音読授業を創る  そのA面とB面と   07・4・15記




 「コブシの花」の音読授業をデザインする




●詩「コブシの花」(新川和江)の掲載教科書……………………大書5上



             コブシの花
                   新川和江

          谷間の残雪が
          消え去りがたくて 花になり
          えだえだにとまったかと思われるような
          コブシの花

          いちりんとって
          ほおにあてたら
          ひんやりつめたく
          しいんと 雪のにおいがした

          根から 幹から こずえへと
          ふもとの春は もう せわしなく
          たちのぼっているのに!
          ふきあげているのに!



         
作者(新川和江)について


  新川和江(しんかわ・かずえ)。詩人。192年茨城県結城郡生まれ。
  結城高女卒。女学校在学中から西条八十に師事。戦後、東京に移住し、
同人雑誌に加わって作品を発表する一方、児童雑誌に子どもの詩を書く。
学習雑誌、少女雑誌などにも詩や小説を執筆する。
  1983年、吉原幸子とともに季刊雑誌「ラ・メール」を創刊する。
  現代詩人賞、藤村記念歴程賞。日本童謡賞など多くの賞を受賞する。
「青い鳥」「明日のりんご」「絵本・永遠」「夢のうちそと」「ナイチンゲ
ール」「ひみつの花園」「ローマの秋」。「野のまつり」(葉祥明絵、
教育出版センター、1978)など。


         
コブシ(辛夷)について


  この詩は、こぶし(辛夷)を題材にしています。この詩を理解するの
に、はじめに「こぶし(辛夷)」について知っておいた方がよいでしょう。
  この詩の指導手順では、はじめに題名よみをします。「コブシの花」に
ついて知っていることをあれこれと出させて話し合います。これによって、
本文の詩内容が表象豊かに読み解くことができます。

  開花時期は、3月20日頃から4月15日頃までで、肉厚の白い清楚な
花を咲かせます。早春に他の木々に先駆けて、早々と梢いっぱいに花を咲か
せます。冬期の花芽は柔らかい銀毛に包まれています。落葉広葉樹の高木で
す。樹高は5〜18mほどです。樹皮は灰白色で滑らか、枝は細かく分かれ
ています。
  こぶしの花びらの幅は狭く、全開します。細長い花びらが十数枚ついて
います。つぼみが開く直前の形が子どものにぎりこぶしに似ているところか
らこの名前になったという説があります。民間伝承といsて、花の数や向き
や付き方から、その年が豊作になるか凶作になるかを占ったりもします。こ
ぶしの花言葉は「信頼」です。
  この花が咲き出すと、東北地方ではそれを合図に田畑の農作業を始めま
す。荒木の生まれ故郷の山形の田舎では、冬期にためておいた牛や馬の糞
を、まだ残っている雪の上に雪そりにのっけて田畑に運び入れます。場所に
よっては村里の雪はすっかりと消えているところもあります。しかし、遠く
山あいの谷間には残雪がまだ残っていますし、近くの森や林の中の日が当た
らない木陰には残雪がもっこりとしています。そうした時期に辛夷の花が咲
くのです。
  千昌夫の演歌「北国の春」の中に「こぶし咲くあのふるさとへ帰りた
い」という歌詞があります。こぶしの花が咲き出すと北国にはもうすぐに春
がやってきます。東北地方の人々は、こぶしの花が咲くのを、この日が来る
のを、どんなにか待ち望んでいることでしょう。
  辛夷(こぶし)と白木蓮(はくもくれん)の花は、外観がよく似ていま
す。咲く時期も同じです。白木蓮の花は、上向きに閉じたような形で咲き全
開しませんが、辛夷の花は全開して垂れ下がります。白木蓮の花は、辛夷の
花よりやや大きめです。白木蓮の花はごく淡い香りしか出しませんが、辛夷
の花は芳香をはなちます。辛夷の花の下には小さな葉っぱがあるが、白木蓮
にはありません。


             
教材分析


  「残雪が名残惜しそうに消え去りがたく花になり、枝々に留まったかと
思われるようなコブシの花」なんて表現は、素敵じゃないですか。純白の花
をたわわにつけているコブシの樹木を見て、こんな詩的かつ美的な言語表現
にしている詩人の感性のすばらしさを子ども達に気づかせたいなあと思いま
す。ふだんの日常言語では聞いたり目にしたりできない言語表現ですね。

  第二連では、その純白のコブシの花を一輪とって頬に当てたら、ひんや
りと冷たくて、しいんと雪の匂いがした、と書いてあります。これも素敵な
言語表現ですね。
  第一連では視覚をもってコブシの花を詩的かつ美的に表現しています。
第二連では触覚と臭覚をもって詩的かつ美的に表現しています。こうした使
い分けで、連を構成しているのも素敵ですね。

  第三連では、谷間には残雪が見えて、冬の冷たさ、雪の白さを引きずっ
ているコブシの花がたわわに咲いているが、今や、山の麓の村落の大地はゆ
るんでおり、水はぬるんでおり、春は村落の片隅にまでいっぱいに到来して
いるよ、と書いています。
  外界は、厳冬の名残を残し、厳冬をまだまだ引きずっているのではある
が、それなのに、山麓の村落にはもう「春がせわしなく立ちのぼっている。
春はふきあげている。」ことよ、と書いています。
  この詩の意味内容から言えば、第三連から、ふたたび第一連に戻りま
す。ほんとは、散文的表現にすれば、第三連が最初にきて、それから第一
連、そして第二連とつづいて、そこで終わりとなります。そのように読み進
めていくと、この詩の意味内容がすんなりと理解できます。


           
音声表現のしかた

第一連
  第一、二、三行目までは、すべて第四行目の「コブシの花」に係ってい
く連体修飾語です。第一連の全体は、「コブシの花」までひとつながりに
係っていって、そこで言い納める音声表現になります。途中で短く区切りつ
つも、息づかいは最後までつながっていくようにします。
  急がないで、ゆっくりと音声表現しましょう。素敵な詩的なことば表現
を印象が深く残るように、たっぷりと、急がないで、ゆっくりと読んで目立
たせましょう。
  区切り方は「谷間の / 残雪が // 消え去りがたくて /花になり 
// えだえだにとまったかと思われるような /コ、ブ、シ、の、は、な、
// 」のように音声表現するのも一つの方法でしょう。

第二連
  ここも音声表現のしかたは、第一連と同じに素敵なことば表現が印象深
く残るように、たっぷりと、急がないで、ゆっくりと読んで目立たせてま
しょう。
  区切り方は「いちりんとって / ほおにあてたら // ひんやり /つ
めたく // しいんと /雪の / においが / した// 」のようにする
のも一つの方法でしょう。たっぷりと、思いを込めて音声表現しましょう。

第三連
  区切り方は「根から / 幹から /こずえへと // ふもとの /春は
 // もう /せわしなく / たちのぼっているのに! // ふきあげて 
/ いるのに!// 」のようにするのも一つの方法でしょう。
  力強く読んで目立たせる詩句は、次の太字がよいでしょう。
     「もう / せわしなく
     「たちのぼっているのにーー!
     「ふきあげているのにーー!
  二つの「のにーー」は、尻上がりに伸ばしたほうがよいでしょう。


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