音読授業を創る そのA面とB面と 05・2・3記 「つり橋わたれ」の音読授業をデザインする ○「つり橋わたれ」(長崎源之助)の掲載教科書……学図3上、大書3上 新指導要領(02年版)の活動主義批判 02年から新指導要領が導入されました。三年が経過しました。はじめ に新指導要領の「読み」の指導のおける活動主義について私見を述べます。 国語授業は、担当教師の指導意図(指導目標)によって種々の指導方法 がとられます。大雑把に分けると、三つが考えられます。話し合い中心の学 習、活動中心の学習、音読中心の学習です。それぞれについて概略を説明し ましょう。 (1)話し合い中心の授業 文学作品の文章を第一段落から最終段落まで精読・精査していく読解指 導があります。これの授業方法は、話し合い中心で進められるのが普通で す。教師の発問、児童たちの発表という話し合い学習が中心の授業が一般的 です。 話し合われる学習内容は、「つり橋わたれ」では次のようなことが考え られます。思いつくまま、ランダムに挙げます。 ◎ざあっと読んで、第一次感想文を書いたり、感想発表をする。 ◎文・文章から浮かんだことを行間に書き込みをする。その反応を発表して みんなで話し合う。 ◎あなたは「つり橋」を知っていますか。知っていること、映像や写真で見 たこと、実際に渡ったことなどについて話し合う。 ◎トッコの気持ちの移り変わり(心情曲線)を話し合う。本文のどの文章個 所から、そう言えるのか。順次、気持ちはどう変化しているか、を話し合 う。 ◎山の子どもたちにはやしたてられ、トッコはどんな思いでつり橋を見つめ ていたであろうか。トッコの気持ち(内面)を想像して話し合う。 ◎「トッコは弱みをみせたくない」と書いてある。それはどの文章個所から そう読みとれるか。トッコの弱みとは何か。それが書いてある文章個所を 指摘しつつ話し合う。 ◎トッコは、強がっている。虚勢を張っている。それはどんなことから、ど の文章個所から、そう言えるか。 ◎弱みと強がりは、裏腹のようだ。本当は、トッコは淋しくてしようがな いのでは。トッコの淋しさはどんな事からそう言えるのか。 ◎トッコは、どんな性格の子だと思いますか。あなたと似ていますか。どこ が違っていますか。好きですか。 ◎山の子たちは悪い子か、良い子か。討論(ミニ・ディベート)をやってみ よう。 ◎主人公(トッコ)の行動や心情を話し合い、主題を読みとる。 このような話し合い中心の授業は、とかくすると、成績優良児の発表だ けとなりやすく、成績低位児はおいてけぼりになりがちだと言われていま す。また、教師の講義中心の学習になりやすいとも言われています。しか し、これまで教師たちは教材の与え方や導入の仕方や授業展開の方法などに 工夫をこらし児童の興味をつなげ楽しく力のつく授業をしようと努めてきま したし、すぐれた実践報告もたくさん語られてきました。一読総合法の読解 方法の開発もその一つでしょう。 02年度から導入された新学習指導要領では、従来の読みの授業は教 師中心の詳細な読解指導が多かった、反省すべきだ、ということから言語活 動を重視する指導に転換しました。新指導要領では、従来の「聞く・書く・ 話す・読む」の四領域から「話す・聞く」を特出して三領域となり、「話す ・聞く」という言語活動重視の国語授業に転換しました。 (2)活動中心の授業 児童の自主的な言語活動を主にした児童活動中心の授業です。従来の教 師中心の話し合い学習の精読・精査の読解指導の反省から生まれた、児童の 興味関心から授業組織していく方法として主張されました。 新指導要領が施行されてから三年が経過しました。「生きる力」すなわ ち「自ら学び、自ら考える力」が主張され、総合学習とどこが相違するのか 不分明なみたいな誤った児童活動中心の国語学習がみられるようになりまし た。言語活動重視の授業は、児童たちが課題を作り、主体的に学習活動を工 夫して取り組むという自主的な作業が中心となる授業です。自らの力で課題 と取り組み、これまで学んできた方法を生かし、楽しみながら自分なりに主 体的に学習するという授業です。児童の興味関心から授業を組織して、児童 がやってみたい課題で一人でやってもよし、同じ課題があればグループを作 り、グループで相談しつつ活動をしてもよし、学習形態は全く自由となって います。 新指導要領では、「従来(旧学習指導要領)は文章を詳細に追っていく 読解指導ばかりが重視された、これは反省すべきだ」ということから、児童 の自主的な言語活動を重視する読解指導が主張されました。文章をおさえ、 文章に導かれて人物の心情や事件の移り変わりを克明に話し合う読みとり授 業が、時代遅れの、なにか悪い授業でもあるかのようなことを新学習指導要 領は言っているみたいに受けとられています。ほんとうは、そんなことはな いのに。精読・精査の読解もしっかりと指導するように書かれています。 「つり橋わたれ」の授業でいえば、児童による自主的な活動学習では、 まず興味関心ごとに課題をつくり、計画書をつくり、個人またはグループの 自主活動(作業)となります。どんな活動例があるのでしょうか。一般例を ランダムに挙げてみましょう。 パンフレット作り、続き話や視点変えの話作り、紙芝居作り、本の帯を 作る、紙人形劇作り、絵本作り、紹介ポスター作り、劇化する(舞台劇、朗 読劇)、音読発表会、「つり橋わたれ」の感想発表会、トッコの性格につい てこう思う作文、人物へ手紙を書く、グループ対抗のクイズ大会、他作品を 含めての読書発表会、長崎作品の比べ読み、他のいじめ作品との比べ読み、 作品の感想アンケートやインタビューで新聞作り、感想のスピーチ大会な ど、各自(グループ)の課題にそった自主的作業で進め、まとめをしていく 授業形態です。 これが児童の興味関心にそった生きる力を育てる国語科の読みとりの授 業だ、新指導要領が進めている読みの指導方法だ、ということになりそうで す。教科書会社発行の教師指導書をみると、これらと類似した読みの指導方 法や展開例がいずれの教材にも適用されています。従来の文章の初めから終 わりまで精読・精査して読んでいく読解方法はなにか時代遅れの否定される べきことのように扱われています。 もちろん、新指導要領は従来の精読・精査する読解指導を否定している わけではありませんが、国語時間数の削減の中で児童の自主的な言語活動の 学習が重視され、それが拡大化・肥大化し、精読・精査の読解授業が縮小さ れて時間的にもわずかになってしまったことに大きな問題をかかえていま す。児童の興味関心による自主的な言語活動の学習(作業)は、現場の教師 ならみなさんが経験していることですが、ていねいにやりだしたら途方もな く時間がかかります。それに単元の終末時間に「読む」に「話し・聞く」を 関連づけた学習活動、つまり最後の整理・まとめ・全体発表会・展示会・感 想発表会などの時間も二時間ぐらいは必要でしょう。どうしても、精読・精 査の読解授業の時間が削られ、軽減されてしまう結果になります。 わたしは新指導要領の考え方に賛成ができません。これでは国語科が 「生きる力」・「自ら学び自ら考える力」という総合的学習という妖怪で汚 染され、のっとられてしまっています。児童の自主的な言語活動を重視する 国語教育、この言葉は美しくこれはたいへんに重要ですが、実際の国語授業 はお楽しみ会のグループ内での相談活動や作業活動と大差ない言語活動が行 われているのが現実のようです。 現在の児童40人に教師一人の学級編成ではこのような授業になるのは 当然です。課題を選択するといっても課題が分からなくて選択のしようがな い児童、何をやっていいか分からない児童が低中学年はもちろん高学年にだ ってたくさんいるのが現実です。学年目標にそって、かつ児童の興味関心に 即した指定時間内に整理・まとめができる課題指導を個別にするといって も、五日制になり国語の総時間数が減少しており、40人学級では教師がい くら頑張っても児童一人ひとりに丁寧な個別指導ができる物理的な時間の余 裕がないのが現状でしょう。 児童の興味関心にまかせれば、子どもは楽しそうに授業に取り組むで しょう。しかし、その活動内容は低レベルの児童の興味関心はいずりまわり 活動で、深みのない皮相な言語活動の学習にならざるを得ません。グループ 内で活動する一部児童は積極的に活動してほとんど自分だけでやってしま う、一部児童はおんぶにだっこで見てるだけか命令されるままに絵の色塗り の手伝いとかの活動になりがちとなります。熱心にやる子、殆んど遊んでし まう子、二つが出てくるのがいつわらざる現実の姿ではないでしょうか。 熱心にやる子、殆んど遊んでしまう子、両方の児童にとって国語の授業 は好きなようにやれるから楽しい、好きだということになるでしょう。国語 の勉強だけでなく他教科も世の中のことも、これで全て順調にいくんだった ら、ほんとに楽しく嬉しいことですがね。これでは、その学年で教師がねら った学年相応の読解能力の実力が身につく子はごく一部の児童だけになると いうのが現実ではないでしょうか。 最近、日本の子どもたちの読解能力が低下していると、マスコミで話題 になっています。04年12月12日に公表された経済協力開発機構(OE CD)の03年学習到達度調査結果、「日本の読解力は前回00年の8位か ら、加盟国平均水準の14位へ下落した。読解力は加盟国平均を500点と 換算すると、日本は498点、前回の522点から24点も下がり、各国中 で最大の下落幅となった。」と伝えています。この調査結果は新学習指導要 領の導入と無関係とはいえないでしょう。このままですと、ますます日本の 児童生徒たちの読解力低下現象がおこるのは目に見えて明らかです。 国語科には国語科プロパーとしてやらなければならない指導内容があり ます。「読む」の指導では、文章の「読みとり方」の技能を徹底指導するこ とです。「文章の読みとり方はこうする」という読みとり方の基礎技能を身 につけることが指導のカナメです。説明文の文章の読みとり方はこうする、 文学作品の読みとり方はこうする、という文章の読みとり方の基礎技能を教 える、教師がねらいを持って教える、スキルする、これが読みの指導の基礎 基本です。この基礎基本をしっかりと身につけさせることです。文章の形式 を押さえ、精読・精査する方法を教えずして何の「読む」の指導でしょう。 言語活動中心で行われる読みの能力は「調べ読み」には必要な読解方法 です。多くの資料の中から必要なところだけを拾い出して、調べたい事柄だ けを取り出し整理をする、という能力高めの指導は必要です。この調べ読み の方法は総合学習とも関連します。でも、これが読みの指導の全てではあり ません。「とばし読み」で内容(課題)だけが読みとれればよいは、ほんの 読み能力の一部分です。 文章の初めから終わりまで精読・精査をしない読みの指導、文章形式 (文法・文章論的思考方法)をおさえて内容を読み取るのでなく、すぐ内容 さえ読みとれればよいという読解方法、これは読みの授業の基礎基本となる 読解方法ではありません。理科や社会科や総合的学習の資料読みの方法では あっても、国語科の基礎基本となる読みの指導内容ではありません。 「とばし読み」で素早く内容を読み取る方法、「精読」で手順をおって 内容の読みとり方を指導していく方法、両方があります。「精読」は読みと り方指導の基礎基本であり、「とばし読み」は応用なのです。応用指導は必 要です。が、応用指導が肥大化して、基礎基本指導がおろそかになってはい けないのです。 旧指導要領では、発展学習と呼ばれたものがありました。発展学習と は、基礎基本の精読・精査した読解指導をしたあとで行うもので、それは新 指導要領でいうところのもの、児童の興味関心による課題を作り、自主的主 体的な種々の言語活動の学習活動を指しているといってよいでしょう。基礎 基本学習と発展応用学習とをはっきりと区別すべきで、転倒させてはいけま せん。国語科が総合学習みたいな応用学習に堕してしまってはいけないので す。児童たちの興味関心に媚びて堕落してしまった低レベルの言語活動主義 の学習になってしまっててはいけないのです。 (3)音読中心の授業 音読授業は、前述した「(1)話し合い中心の授業」の中に入るのが通 常の姿ですが、話を分かりやすくするために便宜上の区分けをして、本稿で は「音読中心の授業」の項目を立てました。「話し合い中心の授業」の中に 位置づけていいのです。もちろん、一時間全てが音読で進める「話し合い中 心の授業」もあります。 音読を中心にした授業は、声が出れば学業低位児でも授業に参加できま す。子どもは声に出して文章を読むことが好きです。喜びます。特にリズム のある文章は喜びます。声に出すことは開放感があるのでしょう。声に出し て読みさえすればよいのですから、学業低位児でも音声表現の楽しさを味わ いつつ国語授業に参加できます。 音読授業は、ここはこういう場面(気持ち)だから音声表現はこうなる はずだと語り合い、あれこれと音声表現の仕方を実際に変化させ、いろいろ と試みさせます。声に出しての音読を軸にしつつ場面の状況をつかみ、人物 の気持ちをつかむ授業をしていきます。音声表現を軸にして場面の移り変わ りと人物の気持ちの移り変わりを読みとり、これを音声で表現していきま す。 会話文指導では、まず読もうとする会話文を音声で表現してみます。あ らわれでた読み声について、自分で、ここは上手、ここはへんだ、と気づき ます。また学級全員で話し合います。こういう場面の、この人物のこういう 気持ち(話し意図)だから、もっと音声にこんな気持ちがこめられるとい い、こんな音調になるといい、というようなことを話し合っていきます。 再度の音声表現を、みんなの助言に従ってチャレンジします。読み声を 提供した児童だけでなく、他児童たちにもチャレンジさせます。人物の気持 ち(話し意図)を、人物になったつもりで、読み手の全身に響かせ、体ごと で音声表現していきます。 地の文指導も同じです。ここの地の文個所は、どんな状況場面である か、語り手はその場面(地の文)をどんな気持ちで語っているか、これらが 分かっていないと上手な地の文の音声表現にはなりません。この地の文を、 どんな音調で、どんな気分・雰囲気の場面構成にして音声表現すればよいか を話し合います。それを読み手の全身に響かせ、体ごとで音声表現させてい きます。 あらわれでた音声について学級全員で感想を語り合います。こういう場 面の、こういう事態(事柄)を音声表現するのだから、もっとこんな雰囲 気・気分が声として出ればさらによい音声表現となる、というようなことを 話し合います。再度の音声表現を試み、さらに上手な読み声を求め、全員が 挑戦していきます。低位児も、話し合いには参加できないこともあるでしょ うが、実際の読み声にチャレンジしたり読み声発表には参加できます。 こうして場面の移り変わりを、人物の気持ちの変化を、人物の気持ち (話し意図)をつかみ、読み手の全身に声で響かせ、体ごとの反応(理解) として音声で読みとり、音声で表現していきます。思いを音声にこめて、体 ごとの反応として、身体に響かせて、音声表現していきます。ことばで理解 (表現)するのでなく、身体に響かせて理解し、身体まるごとの感情音声と して表現していきます。「話し合い中心の授業」では理屈だけで内容精査を していきがちですが、音読を取り入れると体ごとの感情反応で、身体に響か せて読み深め味わうことができます。 音声表現を取り入れると、イメージが体ごとで把握され、身体に響いた 読みができます。音声は作品が体を通過することで、情動が刺激され、感動 が喚起され、血肉化され、身体ごとで感情世界を理解できるようになりま す。 本稿は、「つり橋わたれ」の音読授業のデザインを立てる、です。次 にそれについて詳述していきます。 会話文と地の文とを区別する 「つり橋わたれ」の冒頭文章は、山の子どもたちのはやしたてる会話文 で始まります。つぎに、トッコが山の子どもたちにはやしたてられた理由が 書いてある地の文です。 会話文と地の文とがある場合は、会話文と地の文との読み音調を区別し て音声表現しなければなりません。これは、音読指導の第一課の指導内容で す。音読指導の最初に教える基本の指導内容です。 会話文の音読指導では、「誰が話しているか」「誰に向かって話してい るか」「どんな場面(状況)の中で話しているか」「どんな気持ち(話し意 図)で話しているか」「聞き手はどんな気持ちで受け取っているか」「どん な音調(調子、口調、めりはり、抑揚)で話しているか」などを話し合い、 それに応じた音声表現をさせます。 これらを、会話文を音読する事前にすべて話し合っておかなければなら ないかというと、そんなことはありません。重要なことだけを話し合ってお いたり、まず音読をさせて、あらわれでた読み声について学級全員で助言し ていく中で上述した内容を発表させたりしていってもよいのです。こういう わけだから、こんな感じの音声表現になっていたが、もっとこういう音声表 情になるとよい、という話し合いをしていきます。 トッコの会話文を音声表現する場合、児童は自分自身の生活と重ね合わ せながら、トッコの気持ちや行動に共感しながら、音声表現していくことで しょう。お母さんが病気、おばあちゃんに預けられた、周囲は未知の人たち ばかりの淋しさ、村の子どもで知り合いがいない、ばかにされたくない、本 当は淋しいのに強がるしかないトッコ、これらを音声表現の仕方を話し合う 中で出し合い、実際の読み声にこめて感情ぐるみで、体に響かせて、音声表 現していくようにします。 次は、地の文の音声表現の仕方です。地の文は、会話文と違って淡々と 音声表現していきます。地の文は、場面の状況説明や人物描写が書かれてい る文です。語り手による説明と描写が主ですから、語り手はナレーターとな って事柄(事件)のなりゆきを説明しているように、人物の行動や背景の描 写を語っているように、淡々と、客観的に音声表現していくようにします。 地の文には幾つかの種類があります。その種類によって音声表現の仕方 が違ってきます。これについては他の個所に詳述してあります。わたしの ホームページの中の「上手な地の文の読み方」や拙著の中で詳述していま す。 地の文としての会話文 会話文は、物語世界のある場面で現実に作中人物が語った会話です。劇 でいえば舞台上で俳優によって語られる台詞と同じものです。しかし、物語 の会話文の中には、そうした会話文(舞台上の台詞)でない性格のものもあ ります。 物語の地の文は、物語展開における事件(事柄)の説明や背景の描写を して用いられている文章です。会話文の中には、こうした地の文と似た性格 のものもあります。事件(事柄)の説明や解説として、その証拠や事例とし て引用され、利用されている会話文もあります。 通常、会話文はカギ付きで、改行して、それのみが独立して記述されま す。こうしたカギ付きの会話文であっても、たった一行だけの短い会話文記 述には地の文のような説明や解説として書かれている会話文もあります。こ のような会話文は音声表現するとき地の文のように淡々と、客観的に、冷た く音声表現してよいものもあります。もちろん通常の会話文のように抑揚た っぷりで音声表現することもできます。どちらで音声表現するかは、その場 面ごとで、読み手が主体的に判断して音声表現していくほかありません。 地の文の中に、地の文の説明の一部分としてカギ付き会話文がはめこま れて記述されている、つまり改行し、独立してない会話文もあります。この ような会話文の多くは地の文として淡々と、客観的に、冷たく音声表現して いってよいでしょう。もちろん音声表情たっぷりに抑揚をつけて読んだ方が よい地の文にはめこまれた会話文もあります。どちらで音声表現するかは、 その場面ごとの主体的な判断で読むしかありません。次がその例です。 ※「つり橋わたれ」の中にある例 (例文1)地の文にはめこまれた会話文 すると、「ママーッ。」「ママーッ。」「ママーッ。」と、大きく、 小さく、声がいくつもかえってきました。 (例文2)地の文にはめこまれた会話文 すると、「おーい、山びこーっ。」という声が、いくつもいくつもか えってきました。 (例文3)改行し、独立している一行だけの会話文 ……東京のじまんばかりしてしまったのです。だから、サブたちがお こるのはあたりまえです。そのあげくが、 「くやしかったら、つり橋わたれ。」 ということになったのです。 (例文1、2、3)は、すべて地の文として淡々と、客観的に、冷たく、 説明として音声表現することができます。たっぷりと抑揚をつけて音声表現 することもできます。両方ができます。 小学校三年生になったら、カギつき会話文の中にはこうした性格のものがあ ることも指導しましょう。両方の音声表現ができるもの、やっぱり一方で音 声表現したほうがよいもの、などがあることを指導します。 「あなたはどちらで音声表現しますか」と問いかけ、どちらかを選択させ て音声表現させます。なぜ、そちらを選択したのかを発表させるのもよいで しょう。 「つり橋わたれ」には次のような記述の文章もあります。 (例文4)(ママ、今、何をしているかな。早く病気なおらないかな。) そう思うと、きゅうにママがかいしくなりました。 例文4の( )内は、作中人物の心内語(思考語、内言、考えこと ば、独り言)です。実際には音声として出ていない、頭の中だけで思ってい る事柄です。( )で記述されている文章は、独り言したこと、心内語を 書く場合が多いことも指導します。 自分の作文の中にも、これを使うことも指導します。あとで、これの練 習作文を書く指導時間があってもよいでしょう。 母をなつかしく思い出し、母の病気を気遣い、早い快癒を祈っているト ッコの思い・願いをこめて音声表現します。トッコが独り言しているよう に、頭の中で考えているように、小さい声で、そっと、願いをこめて、音声 表現します。 音読で人物の気持ちを 会話文の音声表現で人物の気持ちをありありと想像させる指導をしま す。 「やあい、やあい、くやしかったら、つり橋わたって、かけてこい。」 これだけを音読発表させます。地の文に「はやしたてました」とあります。 はやしたてる、とは何か、と教師が発問し、「実際にはやしたてている ように音読してごらん」と指示します。こうして音声表現で「はやしたて る」場面を現実化させます。こうして理解させたほうが、辞書的探究の話し 合い学習だけで終わらせるよりは、ずっと感覚的に情的に体感的に「はやし たてる」の語感を理解させることができます。こんなところにも音読学習の 優位性があります。 「やあい、ゆう気があったら、とっととわたれ。」も同じです。上と二つ をつなげてやってもいいですね。 「ふんだ。あんたたちなんかと、だれが遊んでやるもんですか。」も同じ です。実際にトッコが山の子どもたちに向かって語ったであろう音調にして 音声表現させます。この時、トッコの気持ちはどうか、と発問し、時間をか けて話し合い授業だけで進めるよりも、実際にめりはりをつけて音声表現さ せたほうが、ずっと楽しく、おもしろく、体に響かせて理解させることがで きます。トッコの気持ちを言葉(理屈)で概念化してまとめるよりも、ずっ と深くトッコの気持ちに寄り添い、体に響かせ、血肉化して読み深めること ができます。会話文を音読させると、人物の気持ちを、読み手の感情ぐるみ の反応で、体に響かせて、深く読みとる(感じとる)ことができます。 役割音読で場面把握を 会話文が連続している対話部分は役割音読をさせてみましょう。「つ り橋わたれ」には、二箇所あります。 (その1場面) 文章範囲。「あら、あんた、いつ来たの。」から「まねすると、ぶつわ よ。」まで。 地の文を削除して、会話文だけを音読します。トッコ役と男の子役を選 出します。配役が決まったら、会話文だけを音声表現します。男の子は「山 びこ」役です。男の子はトッコの語り口や音調までそっくりそのまままねす る役です。こうした役割音読することで、場面がありありと再現でき、状 況場面を浮きあがらせることができます。場面の臨場感が出て、会話文の音 声表現にめりはり、抑揚が増幅するようになります。 (その2場面) 文章範囲。「おーい、どこにいるのーっ。」から「おめえ、つり橋わた れたから、いっしょに遊んでやるよ。」まで。 林の奥からの声は、遠く、かすかな声のこだまとして音声表現すると よいでしょう。風がどっと吹いてきたことを、他児童たちが「ぴゅ−ぴゅ −」とか、「どどどうーー」とか一斉に言う、また太鼓(楽器)を使う、風 の擬音テープを流す、なども考えられます。 (その1、2場面)は、その人物役の児童に簡単な動作演技(身体表情、 顔の表情作り)を入れつつ音声表現させると、場面の臨場感が出てきます し、音声表現に豊かなめりはりが出てくるようになります。 音声だけで場面をつくる 文章(地の文、会話文)に導かれて、その場面を音声だけで構成しま す。「つり橋わたれ」では、次の二つの場面が音声表現だけで場面構成がで きます。 (その1)場面の文章範囲。 「ママーッ。」 かさなり合った緑の山に向かって、大きな声でよびました。すると、 「ママーッ。」「ママーッ。」「ママーッ。」と、大きく、小さく、声がい くつもいくつもかえってきました。そして、また、元のしずけさにもどりま した。ただ、遠くの方で、かっこうの鳴くのが聞こえました。 上の文章範囲を、音声だけで一つの場面に作ります。例えば、次のよう な台本にします。 トッコ 「ママーッ。」(大) 児童1 「ママーッ。」(小) 児童2 「ママーッ。」(中) 児童3 「ママーッ。」(小) 児童4 「ママーッ。」(小) 児童5 「ママーッ。」(極小) 《シーーンとした静寂の時間、5,6秒とる》 児童6 「カッコー。」(中) 児童7 「カッコー。」(中) 児童8 「カッコー。」(小) 《「カッコー」は、擬音テープでもよい。静寂のしじまの中に遠くから郭公 の鳴く声が聞こえてくる。そのあとの静寂の時間、5,6秒とる》 (その2)場面の文章範囲。 「おーい、山びこーっ。」 すると、「おーい、山びこーっ。」という声が、いくつもいくつもか えってきました。それがだんだん大きくなってきたかと思うと、とつぜん、 どっと風がふいて、木の葉をトッコにふきつけました。 上の文章部分を音声表現だけで場面構成をします。トッコの「おーい、 山びこーっ。」のあとに続けて、そのこだまを幾つか重ねていきます。数グ ループを作り、グループ内で練習させ、発表させたらどうだろう。 トッコ 「おーい、山びこーっ。」 児童1 「おーい、山にこーっ。」 児童3 「おーい、山びこーっ。」 児童4 「おーい、山びこーっ。」 児童5 「おーい、山びこーっ。」 児童6 「おーい、山びこーっ。」 児童全 「ピュ−ー。ピューー。ピューー。」 児童全 「ガサガサ。バサバサ。ババーー。」 《児童の山彦の音声はだんだん大きくなる。風が吹いて、木の葉を吹き付け る音は、いろいろ工夫ができる。楽器、擬音など使用するのもよい。》 動作化しつつ音読する 次の二つの場面は動作化しつつ音声表現するのに適しています。身体表 情(動作化)の豊かさは、音声表情の豊かさに連動します。身体表情をつけ ながら会話文の音読をすると、どんな場面か・どんな思いかが明確となり、 会話文に豊かなメリハリが出てきます。 「ふんだ。あんたたちなんかと、だれが遊んでやるもんか。」 トッコは、べっかんこしてみせました。 《べっかんこしながら、この会話文を音声表現する。》 トッコはびっくりして、思わず目をつむりました。そして、こわごわ目をあ けると、そばに、かすりのきものを着た男の子が立っていたのです。 「あら、あんた、いつ来たの。」 と、トッコが聞くと、男の子は、 「あら、あんた、いつ来たの。」と言って、にっこりしました。 《トッコがこわごわ目をあける動作をする。トッコが男の子を目にしつつ 会話文を言う。男の子は、にっこりしてから会話文を言う。トッコが男の子 をトントンと追いかけるところまで動作化してもいい。》 作り声について 「つり橋わたれ」には、トッコのおばあさんの会話文が二つあります。 「トッコちゃんと遊んでやっておくれ。さあ、東京のおかしをお食べ。」 「あれは、山びこっていうんだよ。」 おばあさんの会話文は、おばあさんだといって、わざと喉の奥から しぼり出すしわがれ声、作り声で話さなければならないということはありま せん。作り声はしなくてよいのです。むりに作り声にして音声表現すると滑 稽に聞こえ、おかしな、嘘っぱちな音声表現になってしまいがちです。 だからといって小学校三年生のかん高く細い、硬質な声質でずらずらと 早口で読んでしまってもいけません。おばあさんらしさが出ません。おばあ さんらしさを出すには、声を低くして、ゆっくりめ、ゆっくりめに音声表現 するとよいかも、と思います。 わたしの実践記録の紹介 わたしが三年生を担任したとき「つり橋わたれ」の授業をしました。そ のときの実践記録が拙著『群読指導入門』(民衆社、CD二枚つき)に24 ページにわたって詳述してあります。付録CDにはわたしの学級児童たちの 「つり橋わたれ」の読み声録音が16分間にわてり収録されております。ご 参考になさってみてはいかがでしょうか。 そこに紹介されている読み声録音の内容項目を次に書きます。 (1)「つり橋わたれ」全文の群読の読み声の録音 (2)「つり橋わたれ」全文の群読台本 (3)群読の台本形式(台本の書き方)について (4)群読聴取しての感想アンケートの発表 (5)会話文「やあい、やあい、くやしかったら………」の二種類の群読台 本とその読み声録音、読み声への感想意見の発表。 (6)「おうい、山びこう。」から「あら、あんた、いつ来たの。」まで。 三種類の群読台本とその読み声の録音。読み声への感想意見の発表。 (7)「今、男の子を見なかった。」から「おめえ、つり橋わたれたから、 いっしょに遊んでやるよ。」まで。三種類の群読台本とその読み声の録音。 読み声への感想意見の発表。 (8)最終の段落。三種類の群読台本とその読み声の録音。読み声への感想 意見の発表。 (9)上述した「声だけで場面を作る」と同じ指導をわが学級児童たちが演 じている。つまり、文章を、場面(シーン)で音声表現した読み声の録音。 上述したCD録音を、本ホームページの第19章第3節に、コピー録音と して再掲載しています。「群読台本の作り方・「つり橋わたれ」を例に」 録音として再度おなじものを掲載しています。第19章第3節録音を聴取し てみましょう。 トップページへ |
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