音読授業を創る そのA面とB面と      07・4・25記




  
詩「山頂から」の音読授業をデザインする




●詩「山頂から」(小野十三郎)の掲載教科書………………………東書5上



            山頂から
                  小野十三郎

        山にのぼると
        海は天まであがってくる。
        なだれおちるような若葉みどりのなか。
        下の方で しずかに
        かっこうがないている。
        風に吹かれて高いところにたつと
        だれでもしぜんに世界のひろさをかんがえる。
        ぼくは手を口にあてて
        なにか下の方に向かって叫びたくなる。
        五月の山は
        ぎらぎらと明るくまぶしい。
        きみは山頂よりも上に
        青い大きな弧をえがく
        水平線を見たことがあるか。



        
作者(小野十三郎)について


  1903年、大阪生まれ。詩人。本名・藤三郎。東洋大学中退。
  第一詩集「半分開いた窓」以来、短歌的抒情を否定。アナーキズムの詩
人として知られる。大阪文学学校を開設し、児童詩誌「きりん」に参加する
など、関西での民主的文学、文化運動に広く参加する。少年詩集「太陽のう
た」ほか。
  ものごとを理知的な目で見据え、乾いた抒情のある骨太な作風。明るい
風景のの中で人間の内面や孤独を見つめた作品の奥に地球的な視点で明日を
展望する詩人の目が光る。(尾上尚子記。「日本児童文学大事典」より引
用)
 詩集「大阪」「重油富士」「異郷」。詩論集「試論十続試論+想像力」
自伝「奇妙な本棚」。現代詩人会会員。新日本文学会。



             
教材分析


  この詩の語り手は「ぼく」です。9行目に「ぼくは手を口にあてて」と
書いてあります。「ぼく」とは、この詩の作者・小野十三郎さんかもしれま
せんし、そうでないかもしれません。
  語り手「ぼく」は、この詩で、五月の山頂に立ったときの感動を詩表現
として書いています。山頂に立つと、いま登ってきた山の下方にはなだれ落
ちるような若葉みどりにあふれているとあります。かっこうも鳴いている、
とあります。
  語り手「ぼく」は、山の直ぐそばに海のある、そういう山に登ったと思
われます。前方には、広大な海があり、その水平線はぼくの目線よりも上に
弧を描いてせり上がって見える、と書いてあります。語り手「ぼく」は、山
頂に登り立ったときの新鮮な驚き、新しい世界の見開きに感動しています。
  山へ登れば、登るつれて、海は下へ下へと下がって見えるのがふつうで
す。ところが、そうでなかった、山を上へ上へと登るにつれて、海の水平線
も上へ上へと昇ってついてきた、と書いてあります。語り手「ぼく」は、山
の頂上に立って目線よりも高く弧を描く水平線を見て、海の広大さ、スケー
ルの大きさに新鮮な驚きを覚え、一変した山頂から見えの世界に深く感動し
ています。
  最後尾の三行に「きみは山頂よりも上に、青い大きな弧をえがく、水平
線を見たことがあるか」と書いてあります。
  実際に「山頂よりも上に大きな弧を描く水平線」がみえるかどうかは、
わたしは知りません。見えるのかもしれません。見えないのかもしれませ
ん。実際にそのような場面(風景)に当面したことがありませんので、わた
しには分かりません。見えないとしても、そのように見えると錯覚するよう
なせり上がった水平線に感じられた、受けとられた、ということは実際にあ
りそうです。最後尾の三行は、デフォルメされた文学的な隠喩表現のように
思われます。二行目「海は天まであがってくる」という表現も同じでしょ
う。


          
音声表現のしかた


  若葉みどりの季節の山登りのことが書いてあります。五月のさわやかな
風をからだいっぱいにあびて、元気いっぱいに山登りをしている姿・風景が
見えます。この詩は全体的に明るい声立てで、元気よく、力強く音声表現し
てよいでしょう。

  三行目「なだれおちるような若葉みどりのなか。」は、正常な語順でい
うと「なだれおちるような若葉みどりのなか、山にのぼると、海は天まであ
がってくる。」か、または「山にのぼると、なだれおちるような若葉みどり
のなか、海は天まであがってくる。」か、どちらかでしょう。
  いずれにせよ、三行目の詩句は、前二行の詩句にくっついていることは
確かです。ですから、三行目の詩句は、前二行の詩句に結びつくように音声
表現しなければなりません。つまり、「海は天まであがってくる」の「く
る」の下で言い納めにしないで、平らな音調(平調)にして、次へと結びつ
く音調の音声表現にします。そのような音調で先へと読み進めて「なだれお
ちるような若葉みどりのなか。」と読み進め、最後の「なか」の終わりで
ぐっと下げた音調にして言い納めます。

  4行目と5行目とは連続している意味内容なので、行末で区切っても、
つながる気持ちで、ひとつながりの意識で音声表現していきます。

  6行目と7行目、8行目と9行目、10行目と11行目とは、それぞれ
意味内容で連続しているので、4行目と5行目と同じに、行末では区切って
も、二行がひとつながりの意識で音声表現していきます。

  最後の3行は、「山頂よりも上に、青い弧を描く水平線」を見て、それ
に大きく感動して、読者に問いかけて質問しています。大きく深く感動した
気持ちをこめつつ、読者(聞き手)に質問して問いかけている音調で音声表
現するとよいでしょう。

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