音読授業を創る そのA面とB面と    07・4・22記




「どこかで春が」の音読授業をデザインする




●詩「どこかで春が」(百田宗治)の掲載教科書…………………学図6上



             どこかで春が
                 百田宗治


            どこかで「春」が
            生まれてる、
            どこかで水が
            ながれだす。 

            どこかで雲雀が
            啼いている、
            どこかで芽の出る
            音がする。

            山の三月
            東風吹いて
            どこかで「春」が
            生まれてる。



         
作者(百田宗治)について


  明治26年(1893)大阪市に生まれる。本名・百田宗次。昭和30
年(1955)に死去。大正、昭和の詩人、児童文学者。
  高等小学校卒業後、個人的にフランス語を学ぶ。大正四年、はじめて百
田宗治の名で詩集「最初の一人」を刊行。人道主義、民主主義の傾向に移
り、詩集「ぬかるみの街道」を刊行するに及んで民衆詩人として世に認めら
れる。
  大正15年、三好達治、丸山薫、北川冬彦などと「椎の木」を創刊、主
宰。このころから詩風は一変し、日本的な心境詩に転じ、俳句的味わいを
もった閑寂な短詩のなる。
  昭和7年、児童作文の指導詩「工程」によって、波多野完治、滑川道夫
らとともに全国の小学校教師と連携して綴り方運動をはじめ、生涯の仕事と
なった。


             
 教材分析


  現行学習指導要領の国語科「第五学年及び第六学年」の「内容」の中の
「言語字事項」に「易しい文語調の文章を音読し、文語の調子に親しむこ
と」と書かれています。これに先立つ教育課程審議会答申にあった「国語
科の内容改善の基本方針」の中の「古典に親しむ態度を育てる」によったも
のからきている。
  この詩には、「雲雀」という漢字の読み方、「啼く」という漢字の読み
方、「東風」という漢字の特別な読み方があり、これらは現代の常用漢字の
通常の使われ方にはありません。昔はこんな使われ方をしていたんだよ、と
いうことを知らせる必要があります。
  これからの国語科の内容には「どこかで春が」のような教材、なつかし
い郷愁をさそうような平易な文語表現の教材の採用が多くなっていくのでし
ょう。
  この詩は、1922年に詩人・百田宗治によって発表され、翌年に作詞
者・百田宗治、作曲者・草川信によって童謡歌曲として発表されました。今
では古典的な童謡として有名で、多くの人々によって口ずさまれています。
  この詩は、春の兆候を謳いあげている詩です。「山の三月」と書いてあ
ります。三月に、雲雀が鳴いて、雪解け水が流れ出して、木の芽がそっと顔
を出して、東風が吹く、そうした場所(地域)はどこなんでしょうか。日本
全国は北海道から沖縄まであります。北海道や東北地方は「山の四月」と
いったほうがよいのかもしれません。
  あまり三月にこだわる必要はないと思われます。この詩は、要は春の
兆候・きざしが現れ出てきて、春の到来を喜び、春いっぱいを待ちわびてい
る人々の気持ちのほうが重要です。
  「どこかで春が」という言い方に着目させて話し合いましょう。春はま
だ来ていないのです。春はすっかりとはまだ来ていないのです。ほんのかす
かな春の兆候・きざしがどことなく感じ取られるだけなのです。春の季節の
微妙な気分・空気・雰囲気が感じ取られるだけなのです。
  春の兆候・きざしは、この詩の中で例示されている事柄の他にどんなも
のがあるでしょうか。「どこかで春が生まれてる」の春のきざしとなるサイ
ンは、他にどんなことがあるのでしょうか。このほかにも多くあります。ど
んなことから春が来てると分かるのでしょうか。子ども達と語り合ってみま
しょう。
  なぜ、春を待ちわびているのでしょうか。その気持ちも語り合ってみま
しょう。また、単なる季節の春だけではないのかもしれません。人生の春、
チャンスの到来、というようなことも言っているのかもしれません。子ども
達と語り合ってみましょう。


           
 音声表現のしかた


  この詩を読むと、口頭からひとりでに歌が出てきます。口ずさみたくな
ります。まず、学級全員で歌ってみましょう。斉唱してみましょう。一人で
歌いたい子がいれば歌わせてみましょう。
  歌が終わったところで、次に音声表現をさせます。
  この詩は「4・3・5・4・3・5」のリズムになっていて、口あたり
よく、気持ちよく読めます。リズム調子の心地よさにまかせて、すらりと表
面をなでて、意味内容を考えないで読んでしまいがちです。詩内容を表現す
る・押し出すことに気をつかって音声表現するようにさせます。

  各連の冒頭にある「どこかで」の出だしの読み音調が重要です。どこの
場所(地域)かは特定できないが、「どこかで」春が生まれている、「どこ
かで」かすかに春が生まれている、「どこかで」確かに春の兆候が見える・
聞こえる、「どこかで」という確信や信念は確かにある、という思いや気持
ちを心に込めて音声表現します。
 「どこかで春が/生まれてる」の「どこかで」の出だしを読むときは、新
しく起こした強めの音調で読み出していくようにするとよいでしょう。

第一連と第二連
「どこかで春が、雲雀が」(と、しりあがりに持ち上げて)
「生まれ、て、る。啼いて、い、る。//」(と言い納めます)
「どこかで水が、芽の出る」(と、しりあがりに持ち上げて)
「ながれ、だ、す。音が、す、る。//」(と、言い納めます)

第三連
「山の / 三月 / 東風 / 吹いて // 」(と、持ち上げて)
「どこかで / 春が / 生、ま、れ、て、る // 」(と、言い納めま
す)


  なお、本ホームページの「学年別教材の音読授業をデザインする」の3年
生にも「どこかで春が」の音読授業デザインが書いてあります。そちらも参考
にしてご指導いただくとありがたいです。



             
参考資料


   合田道人(作家・歌手)さんは、東京新聞「童謡の風景」欄で、「どこ
かで春が」について、次のように書いています。一部引用します。

ーーーーーーー引用開始ーーーーーーー

  「東風」は雅語で難しいからと、現在の教科書では「そよ風」と改められ
ているようだが、私はこの歌で「東から吹いてくる春風のことを『こち」と言
うんだな』と覚えた。
 こういった美しい日本語を歌を通じて知ることは、とても大切なことだと思
うのだが…。
 さらに「春が生れてる」や「どこかで芽の出る音がする」など、繊細な擬人
法ともいうべき表現に、子ども心に感心し、作文などで使ってみたくなったり
した。
 その詞に親しみのある上品なメロディーがつけられている。一節と二節は同
じメロディーの繰り返しだが、そのあとに出てくる「山の三月…」からは、気
分を変えてのびやかなメロディーに変わる。その変化が実に心をくすぐってく
れたのだった。
  (東京新聞、2010・3・14朝刊。「童謡の風景・どこかで春が」より引用)

ーーーーーーー引用終了ーーーーーーー


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