音読授業を創る そのA面とB面と         07・3・25記




「こわれた千の楽器」音読授業をデザインする




●「こわれた千の楽器」(野呂昶)の掲載教科書…………………東書4上



         
作者(野呂昶)について

  野呂昶(のろ・さかん) 1936年、岐阜県大垣市生まれ。関西大学
法学部卒。大阪市立教護院、阿武山学園教護。
  日本児童文学者協会、日本文芸家協会会員。「子どもと詩」文学会、
「すふいんくす」「亜空間」「ラルゴ」同人。
  著書として『あおいさぎ』『赤ちゃんの絵本』『いろがみの詩』『てぶ
くろのさんぽ』『ふたりしずか』『みずのことば』などがある。


            
教材分析

  この作品は殆んどが会話文で構成されています。楽器たちの会話文が全
体の七割を占めています。そのほか月と楽器との会話文もあります。
  ですから、この作品の読解は楽器たちがどんな状況の中で、どんな気持
ちで会話文を語っているかを想定して、楽器たちの気持ちに入り込んで会話
文の役割音読をすることによって、児童の身体にしみこませた読み取りをさ
せることができます。
  わたしは、本稿では、三つの場面に分けて役割音読をさせる計画を立て
ました。わたしが作成した役割音読の台本は以下に記します。
  地の文は、ナレーターに語らせました。ナレーションの台本は必要最小
限にして会話文の音声表現に重点をおきました。
  登場人物は、ナレーターひとり、あとは個別の楽器たちと月です。役割
音読は、これら人物たちの対話音読で進めることになります。
  役割音読の配役が当てられない児童達は聞き役となります。それで、聞
き役だけを作りたくなかったので、聞き役だけの児童たちにも役割音読に参
加できるようにしたいと考えました。それで、ナレーターのナレーションの
中にほんの短い文章部分ですが、群読形式を入れた台本に作成しました。台
本の中にある「全児童」とは、月役と楽器役の児童たちを除いた児童達のこ
とをさします。

登場人物の役割配当
  この作品の登場人物は、月、チェロ、ホルン、トランペット、たいこ、
ビオラ、ピッコロ、もっきん、バイオリン、コントラバス、オーボエ、フ
ルートです。楽器は12種類が登場しています。
  わたしが作成した群読台本の三つの場面とは、次のようです。
  第一場面は、月との会話がきっかけで楽器たちが演奏をはじめようと相
談している個所です。
  第二場面は、演奏たちが練習に夢中になっている個所です。
  第三場面は、月が楽器たちの演奏にうっとりしている場面です。
  第一場面と第三場面には、会話文は誰が話したか、話し手が作品の文章
として書かれています。
  第二場面には、会話文が誰が話したか、話し手が指定されて(書かれ
て)いません。それで、わたしは第一場面に登場した人物から選択して第二
場面の話し手人物を配当しました。題名「千の楽器」ですから、第一場面に
登場していない(書かれていない)楽器名でもよいわけです。第一場面に登
場していないほかの楽器を当てて配役の配当をしてもいいわけです。わたし
は第一場面に登場していた楽器名を第二場面に当てています。いずれでもよ
いと思います。

語句について
  「千の楽器」の「千」について調べてみました。大辞林(三省堂)に下
記のように書かれています。本教材に当てはまる意味は、「数が多い」とい
うこと、「たくさんの楽器」ということの意味になります。
≪千≫
 数の単位で百の十倍。また、数の多いこと。
 千に一つ=多くの中のたった一つ。ありえないことをいう。
 千も万もいらぬ=かれこれいうに及ばない。



          
音声表現のしかた


     「こわれた千の楽器」群読台本    作・荒木茂

第一場面
ナレーター ある大きな町のかたすみに、楽器倉庫がありました。そこに
      は、こわれて使えなくなった楽器たちが、くもの巣をかぶっ
      て、ねむっていました。あるとき、月が倉庫の高まどから中を
      のぞきました。
全児童    月が倉庫の高まどから中をのぞきました。
月     「おやおや、ここはこわれた楽器の倉庫だな。」
チェロ   「いいえ、わたしたちは、こわれてなんかいません。働きつか
       れて、ちょっとやすんでいるんです。」
月     「いやいや、これはどうも失礼。」
チェロ   「わたしは、うそを言ってしまった。こわれているのに、こわ
           れていないなんて。」
ハープ   「自分がこわれた楽器だなんて、だれが思いたいものですか。
       わたしだって、夢の中では、いつもすてきなえんそうをして
       いるわ。」
ホルン   「ああ、もう一度えんそうがしたいなあ。」
トランペット「えんそうがしたい。」
たいこ   「でも、できないなあ。こんなにこわれてしまっていて、でき
       るはずがないよ。」
ビオラ   「いや、できるかもしれない。いやいや、きっとできる。たと
       えば、こわれた十の楽器で、一つの楽器になろう。十がだめ
       なら十五で、十五がだめなら二十で、一つの楽器になるん
       だ。」
ピッコロ  「それは名案だわ。」
もっきん  「それならぼくにもできるかもしれない。」
バイオリン 「やろう。」
コントラバス「やろう。」
オーボエ  「やろう。」
フルート  「やろう。」

第二場面
ナレーター  楽器たちは、それぞれ集まって練習を始めました。
全児童    練習を始めました。
チェロ   「もっとやさしい音を!」
ホルン   「レとソは鳴ったぞ。」
ビオラ   「げんをもうちょっとしめて……。うん、いい音だ。」
たいこ   「ぼくはミの音をひく。君はファの音を出してくれない
       か。」
ナレーター  毎日毎日練習が続けられました。そして、やっと音が出る
       と、
トランペット「できた。」
もっきん  「できた。」
ピッコロ  「ぴったりの音がでたわ。」
ハープ   「それ、ぴったりの音よ。」
ナレーター  みんなは、おどり上がって喜びました。
全児童    みんなは、おどり上がって喜びました。  

第三場面
ナレーター  ある夜のこと、月は、楽器倉庫の上を通りかかりました。す
       ると、どこからかすてきな音楽が流れてきました。
 月     「なんときれいな音。だれがえんそうしているんだろう。」
ナレーター  それは、前にのぞいたことのある楽器倉庫からでした。そこ
       では、千の楽器がいきいきと、えんそうに夢中でした。おた
       がいに足りないところをおぎない合って、音楽をつくってい
       るのでした。
全児童    おたがいに足りないところをおぎない合って、音楽をつくっ
       ているのです。
月      「ああ、いいな。」
ナレーター  月は、うっとりと聞きほれました。そして、月は音楽におし
       上げられように、空高く上っていきました。
全児童    そして、ときどき思い出しては、光の糸を大空いっぱいにふ
       きあげました。



        
群読台本・音声表現のヒント

第一場面
ナレーター  アナウンサーがニュースを読むように、淡々と、冷たく、
       読み手の気持ちをこめないで、説明しているように、伝え
       て、読む。
全児童    ナレーターと同じ。
月      おおらかに、ゆったりと、ゆっくりと。ちょっとおどろい
       て。
チェロ    反発して、はむかって、おこって言う。
月      おおらかに、ゆったりと、ゆっくりと、許しを乞うて言う。
チェロ    しょんぼりして、はんせいして、力なくさびしそうに。
ハープ    くやしそうに、いまいましそうに、あきらめきらない気持
       ちで。
ホルン    かなしんで、「あーあ」とのばす、「したいなあ」の文末
       は下がる。
トランペット かなしんで、元気なく。「したーい」とのばして、下げる。
たいこ    がっかりして、元気をなくして、気落ちして言う。
ビオラ    元気をだして、みんなを元気づけて、自信たっぷりに言う。
ピッコロ   声高く、喜んで、「さんせーい、すてきなアイデアよ」の気
       持ちで。「わたしもやりたーい」の気持ちで。
もっきん   はずんだ声で、気持ちがいきいきして。
バイオリン  明るく、元気をだして、はずんだ声で。
コントラバス バイオリンと同じ。
オーボエ   バイオリンと同じ。
フルート   バイオリンと同じ。同じ言葉を、同じ音調にしないで言う。

第二場面
ナレーター  第一場面と同じ。
全児童    第一場面と同じ。
チェロ    元気づけて、激励して、命令口調で。厳しく調子で。
ホルン    喜んで。元気よく。
ビオラ    前半(相手に注意して、教えてる、)後半(声高に、うんと
       褒めて言う)「……」は3秒ぐらいの間をあけて。
たいこ    お願いしている、頼んでいる。明るい調子で言う。   
ナレーター  淡々と、報告しているように読む。
トランペット ハープまで四人、大喜びして言う。相手の言葉が終わるか終
       わらないかのタイミングで、すばやく自分の言葉を言う。
もっきん   同上
ピッコロ   同上
ハープ    同上
ナレーター  ナレーターも、明るく喜びの気持ちになって言う。
全児童    全児童も、明るく喜びの気持ちになって言う。

第三場面
ナレーター  淡々と、冷たく、伝えるだけ・報告しているだけの読み方。
月      うっとりして、感じ入って、「なーんと」とのばす。「音」
       の「と」をしりあがりに短く上げる。
ナレーター  淡々と、冷たく、伝えるだけ・報告しているだけの読み方。
全児童    淡々と、冷たく、伝えるだけ・報告しているだけの読み方。
月      感じ入って、うっとりして。感動して。気持ちよさそうに言
       う。
ナレーター  ほっとした気持ちになって読む。急がないで・ゆっくりゆっ
       くりと・一音一音の間をあけるようにして・ゆったりと、た
       っぷりと読みすすむ。
全児童    同上

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