音読授業を創る そのA面とB面と 06・1・2記 詩「雪」の音読授業をデザインする ●詩「雪」(三好達治)の掲載教科書………………光村5上、東書6上 雪 三好達治 太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。 二郎をねむらせ、二郎の屋根に雪ふりつむ。 この詩の解釈 詩の言葉が短くなればなるほど、場の限定がルーズになり、多様な解釈 ができるようになります。以下、この詩「雪」について、わたしのたいへん 手前勝手な解釈を書きましょう。 雪が降り出すと、外は寒くて冷たくて、頬や手がかじかんで、外遊びが できません。子ども達は家の中に引っ込んでしまいます。内遊びか、炬燵に 入ってうとうとまどろむほかありません。 雪降りが、太郎や次郎を眠らせたのでしょうか。必ずそうだと断定はで きませんが、この詩の連なりから、「ねむらせ」という使役表現から、雪降 りが太郎と次郎を家の中にこもらせて、二人を眠らせたととれなくもありま せん。あるいは、父母や祖父母が、太郎や次郎を「ねむれ、ねむれ」と歌を うたって眠らせた、ととれなくもありません。 いずれにせよ、太郎が眠っている家の屋根の上に、次郎が眠っている屋 根の上にどっかりと雪が降り積もっていると書いています。 場所は、どこでしょうか。豪雪地帯の田舎でしょう。家並みが並んでい る所ではなさそうです。隣家との距離はかなり離れていそうです。家がぽつ んぽつんと数軒か十数件ほど離れて建っている村落でしょう。 この教材は、光村本で五年生教材として与えられています。五年生です から、雪にどっぷりと囲まれた農家、屋根に雪が降り積もっている雪国の映 像や写真は、これまでに目にしていることでしょう。イメージ化にそう困難 ではなさそうです。 雪国の時間はゆったりと流れていきます。雪が屋根にどっかと降り積も ることは毎度のことでめずらしいことではありません。村人達は、ああ、今 日も、よく降り積もったことよ、と感慨にふけることはいつものことです。 子ども達に次の問いかけをしてみましょう。 (1)いま雪がどしどし降っている最中か。いまやっと小降りになっておさ まりつつあるところか。雪は降ってない、晴れているところか。 (2)いま、語り手(作者)は、どの位置で太郎や次郎の家や屋根を見て いるか。 (3)太郎や次郎は、乳児か、幼児か、就学前か、小学生か、中学生か。 (4)雪降りのときの音は、どんな音でしょう。音は全くなし、ですか。 雪降りは、いつから始まったのでしょう。何時間ぐらい降っている のでしょう。昨日から? 一昨日から? 三日前から? それとも 四日前から? これらのイメージは、読み手各人の勝手です、自由です。これが正し い、これが間違っているということはありません。この詩のイメージを深め るためのきっかけになればと思って、こんな発問を考えてみました。 その他、音声表現では次の発問を考えてみました。 (4)早口で読むか、ゆっくり読むか。若々しい声で読むか、年配者の声で 読むか。 (5)どんな気持ちになって読めばよいか。どんな気持ちに入り込んで読め ばよいか。 音声表現のしかた わたしは雪国育ちなので、雪がしんしんと屋根に降り積もる時は、外が とっても静かな日であることを知っています。 風が強い、吹雪の日は、ピューピューと音を出します。横なぐりの風 で、降った雪は風に吹かれ、遠くへととばされてしまいます。とばされた雪 は、木立や建物で風がよどんでいる場所に吹き溜まりとなって、そこだけ一 箇所が崖の流れをつくってこんもりと積雪しています。 この詩には、「屋根に雪ふりつむ」と書いてあります。ただひたすらに 屋根に雪が降り積もるだけです。こんな日は、外はとっても静かで、雪は音 も立てずにしんしんと降るだけ、積もるだけです。いつの間にかのっそりと 降り積もっています。風がなくて、雪がしんしんと降り積もるときは、ほん とに静かです。静寂につつまれています。 ですから、この詩の音声表現は雪がしんしんと降り積もっている時間の 静かさを音声で表現する必要があります。しーーんとした静かさを、読みの スピードをぐっと落として、声量も落として、頭のてっぺんから声を出すの ではなく、お尻や足の先から声を出すようにして、静かさの中に雪がただ降 り積もっているのみの思いをたっぷりとふくらむように声にのせて音声表現 していきます。 区切り方は、考えられるのは次のような二つの方法です。 その1 たろうを・ねむらせ・・・たろうの・やねに・・ゆき・ふ・り・つ・む・・ ・・ じろうを・ねむらせ・・・じろうの・やねに・・ゆき・ふ・り・つ・む・・ ・・ ≪二つの「ふりつむ」は、しだいに音声が細くなり消えていくように、一音 一音をポツリポツリ間を開けて、ゆっくりゆっくりと読んでいきます。≫ その2 たろうを・ね・む・ら・せ・・・ たろうの・や・ね・に・・ゆ・き・ふ・り・つ・む・・・・ じろうを・ね・む・ら・せ・・・ じろうの・や・ね・に・・ゆ・き・ふ・り・つ・む・・・・ ≪二つの「ねむらせ」と二つの「やねにゆきふりつむ」とは、しだいに音声 が細くなって消えていくように、一音一音をポツリポツリと間を開けて、 ゆっくりゆっくりと読んでいきます。 上述した二つの区切りの方法でなくても、いっこうにかまいません。 上記の方法は、まず考えられる常識的な区切り方でしょう。この二つの いろいろな変形があります。それらであっても勿論かまいません。 ただし、太郎と次郎とは、今ぐっすりと気持ちよく寝ています。大声で 目を覚まさせてはいけません。雪は静かにしんしんと音もなく屋根に降り積 もっています。音声表現は、これら場面の静寂さ、雪が降り積もり、重なっ ていく情景の雰囲気を声で作りつつ、声量の大小や読み声の速さ変化や間の 開け方やイントネーションの変化などで表現していくようにします。。 参考資料 菅原克己(詩人)は、この詩「雪」は好きでない、と書いています。こ の詩の解釈の一つの参考意見となると思いますので、次にその文章部分を引 用しましょう。あなたは、菅原意見、伊藤意見、どちらに近いですか。 ぼくがこの詩が好きでない理由は、簡単だ。何かしら、一種のポーズが あって、それにどうしても入りこめないからである。太郎、次郎というなつ なしい日本の呼び名があり、「眠る」とか、「雪」というものからくる、静 かな気分みたいなものは感じられるのだが、何か意味ありげな、詩の組み立 て方の上での姿勢というものに素直に入りこめないのである。 「太郎を眠らせ」。この「眠らせ」は、「眠らせて」なのか、「眠らせ ながら」なのか、「眠らせよ」の意味をふくむのか、そのすべてなのか……。 結局はこの詩人のポーズによる「眠らせ……雪ふりつむ」ということばのあ やつり方が、気に入るか入らないかになるのである。 この詩に関して伊藤信吉(詩人)は、好意をもって次のようにいう。 「風の気配もない夜、灰色の空の下に家々はひっそりと眠っている。音もな い。人の声もきこえない。雪は降り、人々は眠っている。太郎も次郎も、降 る雪の下にしずかに眠っている。生命というもののない冷たい雪につつまれ て、人々は眠りの中に、その生命をあたためているのである。そこに人間生 活のいとなみに見入る作者の眼のようなものが感じられる。この詩には民話 風なあたたかさもある。雪は人を幻想にさそい、そこに数々の物語を育てた。 雪の多い地方に、昔から伝わるあわれふかい民話や、雪女の物語など、そん な幻想に人をさそう。……」『現代詩の鑑賞』 二行の詩から、これほど感じられるということはたいへんなことだと思 う。しかし、これほどのびのびと、そのイメージは感じられなかった。逆に、 作者に設定されてある美意識というものに、小さくせばめられてしまうもの を感じたのである。結果としてその詩の世界を感ずる手前で、とりすました ことばの操作を感じ、抵抗を持たざるを得なかったのである。 三好達治の第一詩集『測量船』にこの詩はのっているのだが、その詩集 の最初の短歌がある。それは、「春の岬旅のをわりの鴎どり浮きつつ遠くな りにけるかも」というものであって、まことにのどかな文人墨客ごのみであ るが、この短歌でもわかるように、三好の作品には詩人の心の深さを直接し めすよりも、ある修辞上のたくみさで読ませるものがある。それはものの本 質に詩をもってくい入ることよりも、事物の表面でなだらかに遊泳するその 手さばきに重点がおかれているような気がする。この初期の詩篇から、戦争 中の詩、それから戦後の詩にいたるまで彼がしめしてきたのは、その修辞上 の手さばきにあるといったら酷だろうか。 『教育科学国語教育』1963・7月号より引用 参考資料(いろいろな雪) この詩「雪」は、光村版国語教科書・五年上に掲載されています。同じ く五年下には 「月夜のみみずく」が掲載されています。寒く凍てついた冬の夜にみみずく 探しに行く父と娘の物語です。詩「雪」も、物語「月夜のみみずく」も、雪 降りや雪に埋もれた家々の様子が実感的にイメージできていないと、十分な 作品内容の理解ができません。 ここでは、参考資料として「雪」のつく言葉(漢字)、雪にまつわる単 語を集めてみました。雪降りや雪国の様子をイメージさせるために導入指導 として、下記の中から言葉の幾つかを選んで問いかけ、雪降りや夜の雪原・ 森の中の情景をイメージ化させるのにやくだててみましょう。 泡雪〈あわゆき〉 泡のように解けやすい雪。 細雪〈ささめゆき〉 こまかに降る雪。 斑雪〈はだれゆき〉 はらはらと降る雪。 綿雪〈わたゆき〉 綿をちぎったような雪。 牡丹雪〈ぼたんゆき。ぼたゆき〉 大きな雪片で降ってくる雪。 粉雪〈こなゆき〉 粉のようにさらさらした細かい雪。 こごめ雪 細かい雪。 氷雪〈ひょうせつ〉こおった雪。 べた雪 水気の多い雪。 ぼた雪 湿気のある大粒の雪。 綿帽子雪〈わたぼうしゆき〉 大片の雪。 濡れ雪〈ぬれゆき〉水分の多い雪。 名残り雪〈なごりのゆき〉春になってから冬のなごりに降る雪。 友待つ雪〈ともまつゆき)次の雪の降るまでに消えずに残っている雪。 忘れ雪〈わすれゆき)その冬の最後に降る雪。 雪崩雪〈なだれゆき〉 なだれとなって落ちてくる雪。 花の雪〈はなのゆき〉 白く咲いた花を見立てていう。 横雪〈よこゆき〉 風で横殴りに降ってくる雪。 俄雪〈にわかゆき〉にわかに降ってくる雪。 白雪〈しらゆき〉 雪の美称。 たびら雪 春近くに降ってくる、うすくて大片の雪。 春雪〈しゅんせつ〉 春に降る雪。 初雪〈はつゆき〉 その冬、初めて降る雪。 新雪〈しんせつ〉 新しく降り積もった雪。 根雪〈ねゆき〉 春まで溶けないで残る雪。 残雪〈ざんせつ〉 消え残った雪。 融雪〈ゆうせつ〉 とけた雪。ゆきどけ。 どか雪 一時的に多量に降る雪。 豪雪〈ごうせつ〉 大雪。大量の雪。 万年雪(まんねんゆき〉 長年消えないで氷塊となっている雪。 淡雪(あわゆき) 春に降るやわらかで消えやすい雪。 粗目雪〈ざらめゆき〉日中に溶けた積雪が夕方凍結したざらめ状の雪質。 しずり雪 木の枝から落ちる雪。 帷子雪〈かたびらゆき〉 薄く降り積もった雪。 薄雪〈うすゆき〉 少しばかり降り積もった雪。 吹雪〈ふぶき〉 横殴りに吹き付ける雪。 里雪〈さとゆき〉 平地に降る雪。 山雪(やまゆき) 山地に降る雪。 大雪〈おおゆき〉 激しく降る雪。それで積もった雪。 小雪〈こゆき〉 少しの雪。 雹〈ひょう〉雷雨に伴って降り、豆粒や鶏卵ほど。夏季に多い。 霰〈あられ〉雪の結晶に過冷却の氷が付着して降った小さい塊。 霙〈みぞれ〉 雪が溶けて雨まじりに降る雪。氷雨ともいう。 雪煙〈ゆきけむり〉 雪の粉が煙のように噴き上げる。 風雪〈ふうせつ〉 風と共に降る雪。吹雪ともいう。 トップページへ戻る |
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