音読授業を創る そのA面とB面と        03・6・18記




 
「三年とうげ」の音読授業をデザインする




      音読によい文章個所(その1)


●文章範囲
  「春には………よいながめでした。」から「秋には………よいながめで
した。」までの二段落。

●指導のねらいと方法
  この二段落には、なだらかな峠の、春と秋の美しい景色の様子が対比的
に描かれています。春と秋、それぞれが違って、二つともすばらしい景色
だ、ということを音声で出したいものです。
  対比的な表現記述に注目させましょう。「春には」と「秋には」。「す
みれ、たんぽぽ、ふでりんどう」と「かえで、がまずみ、ぬるでの葉」。
「とうげからふもとまでさきみだれました。」と「とうげからふもとまで美
しく色ずきました。」。「れんげつつじのさくころは……」と「白いすすき
の光るころは……」。
  春と秋、なだらかな峠の対照的な美しい景色の特徴を音声で表現したい
ものです。春の段落と秋の段落を2名の児童で分担読みさせます。A児には
春の段落を、B児には秋の段落を読ませ、声(読み手)の違いで、春と秋の
違いを表現します。春と秋と一文ずつ(1フレーズずつ)交互読みさせ、両
者の違いを明確にするのもよいでしょう。音声表現の技術としては、「さき
みだれました。」、「美しく色づきました」、「ため息の出るほど、よいな
がめ」などに卓立強調をつけ、その語句を粒立てて読むといでしょう。


       
音読によい文章個所(その2)


●文章範囲
  言い伝え「三年とうげで転ぶでない。三年とうげで転んだならば………
長生きしたくも生きられぬ。」まで。

●指導のねらいと方法
  「三年とうげには、昔から、こんな言いつたえがありました。」と述べ
て、次に言いつたえの全文が書いてあります。こんな言い伝えだよ、と読者
(聴衆)に紹介して(知らせて、伝えて)いる場面です。その場面の語り手
の意図(思い)をこめて読んでいくとよいでしょう。
  アナウンサーがニュースを読むように淡々と伝える気持ちをこめて読む
のもよいでしょう。しかし、この言い伝えの文句は、定型詩になっており、
韻をふんでいますので、自然とリズミカルになります。リズムは(4442
/4443/445。4443/4443/445)です。子ども達は当然にリ
ズミカルに読み進めるでしょう。こんな言い伝えの内容だよ、という相手に
伝える意図を忘れないようにして、リズミカルに、楽しみつつ、自由に読み
声に変化を加えて音声表現させていくと子ども達は喜びます。
  ただし、リズムに流されて、文意が分からない読み方になってはいけま
せん。文意を相手に伝える気持ちを大事に、それを第一にして、そしてリズ
ムを心から楽しんで読んでいくようにします。


       
音読によい文章個所(その3)


●文章範囲
  「こうしちゃおれぬ、日がくれる。」から「と、足をいそがせまし
た。」まで。

●指導のねらいと方法
  ここの場面の音読は、おじいさんがあわてて立ち上がり、足をいそがせ
た、その時のおじいさんの気持ちと行動を音声で表現することになります。
  文章に導かれ、全員一斉にばらばらに動作化をするとよいでしょう。
「こうしちゃおれぬ。日がくれる。」と言いつつ、あわてて立ち上がりま
す。次に「三年とうげで転ぶでないぞ。三年とうげで転んだならば、三年き
りしか生きられぬ。」と言いつつ、この言い伝えの文句のリズムに合わせ
て、足をいそがせて歩く動作をします。
「足をいそがせた」のですから、文句のリズムを速めな語調にして、それに
合わせた歩調にする工夫が必要です。「転んではならぬ。転ばないように。
かつ速歩で」の思いをもって動作化するとよいでしょう。
  ばらばら練習のあと、上手な児童の発表。みんなで拍手。


        
音読によい文章個所(その4)


●文章範囲
  「ところがたいへん。あんなに気をつけて歩いていたのに、」から「あ
あ、どうしよう、どうしよう。………三年しか生きられぬのじゃあ。」ま
で。

●指導のねらいと方法
  ここの文章部分は、「転んでしまった。たいへんなことが起こってし
まった。どうしよう。どうしよう。」というおじいさんの悲嘆にくれた気持
ちと彼の行動が音声に出るようにします。そのためには文章の一部語句(フ
レーズ)を強調(強めに読んで粒立てる方法)する音声表現が必要でしょ
う。
  強調する記号づけの指導もします。教科書の文章の右側に強調の記号
(しるし)をつけさせます。わたし(荒木)だったらの、強調したい語句の
幾つかをあげてみよう。「たいへん。あんなに。転んで。真っ青。がたが
た。すっとんで。おいおい。どうしよう。あと三年。三年しか」などが考え
られます。読み手によって、いろいろ違ってくるでしょう。
  違ってくるとは言っても、記号づけの初期指導では、学級全員で話し
合って、学級一斉の同じ記号にして、記号づけの仕方を理解し、その記号に
そった全員一斉で強調する実際の音声練習を繰り返しやるようにします。み
んなで楽しく、自由な雰囲気で、気楽に、声を大にし、のびのびと、全員で
で声を合わせていくうちしだいに上手になっていくでしょう。
  どんな強調の記号にするかは、各学級の自由です。傍線、波線、黒丸、
点線など、学級内で自由に約束してつくった記号を用いればよいのです。


        
音読によい文章個所(その5)

  
●文章範囲
  次の会話文の文章個所です。次の会話文だけを取り出し、配役を決めて
役割音読をします。地の文は読みません。
「おいらの言うとおりにすれば、おじいさんの病気はきっとなおるよ。」
「どうすればなおるんじゃ。」
「なおるとも。三年とうげで、もう一度転ぶんだよ。」
「ばかな。わしに、もっと早く死ねと言うのか。」
「そうじゃないんだよ。一度転ぶと、三年 生きるんだろ。二度転べば六
年、三度転べば九年、四度転べば十二年。このように、何度も転べば、うう
んと長生きできるはずだよ。」
「うん、なるほど、なるほど。」

●指導のねらいと方法
  トルトリの機知に富む話しの内容に、読者ははっとさせられます。
  初め、これら会話文は誰が話しているかを明確にします。会話文の上部
に「トルトリ」の「ト」とか、「おじいさん」の「お」とかの印を付けさせ
ます。次に「人物になって読みたい人?」と問いかけ、挙手をさせ、指名を
して、役割音読をさせます。
  その役割音読の読み声を材料にしながら、トルトリとおじいさんは今、
どんな気持ち(思い)で話しているか、これら会話文をどんな気持ち(思
い)で読めばよいのか、学級全員で語り合い、さらなる音読をしていきま
す。
  トルトリは「明るく、力強く、元気よく、自信を持って」話しているこ
と、おじいさんはそれとは逆に「暗く、弱々しく、がっかりして、自信な
く」話していることをはっきりさせます。
   それぞれの気持ち(思い)をこめて当該の会話文を読むようにさせま
す。
これらの気持ち(思い)と、やりとり(対話)の感じが出ていれば、ここ
の役割音読は成功です。話し手の気持ちと対話のやりとりの感じが重要で
す。
  最後の「うん、なるほど、なるほど。」は、「おじいさんは、しばらく
考えていましたが、うなずきました。」と但し書きがついています。この但
し書きの地の文に注目させ、どう読めばよいか考えさせます。しばらく考え
ている間(ま)と、うなずきの動作を入れてから、「うん、なるほど、なる
ほど。」を読むようにします。おじいさんはトルトリの言葉に元気づけら
れ、
元気を取り戻し、「なるほど、なるほど。」と自分の言葉に、自分で納得し
て、こうして明るく、自信を得た読み声にして表現させます。


        
音読によい文章個所(その6)


●文章範囲
  歌の全文「えいやら えいやら えいやらや。一ぺん転べば………長生
きするとは、こりゃ めでたい。」と、それにつづく地の文「……ころころ
ころりんと、転がり落ちてしまいました。」まで。

●指導のねらいと方法
  地の文に「おもしろい歌が聞こえてきました。」と書いてあるので、
「えいやらえいやら えいやらや……」は歌であることは確かです。
  歌だからといって、音読するときに歌にして歌わなければならないとい
うことはありません。こんな歌の歌詞だよと読者(聴衆)に紹介するように
「読んで」もよいでしょう。リズミカルに軽く調子をつけて「読んで」もよ
いでしょう。かすかに歌にしたリズムで読んでもよいでしょうし、もちろん
完全な歌にして歌ってもよいでしょう。
  「完全な歌」といっても楽譜が書いてあるわけでないので、自分で作曲
するしかありません。わたし(荒木)が「三年とうげ」を指導したときは、
荒木作曲の歌にして、学級児童に伝え、わが児童たちはここを歌で表現しま
した。その歌声が収録されたCDが市販されています。(後述の参考文献を
参照)。
  「ころりん、ころりん、すってんころりん」から「ころころころりん
と、転がり落ちてしまいました。」までの地の文は、せっかくリズミカルに
楽しく音読できる文章形態になっていますので、リズミカルな言葉を、調子
よく舌で転がして、楽しく、おもしろく、愉快に、調子よく読んでいくよう
にします。こういう個所で子どもたちにうんと音読することの楽しさを味わ
わせたいものです。


                      
参考文献(1)


  拙著『群読指導入門』(民衆社、CD2枚付き、3200円、2000年
刊)の付録CDには、「三年とうげ」全文のわが学級児童たちの読み声録音
が収録されてあります。「三年とうげ」を群読で音声表現しています。ひと
り読み・個人読みの指導にもおおいに参考になるでしょう。
  「三年とうげ」の全文を、どう群読の台本作りをしたか、その台本作り
の観点についても詳述しています。どの文章個所を、どんな音声表現の仕方
で工夫させたかについても書いています。この物語には昔からの言い伝えの
歌が入っていますが、CD録音で歌っている児童は、荒木作曲に一層の磨き
をかけて、さらに洗練した歌にして歌ってくれています。みなさんのご指導
に役立てていただくとうれしいです。


           
参考文献(2)


 物語「三年とうげ」の中に「えいやら えいやら えいやらや 一ぺん転
べば 三年で 十ぺん転べば 三十年 百ぺん転べば 三百年 こけて転んで
ひざついて しりもちついて でんぐり返り 長生きするとは こりゃめでた
い」という「言い伝え」の言葉が出現しています。これをどう音声表現すれ
ばよいか、という問題があります。前半は「言い伝え」の言葉の紹介ですか
ら、紹介してるように読めばいいだけですが、後半は歌になっています。た
だ読むだけよりは、歌う感じの読み方がよいでしょうし、ほんとに歌ってい
る表現の方がもっとよいことはいうまでもありません。どう歌えばいいので
しょうか。
 荒木が三年生を担任した時の実践は、前述したように拙著『群読指導入門』
(民衆社、CD2枚つき、2000刊)のCDの中に「三年とうげ」全文の児童群読
の読み声全録音が収録されています。また、全文の一文一文をどんな意図で
音声表現していったか、群読台本作りの観点などについても詳細に書いてあ
ります。「言い伝え」は、実際に歌っています。歌(作曲)の作り方はどう
したか、についても書いています。
 授業した当時は、下記の竹内敏晴さんの本はまだ出版されていませんでした
が、わたしなりに工夫した「実際の歌(作曲)の作り方」 は結果として大
体が竹内敏晴さんと同じ経過をたどって作っていることが分かりました。

 木下順二「夕鶴」という有名な民話劇があります。この「夕鶴」劇の中に
下記のような「わらべ唄」が出現します。この「夕鶴」劇の初演の演出を担
当した竹内敏晴さんがこの「わらべ唄」をどう唄にしていったかについて次
のように書いています。
 「三年とうげ」に限らず、一般に物語文の中に曲ナシ歌が出てきた場合、
どう音声表現すればよいか、曲作りについて、とてもよい参考意見だと思い、
下記に引用しています。まず、文章の難語句や意味内容の理解から始めてい
ます。

ーーーーーー引用開始ーーーーー
その雪の野原の 
 遠くからわらべ唄
    じやんいきせるふとぬうの
    ばやんにきせるふとぬうの
    ちんからかんからとんとんとん……
 声を揃えて参加者全員で唱えてみる。と言っても意味がよくわからない人
が多いでしょう。「じやん」は爺やん、「ばやん」は婆やん、「ふとぬうの」
は太布(ふとぬの)、つまり立派な織物ということ。それを、「ちんから」
と梭(ひ)を滑らせ「とんとん」と筬(おさ)を叩きつけて織りましょう、
という機織りの唄らしい。
 これももとは『佐渡島昔話集』をまとめた佐々木喜善が峠の茶屋で休んで
いる時たまたま通りかかった老婆が口ずさんでいたのを筆記したもので、も
ちろんメロディーは採譜していない。さてどうしたらよいか? みなで勝手
にことばを読みながら節がついていくまで唱えてみたらどうでしょう。ひょ
っとするとはっとするような面白い素朴なメロディーが生まれるかも知れない。
 劇団「ぶどうの会」で初演した折りの稽古がそうだったのです。
 演出者にすすめられて「つう」役の山本安英さんがぽつんぽつんとことば
をたどりたどり唱えてみた。うんうん、そんなふうでいい、ということで、
そのおぼつかないメロディーを作曲家の団伊玖磨が整理して、今シバイやオ
ペラで歌われているメロディーになった。そういう創造の楽しみの原点を、
ここでも試みたらどうだろう。

竹内敏晴『動くことば動かすことば』(ちくま学芸文庫、2005刊)より引用

ーーーーーー引用終了ーーーーー


           
関連資料・録音


 本ホームページの第19章第1節「その他の物語文、群読の読み声例」の
「読み声例1、三年とうげ」録音を聴取してみよう。荒木学級の児童たちが
群読しています。


            
           トップページへ戻る