音読授業を創る  そのA面とB面と     05・2・21記




  
「りんりりん」の音読授業をデザインする




●「りんりりん」(岸田衿子)の掲載教科書……………………光村3下



             りんりりん

                    岸田 衿子

        りん りりん り り り り
        ゆきの はらっぱから きこえる
        とおくのようで すぐそこに

        りん りりん り り り り
        くさのめが ゆきを もちあげて
        ちいさな とんねるが できていた

        りん りりん り り り り
        そこから ながれる ゆきどけのおと
        せかいいち ちいさな とんねるから

        りん りりん り り り り
        り り り り



            作者について


  1929年東京都生まれ。岸田国士を父に持ち、妹は岸田今日子。東京芸術
大学油絵科を卒業して画家を志したが、胸部疾患のため十年ほど療養し、詩
や散文を書き始める。詩人、童話作家として有名。第1〜7回のミセス童話
大賞の選考委員をつとめる。
  『あかちゃんのえほん』シリーズ(ひかりにくに)、『かばくん』(福
音館書店)、『きいちごだより』(福音館書店)、『ジオジオのたんじょう
び』(あかね書房)、詩集に『だれもいそがない村』『木いちごつみ』な
ど。


           各連ごとの表象化


  「りんりりん」は、音(擬音語)のようです。各連ごと、詳しく調べて
いきましょう。

  第一連の音は、「雪の原っぱから聞こえてくる、遠くのようですぐそこ
に」と書いてあります。季節は冬、場面は一面が雪の原っぱだと分かりま
す。聞こえてくる音は、雪の原っぱのどこと特定できない、遠くからの音の
ようでもあり、すぐ近く(そこ)からのようでもある、とあります。ですか
ら、その音は、かすかにしか聞こえない、不分明な、不確かな、何とも断定
できない音、そうした音であることがわかります。

  第二連は、語り手の視点がその音の近くに接近していってます。観察が
深化した描写になっています。草の芽が雪の下から、雪を持ち上げ、小さな
トンネルができる」と書いてあります。春が近づくと、ふきのとう、のび
る、つくしなどは雪の下の地面から芽を出し、雪を持ち上げます。持ち上げ
たとこにできた薄い空気の層の温度がわずかに上がると、わずかに雪がゆる
み、わずかに雪がとけ、ほんの小さな薄いトンネルができます。季節は真冬
でなく、春が近づいた冬、春とは名のみの冬の頃ということが分かります。

  第三連は、さらなる観察の深化で描写しています。「そこから流れる雪
解けの音。世界一小さなトンネルから」とあります。「そこから ながれ
る」の「そこ」はどこでしょうか。第二連の「ちいさなトンネル」を指して
いると考えられます。「草の芽が雪を持ち上げてできた、小さなトンネル」
から「流れる雪解けの音」です。それが「りん りりん り り り り」
です。
  「りん りりん り り り り」の音は、小さなトンネルから流れる
雪解けの音です。では、その流れとはどの程度の流れなのでしょうか。
「ちょろ ちょろ」なのでしょうか。「つー つー つー つつうー」なの
でしょうか。

  ここからは、わたし(荒木)の個人的解釈です。作者は「りん りりん
 り り り り」と書いています。その流れ方は「ちょろちょろ」でも
「つー つー つー つつうー」でもなさそうです。この擬音語の「り」音
や、「ん」音は、生硬で、鋭角的で、固形的で、断止的で、雪解け水の、ス
ムーズな小さくも細いが絶え間なく流れる水のイメーには感じ取られませ
ん。


    「りん りりん り り り り」の音声表現の仕方


  「りん りりん り り り り」は、岸田衿子さんという詩人の独特
な聞こえ方であり、詩人の独自な感性による文学的レトリックとしての描写
表現です。
  「世界一小さなトンネルから流れる雪解けの音」とは、どんな場面(様
子)をイメージするとよいのでしょうか。このイメージが理解できなければ
音声に出して読むことができません。このイメージが理解できれば、音声表
現は容易です。
  微小な音であることは確かです。ここからは、わたし(荒木)の個人的
解釈です。各人が違ってかまわないと思います。
  水が細い束となって流れる川でないことは確かです。小さな流れ、細い
流れ、小さな水たまりと、小さな水たまりとを結ぶ細い線のような流れでも
なさそうです。

  前述したように「り音や、ん音は、生硬で、鋭角的で、固形的な響きを
もつ音であり、岸田さんの記述のしかた「りん りりん り り り り」
は連続性や流動性をもつ響き方でなく、断止的であり断続的です。
  ここからイメージするに、「流れる雪解けの音」は、草の芽が雪を持ち
上げ、そこにできた堅雪と地面とのわずかなすきまの空気の層に、ほんの少
しの温度のあたたまりができたとします。こうして堅雪がゆるみ、ゆるんだ
雪が溶けだして、ほんとに小さなすきまのトンネルができるでしょう。この
堅雪がゆるんで溶けだしはじめて、堅雪がひび割れて、やがて水滴(氷滴)
ができて、水滴と水滴とが結びついて大きな水滴となり、こうして流れを作
り出す源となります。はじめの、堅雪が溶けだすスタート時点で出す音、こ
れだと思います。堅雪がゆるんで、割れて、わずかに水流が「ち、ち、ち
ち、ちろ、ち、ち」とできて、それの音が岸田衿子さんの感性で「りん り
りん り り り り」と書いたのだと、わたしは思います。

  私の解釈はこうと決まりました。ならば、音声表現は簡単です。声をひ
そめ、そっと、かすかな声で音声表現します。忍び入るような、小さな、小
さな声で、そっと、間を開けて、ポツリ、ポツリと「りん(間)り・りん
(間)り(間)り(間)り(間)り(間)」と音声表現していきます。低音
でも、高音でも、混交でも、よさそうです。
  「りん りりん り り り り」が各連ごとに一回、全体で計四回、
繰り返して書かれています。詩人の視点の移動と、観察の深化よって描写
文が詳細になっていってますが、四個とも同じ音声表現の仕方でよいと考え
ます。

  第四連は、「り り り り」が8個に増加し、賑やかになっていると
解釈する人もいるでしょう。第4連は、あっちでも、こっちでも、雪原全体
から、堅雪が溶けだす音が聞こえ出す、と表象することもできます。それな
ら、それでもよろしいでしょう。音声表現に賑やかさを加えた音調にして読
むこともできます。


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