音読授業を創る そのA面とB面と 06・5・27記 「晴間」の音読授業をデザインする ●「晴間」(三木露風)の掲載教科書……………………………光村5上 晴間 三木露風 八月の 山の昼 明るみに 雨そそぎ 遠雷の 音をきく 雨の音 雷の音 うちまじり 草は鳴る 八月の 山の昼 をりからに 空青み 日は照りぬ── 静かなる 色を見よ 山の昼 作者について 三木露風(みき ろふう)1889年ー1967年。兵庫県生まれ。 本名・三木操(みさお)。詩人、歌人。 小・中学校時代から詞や俳句・短歌を新聞や雑誌に寄稿、17歳で処女 詩集を、20歳で代表作「廃園」を出版するなど早熟の天才であった。19 07年(明治40)相馬御風らと早稲田詩社を結成する。「白き手の猟人」で 神秘的な象徴詩を完成する。1918年ころから鈴木三重吉の赤い鳥運動に 参加し、童謡も手掛ける。1921年には、有名な「赤とんぼ」の詩がある 『真珠島』を出版する。上京後、修道院で洗礼を受け、クリスチャンとな る。後年は、宗教的傾向を強める。 1964年12月21日、タクシーにはねられ、同月29日に脳内出血 のために死去する。享年75歳。 詩集『廃園』『真珠島』『寂しき曙』『白き手の猟人』『生と恋』『晴 間』 有名な童謡 ・赤とんぼ(作詞・三木露風、作曲・山田耕筰) ・秋の夜(作詞・三木露風、作曲・山田耕筰) ・かっこう(作詞・三木露風、作曲・山田耕筰) ・十五夜(作詞・三木露風、作曲・山田耕筰) ・春が来た(作詞・三木露風、作曲・山田耕筰) 指導の手順 この詩の授業の指導過程はいろいろ考えられるでしょう。次に一つの指導過 程を示します。この他にもいろいろと考えられます。 1、予備の授業 2、本教材の授業 (1)視写 (2)書きこみ (3)話し合い ・題名よみ ・第一連 ・第二連 ・第三連 ・まとめ (4)音声表現 3、発展の授業 以下、それぞれの指導過程での指導事項や指導上の配慮事項について簡 単に書いていくことにします。 1、予備の授業 「雨」のついた言葉がたくさんあります。小雨、大雨、日照り雨などで す。これらの言葉は、雨の種類や雨の降り方を示している言葉です。 「晴間」の授業に入る前の導入として、いろいろな雨の降り方を、これ らの言葉を通して知っておいたほうが「晴間」の詩を表象豊かに、ありあり とイメージできるのではないかと考えました。 それで本稿の参考資料(1)にあるような問題をプリントして学級全員 に配布します。これらについて学級全員で話し合います。いろいろな雨の降 り方があること、それら一つ一つに名前がついていること、「雨」の文字の ついた複合語の総合的な語いの指導にもなります。 (注記)雨についた言葉、導入指導でなく、発展学習として扱ってもよい でしょう。 (1)視写 詩「晴間」を学級児童全員に視写させます。 詩の学習は、詩のもっている文章形式を知ることはとても大切です。原 詩とそっくりそのままにノートや配布された用紙に書き写すようにさせま す。行をくっつけたりしないこと、行間をそろえ行の高さをそろえること、 連の間を開けること、漢字を仮名にして書かないこと、句読点のあるなしな どに注意して書き写すようにします。 こうした視写をすることで、詩の文字(漢字、ひらがな、カタナカ)や 語句・連・行にするどく反応するようになります。「をりからに」であり 「おりからに」でないこと、 文語的表現があることなどにも注意を向けさ せます。視写することを通して、幾つの連、幾つの行、韻律やリズム、凝縮 された密度の濃い語句の連なり、その表現のすばらしさ、文字の羅列の形式 や内容に注意深く注意を向けさせます。 (2)書きこみ じっくりと黙読をさせます。何回か繰り返して黙読させます。黙読して いく中ですこしずつイメージが浮かんでくるでしょう。少しずつ内容の読み 取りができてくるようになるでしょう。 この詩を読んで、分ったこと、気づいたこと、思ったこと、様子で分っ てきたこと、気持ちで分ってきたこと、どうしても分らないところ、あやふ やにしか・ほんのしこししかわからないところ、などを行間に鉛筆で、小さ く・メモで書きこみさせます。 (3)題名の話し合い 題名よみです。題名について学級全員で話し合いします。 子ども達の晴間についての知識体験を話し合わせます。そのあと、わた しだったら正確を期して国語辞典でしらべさせて、整理しまとめます。 わたしは、「晴間」について、二つの国語辞典で調べました。 ◎広辞苑(岩波書店) (1)一時的に雨・雪などのやんだ間。「梅雨の──」 (2)雲・霧の切れ間に見える青空。「──が出る」 (3)ふさいだ心がはればれする時。 ◎大辞林(三省堂) (1)降り続く雨や雪などが一時的にやんだ間。「梅雨の──」 (2)雲の切れ目にのぞき見える青空。 (3)物思いや悲しみのとぎれる間。「こころの闇──なく嘆きわたり侍り しままに/源氏(松風)」 第一連の話し合い 第一連で予想される話し合い事項をランダムの列挙しましょう。 ●季節は、夏だ。8月の出来事だ。8月の季節の特徴について語り合う。 ●「山の昼」と書いてある。出来事の場所は、山だ。山の麓? 山の中腹? 林や森の中? 山里? 田畑にいたときの出来事?いろいろ想定できそ う。 ●8月の昼間の出来事だ。「夕立」と書いてないので、夕方のことではな い。真夏の昼間の「にわか雨」のことだ。真夏の「日照り雨」のことだ。 ●日光で明るく照っているのに急に雨粒が落ちてきて、遠くで雷が鳴ってい る場面だ。 第二連の話し合い 第二連で予想される話し合い事項をランダムに列挙しましょう。 ●「うちまじる」の「うち(打ち)」は、下に接続する動詞「まじる(混じ る)」の意味を強める働きをしている接頭語(接頭辞)だ。同じような単語 の例として「うち寄せる」「うち返す」「うち捨てる」「うち上がる」「う ち重なる」「うちしおれる」などがある。 ●ここでは雨の音と雷の音とが「うちまじる」の意味だが、「草は鳴る」と あるので、ゴロゴロという雷の音、バラバラバシバシという大粒の雨が草木 や葉っぱに当たる音、急に吹き出した風の音、風に吹かれて草木や葉っぱが そよぐ音、これらが突然に乱れて生動している音たちの混じり合いが「草は 鳴る」という表現になっているように思われる。子ども達に小ダイコとばち を与え、各連ごとの音の変化はどうかを、強弱や速度の変化をつけて打たせ てみるのもおもしろい方法だ。 第三連の話し合い 第三連で予想される話し合い事項をランダムに列挙しましょう。 ●「うちまじり 草は鳴る」あの雷雨による大音響は一瞬の出来事だった。 あれよあれよというまに、空に青みがさしてきて日がパッと照ってきた。騒 々しかった音もピタリと止み、周囲はうそのように静かになった。 ●「をりからに」とは、あの雷雨による大音響のまっただ中に、ちょうどそ の時に、突然に空が青くなり、日が照ってきた、ということだろう。ややオ ーバーな表現ではあるが、それが尚一層状況が一変した様子を表現した言葉 であることが分る。いままでの雷雨による大音響がさっと消えてしまい、日 が照ってきて、周囲はとても静かになった。 ●「静かなる 色を見よ」とは、山野の樹木や草木の葉っぱの汚れを、さき ほどの激しい雷雨がきれいに洗い流してくれた。樹木や草木や葉っぱ達は、 そよぎをピタリと止めて、とても静かだ。葉っぱ達の鮮やかな青色、緑色、 茶色、黄色、橙色、白色など、雷雨で綺麗に洗い流された色たちの何と美し いことでしょう! さあ、見てご覧。この鮮やかさを! ●8月の「山の昼」の一瞬のこの変化、ああ、何というドラマを見せてくれ たことだろう!。めまぐるしく、一瞬に変化する大自然の驚異、何というド ラマだことよ!この不思議さよ! まとめの話し合い この詩全体のまとめ・整理の話し合い事項をランダムに列挙しましょう。 ●この詩は、全三連で、各連が6行ずつで構成されている。 ●各一行がすべて5音(5文字)になっており、音読していてリズムがあ り、心地よい。第二連二行目の「雷の音」は、「雷(かみなり)の音 (ね)」と読むのではなく、「「雷(らい)の音(おと)」と読むべき理由 が、ここにある。 ●全体が平易な5音節の言葉の併記になっている。この省略された表現が、 逆に密度の濃い、新鮮な情報価値をもつ言葉表現になっている。すべて 5音にするには、詩人は苦労したことだろう。ここに詩としての表現の特 徴の一つがある。 ●第一連から第二連へ、そして第三連へと、場面が移行していくにつれて、 次のような変化がみられる。 明るさ 第一連(明)→第二連(暗)→第三連(明) 騒々しさ(少し騒々しい)→(たいへん騒々しい)→(とっても静か) 雷の移動 (遠い)→(頭上)→(遠い) 天気 (雨)→(激しい雨)→(晴れ) 連の構成 (起)→(承、転)→(結) ●題名は「晴間」である。なぜ、「晴間」かを考えさせる。 この詩は、8月の「山の昼」の特徴を書いている詩だ。8月という季節の 「にわか雨」の特徴をよくつかんで描写している詩だ。真夏の昼間に降る 「にわか雨」は、さっと降って、さっと晴れる。これの繰り返しである。 パッと晴れ上がった一時的などしゃ降りの雨のあとの「晴間」の何とさ わやかで、すがすがしいことよ。気持ちのいいことよ。突然の変化の不思議 さよ。 この詩は、8月の昼間に繰り返す自然現象の特徴を余計な言葉を省略し て直截にずばりと描写している詩だ。 ●この詩は、大音響と静寂と雑駁と爽快と驚愕と霊妙と奇怪さと自然への畏 怖と、これら全てをのみこんで浮き立たせ、表現しています。 ●作者は、第三連の「晴間」つまり「静かなる 色を見よ」に最大の感動 を得ているのではないでしょうか。ここに、むしむしする真夏の生の喜悦と オアシスを見出して、「晴間」に深く感じ入っているのではないでしょう か。こんなふうにも読める。 ●この詩を、雷雨は暗黒・苦悩・痛苦の世界、晴間はそれら世界にあるほん のひと時にたちあらわれる安寧・平穏の世界を象徴的に示している。これが 人生なり、というような解釈もできる。こういう解釈もあって当然です。 (4)音声表現のしかた ●これまで学習した自分なりのイメージを頭に浮かべ、各連ごとの場面の情 景を音声にのせて押し出そうと努力しましょう。 ●言葉の一つ一つをイメージたっぷりに、かんで、ふくめて、味わうよう に、味わいつつ、急がず、ゆっくりめに声に出していきましょう。 ●区切りの間のとりかたに気を使いましょう。次のような区切りの間の開け 方も一つのやり方です。 【八月の(すこしの間)山の昼(たっぷり間)】 【明るみに(すこしの間)雨そそぎ(たっぷり間)】 【遠雷の(すこしの間)音をきく(十分にたっぷりとあけた間)】 【雨の音(すこしの間)雷の音(すこしの間)うちまじり(たっぷり間)】 【草は鳴る(たっぷり間)】 【八月の(しこしの間)山の昼(十分にたっぷりとあけた間)】 【をりからに(すこしの間)空青み(すこしの間)日は照りぬ(たっぷり 間)】 【静かなる(すこしの間)色を見よ(たっぷり間)】 【山の昼(十分にたっぷりとあけた間)】 ●明暗のつけかた、音色のつけかた、リズムのつけかた、速度や高低や声の 大小の変化などは、一人一人のイメージや思いの込め方の違いで変わってき ます。全員同じになる必要はないでしょう。試みさせてみましょう。 3、発展の授業 ●時間の余裕があれば、「雨」の詩や「雨の降り方」の関係する、他の詩 を与えたらどうでしょう。 下の参考資料(2)に「夕立」(村野四郎)の詩を掲載しています。 この詩は、平易な言葉で書かれています。読めばすぐ理解できます。ほほえ ましく、楽しく読める詩です。 なお、この詩「夕立」については、拙著『表現よみ指導のアイデア集』 (民衆社)に、わたしの授業記録、記号づけ例、実際の授業の話し合い、児 童たちの読み声録音が付録CDとして収録されています。綴じ込み付録とし てついています。ご参考にどうぞ。 また、本ホームページ「5年生音読授業をデザインする」の個所に「あ め」(山田今次)の詩の授業デザインが掲載されています。また、拙著『群 読指導入門』(民衆社)には、「あめ」(山田今次)の教材分析や実際の群 読の読み声録音のCDがついています。 ●本稿に掲載している参考資料(1)(2)は、二つとも、導入学習とし て、あるいは発展学習として取り扱うことができます。どちらでもかまいま せん。なくてもかまいません。あくまでも、参考として本稿に書いていま す。 参考資料(1) 問1 次は、「雨」のついた言葉を集めています。それぞれは、どんな雨の 降り方の言葉ですか。答えなさい。 (1)小雨(こさめ) (2)大雨(おおあめ) (3)暴風雨(ぼうふうう) (4)豪雨(ごうう) (5)長雨(ながあめ) (6)雷雨(らいう) (7)日照り雨(ひでりあめ) (8)にわか雨(にわかあめ) (9)通り雨(とおりあめ) (10)照り降り雨(てりふりあめ) 問2 次は、雨の降り方に関係する言葉です。どんな意味ですか。 (11)夕立(ゆうだち) (12)雨上がり(あめあがり。あまあがり) (13)雨止み(あまやみ) (14)雨間(あまあい。あまま) (15)雨宿り(あまやどり) (16)一雨(ひとあめ) (17)恵みの雨(めぐみのあめ) (18)やらずの雨(やらずのあめ) (19)雨脚(足)が速い(あまあしがはやい) (20)スコール 解答欄 問1 (1)小雨 こまかにふる雨。こぶりの雨。 (2)大雨 ひどく大量にふる雨。どしゃぶりの雨。 (3)暴風雨 はげしい風を伴った雨、台風、あらしなど。 (4)豪雨 一時に大量にふる雨。 (5)長雨 幾日も幾日もふりつづく雨。 (6)雷雨 雷鳴とともにふる雨。 (7)日照り雨 日光がさしているのにふる雨。 (8)にわか雨 にわかにふってきて、急にやむ雨。 (9)通り雨 ひとしきりふってすぐに晴れ上がる雨。 (10)照り降り雨 照ったと思うとふり出し、ふり出したかと思うと照 り、見定めのつかない雨。 問2 (11)夕立 夕方、急に曇ってきて激しくふる大粒の雨。夏の夕方に多 く、発達した積乱雲によって起こり、雷を伴いやすい。 (12)雨上がり 雨が止むこと。雨がはれた直後。 (13)雨止み 雨が止むこと。 (14)雨間 雨がやんでいるあいだ。雨の晴れ間。 (15)雨宿り 雨の晴れるまで、雨のかからない場所でしばらく待つこ と。 (16)一雨 ひとしきりふる雨。一回のふる雨。 (17)恵みの雨 日照りの続いたあとでふる雨。田畑や草木をうるおす 雨。 (18)やらずの雨 人を帰さないためであるかのようにふってくる雨。訪 れてきた人の帰るのを引き止めるかのようにふり出し た雨。 (19)雨脚(足)が速い 雨がふりながら、すばやく通り過ぎてしまう様 子。雨の通り過ぎていく様子が速い。 (20)スコール 熱帯地方で、強風を伴っておそう激しいにわか雨。急に 吹き出し、数分間つづいた後、突然にやむ風や雨。 参考資料(2) 夕だち 村野四郎 ヨシキリが 大さわぎして にげまわる むこうから かけてくる村の人 こちらから かけていく町の人 みんな ひさしへ とびこんだ 夕だちだ 夕だちだ 空のおさらを ひっくりかえしたようだ 雨はどうどう ぼくの頭から せなかのほうへ 滝のようにながれおちた けれども ぼくはおどろかない へいきだ ぼくは水泳の帰りみち 帽子もかぶらず まるはだかだ あわてる人をながめながら ゆうゆうと 道を歩いてきた そしてときどき 天のほうをむいて 夕だちを飲んでやった トップページへ戻る |
||