、重文になっている1文全体がひとつながりの意味内容にして音声表現
することも大切です。

(例文5)
この建物がかげを落とす川には、荷物を運ぶ小ぶねが行きかっていたし
になると、子どもたちが水遊びを楽しんでいた。
(後文は、条件帰結の重文
になっている)

(例文6)
(この建物は)
ヨーロッパ出身の若い建築家が設計した鉄骨・れんが造りの
二階建てで
建物の真ん中には、楕円形の丸屋根(ドーム)が五階の高さに
つき出ている。


(例文7)
市民の多くは一瞬のうちに生命をうばわれ川は死者でうまるほどだった。

(例文8)
ようやく生き残った人々も傷つき、その多くは死んでいった

(例文9)
爆心地に近かったこの建物は、たちまち炎上し中にいた人々は全員なくな
ったという。

(例文10)
丸屋根の部分は、支柱の鉄骨がドームの形となりこの傷だらけの建物の最
大の特徴を、後の時代にとどめることとなった。

(例文11)
このことが新聞で伝えられると全国から保存を願う手紙や寄付が次々と広
島市に届けられるようになった。




     (3)長い体言修飾はひとまとまりに読む

  「平和のとりでを築く」には、長い体言修飾部分の文章個所が幾つかあ
ります。
  このような文章個所は、長い体言修飾部分が、下のどの語句(被修飾
語)に係っているかを見極めて音声表現していくことが大切です。
  次の青色の部分は、赤色の部分に係っています。青色と赤色とはひとつ
ながりにして読むようにしなければなりません。途中で間をあけて読んでも
いいですが、意味内容がぶつぎりにならないように、途切れないように、間
をあけたとこで降調にしないで、平調にして、つまりひとつながりになるよ
うな音調にして音声表現していきます。

(例文12)
広島市には、
一発の原子爆弾で破壊され、そのままの形で今日まで保存され
てきた
「原爆ドーム」とよばれる建物がある。

(例文13)
それは、この建物にほど近い、約六百メートルの上空で爆発した。強烈な熱
線と爆風が放射線とともに市街をおそった。

(例文14)
市民の意見が原爆ドーム保存へと固まったは、1960年(昭和36年)
の春、
急性白血病でなくなった一少女の日記がきっかけであった。赤ちゃん
だったころに原爆の放射線をあびた
その少女は、十数年たって、突然、被爆
が原因とみられる
にたおれたのだった。

(例文15)
風や雨、雪にうたれ、振動にさらされる原爆ドームには、何よりも補強工事
が急がれた。



       (4)主語省略を意識して読む

 次は一つの段落に四つの文があります。はじめの二文は「原爆ドーム」が
主語です。続く二文は「物産陳列館」が主語です。日本語の文章には主語が
省略されることが多くあります。記述されてない主語の個所は、主語を頭の
中に入れて、そのつもりで音声表現していくと、文章内容もはっきりしてく
るし、めりはりもはっきりと表現されるようになります。

(例文16)
「原爆ドーム」は、広島市のほぼ中心を流れる川のほとりに建っている。も
ともとは、物産陳列館として、1915年(大正4年)に完成した。ヨーロ
ッパ出身の若い建築家が設計した鉄骨・れんが造りの三階建てで、建物の真
ん中には、楕円形の丸屋根(ドーム)が五階の高さにつき出ている。建てら
れた当時は、小さいながら、ひときわ目立つ建物だったという。



   (5)はめこみ文・引用文は、ひとつながりに読む

  引用の形ではめこまれている長い文章部分のある一文があります。下記
のような例文です。はめこまれている文は、ひとまとまりにして音声表現し
ます。
 次の赤色の部分ははめこまれているひとつながりの引用文です。ひとつな
がりだという意識で読み、それを前後で挟み込む一文全体もひとまとまりに
なるようにつなげて音声表現していくことも大切です。

(例文17)
保存反対論の中には、
「原爆ドームを見ていると、原爆がもたらしたむご
たらしいありさまを思い出すので、一刻も早く取りこわしてほしい」
という
意見もあった。

(例文18)
残された日記には、
あの痛々しい産業奨励館だけが、いつまでも、おそるべ
き原爆のことを後世にうったえかけるだろう
、と書かれていた。

(例文18)
国連憲章には、
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中
にとりでを築かなければならない。」
と記されている。



      (6)対等関係個所は並列させて読む

  二つの対等関係の連文節は、二つが並んでいるように音声表現します。
二つを並列させて読みます。次の赤色個所と青色個所は、意味内容で二つが
対等に並列していますので、それぞれをひとまとめにして、二つが並んでい
るように音声表現します。

(例文19)
その年月は、
わたしたちの父母や祖父母たちが生きてきた時代、そして、
会が激しく変わっていった時代
と重なる。


(例文20)
世界遺産は、
人間の歴史に大きな役割を果たした文化遺産と、地球上にある
貴重な自然遺産
を、未来に向けて大切に守っていくために、ユネスコと世界
の国々が調査し、指定していく制度である。

(例文21)
それは、原爆ドームが
戦争の被害を強調する遺跡であること、そして、
模が小さいうえ、歴史も浅い遺跡であること
から、果たして世界の国々によ
って認められるだろうかと思ったからであった。

(例文22)
エジプトのピラミッドや、ギリシャのオリンピア遺跡など、すでに七百か所
以上が、世界遺産として手厚く保護されている。


関連資料(1)
 本ホームページの第14章「説明文における表現よみ指導」の中の「第8節
「説明文の教材分析のしかた(2)」、第11節「説明文の語り口をさぐる
(2)」を参照してください。関連する記事があります。

関連資料(2)
 クリックしてみよう。
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/virtual/VirtualMuseum_j/visit/est/build/A_dome2.html# へのリンク


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