音読授業を創る  そのA面とB面と        04・4・15記



  
 「きつつきの商売」の音読授業をデザインする



●「きつつきの商売」(林原玉枝)の掲載教科書…………光村3上



         
三年生初期の音読指導の重点


  三年生になって最初の国語教材です。学級解体で新学級編成になり、友
だちも変わり担任も変わった児童もいることでしょう。一年生から二年生へ
の持ち上がり担任はよくみられますが、三年生は大体が新担任です。新担任
にとっては、心機一転で新しい学級経営作り(学級集団作りや教科指導計画
作り)から始めることになります。
  国語科には読解、作文、聞く・話す、漢字、読書、書写、言語などの領
域があり、それらの指導計画を立てなければなりません。読解指導では、次
の三つのことを先ず事前調査して、そこから指導計画を立てましょう。

 【調査1】 三年生になって、まだ拾い読みをする子がいませんか。三
年生になっての拾い読みは、学習障害の特別な子にしかいないのが普通で
す。学級児童の拾い読み調査をしてみましょう。

 【調査2】 文章の意味内容のまとまりの区切りで切って読めるかどう
かを調べましょう。つっかえてもいいです。すらすらでなくてもいいです。
意味のまとまりで区切って読もうと意識しているかどうか。読めているかど
うかを調べてみましょう。

 【調査3】 小さい声でしか読めない子はいませんか。最近の子ども達
は、一般に声が小さい、声量が衰弱しているとよく言われます。あなたの学
級児童の全体的な傾向として本を読む声量が弱々しくありませんか。本を読
むときだけでなく、ふだんの授業や朝の会・終わりの会・学級会で弱々しい
声でしか発表(発言)しないような実態はありませんか。遊びのときのこと
ではありませんよ。フォーマルなときの発表(発言)や本読みの時のことで
す。遊びの時の元気な声だしではありません。遊びの時はだれでも元気な、
ばか声がでますが、フォーマル(授業)になると急に出なくなるものです。
  大きな声、明るい声、元気な声は、授業が成立するための基盤です。学
級児童全体にそんな声量の傾向があるのでしたら、よく通る声、教室のすみ
ずみまで届く、共鳴がきいた、よく響く声で、本を読む、発表(発言)す
る、という指導から始めるべきでしょう。再度言います。大きな声、明るい
声、元気な声は、授業が成立する基盤、学級経営がうまくいく基盤です。4
月は、先ずここから指導を開始することです。(大きな声の出させ方につい
ては、拙著『表現よみ指導のアイデア集』(民衆社、2800円、CD1枚つ
き)を参照してください。)


           
1章の指導の重点


  三年生の初期の音読指導は、「大きな声で。意味の区切りで切って。
ゆっくりと読む。」の三つを指導の重点とします。これは、他学年の音読初
期指導でも全く同じ目標といってよいでしょう。

 「大きな声」とは、ばかでかい声ではありません。ばかでかい声を出さ
なくても、共鳴がきいていれば、教室内に十分に届く、よく通る声になりま
す。共鳴のきいた声で話したり、本を読んだりする指導をしましょう。(共
鳴のきいた声の出させ方、上掲拙著を参照)

 「意味の区切りで切って」とは、読点(てん)のところで区切って、読
点(てん)まではひとまとまりにつなげて読む方法でもよいですし、必ずし
も読点(てん)で区切らなくてもよく、意味内容がひとつながりにまとまっ
て区切って読めていれば、それでもよいのです。 
  たとえば、本文に「おとや。それだけでは、なんだかわかりにくいの
で、きつつきは、その後に、こう書きました。」とあります。これを読点個
所で必ず区切って読んでもよいです。けど、これでは何となく分断が多すぎ
ますね。文章内容がばらばらで、まとまりがないように聞こえてきません
か。「(おとや。)(それだけでは、なんだかわかりにくいので、)(きつ
つきは、)(その後に、こう書きました。)」のような区切り方が自然では
ないでしょうか。必ずしも読点(てん)で区切らなくてもいいのです。読点
(てん)で区切るよりも区切らないほうがよい個所もあります。読点(て
ん)で区切ってはいけない個所も、たくさんあります。こうしたことは上学
年になるにつれおいおい学習していくことにします。

 「ゆっくりと読む」とは、早口に、すらすら読まなくてもいいというこ
とです。つかえてもいいのです。つかえるのは読み慣れていないからです。
音声表現に気を使いすぎて、つかえることもあります。すらすら読みをしよ
うとして、つかえることもあります。つかえてもいいのです。繰り返しての
音読練習をすれば、つかえることはやがて消失していきます。上手な音読と
は、つかえてもいいのです。つまり、すらすらと早口で読む必要はないので
す。「ゆっくりと」、「たっぷりと」、」、意味の区切りで「間(区切り)
をあけて」読むこと、これが重要なのです。

  きつつきは木の幹(樹皮)にくちばしをつきさし虫を捕まえて食べま
す。また、繁殖期には枯れ木をくちばしでたたき、大きな連続音を出し、さ
えずりに代えます。
  森の中の音作りの名人、きつつきは「おとや(音屋)」を開店します。
真っ先にやってきたお客さまは、長い耳をぴんと立てた野うさぎでした。
  きつつきと野うさぎとの会話文は、野うさぎは、どんな音か、期待をし
ながら問いかける音調で、きつつきは自信をもって案内し返答している音調
で音声表現するとよいでしょう。

  最後部の「きつつきは、ぶなの木のみきを、くちばしで力いっぱいたた
きました。」から「四分音ぷ分よりも、うんと長い時間がすぎていきまし
た。」まで。ここの文章個所では、強調の指導をするとよいでしょう。強調
とは、ある一部分の意味内容を強めて、音声を強めて、粒立てた音声表現を
することです。

  「力いっぱい」、「コーン」、「こだましました。」の語句を、語勢
(語気、語調)を強めて音声表現すると意味内容が強調され、音声の効果が
発揮されるでしょう。教師が先ずそれをやってみせます。「強調を、した
時、しなかった時、どちらが意味内容の感じが音声に出るか」と問いかけま
す。したほうがよい、に気づかせます。一児童の、または教師の上手な強調
の読み声を、学級全員、一斉音読で繰り返し模倣し、強調の読み声を身体化
させます。身体に響かせて分からせ、身につけさせます。個人発表をさせた
りもします。

  「だまって」、「うっとり」、「うーんと」を、今度は逆に語勢(語
気、語調)を弱めて、落として、沈めて、静かに、ゆっくりと伸ばして強調
の音声表現をさせます。こうすることでその語句の意味内容の表現性を音声
で強調するのです。こうすることも意味内容を強調する表現効果があること
を分からせます。これも意味内容を強調する音声表現の仕方であることを理
解させます。これも上手な児童(教師)の読み声を模倣させます。その音調
の読み声を一斉音読で繰り返し練習します。のち個人発表させたりもしま
す。
  このように1章では、発音発声の指導と、強調の指導をします。



           
2章の指導の重点


  ぶなの森に雨が降りだしました。雨のため、きつつきは人工的に音をつ
くりだすことができません。「特別メニュー、無料」のアイデアを考えだし
ます。ふだん、森の中の音については、森の動物たちは聞き慣れてしまって
いています。ふだんの森の中の音については何も感じなくなってしまってい
るのが普通でしょう。
  しかし、目を閉じ、耳をすますと、どうででしょう。いろいろな音が耳
に聞こえてきます。きつつきは、雨の日には森の中の自然音を特別メニュー
に加えて「おとや」の商売を始めることを考えついたのでした。

  2章は、多くの会話文で文章が進行しています。きつつきと野ねずみ親
子との会話文が計30個もあります。2章をイメージ豊かに読みとるには、
話し合い学習であこれと語り合うよりは、会話文に配役を配当し、役割音読
の方法で学習活動を組織するほうが楽しく活動できます。

  きつつきが話す会話文は、8個です。その他は野ねずみ親子が話す会話
文です。が、野ねずみの誰が話した会話文かは、不明なのが多くあります。
それで、こうしす。できるだけ学級児童の多くが役割音読に参加できるよう
にするという教育的配慮をしながら台本作りをするようにします。
  こう発問します。会話文は、2章に全部でなんこありますか。きつつき
の会話文と野ねずみの会話文とに分けてみましょう。野ねずみ親子の会話文
は、どれが父親、どれが母親、どれが子どもの誰と、決められますか。決め
られる会話文、大体こうじゃないかと推察できる会話文、全く決められない
会話文などがありますね。

  こんな話し合いをした後、教師が2章場面の役割音読の台本を作りま
す。教科書本文をそのまま使えるように最大限の努力をします。
  以下にわたしの参考台本を掲載しています。わたしの台本は若干の削除
と付け加えをしています。会話文と会話文との間にある地の文はできるだけ
削除しています。付け加えた個所もあります。「野ねずみは、野ねずみのお
くさんと二人で、ぺちゃくちゃ言ってる子どもたちを、どうにかだまらせて
から、」の地の文個所に該当する内容の会話文を新しく作成して、ここの個
所に会話文を挿入しています。

  ぺちゃくちゃと、野ねずみの子どもたちはどんなことを言ったのでしょ
うか。野ねずみ(父親)と野ねずみの母親は、どんなことを言ってだまらせ
たのでしょうか。学級児童に想像させ、全員で会話文を作成します。こうし
て部分的に児童に台本作りに参加させるのもようでしょう。

  わたしの作成した台本を以下に書きます。これを参考資料に、みなさん
の学級に適合する役割音読の台本を作成して指導に役立ててください。
  教科書本文をそのまま使った台本です。削除した地の文は教科書に鉛筆
で棒線を引かせます。付け加え会話文は、その文章個所に印刷した紙片を糊
で貼付します。こうして役割音読の台本に使用します。

 ( 野ねずみの子どもに二回ずつの台詞を配当するようにしました。最初
と最後の地の文個所の読み手、ナレーターを1名を作りました。自然音(擬
声語)の読み手、ぶな、地面、葉っぱ、森の奥を1名ずつ作りました。)


 登場人物  ナレーター(1)
       野ねずみの父親(1)
       野ねずみの母親(1)
       野ねずみの子ども(1,2,3,4,5,6,7,8,9,
                10)
       ぶな(1)、地面(1)、葉っぱ(1)、森の奥(1)

【ナレ】  ぶなの森に、雨が降りはじめました。
      きつつきは、新しいメニューを思いつきました。
      ぶなの木のうろから顔を出して、空を見上げていると、

(きつつきは、椅子の上に立っています。下方を見下ろしています。野ねず
み親子(大人2名、子ども10名)はきつつきの手前の位置で、べたずわり
で、座っています。野ねずみの24の瞳が、きつつきを見上げています。)

【父親】  おはよう。きつつきさん。
【母親】  何してるんですか。きつつきさん。

(きつつきは、野ねずみ親子(下方)に目をやっています。)

【きつ】  おとやの新しいメニューができたんですよ。
【子1】  へえー。
【きつ】  今朝、できたばかりの、できたてです。
【子2】  へえー。
【きつ】  でもね、もしかしたら、あしたはできないかもしれないから、
      メニューに書こうか書くまいか、考えてたんですよ。
【子3】  へえー、じゃあ、とくべつメニューってわけ。
【きつ】  そうです。とくとく、とくべつメニュー。
【子4】  そいつはいいなあ。ぼくたちは、運がいいぞ。それで、その、
      とくとく、とくべつメニューも、百リル。
【きつ】  いいえ。今日のは、ただです。
【父親】  よかった。ますます運がいいぞ。ここに、おとやが開店して、
      すてきないい音を聞かせてもらえるってことは、もうずいぶ
      ん前から聞いてたんだけどね。今日やっと、はじめてみんな
      で来てみたんですよ。
【母親】  朝からの雨で、おせんたくができないものですから。
【子5】  おにわのおそうじも。
【子6】  草の実あつめも。
【子7】  草がぬれてて、おすもうもできないよ。
【子8】  かたつむりたちはできるけど。
【子9】  かたつむりでなくて、あまがえるだってば。
【子10】 どっちもだよ。
【野ねずみ全員】 だから、ひとつ、聞かせてください。
【きつ】  しょう知しました。

(きつつきは椅子から下りて、野ねずみ親子と対面する。)

【子1】  とくべつメニューって、何かな。
【子2】  くりの木の音かな。ならの木の音かな。
【子3】  とくべつメニューだから、すてきな音だと思うよ。
【子4】  たぶん、キー−−ンという音だと思うよ。
【子5】  きっと、トーン、トーン、トトーンという音だよ。
【父母】  さあさあ、しずかにしなさい。おとやさんの、とくとく、とく
      べつメニューなんだから。
【子全員】 シィーーー、シィーーー。(口に指を当てて)
【父母】  さあ、おねがいいたします。
【きつ】  かしこまりました。さ、いいですか。今日だけのとくべつな音
      です。 口をとじて、目をとじて、聞いてください。

【ぶな】  シャバシャバシャバ、シャバシャバシャバ。
【地面】  パシパシピチピチ、パシパシピチピチ。
【葉っぱ】 パリパリパリ、パリパリパリ。
【森の奥】 ドウドウドウ。ザワザワザワ。ドウドプドウ、ザワザワザワ。

【子6】  ああ、聞こえる、雨の音だ。
【子7】  ほんとだ。聞こえる。
【子8】  雨の音だ。
【子9】  へえー。発見、かすかに聞こえる雨の音だ。
【子10】  シィー、目をとじて、しずかに、うふふ。いろんな音がする
      よ。
    
【ナレ】  野ねずみたちは、みんな、にこにこうなずいて、それから、目
      を開けた りとじたりしながら、ずうっとずうっと、とくべつ
      メニューの雨の音につつまれていたのでした。  


   
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