音読授業を創る そのA面とB面と 05・12・28記 詩「春の河」の音読授業をデザインする ●詩「春の河」(山村暮鳥)の掲載教科書……………………なし 春の河 たっぷりと 春の河は ながれているのか いないのか ういている 藁くずのうごくので それとしられる おなじく 春の、田舎の 大きな河をみるよろこび そのよろこびを ゆったりと雲のように ほがらかに 飽かずながして それをまたよろこんでみている おなじく たっぷりと 春は 小さな川々まで あふれている あふれている 出典 山村暮鳥の詩集『雲』(大正13年、イデア書院)の冒頭部分に掲載さ れている詩です。詩集『雲』は、山村暮鳥が40歳のときに出版、この年の 12月に彼は病気のため永眠しています。 音声表現のしかた 「春の河」という題名の三つの詩を教材として扱うことにします。便宜 上、上から「春の河1」「春の河2」「春の河3」としましょう。三つと も、春の河の情景を描写している詩です。 まず、三つの詩を黙読させます。小さな声での音読もさせたりします。 次に、題名読みをします。「春」という単語からどんなイメージが湧き 出ててくるか、話し合いましょう。田舎の児童、都会の児童では、自分の生 活体験から思い出す内容は違ってくるでしょう。ひとりひとり、それぞれの 春のイメージを出し合って話し合います。 つづいての題名読みでは、「河」と「川」との違いを話し合います。こ の詩を書いた人は日本人(山村暮鳥)ですから、ロシアや中国にある大河の ことではありません。 日本語の「かわ」には漢字で「河」と「川」とがあることをおさえま す。「河」は「大きな川」あるいは支流でない本流の川をさします。「川」 は小川のことをもさしますが、大きな川のことをも言います。日本で流れて いる「かわ」はすべて「川」の漢字を使って書いています。 ここで筆者は「春の川」と書かないで、「春の河」という漢字で書いて います。この詩でさしている「かわ」は、小川でなく、大きな川のことだと わかります。ここでの「かわ」は、かなり大きな川のことをさしていると思 われます。 春の河は、どうだと言っているのでしょう。春の河は、山の雪解け水を 運んで、河の土手いっぱいの高さまで上がって、春の暖かな陽光を浴びて、 多分光っているのでしょう。その河は、流れているのか、流れていないの か、分からないほど、流れの動きが止まっているように見える、と書いてい ます。 三つの詩で、その詩存在たらしめているのは、表現の的確さ・観察力 の鋭さです。「春の河は、ながれているのか、いないのか、ういている藁く ずの動くので、それとしられる」という表現です。「春は、小さな川々まで たっぷりとながれている」という表現です。この表現のすばらしさに子ども 達が気づいてくれたらなあと思います。これら表現は、春の河・川の情景を くっきりと、鮮やかにイメージする力を持っていることを、です。多くの言 葉を使うことなしに直截にずばりと表現している的確さを、です。 春は、「春眠暁を覚えず」と言います。ぽかぽかした春の陽光、ぬるん だ暖かい空気、眠気を催す陽気です。河の流れも眠気を催しているみたいに ゆっくりと、ゆったりと、のろく流れています。 「春の河1」では、河が流れているのが、藁くずの動きでそれとなく分 かる、わらくずがかすかに動いているのがわかるので、その動きで、そうな んだ、流れているんだと、なんとなく分かる・教えてくれている、と書いて います。 「春の河2」では、田舎の、春の、たっぷりと水をたたえて流れている 川を見てると、大きな喜びがあふれ出てくる、飽きることない喜びがわきで てくる、と書いています。なぜでしょう か。子ども達に考えさせてみましょう。農家の人々の立場にたって考えさせ るとわかってくるでしょう。春の農作業に恵みを与え、夏の生長に恵みを与 え、秋の収穫の五穀豊穣に恵みを与える水です。 「春の河3」では、大きな川だけでなく、小さな川・小川・堰までをも たっぷりとした水であふれ、流れている、喜ばしいことだ、と言っていま す。 音声指導の重点 わたしは、これらの詩で指導することは、二つあると思います。 一つめは、筆者の観察力の鋭さに気づかせる指導です。観察力の繊細さ に気づかせることです。筆者の春の河の観察力の犀利さにです。春の河の特 徴をよくつかんだ表現力の豊かさにです。 春のぽかぽかした暖かな陽気、人間たちの気分は、けだるくなります、 ものうくなります。春の河の流れまでものうく流れています。筆者は、たっ ぷりと水をたたえた春の河の流れを見て、第一次産業に従事している人々の 気持ちを投影した喜びでいっぱいになっています。 教師が「この詩で、書き方で・表現の仕方で、うまいなあ・上手だな あ、という個所はありませんか。それはどこですか」と問いかけます。この 詩の中で「表現で、いいなあ。好きだなあ。この表現、うまいと思うなあ、 すてきだなあ。」と思う、そうした語句を選択させるとよいでしょう。こう した話し合いをすると、すぐれた言語感覚が育ちます。 二つめは、詩内容に合った音声表現のしかたの学習です。 この詩内容が表現している雰囲気・気分・情趣というものがあります。 それをつかんで、それにみ合った雰囲気・気分・情趣にして音声表現するこ とが大切です。 この詩の場合は、たっぷりと、ゆっくりと、のんびりと、やわらかく音 声表現していくとよいでしょう。ここの詩は、そうした音読練習にはとって もよい教材です。この詩で、ゆっくりした、のんびりした、のばしににばし た音声表現のしかたを身につけておけば、他の文章でそうした読み方をしな ければならない時には、そうした読み方がすんなりと・容易にできるように なります。 子ども達に「この詩をどんな感じで読んだらよいかな、」と問いかけま す。この問いかけで、教師がねらっている答えがかえってこないかもしれま せん。そのときは「たっぷりとスピードをだして、早口で、一気に読んだ方 がよいかな。それとも、ゆっったりと、ゆるやかに、たっぷりと読んだ方が よいかな、」と問いかけます。当然にゆったり、のばした読み方という答え がかえってくるでしょう。 また、「元気よい・堅い声で読んだほうがよいかな。それとも、やわら かく・やわらいだ声で読んだ方がよいかな。」と問いかけます。やわらかい ・やわらいだ声で読んだほうがよい、」という答えがかえってくるでしょ う。 この二つのやり方で、二つのようにして実際に声に出させて音読させて みましょう。 実際に声に出させて読ませながら、全員で、発表された読み声につい て、音声の表れ方はどうだったか、について検討していく話し合いをしていき ます。悪いところを指摘するだけではいけません。よいところを見出して、 ほめながら、みんなで共同助言をしていくようにしましょう。 たくさんの子どもの読み声を発表させていくうちには、これは上手だ、 とっても上手だ、という読み声が発表されてくるものです。すかさずそれを 取り上げ、みんなでその読み声を模倣します。どんぐりのせいくらべの読み 声をだらだらと長時間あれこれと、いつまでも話し合うよりも、上手な子 (少しでも)の読み声を取り上げて、それをまねさせていくほうが音声表現 の上達がはやいです。 トップページへ戻る |
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