音読授業を創る  そのA面とB面と       07・7・25記




「花を見つける手がかり」音読授業のデザイン




●「花を見つける手がかり」の掲載教科書…………………………教出4上



          
筆者(吉原順平)について


  筆者の吉原順平さんは、展示映像プロデューサーのお仕事をなさってい
ます。が、あまり知られていない職業です。吉原順平さんが自身の仕事内容
を紹介している文章がありますので、それを下記に引用しましょう。

  私の仕事は、記録映画やテレビ番組の企画を立てたり、脚本を書いた
り、スタッフにアドバイスを与えたり、あるいは科学館のような展示のプロ
デュースをしたりすることです。企画書、設計図書、脚本といった、いわば
設計図にあたる文章は毎日のように書いているのですが、ひとり歩きをする
文章というものは、どうもなれていないし、苦手なのです。
  しかし、視聴覚的な、あるいは空間的なメディアを扱う私の本来の仕事
の領域でも、子どもという対象は、いつも大切なものとして、私のなかにあ
りました。事実、何年か前まで、私はNHKの幼児番組や当時のNETの学
校放送の台本を書いていましたし、短編映画でも子ども向きのものを何本か
手がけてきました。科学的な展示などでは、高校生あたりを主眼にした青少
年層が主な来場者となる場合が多いので、ここでも子どもを意識しなければ
なりません。したがって、子どもに対して、いかに確実なコミュニケーショ
ンを確保するかということは、私の職業的な課題といえるのです。

児童言語研究会編集『国語の授業』(一光社)1978年2月号より引用


            
教材文について


  教材文「花を見つける手がかり」が、どのような経過で書かれたかにつ
いて、これも吉原順平さん自身が書いている文章がありますので、それを下
記に引用しましょう。

 「花を見つける手がかり」の来歴は複雑で、それが書き方を規定している
ところも少なくありません。経緯を要約すると、こんな具合です。
 この文章の本当のオリジナルは、記録映画作家羽田澄子さん監督の科学映
画『もんしろちょう』(1968年・岩波映画)です。後にこれを、私が担
当したテレビ番組『生きものばんざい』(1978〜82)の一編としてリ
メイクしていただきました。題名は『モンシロチョウの恋』で、1974年
の放送です。
  その後児童出版の金の星社から『生きものばんざい』をシリースものの
本にしないかという話があり、テレビ読み物化という形で、私が全十二巻を
執筆しました。このシリースでの題名は『モンシロチョウのなぞ』でした。
『花を見つける手がかり』は、『モンシロチョウのなぞ』の前半を、教科書
向きにリライトしたものです。このような事情で、文章の段階では原典が映
画かテレビかあいまいになりました。
  内容面では、テレビでも金の星社の本でも、元の映画と同様に花を見つ
ける話とオスがメスを見つける話がセットになっていましたが、教科書では
前半の花を見つける話だけが取り出されています。

児童言語研究会編集『国語の授業』(一光社)1990年6月号から引用


             
教材分析


  この教材文は全文が15個の形式段落で構成されています。説明の都合
上、形式段落ごとに前から順番に番号を付けていき、それを使って説明して
いくことにします。(1)から(15)まで機械的に番号をつけます。

  この教材の文章構成を調べてみましょう。
まず、大きく「問題の文」と「答えの文」とに分けられます。
  問題の文………(1)、(2)
     いったい、もんしろちょうは、何を手がかりにして、花をみつけ
     るのでしょうか。
     花の色か。花の形か。花のにおいか。
  答えの文………(3)から(15)まで
     実験をして解明していく。

さらに「答えの文」を細かく分けてみることにします。
  実験準備………(3)、(4)
     課題解決のために実験を必要とする。まず、実験をするために、
     数多くのもんしろちょうを飼育することからはじめる。
  実験1…………(5)、(6)、(7)、(8)
     一斉にモンシロチョウを花壇に放す。よく集まる花と、余り集ま
     らない花があることが分かる。赤にはあまり集まらない。
  実験2…………(9)、(10)
     一斉にもんしろちょうをプラスチックの造花に放す。造花に向
     かって飛び、集まる。「造花」ということは「匂い」でないこと
     が分かる。やはり、赤には集まりが少ない。
  実験3…………(11)、(12)、(13)
     四種類の四角い色紙を用意して、一斉にもんしろちょうを放す。
     ただの紙なのにモンシロチョウは色紙に集まる。ということは、
     花の形でなく、花の色をめがけて集まることが分かる。よく集ま
     る色は紫と黄色、すくないのは青と赤だ。
  結論……………(14)
    もんしろちょうは、色をめがけて集まることが分かった。これまで
     の実験で赤色の集まりが少ないので、もんしろちょうは赤色が見
     えないらしいことが分かる。
  まとめ…………(15)
     生活上の疑問(問題、課題)があれば、実験や観察を重ねていく
     と、その仕組みが分かってくる。


           
音声表現のしかた



  説明文は筆者の声を音声表現することになります。これに対して物語文
は語り手の声を音声表現することになります。
  この「花を見つける手がかり」の文章は、説明文ですから筆者の声を音
声表現することになります。
  この「花を見つける手がかり」の文章は、筆者が読者(聴衆)に語りか
けている文体になっています。つまり、ナレーターがナレーションして聴衆
に語り聞かせている文体になっています。ですから、音声表現するときは、
声で絵(映像)をつくりながら、その絵(映像)に解説を加えながら、聴衆
が筆者と同じ立場にたって、実験者と一緒になって実験し、推論しているつ
もりになって、そんなつもりになって音声表現をしていくとよいでしょう。

 
形式段落(1)は、本論に入る前のまくらの話です。まず、「もんしろ
ちょう」を出して、それの一般的な話題を出して、もんしろちょうに読者の
興味関心を持たせる導入話をはじめにしています。「みなさん、もんしろ
ちょうをよく見かけることがありますね」と「もんしろちょう」の話題へさ
りげなく引き込んでいっています。
  ここの文章部分は、淡々と軽く語りだしてよいでしょう。「もんしろ
ちょう」に関心を持っていただくことを意識して語り出すとよいでしょう。

 
形式段落(2)は、「いったい、もんしろちょうは、何を手がかりにし
て、花を見つけるのでしょう」と問いかけています。この問いかけ文は教材
文全文を牽引していっている重要な課題提示文です。「いったい」を高く強
く読み出して、目立たせます。
  「花を見つけるのでしょう」は文末に「か」が付いていませんが、読者
(聴衆)に質問しているつもりで尻上がりの問いかけ音調にして音声表現す
るとよいでしょう。
  「色でしょうか」「形でしょうか」「においでしょうか」の三文は、三
つをはっきりと区切って、それぞれ独立させて、それぞれを問いかけの尻上
がり音調にして音声表現します。

 
形式段落(3)は、それぞれの文が何を言っているか、キーフレーズを
はっきりと目立たせて読みます。「このぎもんをとくため」「大がかりの実
験」を目立たせて音声表現します。

  形式段落(4)は、この段落では何を語っているかを意識して音声表現
します。それぞれの文のキーフレーズを目立たせます。「たくさんのもんし
ろちょうがひつようだ」「一度にたくさんのもんしろちょうを放し、テレビ
カメラで記録し、それで観察した」「たくさんの青虫を飼育して用意した」
という主要な表現意図(キーフレーズ)を意識して、その文で言いたいこと
を押し出して語っていきます。

 
形式段落(5)は、実験1のはじまりですから、「実験は、まず」を高
く強く目立たせて読み出します。
  この段落には3文があります。三つに区切って間をあけて、区切りを
はっきりさせて音声表現します。1文内部はぶつぶつと区切らないで、でき
るだけひとつながりに音声表現して、そこで言いたいことを、そのかたまり
を押し出していくようにします。

 
形式段落(6)は、2文です。1文は、ちょうが一斉に花壇をめがけて
飛んでいった事実を書いています。2文は、1文の事実に対して実験者の推
論を「……のようです」とつけたして語っています。考えを語っているよう
な、意見を語っているような、そんな音調にして読むとよいでしょう。

 
形式段落(7)は、ここも観察した事実の記録部分と、その事実に対し
て推論して語っている部分とがあります。事実は淡々と報告して読み、推論
は考えているような、意見を語っているような思考のうねり・めりはりを出
した音調にして、そんなつもりで読みます。

 
形式段落(8)は、「でも、そうきめてしまうのは、ちょっと早すぎ
ます」は、前段落を受け継いで「でも、」と言っています。前段落の受け
継いで、逆接で「そうでない」と言っている、そのことを意識して音声表現
していきます。
  ここの段落全体は、観察者の推論です。考えているように、思考の筋道
のめりはりをつけて音声表現できたらすばらしいです。

 
形式段落(9)は、実験2の開始となります。「そこで、今度は」を転
調した音声表現で読み出します。前段落の音調を引きずることなく、気分を
変えて、新しい話題に変わったことを知らせて、高く明るい音調で読み出し
ていきましょう。「プラスチックの造花」をはっきりと目立たせて読みま
しょう。

 
形式段落(10)には、5文があります。1文と2文は観察した事実の
報告です。事実が絵(映像)として浮かぶように音声表現しましょう。
  3文と4文は、実験者の推論です。思考の筋道やめりはりが音声の流れ
に出るとよいですね。「ですから」は前を受けて次に「こうだ」と言ってい
ます。2文を、ひとつながりの音調にして、そんな気持ちで音声表現してい
くとよいでしょう。
  5文めは、事実の報告です。淡々と報告しているように読んでよいでし
ょう。

 
形式段落(11)は、実験3の開始が書いてあります。
  「次の実験では」を転調して読み出します。つまり、「次」の「つ」を
高く強く読んで、それを引きずって読み下していきます。「花のかわりに」
「四角い色紙を」を目立たせて強調して読みます。
  次につづく一文は長い文ですが、あまりあちこちで区切ると全体の意味
内容が聞いていて分かりにくくなりますので、「(色紙にも集まってくれ
ば、花の形が問題なのではなく、)(色だけが、もんしろちょうをひきつけ
ているということになるでしょう。)」のように大きく二つに区切って読む
と、聞いていて分かりやすいでしょう。
  「色紙を花だと思ってくれるでしょうか。」は、問いかけ、質問してい
る音調にして音声表現しましょう。尻上がりに読んだら、そこでたっぷりと
間をあけます。聞き手に問いかけ、考えさせる間をあけます。

 
形式段落(12)は、前段落の問いかけに答えている文章部分です。
「色紙を花だと思って集まってきたんですよ」「ここにも、ここにも、ここ
にも、ここにも、あつまってきたんですよ。」「蜜を吸おうと口吻をのばし
ているもんしろちょうもいるんですよ」と報告しています。そのような音調
にしてで読みすすめていくとよいでしょう。「ここにも、ここにも」の並べ
個所は、一つ一つをゆっくりと重ねて、次々とたたみかける音声表現してい
くとよいでしょう。

 
形式段落(13)は、もんしろちょうの集まり方の色別の違いを報告し
ている文章部分です。「いちばん集まったのは、なに」「二番目が、なに」
個所を目立たせて、一つ一つを粒立てて音声表現していきます。「青はど
う、赤はどう」はあまり集まらなかったのですから、紫と黄色と比べたら青
と赤の個所は弱く、声を落として、すらりと読んでしまってよいでしょう。
  「ねんのため」以下は、老婆心ながらの付け加え実験のことを報告して
います。単なる付け加えの音調にして、淡々とすらりと音声表現していって
よいでしょう。

 
形式段落(14は、結論部分です。これまでの実験の総まとめの結論
ですから、ゆっくりと、きっぱりと、こうであると断定する音調で読んでい
きます。
  「色によって花を見つけること」「赤い花は見えないらしいこと」この
二つが「わかりました」に係っていく文章構造になっています。二つが「わ
かりました」に繋がる意識にして読みすすめるとよいでしょう。
  次の「  」部分は「と言う人が、いるかもしれません。」までつなげ
て読むとよいでしょう。それを受けて、その次のつながり文章部分は「そう
じゃないんですよ。こうなんですよ」という気持ちにして、そんな思いにし
て読みすすめていくとよいでしょう。
  
 
形式段落(15)は、最後の結びの言葉です。強調したり目立たせたり
することなく、すらりと、淡々と、これまでの話をまとめるつもりで、ゆっ
くりと読み下していってよいでしょう。


関連資料
 本ホームページの第14章「説明文における表現よみ指導」の中の第11節
「説明文の語り口をさぐる」を参照してください。また、第13節「花を見つ
ける手がかり」の授業づくり、を参照してください。関連記事があります。
  http://www.ondoku.sakura.ne.jp/jyugyoudukuri.html へのリンク


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