音読授業を創る そのA面とB面と 05・12・23記 「ふしぎ」(詩)の音読授業をデザインする ●「ふしぎ」(金子みすず)の掲載教科書…………東書4上、大書3上 ふしぎ 金子みすず わたしはふしぎでたまらない、 黒い雲からふる雨が、 銀にひかっていることが。 わたしはふしぎでたまらない、 青いくわの葉たべている、 かいこが白くなることが。 わたしはふしぎでたまらない、 たれもいじらぬ夕顔が、 ひとりでぱらりと開くのが。 わたしはふしぎでたまらない、 たれにきいてもわらってて、 あたりまえだ、ということが。 作者について 1903(明治36)年、山口県大津郡仙崎村(今の長門市)に生まれる。下 関市の書店で働きながら童謡をつくる。投稿詩人としてすぐれた作品を雑誌 に発表し、西条八十に「若き童謡詩人の巨星」とまで賞賛された。大正15年 発行の童謡詩人会編の童謡集に北原白秋、野口雨情らと並んで作品が一点収 められているが、広く世にひろめられることなく、離婚後の1930(昭和5) 年に26歳の若さで自ら命を絶った。埋もれていた詩は、童謡詩人・矢崎節 夫によって発掘紹介された。 故郷長門市には、金子みすず記念館があり、関連資料が展示されている。 毎年、3月10日に「みすず忌」が開催されている。 感性のみずみずしさ 金子みすずの詩でよく知られている詩を三つ挙げるとすれば、「わたし と小鳥とすずと」「大漁」「ふしぎ」ではないでしょうか。 この詩「ふしぎ」は、一読してすんなりと内容理解ができる詩です。意 味していることがすとんと頭に入る詩です。難解な語句はありません。四年 生にも、すぐに理解できる詩でしょう。 この詩は、全体が四連構成になっています。一連、二連、三連は、個別 的な事例をとりあげて不思議な事柄を挙げています。四連は、みんなに「ど うして?」と質問しても、「何でそんなくだらないことにこだわって質問す るの?これは当たり前のことなの。ふつうのことなの。疑うなんてこと誰も 考えないの、思わないの。」と語って、軽く受け流してしまう、誰もまじめ に相手にしてくれない、耳を傾けてくれない、と嘆いています。 第四連は、一連、二連、三連の個別的事例をまとめて、わたしにはそれ が不思議でたまらないと主張しています。 語り手は、まじめにそう考えているのです。分かっていながら分からな いふりをして上品ぶって、少女っぽい甘えた言い方でかまととぶっているの ではありません。心底から、ほんとにそう思っているのです。普通人とはち がった感性の鋭さ、純粋さ、繊細さ、みずみずしさを持っています。 語り手は、当たり前のことを不思議と思う自然現象への観察力のするど さ、あるいは、生物の生命力へのおどろき、いとおしさ、やさしさ、あたた かさを持っています。 四年生にはむりでしょうが、成人がこの詩を読んだら、これは科学的思 考の源泉であるとか、この世は共同幻想の擬制社会であるとか、お国柄とい う各国文化・道徳・生活習慣の違いまで延長させて読みとる人もいるかもし れません。 音声表現のしかた この詩は、全体が韻律詩です。 わたしは(4) ふしぎで(4) たまらない(5) くろい(3) くもから(4) ふるあめが(5) ぎんに(3) ひかって(4) いることが(5) 音声表現するとき、これら3音、4音、5音の繰り返しの韻律に規制さ れます。これらリズムにのって音声表現されます。しかし、「タン タン タン タン タン タン タン 」のリズムにふりまわされて、意味内容が 隠れて、沈んでしまうようではいけません。意味内容を際立てて音声表現す る必要があります。不思議だという事柄が、気持ちが、浮き立つように音声 表現する必要があります。 各連の第一行は、「わたしは不思議でたまらないのだ」と、力強く主題 を繰り返し際立てて宣言するように断言的に音声表現していきます。 一連は、(くろい)≪くもから ふる雨が≫(ぎんに)≪ひかって い ることが≫と、≪ ≫部分を強調して音声表現します。 二連は、「青いくわの葉たべている」は「かいこ」の連体修飾語になっ ていることに気をつかって音声表現します。「青」から「白」へと色が変化 したことを目立たせて、強調して音声表現していきます。 三連は、「たれ」は「だれ」の古語的表現、江戸時代までは「たれ」と 言っていました。「夕顔が……開く」の主述意識のつながりを持って音声表 現しましょう。主述の結びつきを意識して全体を音声表現していきます。 「ぱらり」を、際立て、軽く、明晰に、高い声立てにして、浮き立つよ うに音声表現するとよいでしょう。 四連は、「わらってて」で中止した、そこで途切れた読み方もできます が、「わらってて……という」のつながりをもたせて音声表現したほうが意 味内容のつながりがはっきりと声に出ると思います。「あたりまえだ」を、 地の文に挟み込まれた会話文ではありますが、通常の会話口調の話し言葉で 音声表現したほうがいいように思います。 トップページへ戻る |
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