音読授業を創る そのA面とB面と 08・8・15記 「どこかで春が」の音読授業をデザインする ●詩「どこかで春が」の掲載教科書…………………東書3下、学図6上 どこかで春が 百田宗治 どこかで「春」が生まれてる、 どこかで水がながれ出す。 どこかでひばりがないている、 どこかで芽の出る音がする。 山の三月東風ふいて どこかで「春」が生まれてる。 作者(百田宗治)について 明治26年(1893)大阪市に生まれる。本名・百田宗次。昭和30 年(1955)に死去。大正、昭和の詩人、児童文学者。 高等小学校卒業後、個人的にフランス語を学ぶ。大正四年、はじめて百 田宗治の名で詩集「最初の一人」を刊行。人道主義、民主主義の傾向に移 り、詩集「ぬかるみの街道」を刊行するに及んで民衆詩人として世に認めら れる。 大正15年、三好達治、丸山薫、北川冬彦などと「椎の木」を創刊、主 宰。このころから詩風は一変し、日本的な心境詩に転じ、俳句的味わいを もった閑寂な短詩のなる。 昭和7年、児童作文の指導詩「工程」によって、波多野完治、滑川道夫 らとともに全国の小学校教師と連携して綴り方運動をはじめ、生涯の仕事と なった。 教材分析 この詩には、「雲雀」という漢字の読み方、「東風」という漢字の読み 方、これらは特別な読み方です。「啼く」という漢字は現在の常用漢字表外 の漢字です。昔はこんな漢字があったこと、こんな読み方をしたこと、現在 は通常の使われ方でなく、特別な使われ方であることなどを知らせる必要が あります。 新しい学習指導要領12年版には〔伝統的な言語文化と国語の特質に関 する事項〕という項目があり、古典・文語調の文章に親しむ教材が取り上げ られるようになりました。これまでも易しい文語調の文章を音読し、文語に 親しむ学習があったのですが、新要領ではっきりと明記されました。こうし た教材が増えていくことになります。 〔第3学年及び第4学年〕 〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕 (1)「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」及び「C読むこと」の指導 を通して,次の事項について指導する。 ア 伝統的な言語文化に関する事項 (ア)易しい文語調の短歌や俳句について,情景を思い浮かべたり,リ ズムを感じ取りながら音読や暗唱をしたりすること。 (イ)長い間使われてきたことわざや慣用句,故事成語などの意味を知 り,使うこと。 これからの国語科の教材には「どこかで春が」のような童謡教材、なつ かしい郷愁をさそうような平易な文語表現の教材文の採用が多くなっていく 予想されます。 この詩は、1922年に詩人・百田宗治によって発表され、翌年に作詞 者・百田宗治、作曲者・草川信によって童謡歌曲として発表されました。今 では古典的な童謡として有名で、多くの人々によって口ずさまれています。 この詩は、春の兆候を謳いあげている詩です。「山の三月」と書いてあ ります。三月に、雲雀が鳴いて、雪解け水が流れ出して、木の芽がそっと顔 を出して、東風が吹く、そうした場所(地域)はどこなんでしょうか。日本 全国は北海道から沖縄まであります。北海道や東北地方は「山の四月」と いったほうがよいのかもしれません。 あまり三月にこだわる必要はないと思われます。この詩は、要は春の 兆候・きざしが現れ出てきて、春の到来を喜び、春いっぱいを待ちわびてい る人々の気持ちのほうが重要です。 「どこかで春が」という言い方に着目させて話し合いましょう。春はま だ来ていないのです。春はすっかりとはまだ来ていないのです。ほんのかす かな春の兆候・きざしがどことなく感じ取られるだけなのです。春の季節の 微妙な気分・空気・雰囲気が感じ取られるだけなのです。 春の兆候・きざしは、この詩の中で例示されている事柄の他にどんなも のがあるでしょうか。「どこかで春が生まれてる」の春のきざしとなるサイ ンは、他にどんなことがあるのでしょうか。このほかにも多くあります。ど んなことから春が来てると分かるのでしょうか。子ども達と語り合ってみま しょう。 なぜ、春を待ちわびているのでしょうか。その気持ちも語り合ってみま しょう。また、単なる季節の春だけではないのかもしれません。人生の春、 チャンスの到来、というようなことも語っているのかもしれません。子ども 達と話し合ってみましょう。 音声表現のしかた この詩を読むと、口頭からひとりでに歌が出てきます。口ずさみたくな ります。まず、学級全員で歌ってみましょう。斉唱してみましょう。独唱し たい子がいれば歌わせてみましょう。 歌が終わったところで、次に音読表現をさせます。 この詩は「4・3・5・4・3・5」のリズムになっていて、口あたり よく、気持ちよく読めます。リズム調子の心地よさがあります。その調子よ さに流されて、すらーっと表面をなでるだけて、文字ずらだけを調子よく読 むだけで、意味内容を考えないうわっつら読みになりがちです。詩内容を表 現する・押し出すことに気をつかって音声表現するようにさせまましょう。 では、どうすればよいか。 各連の冒頭にある「どこかで」の出だしの読み音調が重要です。どこの 場所(地域)かは特定できないが、「どこかで」春が生まれている、「どこ かで」かすかに春が生まれている、「どこかで」確かに春の兆候が見える・ 聞こえる、「どこかで」という確信や信念は確かにある、「不確かではある がどこかで」という思いや気持ちを心に込めて、その思いをいっぱいにして 音声表現するようにします。現実の春の風景の中にその兆候の事実がかすか に存在する例を挙げてみることも必要でしょう。 「どこかで春が/生まれてる」の「どこかで」の出だしを読むときは、新 しく起こした強めの音調で読み出していくようにするとよいでかも。「ど こかで」の「ど」を、強めに読み出す方法です。 第一連と第二連 「どこかで、春が/」(と、しりあがりに持ち上げて) 「生ま、れ、て、る。//」(と、ゆっくりと言い納めます) 「どこかで、雲雀が/」(と、しりあがりに持ち上げて) 「啼い,て、い、る。//」(と、ゆっくりと言い納めます) 「どこかで、水が/」(と、しりあがりに持ち上げて) 「なが、れ、だ、す。//」(と、ゆっくりと言い納めます) 「どこかで、芽の出る/」(と、しりあがりに持ち上げて) 「音が、す、る。//」(と、ゆっくりと言い納めます) 第三連 (第一連と第二連と同じ要領だが、記述の仕方を変えて書くと次のよう になる。) 「山の / 三月 / 東風 / 吹いて // 」(と、持ち上げて) 「どこかで / 春が / 生、ま、れ、て、る // 」(と、ゆっくりと言 い納めます。) 参考資料 「学年別音読教材の音読授業をデザインする」の6年生にも「どこかで 春が(詩)」の音読指導デザインが書いてあります。そちらも参考に してご指導いただくとありがたいです。 トップページへ戻る |
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