音読授業創る そのA面とB面と 05・12・23記 「海雀」(詩)の音読授業をデザインする ●「海雀」(北原白秋)の掲載教科書……………………………光村5上 海雀 北原白秋 海雀、海雀、 銀の点点、海雀、 波ゆりくればゆりあげて、 波ひきゆけばかげ失する、 海雀、海雀、 銀の点点、海雀。 作者について 1885(明治18)年、福島県(現、柳川市)に生まれる。本名隆吉。家は 豪商で、豊かな幼少時代をすごす。田舎の中学を中退し、早大英文科に入 学。 与謝野鉄幹の新詩社に加入、新進詩人として森鴎外や上田敏に認められ た。新詩社脱退。木下杢太郎や石井伯亭らとパンの会を結成。 「邪宗門」「思い出」により詩壇に確固たる地位を築いたが、そのころ から人妻との恋愛事件で市谷の未決監に拘置されたり、実家の造り酒屋大火 で全焼し、倒産による郷里の家族の生活問題などが重なり、流転と貧窮の生 活がつづく。が、やがて安定する。 「赤い鳥」が創刊され、詩壇歌壇の第一人者として活躍した。「赤い 鳥」の創刊に際し、鈴木三重吉の依頼で童謡の制作と応募童謡の選と地方童 謡の募集を引き受け、以来、死の直前まで多くの童謡作家を養成した。 生涯の著作は、歌集,童謡集など約200冊におよぶ。 福本邦雄『炎(ほむら)立つとは』のなかで「新詩社」脱退について触 れている。1907年、北原白秋は師である与謝野鉄幹、晶子夫妻を訪ねた。ト イレに入ると、自分たち若手同人のボツ原稿が落とし紙として箱に積まれて いた。「人が心血を注いで書いた原稿を」と激高した。年が明けてすぐに白 秋、吉井勇ら7人が鉄幹主宰の「新詩社」を脱退した。福本は「落とし紙の 件は理由の一端にしか過ぎず、もっと必然の原因が潜んでいた」と書いてい る。 海雀について 【広辞苑】(岩波書店)より チドリ目スズメ科の鳥の総称。また、特にそのうち小形の約10種の総称。 全長15〜20cmのずんぐりした海鳥で、潜水して魚を捕る。北大西洋産 の一種を除き北太平洋産。日本では七種が記録され、カンムリウミスズメ・ ウミスズメなどが繁殖。 【大辞林】(三省堂)より チドリ目ウミスズメ科の海鳥。全長25cmほど。背面は灰黒色で腹面は白 色。冬期海上にみられ、北海道・千島・朝鮮などの離島で繁殖する。 【光村版教科書の欄外】より 海雀 大きさはすずめの二倍くらい。冬になると、日本の各地の海上でよく 見られる。 【光村の学習指導書・旧版】より ウミスズメ 数羽から十数羽の群れとなり、一列横隊に海上に浮かんでお り、時々潜って小さな魚を食う。 語句調べ 以下、広辞苑、その他で参照したことで書きます。 【ゆりくれば】 ゆる+くる。複合語。 【揺る】 自動詞五段(1)振い動く。ゆるぐ。ゆれる。動揺する。 (2)ためらう。躊躇する。 他動詞五段(1)振り動かす。ゆすぶる。 (2)水中で、箕のをゆり動かして選びとる。 【揺り】 (1)揺れること。ゆすぶる。 【ゆりあげる】 ゆりあぐ。 揺り動かして上げる。ゆすって上げる。 【ひきゆく】 引く+行く。複合語。 【影、陰、蔭、翳】 (1)日、月、灯火などによって、その物のはかにできるその物の姿。 (2)光によって、その物のほかにできる物の姿。 1、水や鏡の面にできる物の形や色。 2、光をさえぎったために光源と反対側にできる暗い部分。 3、うすくぼんやりと見えるもの。 (3)物の姿。 (4)物の後ろの、暗いまたは隠れた所。 【失す】 失す(自動詞二段)→失せる(自動詞一段) うすれて見えなくなること。 (1)見えなくなる。なくなる。消える。 (2)死ぬ。 (3)「去る。来る。居る」をいやしめていう。居やがる。来やがる。 イメージ化の一例 この詩を、子供たちはどう解釈するでしょうか。子供たちは子ども達な りにいろいろな受け取り方をすることでしょう。 以下、わたしの身勝手な、わたしなりの解釈を書きます。 季節は冬。語り手は海岸にて、海の波打ち寄せる彼方の波間を見てい る。空や海は、灰色、どんよりとした曇り空、うすら寒くて、さびしげ。白 黒世界、カラーなし。 語り手はコートの襟を立て、うねっている波間を見ている。遠くかなた の波間に浮いたり沈んだりしている海雀たちが小さく点点になって見える。 海雀たちは、波の盛り上がりや沈み、うねりの浮き沈みによって、見えたり 隠れたり・浮き上がったり波間に沈んで消えたり、見え隠れしている。海雀 たちが数羽、波のたゆたいにまかせて、遠く銀色の横一列の点点になって、 浮いたり沈んだり、見え隠れしている。 「かげ失する」の「かげ」とは、光が遮られてできる暗いかげではなく、 遠く・ぼんやりと・小さく・点点となって見える物(海雀)の姿や形のこ と。上記の語句調べの(3)に当たる。 この詩には、「海雀」の単語が六個、「銀の点点」の語句が二個、繰り 返されている。文字で記述(描写)するというデジタルの線条性をアナログ 化した記述(描写)と考えられる。「海雀」を六個、繰り返すことで、海雀 の一羽、一羽が六羽(とはかぎらないが、数羽)いるような絵のような、絵 画詩・視覚詩の構成をとっている。ここでの「海雀」は象形文字化されてい る。ですから、「点点」は、デジタル表現の「点々」ではいけないのであ る。「点・点・点・点となって見える」なのである。海雀一羽一羽を表象さ せる「点点」でなければいけないのである。 何故に「銀の点点か」。「大辞林」(三省堂)によると、海雀は背面は 灰黒色、腹は白色とある。全体が遠くかすかにほんとに銀色に見えたのかも しれないし、よく言われる生きた魚は銀色に光るとか銀鱗とか言われるとこ ろから、こう書いたのかもしれない。 音声表現のしかた 五七調の快いリズムになったいる。 海雀(5) 海雀(5) 銀の点点(7) 海雀(5) 波ゆりくれば(7) ゆりあげて(5) 波ひきゆけば(7) かげ失する(5) 海雀(5) 海雀(5) 銀の点点(7) 海雀(5) 音声表現では、とかくすると、この詩の表現している意味内容を考えな いで、五七調のリズムだけに引きずれらて、調子よい表面リズムに振り回さ れて音読しがちになります。これでは、いけません。表面的な調子よいリズ ムに抵抗して、この詩の表現内容のリズムで音声表現するようにしなければ なりません。 ゆっくりとした波の浮き沈み、海雀たちの浮き沈みや見え隠れ、海雀た ちが波間に遊んでいる光景をたっぷりとイメージして、それら波にたゆたう リズムを読み手の身体のリズムに入れて、作って、響かせて、それらのリズ ムで音声表現していくようにします。 こう音声表現しなければならないというものはありません。各自の海雀 たちの波間で見え隠れしているリズムで読んでいけばよいでしょう。たっぷ りとイメージして、波間のたゆたいを自分の身体にリズムとして思い描き、 揺すりながら音声表現するならば、決して早口にはならないでしょう。ゆっ くりとたっぷりと揺れながら音声表現していくようになるでしょう。 参考資料 北原白秋「海雀」の中にある詩句 「銀の点点、海雀 波ゆりくればゆりあげて 波ひきゆけばかげ失する」 をはじめ、この詩全体の波が大きく上下する場面は、平家物語にも同じよう な場面があったことを思い出しました。 それは「舟は、 揺り上げ揺りすゑ漂へば」という、かの超有名な「扇 の的」の場面です。平家物語では大きく波に上下して揺れているのは「海 雀」ではなくて「舟」です。ですが、海の波が大きく上下に揺れ動いている 様(さま)だけをチョイスすればそっくりだと思いました。 原文 「 ころは二月十八日の酉の刻ばかりのことなるに、をりふし北風激しく て、磯打つ波も高かりけり。舟は、 揺り上げ揺りすゑ漂へば、扇もく しに定まらずひらめ いたり。沖には平家、舟を一面に並べて見物す。陸に は源氏、くつばみを並べてこれを見る。いづれもいづれも晴れならずといふ ことぞなき。」 口語訳 「 時は二月十八日、午後六時ごろのこと、おりから北風が激しく吹いて 岸を打つ波も高かった。舟は、揺り上げられ、揺り落とされ、上下に大きく 漂って、竿頭の扇もそれにつれて揺れ動き、一定位置に定まらない。沖には 平家、陸には源氏、馬のくつわを連ねてこれを見守っている。どちらもどち らも、晴れがましい光景である。」 という波高の場面です。 これにすぐ続いて、射抜かれた扇の的が海に落ち、「白波の上に漂ひ、 浮きぬ沈みぬ揺られければ、沖には平家、ふなばたをたたいて感じたり、陸 には源氏、えびらをたたいてどよめけり。」という本文もあります。 トップページへ戻る |
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