音読授業を創る そのA面とB面と     06・5・27記




  
「うぐいす」の音読授業をデザインする




●「うぐいす」(ぶしかえつこ)の掲載教科書……………………教出5上




              うぐいす
                ぶしかえつこ

           うぐいすの こえ
           すきとおる
           はるのつめたさ
           におわせて

           うぐいすの こえ
           すきとおる
           うちゅうが 一しゅん
           しん、とする




            
作者について


  ペンネーム・武鹿悦子。本名・荒谷悦子。
  1928年東京生まれ。詩人、作家。東京都立第8高女卒。松竹大船シ
ナリオライター一期生。1952年ごろより西条八十に師事し、詩作をはじ
める。戦後早くから詩や童謡を書いていたが、50年NHK幼児番組「歌の
おばさん」に童謡を発表したことを契機に放送・レコード界で活躍する。日
本コロンビア学芸部勤務。戦後童謡のすぐれた書き手のひとりとなる。
童謡集『こわれたおもちゃ』(国土社)、詩集「ねこぜんまい』(かど創
房)、童話『りえの雲の旅』(小峰書店)など100冊ちかくの著作物があ
る。


            
指導の手順

わたしが考えた指導の手順の大体は、次のようなものです。
 (1)題名よみ
 (2)構成調べ
 (3)「すきとおる」の話し合い
 (4)詩的表現と実用的表現
 (5)音声表現のしかた
以下、これらについて詳述していきます。


          
(1)題名よみ


  題名は「うぐいす」です。はじめに「うぐいす」について話し合いま
す。
学級児童は「うぐいす」についてどれぐらいの知識や経験を持っているので
しょうか。実際にウグイスの姿を見たことがあるのでしょうか。実際にウグ
イスの鳴き声を聞いたことがあるでしょうか。こうした知識や経験のあるな
しで、この詩の内容理解やイメージの喚起力が全く違ってきます。
  ウグイスは、春を告げる「春告鳥」とも呼ばれています。梅の花が咲
き、土筆が出はじめる早春になると、ウグイスは素敵な声で「ホーホケ
キョ」と鳴きだします。ウグイスは、ツバメやヒバリやカラスのように人里
や市街地では目立って見られる鳥ではありません。スズメぐらいの大きさ
で、主に山地帯の低木林に生息しており、藪の中を好みます。
  学校図書館から鳥図鑑や鳥写真集などでウグイスの写真を見せることも
必要でしょう。市販の電子辞書の多くには岩波「広辞苑」の国語辞書が付属
しているようですが、この広辞苑の電子辞書には「うぐいす」と入力して項
目を引くと、実際のウグイスの鳴き声録音を耳にすることができます。荒木
所持の電子辞書の広辞苑にはウグイスの鳴き声を聞くことができますが、録
音が入ってない広辞苑の電子辞書もあるようです。


         
 (2)構成調べ


  この詩を構成している「連」や「リズム」を調べさせましょう。
「うぐいす」の詩には、次のような構成上の特徴があります。
◎この詩は、ニ連で構成されている。
◎ニ連とも、4行で構成されている。
◎二連とも、1行目「うぐいすの こえ」で、2行目「すきとおる」と、2
 行目までは同じである。
◎ニ連とも、3行目、4行目は、詩句が違っている。
        第一連「はるのつめたさ におわせて」
        第二連「うちゅうが 一しゅん しん、とする」
◎リズムがある。韻律がある。
        第一連「5・2・5・3・4・5」
        第二連「4・2・5・4・3・5」
 これらリズムが心地よい響きとなって気持ちよく音声表現することができ
る。ウグイスの鳴き声のリズムと調和している。


        
(3)「すきとおる」の語り合い


  この詩には、ウグイスの鳴き声は「すきとおる」とその特徴が描写され
ている。「すきとおる」鳴き声とは、どんな鳴き声なんでしょうか。学級全
員で話し合ってみましょう。
  どんな様子の鳴き声ですか。鳴き声が「透き通っている。透いている。
透明である。途中で障害物がなく、遠くまで透き通って見渡せる。遠くまで
よく響いて届く。澄んでいる声。雑音が全くない声。透明な声」ということ
ですね。
  ウグイスの声それ自体だけでなく、鳴いているウグイスの周囲の様子、
景色、情景も「すきとおる」に大いに関連しているようです。「はるのつめ
たさ におわせて」「うちゅうが 一しゅん しん、とする」と書いてあり
ます。
  ウグイスの声自体と周囲の景色、様子との相補充足関係が「すきとお
る」を構成しています。周囲の様子と重なって「すきとおる」を構成してお
り、「すきとおる」鳴き声がありありと一層深く読者に表象することができ
るようになっています。
  学級全員で、周囲の様子をいろいろとふくらまして語り合って見ましょ
う。「すきとおる」鳴き声と関連づけて周囲の様子を語り合ってみましょ
う。

        
(4)詩的表現と実用的表現


  「うぐいす」の詩が詩的表現として成立している条件は何か。この詩
を、詩ならしめているものは何か。これらの特徴について学級児童全員で語
り合ってみましょう。

  池上嘉彦(東大教授)の記号論的観点からこれらについて考えてみる
と、こうなります。
  この詩が、何(WHAT)について、いかに(HOW)書かれているか
を調べさせてみると、この詩の詩的な表現の特徴が理解できます。
  この詩は「うぐいす」の事柄について書いています。「うぐいすのこ
え」(WHAT)について書いています。このことは簡単に分ります。
  次に、どのように(HOW)書かれているかを調べさせます。
  いかに(HOW)書かれているかを調べさせると、この詩が、詩的かつ
美的な表現であることに気づくことでしょう。
  この詩は、日常的な、ごく普通の表現(実用的表現)で書くとすると、
どんな表現になるのでしょうか。みんなで普通の言い方(文章)に書き直し
てみよう。一つの案を下に書いてみます。
  この詩を、第二行・第三行・第四行を、第一行の連体修飾語とみた装定
表現と考えれば、第一連は「すきとおる、はるのつめたさを、におわせたう
ぐいすの鳴き声」となります。第二連は「すきとおる、うちゅうが一しゅ
ん、しんとするうぐいすの声」となります。両連とも「何という素敵な春を
告げるうぐいすの鳴き声だこと!」という感動表現となります。
  この詩を、主語・述語の述定表現と考えれば、第一連は「うぐいすの声
がすきとおる。春の冷たさや春の匂をにおわせて何と素敵に鳴いていること
よ!」という文になります。第二連は「うぐいすの声がすきとおって聞こえ
るよ。うぐいすの鳴き声は、宇宙が一瞬、しんとする鳴き声だことよ!」と
いう文になります。
  この詩は、上記したような実用的表現、日常使用の言葉表現、言い古さ
れた言い方の文では書かれていません。

  では、この詩がどう書かれているかを調べてみましょう。
  この詩は、実用的表現に多くみられる、だらだらした余計な言葉を入れ
た表現にはなっていません。これは詩ですから、省略された、必要最低限の
言葉で、緊張感のある、はりつめた表現(言葉の組み合わせや配列)になっ
ていることに気づきます。
  実用的な言葉表現を逸脱することで、詩は、読者を、言葉・表現そのも
のに注意を向けさせます。言葉そのものに自立した価値を見出させる表現に
なっています。日常的使用の言葉の枠をはみだす新しい言葉使用をすること
で、新しい世界を創造して、読者に新しい創造体験をさせていることに気づ
くことでしょう。
  この詩は、言葉の組み合わせや構成、表現の仕方を組み換えることで、
読者にこれまで体験できなかった新しい世界、ウグイスが早春の冷たさと静
寂さを切り裂いて透き通った声で鳴く、日常の言葉使用では感じ取れない、
別世界のウグイスの新鮮な鳴き声世界を開示してくれています。つまり、新
しい詩的世界、美的世界を開示していることに気づかさせられます。
  こうした学習(日常の実用的な言葉使用と比較する)をすることを通し
て、子ども達は、「うぐいす」の詩は「言葉の選び方、組み合わせ方、構成
の仕方が、すごいね。素敵な言葉の結びつけ方で、すばらしいね。新しい世
界を創造しているね。」ということを実感できます。また、この詩を音読す
るときは、そうした素敵な言葉の組み合わせのよさや、その響き合いを音声
で楽しみながら、快いリズムで音声表現することができるようになります。


         
(5)音声表現のしかた


  この詩を、どんな雰囲気にして音声表現すればよいのでしょうか。学級
全員で語り合ってみましょう。
  うぐいすの透明な、長く引きずる鳴き声、早春の冷たさ、周囲の静寂
さ、こうした情景・雰囲気の中ですきとおるうぐいすの鳴き声にして音声表
現したいものです。できるだけ透き通るような声の感じを声に出そうとして
読みたいものです。できるだけ細い声、歯切れよい声、高い声、明晰な発音
の声で表現したいものです。ざらざら声、だみ声、発音不明瞭なもぐもぐ発
音、低くくぐもった声、喉の奥へと飲み込んだ声で音声表現しないようにし
ます。これでは、この詩の意味内容と合致しません。

 ●両連にある「うぐいすの/こえ/すきとおる」は、「うぐいすのこえ
(が)すきとおる」のような文連接のつもりで「うぐいすの(間)こえ
(間)すきとおる」と間をあけて読みます。「すきとおる」をやや高めの声
にして、また細めの声にして、「すきとおる」鳴き声の感じを強調した読み
声で音声表現したいものです。「すきとーる」と伸ばして読むのも硬質で長
く伸びているウグイスに鳴き声の感じが複合的に出てよいでしょう。
  二つの「すきとーる」の下では、たっぷりと間をあけてから、次を読み
出していきましょう。

 ●第一連の3・4行目は「すきとーる(たっぷりとした間)はるの(間)
つめたさ(間)におわせて」と間をあけて読みます。「つめたさ」の語句を
やや高めた声にして強調して音声表現するとよいでしょう。「に・お・わ・
せ・て・」のように途切れ途切れに、ゆっくりと、低い声にして、ぽつりぽ
つりと言い納める音声表現にするのもよいでしょう。
  「におわせて」の語句内容は、「春の冷たさを」「匂わせて・感じさせ
て・出させて・知らせて」という文内容のつもりで、そうした文内容のイメ
ージを音声表現にして読みます。
  しかし、これとちょっと違って「春の匂い・春の季節の匂いをただよわ
せて、伝えて、知らせて」という解釈で、そんな心づもりで、脳中にイメー
ジを浮かべつつ音声表現してもよいでしょう。

 ●第二連も同じに「すきとーる」の下でたっぷりとした間をあけます。そ
して「うちゅうが(間)一しゅん(間)しん(たっぷりとした間)とする」
のように間をあけて読みます。
  「一しゅん」を強めの声立てで、強調して読みます。
  「しん」は、小さい、低い声で「しん」と読んでもよいでしょう。また
は、高い鋭い声で「しん」でもよいでしょう。または、小さい、低い声で、
そっと「しーーん」と伸ばして音声表現してもよいでしょう。そのほか、い
ろいろな音声表現の仕方が考えられるでしょう。いずれにせよ、林の中か、
森の中か、藪の中かは分りませんが、その場所の静けさ・静寂さを、読み声
で表現することがとても大切です。
  最後の「とする」は、落ち着いた声で、小さく読むとよいでしょう。あ
るいは「と・す・る・」のように途切れ途切れに、ゆっくりと、低い声にし
て、ぽつりぽつりとした音調にして、言い納める・下がる仕方の音声表現で
読み終えてもよいでしょう。


             
参考資料


  うぐいすの生態その他について、わたし(荒木)が調べたことを以下に
参考までに書きます。

  スズメ目ウグイス科の小鳥。全長14〜16cm。だいたいすずめと同
じ大きさと考えてよい。
  ほぼ日本全国に分布し、低山帯から高帯の低木林に至るまで繁殖する。
笹の多い林下や藪を好む。
  日本全国に繁殖するが、冬は北海道のものは暖地へ移動する。冬は高山
帯から低地の暖地に移り、市街地にも現れる。世界に三百種〜四百種ある。
日本には約十五の種類がある。
  藪の中を枝渡りしながら活発に移動し、葉の裏にいる昆虫などを食べ
る。林床に笹が密生している場所を好み、営巣する。
  さえずり声は、よく知られる「ホーホケキョ」という素敵な鳴き声であ
る。
「うぐいす」の「す」は鳥をあらわす接尾語で、「うぐい」のほうは、鳴き
声からきているといわれている。早春になる前、まだ鳴き始めの頃の声は下
手で、「ウ・・ウグイ・・」と聞こえることからきているとか言われてい
る。また「ホーホケキョ」は「法、法華経」からきているとかも言われてい
る。
  冬は「チャッチャッ」と鳴き、「笹鳴き」と呼ばれる。一夫多妻で、オ
スは見張り役。敵が近づくと「谷渡り」と呼ばれる「ケキョチョ」とか「ケ
キョケキョ」をくりかえす。
  早春の季節になると平地に来ホーホケキョ」と鳴き始めることから「春
告鳥」とう別名がある。そのほかの別名として、春鳥、花見鳥、歌詠み鳥、
匂鳥、経読み(きょうよみ)鳥、人来(ひとく)鳥などがある。
  体は茶褐色で、体の腹部は白く、尾が長い。メスはオスより一回り小さ
めである。古くから飼い鳥として珍重されたが、現在は許可が必要である。
  万葉集には「ほととぎす」について多くの歌に詠まれている。「春」
「梅」とのセットで詠まれることが多く、「鶯鳴く」の語句も多い。昔から
春の鳥を代表する鳥である。
  うぐいすの糞には豊富に酵素が含まれ、顔面にぬると角質層が柔らかく
なり、小じわが取れて肌のキメが細かくなると言われている。肌のくすみが
取れて色白になるという。古くから美顔洗顔として人気がある。「うぐいす
の粉」として市販もされているそうだ。


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