音読授業を創る そのA面とB面と      07・8・22記




  「ポレポレ」の音読授業をデザインする




●「ポレポレ」(西村まり子)の掲載教科書……………東書4上、学図4上



         
作者(西村まり子)について


  西村まり子(にしむらまりこ)。童話作家。山口県生まれ。日本大学通
信教育部文理学部卒。東宝入社、帝国劇場に勤務した後、作家を志す。
ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞(第14回)を受賞する。絵本
「ポレポレ」は、その受賞作品である。


             
教材分析


  この物語の語り手は、一人称人物「ぼく」です。「ぼくの名前は田代友
樹。高渡小学校、四年一組。」と冒頭部分に自己紹介しています。
  物語「ポレポレ」は、すべてが「ぼく」の目に見えたことで描写されて
います。すべて「ぼく」の気持ちで描写されています。アフリカから転校生
ピーターがやってきたこと、ピーターは陽気でひとなつっこくて、おしゃべ
りな男の子であること、ピーターが「ポレポレ(スワヒリ語。ゆっくり、の
んびりの意味)」のコトバをはやらしたこと、いじめにあっているクラスの
女の子を助け、いじめ解消に役立ったこと、これらの事柄(事件)の流れは
すべて「ぼく」の目に見えた事柄であり、「ぼく」の気持ちを通したことと
して描写されています。ですから読者は一人称人物「ぼく」に同化しつつ読
みすすめていくことになります。
  この物語の主人公は、ピーターといってよいでしょう。主人公ピーター
の言動のすべては、すべて「ぼく」の目や気持ちから描写されています、語
られています。ですから、音声表現するときは、読み手は一人称人物「ぼ
く」の目になって、気持ちになってピーターの言動のあれこれを語っていく
ことになります。また、いずみさんのいじめ事件の事柄を、「ぼく」の語り
として音声表現していくことになります。読み手は小学校四年生なので、
「ぼく」とも、ピーターとも、いずみさんとも、同年齢の子ども同士として
自分たちの身近な出来事として共感を持って読み進めていくことができま
す。
  この物語の読者は、この物語を読むことで、日常生活の中では殆んど経
験することのない外国人との付き合い方を学んでいくことでしょう。グロー
バル社会とか国際化社会とかいわれる中で、先進国の欧米人とも、後発国の
アフリカ人とも、日本人と付き合うと同じような付き合い方をしていってよ
いことを学ぶでしょう。また、日本文化と外国文化との相違を「ポレポレ」
や「うらない」などの例からわずかではあるが学んでいくことでしょう。ま
た、いじめの原因とその解決、いじめにそう対処していくかについても学ん
でいくことでしょう。


          
音声表現のしかた


  前述したようにこの物語は場面々々を、その時々の「ぼく」の目で見た
ことを、「ぼく」の気持ちになって語っていけばよいことになります。
  ここでは、この物語の中から文章を抜き出して整理してもう少しこまか
な音声化技術を書いてみようと思います。これらの文章を音読練習すれば、
この物語の大体の基礎となる音声化技術が網羅して身につくことができると
いう文章部分を抜き出し、四つの音読練習の指導教材を作成しています。
  下記の四つの音読練習教材を繰り返して音読れウ集すれば、そのあと
は、「ポレポレ」前文のどの文章個所を音読させても、わりと上手に音読で
きるようになっているはずです。
  四つの音読教材とは、こうです。
(1)あいさつ言葉を、あいさつ口調にして読む練習
(2)長い文を、二つに区切って音声表現する練習
(3)会話文の話しぶりをさぐって読む練習・その1
(4)会話文の話しぶりをさぐって読む練習・その2



   
(1)あいさつ言葉を、あいさつ口調にして読む練習

例文1
  その病院は変わった病院で、かんごふさんもかん者さんも、
 「ジャンボ!」
 と、スワヒリ語であいさつする──。

例文2
 「ピーター、スワヒリ語で『こんにちは』は、なんていうの。」
 小松先生がきくと、ピーターは大きな声で、
 「ジャンボ!」
 と、言ったので、みんなは大笑いした。

【例文1・2の音声表現のしかた】
「ジャンボ」は、日本語で「こんにちは」という意味です。ですから、日本
人が「こんにちは」と挨拶する音調・話調で「ジャンボ」と相手への挨拶こ
とばとしてリアルに語らなければなりません。相手へのリアルな挨拶言葉の
話しぶり音調にして音声表現しなければなりません。



   
(2)長い文を、二つに区切って音声表現する練習


  次の文は、かなり長い一文です。長い一文は、意味内容で大きく二つに
区切れるところで間をあけて読むようにします。次の(   )の中はでき
るだけひとつながりにして読むようにします。(   )と(   )との
あいだは区切りの間をあけて音声表現します。(   )の中にある読点
(てん)はできるだけひとつながりにして、間をあけないで読みます。

例文3
 (友達のピーターがけがをしたので、)(ぼくは毎日のように病院へいっ
  ている。)

例文4
 (そして、顔を上げると、)(つばさを広げて飛んで行きたいような、青
  い空があった。)

例文5
 (花だんの近くの岩の上に、ピーターがこしかけていたので、)(ぼくも
  同じようにすわった。)

例文6
 (村人が病気になって、きとうしの所に行くと、)(不思議なひょうたん
  から声がして、薬を教えてくれるという、とても信じられないような話
  をした。)

例文7
  (ピーターは地面にすわりこむと、)(なぞのような言葉を、ぶつぶつ
   と唱えた。)

例文8
 (てん望台の中に入ると、)(お化けが出てきても不思議じゃないような
  暗さだった。)

例文9
 (いまに病院じゅうでポレポレがはやりだす、そう思うと、)(ぼくはお
  かしくてふき出した。)

例文10
 (ピーターはライトを持って先に歩き、)(ぼくはかにかまれながら、後
  ろからついていった。)

例文11
 (病院はたいくつだろうと、ぼくは心配したけど、)(ピーターは車いす
  を使って元気に動き回っていた。)

例文12
 (ひどいときは、ちこくをしてきて、先生に「どうかしたの。」ときかれ
て、「ポレポレ。」とごまかしたり、)(何かをして最後に残った者には、
ポレポレ賞という名よ(?)があたえられた。)

【例文3〜例文12の音声表現のしかた】
  これらの文は、殆んどが単文が二個合体した条件・帰結の重文や、並列
の重文です。単文が二つ合体して、それに単文内部に体言修飾や用言修飾が
ついた重文で、全体の一文がかなり長くなっている一文です。
  こうした長文の一文を音声表現するときは、一文内部のあちらこちらで
区切って・間をあけて読んでしまうと、その意味内容の全体が聞き取りにく
い・伝わりにくい読み方になってしまいます。このような重文の場合は、前
節と後節とに大きく二つに分かれる個所で区切って音声表現するようにしま
しょう。
  前節と後節との区切りが意味内容で大きく分かれるところだからです。
例文3〜例文12では、前節の(   )、後節の(   )のように括弧
を二つつけています。(   )の中はできるだけひとつながりに・ひとま
とまりに読むようにします。読点(てん)があってもつなげて、ひとつなが
りに読みましょう。
  絶対とか必ず大きく二つに分かれる個所の読点(てん)のほかでは間を
あけて読むな、ということではありません。二つに分れるところ以外でも、
軽く間をあけて区切って読んでもいいですが、一文全体の意味内容が分かり
やすく伝わるように気を使って読むようにしましょう。長文の音声表現で
は、一文を細切れに区切らないで、大きく二つに区切り、あとはつづけて読
むか、ほんの軽い間をあけるぐらいにして読みすすんでいくようにしたいも
のです。


   
(3)会話文の話しぶりをさぐって読む練習・その1

例文12
  その日から、ピーターとぼくとは、いっしょにいることが多くなった。
  二人で道を歩いていると、だれにでも声をかけ、あいさつをする。
 「ジャンボ、ババリガ二(げんきですか)。」
 「オー、ピーター、元気いっぱい、いっぱい。アサンテ(ありがと
  う)。」
  ぼくはあきれてしまった。いつのまに、近所のおじいさんにスワヒリ語
 を教えたのだろう。

例文13
 「今、いずみのままから電話があった。」
  「ゆくえ不明って………。」
  まさかゆうかい! と、ぼくは思ったけど、口には出さなかった。
  話しが聞こえたのか、母さんが出てきた。
  「友樹、これから出かけるの。」
  母さんが止めたけど、ぼくは家を出た。

例文14
 ぼくは半分信じてなかったけど、考えた。
 「うーん。」
 無人のてん望台がある。あれかな?
 ぼくは駅の方向を指さした。

【例文12から14の音声表現のしかた】
  例文12の会話文の中の(   )の言葉・日本語訳は、声に出して読
む必要はないでしょう。音声表現では省略してよいでしょう。
  ピーターと近所のおじさんとの会話は、二人でやり取りしている、対話
している感じの音調にして読みましょう。
  例文13の「まさかゆうかい!」は、頭の中だけに浮かんできた心内語
です。声には出ていない、頭の中だけの言葉です。ほんとにつぶやく声で、
小さい声で、ぼそっと読むようにします。
  例文14の「うーん、」は、声に出ていると考えられます。うなるよう
に考えているようにして小さく音声表現するとよいでしょう。
  「無人のてん望台がある。あれかな?」は、地の文になって書いてあり
ますが、音声表現ではかぎかっこの会話文にしてもよい地の文だと思いま
す。しかし、これは声に出ていません。頭の中だけの心内語です。
  地の文として書いてありますが、語り手「ぼく」の純粋内言で、「  
 」のして書いてもよい思考の言葉です。声に出ていない思考の言葉です。
「うーん」と声に出して考え言葉を言ってから、次に低く、ぼそっと、ほん
とに小さな声で「無人のてん望台がある。あれかな?」と思考している音調
にして音声表現するとよいでしょう。



  
(4)会話文の話しぶりをさぐって読む練習・その2 
 

  次に、二人の長い対話がつづく会話文の音声表現のしかたの音読練習で
す。説明の都合上、会話文の前に数字の記号を付けています。

例文15
[01]上の方から、女の子のすすり泣く声が聞こえた。
[02]「いずみ!」
[03]ピーターがさけぶと、
[04]「ピーター? ピーターなの!」
[05]おどろきと喜びとが、いっしょになった声が返ってきた。
[06]ピーターとぼくは、顔を見合わせた。
[07]「いずみ、すぐに行きます。!」
[08]ピーターはそう答えてから、ぼくにささやいた。
[09]「うらないのこと、ひみつです。村の外で使うと、ばちが当たると言
    われている。」
[10]らせん階段を上ると、待ちかねていたいずみが、ピーターに飛びつい
   てきた。
[11]「ピーター………、こわかった、こわかったー。」
[12]いずみの顔がみるみるうちにゆがんできた。
[13]「だいじょうぶ、もうだいじょうぶ。」
[14]ピーターは、いずみのせなかを軽くたたいた。
[15]いずみの気持ちが落ち着くのを待って、ぼくは言った。
[16]「どうして、こんな所にいるんだよ。」
[17]いずみはピーターからはなれると、早口で答えた。
[18]「置いていかれたのよ。ここからおもしろいものが見えるって、さそ
    われて。」
[19]「だれに?」
[20]ピーターがきくと、いずみは下を向いてつぶやいた。
[21]「クラスの女の子………。」
[22]いずみが高い所をこわがることは、作文で読んだから、クラスのみん
   なが知っている。
[23]「あの子たち、わたしのことむかつくって。わたし、あの子たちと同
   じはんなの。給食当番のときや、体育道具のかたづけのとき、あの子
   たちおそいから、いつもきつく言ってた。早くしてよって。」
[24]「しかえしされたのか?」
[25]ぼくが言うと、ピーターがやさしく話をした。
[26]「いずみは、なんでも早くできます。でも、早くできない人、いま
   す。
   だれでも、苦手あります。せめたら、きずつくでしょう。ポレポレ、
   大切です。急ぐと、人のこと、考えられなくなります。」
[27]「とにかく帰ろうと、ピーターとぼくは、いずみの手をにぎって、ら
   せん階段を下りた。
[28]最後の一回りをすぎたところで、いずみが言った。
[29]「ピーター、苦手なものあるの?」
[30]「カミナリ! こわいです。」
[31]ピーターがそう言うと、いずみが笑い出した。
[32]そのとたん、いずみが足をすべらせた。ピーターもぼくも体がよろけ
   て、ドドドッ、ドタンドタン、三人とも転がった。
[33]いたっ、起き上がろうとしたぼくの体に、いたみが走った。うでと足
   には大きなすりきずができて、血が出ていた。いずみも、
[34]「いたーい。」
[35]と言って起きてきた。
[36]「ピーター!」
[37]ぼくはさけんだ。
[38]ピーターは階段の下で、たおれたままだった。
[39]ぼくといずみが、ピーターのそばにかけよると、ピーターは右足を動
   かそうとして「うっ」と声をあげた。
[40]「ほねが………、折れたかもしれない。」
[41]「えーっ!」
[42]ぼくは一瞬、うららないのばちのことを思った。
[43]「だれかよんでくる!」 
[44]ぼくはそうさけぶと、外に飛び出した。
[45]通りに出ると、ぼくの前で、次々に四台の車が止まった。中からいず
   みの両親、クラスの三人の女の子、その親たちが、あわてた様子でお
   りてきた。ぼくは大声を出した。
[46]「救急車!」

【例文15の音声表現】
 会話文の音声表現表現は、誰が、誰に、どんな気持ちで言っているかを考
えながら音声表現することが大切です。まずはじめに会話文の上部に話した
人物の名前を書く作業が必要です。
〔2〕は、「さけぶと」ですから、ピーターがいずみのいる場所まで届け
る、遠くへ届ける叫び声にして呼びかけて読むようにします。
〔4〕は、最初が「?」で、次が「!」の記号が付いています。どうしてな
のかを話し合って、二つを読み分けたほうがいいと思います。また、「おど
ろきと喜びがいっしょになった声」とも書いてあります。これらも考えて音
声表現するようにします。
〔9〕は、ピーターがぼくに「ささやいた」声、ささやき声です。声を低く
して、小さくして音声表現します。
〔11〕は、いずみがピーターに飛びついてきた、そのときの声です。うれし
さと、ほっとした安心の声にして音声表現します。
〔13〕は、いずみの顔が「ゆがんできた」とあり、これは泣き顔になってき
たということでしょう。その泣き顔を見て、いずみを安心させるため、なぐ
さめて、もう大丈夫だと元気づけて読むようにします。
〔16〕は、しばらくの時間がたって、いずみの気持ちも落ち着いてきたの
で、ぼくが言った言葉です。質問して、問い詰めて、そんな口調・ことば調
子で言ったと思われます。
〔18〕は、いずみの早口の言葉です。
〔21〕と〔22〕とは、ひとつながりにして語られた言葉でしょう。ひとつな
がりで読んでもいいでしょう。「いずみは下を向いてつぶやいた。」と書い
てあります。きんきんした、かんだかい声ではありませんね。ぼそぼそし
た、低い、つぶやきの声です。
〔23〕の中の「あの子たちおそいから、」と「あの子たち」のあとに読点
(てん)がありませんが、読点があるものとして「(あの子たち、)(おそ
いから、いつもきつく言ってた。早くしてよって。)」のような区切りにし
て音声表現すると意味内容がよく伝わる読み方になるでしょう。
〔26〕は、「ピーターがやさしく話した」と書いてあります。なぐさめて、
安心させて、やさしく、どことなくもったいをつけて、かつ舌足らずな話し
方で、言ったのではないでしょうか。
〔29〕は、質問して、聞いてる口調にして読みます。
〔32〕から〔46〕までは、一本の柱のぐるぐるとまきついている螺旋階段か
ら三人ともに足を踏み外して転げ落ちてしまいまうのですから、一瞬の短い
時間の出来事です。ただごとでない出来事です。のんびりと読んではいけま
せん。早口で、危急を知らせる出来事として音声表現しなければありませ
ん。地の文も、会話文も、早口で、スピードを上げて読みます。だからと
いって、どこまでも続く一気読み・一息読みでもいけません。句点(まる)
や読点(てん)では、間をあけてかまいません。間をあけても、ひとつなが
りの個所を早口読みをすれば全体が危急を知らせる、ただごとでないという
危急場面の雰囲気が音声に表現できるようになります。読点(てん)では間
をあけないてひとつながり読みをしてもかまいませんが、句点(まる)では
必ず間をあけて読みましょう。〔34、36、40、41、43,46〕の会話文は、す
べて大声で、早口読みをしてよいでしょう。〔40〕だけは、ゆっくりと、舌
足らずにあちこちをぼつぼつと切って読むこともできます。」


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