音読授業を創る  そのA面とB面と        07・7・15記




「千年の釘にいどむ」音読授業をデザインする




●「千年の釘にいどむ」(内藤誠吾)の掲載教科書…………………光村5上




         
筆者(内藤誠吾)について


  1967(昭和42)年、東京都に生まれる。NHKテレビのディレク
ターを務める。主な番組に「人間ドキュメント」などがある。


             
題名よみ


  題名は「千年の釘にいどむ」です。だれがいどんだのでしょうか。どん
ないどみ方をしたのでしょうか。多分、すばらしいいどみ方、感動的ないど
み方をしたのだろう、教科書に書かれるくらいだから、などの予想が浮かぶ
ことでしょう。
  「千年の釘」とは、具体的にどんな釘のことなのでしょうか。幾つかの
予想を出させて話し合ってみましょう。「千年たってもくさらない、さびな
い、千年前と同じぴかぴかのままで残っている(ささっている)釘」など
と、子ども達はいろいろと語りだすことと思います。これら題名よみからの
予想を、これからの読みの構え作りにします。


            
筆者について


  筆者名は、題名の下段に「内藤誠吾」と書いてあります。物語文は「作
者・作家」と呼ぶが、説明文は「筆者」とよぶことを確認しましょう。本教
材文「千年の釘にいどむ」を書いた人は「内藤誠吾さん」であることも確認
しましょう。
  ところで、内藤さんは、この「千年の釘にいどむ」の中で、何につい
て、どんなことを説明しているのでしょうか。読者に、どんな新しい知識を
与え(知らせ)ているのでしょうか。読者に、どんなことを伝えたくて、ど
んなことを訴えたくて、どんなことを願って、この文章を書いているので
しょうか。
  これらの問いに深入りして話し合うことは必要ありませんが、こうした
筆者がこの文章を書いた意図や願いを事前に意識して本文の読みに入ってい
くことは重要です。「筆者がこの文章を書いた意図や願いはなんだろうね」
という問いかけや誘いかけを与えて次に進むことは大切です。
  この教材文は説明文です。もう一つ、誘いかけておくとよいでしょう。
筆者の説明の(論運びの)順序を読みとっていこう、と誘いかけておきま
す。はじめに何を書き、次に何を書き、それから何を書いているか、最後に
どんなまとめ方をしているか、説明の順序(文章の構成。伝達内容の論理的
なつながり方)を読みとっていこう、と事前に誘いかけたおきます。そうし
た意識で本文の読みに入っていく態度作りをしておきます。


            
文章の構成


  全文が四つの一行空白で区切られていています。つまり、全文の文章構
成がつごう五つの文段(大段落)に区切られています。
  一つの文段(大段落)の中には、幾つかの形式段落が含みこまれていま
す。本稿で説明の都合から、全文を、前から順繰りに形式段落ごとに機械的
に番号をつけて、それで説明していくことにしますいきます。
  下記では、形式段落の番号を( )にして書いています。「千年の釘に
いどむ」全文の文章構成は次のようになっています。

  第一文段……前書き……形式段落(1)(2)(3)(4)(5)
  第二文段……本文1……形式段落(6)(7)
  第三文段……本文2……形式段落(8)
  第四文段……本文3……形式段落(9)(10)
  第五文段……後書き……形式段落(11)

  音声表現をするときは、文章の組み立てが、何についてどのような順序
で語られているか、どのような論運びの順序になっているかを、これらが聞
き手に分かりやすく伝わることに気をつかって音声表現していくようにしま
す。聞き手が、聞いていて分かりやすい、聞き取りやすい、意味内容が伝わ
りやすい、そうした読み方に気を使って音声表現していくようにするとよい
でしょう。


       
前書き部分の音声表現のしかた


  
形式段落(1)では、冒頭で「千年先のわたしたちの周りはどうなって
いるだろう」と読者に問いかけています。読者に問いかけている音調で、質
問している音調で音声表現します。
  第二文からは、この問いかけに引きずられて、筆者が「千年先まで残っ
ているもの」の答えを推論しています。そして「見つけるのはむずかしいだ
ろう」と結論づけています。
  形式段落(1)は、第一文の問いかけに導かれて、2文、3文、4文が
ひとまとまりになって「こう思うよ」という意識で、筆者の思い(推論)を
語っていく、思考や推論のめりはりをつけた音声表現で読みすすんでいくと
よいでしょう。

  
形式段落(2)は、(1)段落とは逆の接続でつながっています。です
から、すんなりとつなげて読みすすむのでなく、「ところが」の「と」を高
く強く、目立たせて読み出していきます。こうして前段落とは意味内容が逆
のつながりになっていることを音声であらわします。
  そして、「古代の職人たちは千年たってもびくともしない建物をつくり
あげたのだ」までひとつながりに意味内容の思いや息づかいにして読み下し
ていきます。古代の職人は千年先までそのままの釘で残している、すごいだ
ろう、という驚きと感動の気持ちをこめて読み下していきます。

  
形式段落(3)は、「薬師寺では」から「東塔をのぞくすべての建物が
焼失してしまった」までの3文を意味内容ではひとつながりですから、ひと
つながりになるように音声表現していきます。
  「東塔と西塔、御本尊をまつる金堂、おぼうさんたちが修行する大講堂
など、七つのすばらしい建物が」まではぶつ切りにしないで、五つが並んで
ひとまとまりになるように音声表現していきます。
  「焼失してしまった」のあとで軽く間をあけます。そして「これらをす
べて」は新しい気分で、明るく高い声立てで、新しく起こして読み出してい
きます。その転調した音調を引きずって「現代に再現しようというのだ」ま
で読み下していきます。

  
形式段落(4)は、第一文が問いかけの文です。「どうしたら、古代の
人々に負けないものをつくれるのか」と問いかけ、質問している音調で、つ
まり尻上がりの音調で読みます。読み終わったらそこで暫時の間をあけて、
読者に考える間をとります。
  そして、日本中から一流の職人たちが総動員された。「こんな人、こん
な人、こんな人まで」とひとつながりの息づかいで読み下していきます。

  
形式段落(5)は、この釘作りをまかせられたのは、かじ職人の白鷹幸
伯さんだ。「白鷹さんはまず古代の釘と今の釘とがどう違うかを調べること
から始めた。」と読み進めていきます。そして、「調べてみて初めて、古代
の釘の見事さにおどろいた。」と驚きや感動した気持ちをこめた音調で読み
おさめます。

         
本文1の音声表現のしかた


  本文1には、形式段落6と形式段落7とがあります。ここには、釘の寿
命の違いは鉄の純度の違いだと書いています。こうした大きな意味内容のか
たまりをつかんで、それを主要なかたまりとして押し出して読みすすめてい
くようにします。

  
形式段落6には、釘の寿命について書いています。「釘なんて、いつの
時代でも同じではないのか」と考えるかもしれないが、それは違う。今の釘
はこうこうだ。こうこうだ部分には3文を使って説明しています。3文は意
味内容ではひとまとまりですから、ひとつながりになるように音声表現して
いきます。
  「ところが」からあとは逆接につながっていきますから、「そうじゃな
い」という意味をこめ、「ところが」の「と」を高く強めに読み始めて転調
します。
  「千年もたせる建物には、こういう釘は使えない」ときっぱりと否定し
て、断定する言いぶりで読みおさめるようにします。「こうこうだ。ところ
が、こうこうだ」と、逆接の接続詞の前のつながり、後ろのつながり、二つ
の対立を音声で明確に区別して、対比的な読みすすめ方にしていきます。

  
形式段落7には、釘の長さと鉄の純度について書いてあります。冒頭で
「写真の、古代の釘を見てほしい。」と読者に、掲載してある写真を見るこ
とを要求しています。要望・要求している音調で音声表現していきましょ
う。
  次に、写真を見ると、こんなこと、こんなことが分かってくるねと語
りかけています。写真を見ると、これも分かるでしょう、これも分かるで
しょう、と読者に念押しや確認をしている音調にして読みすすめていくよう
にします。
  現代の釘はこういう理由で鉄の純度が低い。【これに対して】古代の釘
は鉄の純度が高い。【だから、】さびにくい。と思考の論理のめりはりの運
びで語りかけ、写真を説明しているように音声表現していきます。【これに
対して】の前部分と後部分とを対比して語っていますから、これら二つを対
比して対立している説明の音調にして読みすすめていくようにします。


         
本文2の音声表現のしかた

  
  本文2は、
形式段落8の一つしかありません。教科書記載では18行で
1段落という長文の構成になっています。
  こうした長文の1段落構成には、幾つかの大きな意味のまとまりがある
はずです。大きな意味のまとまりを探しましょう。そして、それぞれの大き
な意味のまとまり同士で何らかの論理的なつながりになっているはずです。

  音声表現では、大きな意味のまとまりはひとつながりにまとめて読むよ
うにします。大きな意味のまとまり同士の論理的なつながりは、「すんなり
受ける」とか「さらに新たに付け加える」とか「逆につなげて反対のことを
言う」とか、いろいろなめりはりづけがあります。音声表現では、そうした
論理的なつながりのめりはりの思いの息づかいを音調変化であらわして読ん
でいくようにします。

  子ども達に、本文2個所は18行1段落の長文だが、大きな意味の区切
りで分けるとすると、幾つに分けられるかと質問してみましょう。荒木が考
えるには、前半と後半とに大きく二つに区分けできそうです。
  前半は古代の釘の形を描写して語っている部分です。後半は古代の釘の
おどろくべき発見内容(釘と木材のと関係)を語っている部分です。前半と
後半との中間に「どうしてこんな形になっているのだろう」が両者を橋渡し
している、ジョイントしている一個の接続文が挟み込まれている文章構文だ
と考えられます。

  ですから前半の音声表現のしかたは、「白鷹さんは古代の釘の形に注目
した」と紹介するように読み出し、古代の釘のどんな形に注目したかと言う
と、こうこうだ、こうこうだと、語っていっています。こうこうだ部分は、
ひとつながりに、読者が教科書の写真を見ているだけで、あとは読み声を聞
いているだけで分かるように、そんな読み方にしていくとよいでしょう。つ
まり、なぜ不思議な形かを説明していきます。先から太くなって、そして細
くなって、真ん中からでこぼこしている、というまとまりを文章の線条性に
そって区切りとして音声表現していくようにします。

  「どうしてこんな形になっているのだろう」は、文章構成から考えて、
ここで形式段落を新たに作成して改行してもよい位置づけにある文章個所だ
と、わたしは考えます。荒木だったら、ここで改行して書き出すでしょう。
筆者(内藤誠吾)はここで改行して書いていません。しかし、ここは意味内
容からして改行して書いてあるというつもりで、改行の転調した音声表現で
読み出していきましょう。
  つまり、「表面がでこぼこしている」の下でたっぷちと間をあけます。
「どうしてこんな形になっているのだろう」を、前文の音調を引きずること
なく、ここで気分を変えて、明るく高い声立てにして読み始めていきます。
そして「いるのだろう」の下でもたっぷりと間をあけます。改行した転調の
音調を引きずって次の文章「白鷹さんは調べてみて、おどろくべきことを発
見した。釘と木材の関係だ。………」と読み進めていきます。おどろくべき
ことは、こうこうだ、こうこうだと、形式段落8の最後まで意味内容ではひ
とつながりですから、やや長いですがひとまとまりになるように読み進めて
いきましょう。


         
本文3の音声表現のしかた


  本文3は、形式段落と形式段落10、二つの段落で構成されていてい
ます。二つの段落とも釘のかたさについて書いてあります。
  
形式段落9は、古代の釘はかたさに秘密がある、やわらかすぎるとこう
こうだ、かたすぎるとこうこうだ、と書いてあります。これら三つの事柄が
はっきりと音声に区分けした読み声になるように音声表現していきましょ
う。

  
形式段落10は、11行で1段落の長文になっています。意味内容から
大きく区分けすると、三つに区分けできます。「鉄に炭素を混ぜる分量を変
える実験をした」「最初の釘はかたすぎて、………という結果だった」「次
の釘は、少し炭素をへらして作ってみた。………という結果だった」の三区
分です。これら三つに大きく区切って、これら区切り個所で間をあけて読み
ます。これらの間は、論理的な区切りの間です。三つのひとつながりは、ひ
とまとめになるように音声表現していきます。
  はじめはリードの文で「実験をした」です。ここには2文があります。
2文を、ひとつながりになるように音声表現していきます。
  「最初の釘はかたすぎて」から「これでは、木材自体が長くはもたな
い」までの3文が「かたすぎ個所」の失敗例の話の文章部分です。ここの3
文をひとつながりになるように音声表現します。
  「次の釘は、少し炭素を減らしてみた」から「ちゃんとこのことを知っ
ていたのだ」までの6文が「ちょうどよいかたさ」の成功例の話の文章部分
です。ここの6文をひとつながりになるように音声表現していきます。後半
の成功部分を読むときは、驚きや感動(興奮)の気持ちを入れて音声表現す
るとよいでしょう。後半は6文という長文になっていますが、実験の順序
が、こうしたらこうなった、次にこうしたらこうなった、と次々と経過を報
告していくように音声表現していくとよいでしょう。



        
後書きの音声表現のしかた


  
後書きは、まとめの文章内容です。後書き部分も、13行で1段落とい
う長文の構成になっています。ここも、前半と後半とに大きく区分けできま
す。二つの区分け個所では、そこでたっぷりと間をあけます。前半と後半の
ひとつながりはひとまとまりに読みすすめます。

  前半は、白鷹さんの何度も何度もの釘改良の努力について書いていま
す。千年前の職人達に負けたくない、釘作りのよい仕事を残したいという白
鷹さんの強い思いとその努力について書いてあります。白鷹さんの幾度もの
研究を重ね、釘の改良を重ねた事実とその努力を、よい釘を作ろうとする強
い思いを、読み手も白鷹さんの気持ちになって、前半部分をひとつながりに
なるようにして音声表現していくとよいでしょう。

  後半は、会話文部分です。会話文形式を借りながら筆者は白鷹さんの気
持ちを、白鷹さんの職人としての心意気を、職人魂のすばらしさを、いいか
げんな仕事を許さない仕事に打ち込む熱意と誇りと強い意志を、感動的な
文章で記述しています。
  「千年先に、もし鍛冶職人がいて、この釘を見たとき、おお、こいつも
やりおるわいと思ってくれる」いい仕事を残したい、という白鷹さんの職人
魂のすばらしさを会話文形式を借りて語らせています。
  ここの会話文部分は、白鷹さんの気持ちになって、白鷹さんの語り(こ
とば)として、鍛冶職人の意地や気迫の強い気持ちをあつっぽく語っていく
ようであればすばらしい読み方になるでしょう。もしできれば、スマートに
きれいな標準語で読むのでなく、職人のどろくさい語り言葉、老人のゆっく
りした職人の話し言葉にして音声表現できたらすばらしいです。


関連資料
 本ホームページの第14章「説明文における表現よみ指導」の中の第11
節「説明文の語り口をさぐる(2)」を参照しましょう。関連記事があり。


  
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