音読授業を創る そのA面とB面と 07・4・2記 「あらしの夜に」の音読授業をデザインする ●「あらしの夜に」(木村裕一)の掲載教科書………………大書3上 作者(木村祐一)について 作者の木村裕一さんについては、彼のHPをご覧下さい。 http://www1.odn.ne.jp/kimura-yuuichi/ 教材分析 あらしの夜に、白いヤギが小屋の中で雨宿りをしていると、誰かが入っ てくる。天敵のオオカミなのだが、真っ暗闇なので相手がオオカミだと分 らない。オオカミも相手がヤギだと分らない。お互いに自分と同じ仲間だと 思い、親しく言葉を交わす。二人の会話には奇妙な食い違い・ずれがあり、 読者にはそれが分かるのだが、ヤギとオオカミとは、それをちっとも感じて いない。 ヤギはオオカミを仲間のヤギだと思い、オオカミはヤギを仲間のオオカ ミだと思っている。二匹は、親しく語り合い、話しがはずむ。二匹には気持 ちの通じ合いがおこり、かたい友情の絆が生まれる。あらしが止むと、二匹 は再会を約束して別れていく。 この物語のあらすじは以上のとおりだが、この作品を教材化するとすれ ば、どんな指導の観点が見出されるのでしょうか。 ●まず「あらしの夜」をありありと表象化させる 「あらしの夜」の様子を文章から抜き出させます。「雨というより水の つぶたち」です。それが、ヤギの体に「おそいかかる・ごうごうとたたきつ ける」です。「あれくるった夜のあらし」です。「そのつぶたちが、ヤギの 体に、力まかせにぶつけてくる。」です。「ヤギは、暗やみの中で、体を休 め、じっと、あらしのやむのをまつ。」です。 子ども達が実際に体験したあらしの様子も語らせてみましょう。子ども 達が映画やテレビや漫画で見た様子も語らせてみましょう。それらをもとに この作品の描写されている文章の語句をおさえて表象化(イメージ)させて みましょう。 こわれかけた小屋にもぐりこんで、じっと体をやすめて、あらしのやむ のを待っているヤギは、どんな様子なのでしょうか。子ども達に発表(想 像)させてみましょう。 ●オオカミとヤギとの人物像(性格)をつかませる。 物語の世界では、オオカミは悪者(あくにん)かつ強者で、「やぎ」と か「ぶた・こぶた」とか「うさぎ」とかは善人(ぜんにん)かつ弱者 で、いじめられ、しいたげられる役割を担ってきました。一般にそういう概 念ができています。これら例は、子ども達も幾つかの物語で知っているで しょう。幾つかを発表させてみましょう。 この物語では「オオカミ」と「ヤギ」が登場してきます。この物語にお いても、ヤギとオオカミとの関係は変わりません。こうした一般的な「オオ カミ」と「ヤギ」との関係(立場の違い)について、子ども達から引き出し ておく必要があります。 オオカミは肉食動物です。ヤギは草食動物です。オオカミとヤギとは、 食うか・食われるかの天敵同士の関係です。ところが、本文にも「このオオ カミ、するどいきばをもち、ヤギの肉が大好物ときている。」と書いていま す。この文章は、オオカミのこわさ、空おそろしさ、身の毛立つ薄気味悪さ をイメージさせます。ヤギにとっては、脅える、震え上がる、恐怖の対象物 です。 この物語では、オオカミは、必死でヤギを追っかけて追っかけて、捕ま えて食べようとするわけではありません。ヤギは、逃げて逃げて、必死で逃 げのがれてほっとするわけではありません。二匹は奇妙にも意気投合して、 相手を仲間と思いこみ、好意を抱き、友情がめばえます。 二匹は、あらしが止むと、再会を約束して、真っ暗闇の中で別れさって いきます。 ●物語のおもしろさのからくり(仕掛け)に気づかせる。 子ども達に「この物語は、どこがおもしろいか」と問いかけてみましょ う。この物語の「おもしろさ」とは、「おかしさ」であり、「こっけいさ」 であり、「奇怪さ」であり、「コミカル」とか「ユーモア」であります。子 ども達に、言葉をかえたそうした発問をしてみましょう。子ども達は、子ど も達なりの言葉でそうした場面をいろいろと挙げて、答えるでしょう。ここ の場面がおもしろい、オオカミとヤギがこう行動したところがおもしろい、 などと答えるでしょう。 教師は教師なりに、一応、この物語の面白さの分析をしておくべきで しょう。 わたしは、こう思います。この物語のおもしろさは、二匹(ほんとは 物語の登場人物だから「二人」というべきでしょうが)の対話の内容や行動 のしかたの「おかしさ」「はらはらするスリリングさ」にあります。その原 因は、二匹の「五感が狂ってしまった」ところにあると考えます。「五感の 錯覚、鈍さ」からきていると思います。他の表現をすれば、お互いの相手の 「取り違い、勘違い、思い違い、誤解、半解、曲解」などからきていると考 えます。 ●五感が狂ってしまっている、その例を幾つか挙げてみましょう。 聴覚(耳の感覚)の例 (暗やみの小屋の中で、ヤギは体を休め、じっと、あらしのやむのをまつ) 本文「一歩、一歩、かたいものがゆかをたたいてやってくる。ひずめの 音だ。なあんだ、それならヤギにちがいない。ヤギはほっとして、 そいつに声をかけた。」 ≪つまり、ひずめの音を、ヤギのひずめの音(ヤギの足音)と、ヤギの耳が 取り違いしています。≫ 本文『えへへ、今わかるのは、おたがいの声だけってわけですよね。』 『ハハハ、本当ですよね。』 オオカミの笑い声を聞いて、ヤギは思わず、 『オオカミみたいなすごみのあるひくいお声で。』 と言いかけたが、失礼だと思い、口をとじる。 オオカミのほうも、 『まるでヤギみたいにかん高いわらい方でやんすね。』 って言おうとしたが、そんなことを言ったらあいてが気を悪くす ると思い、やめることにする。 ≪つまり、相手の話し声を、同じ仲間の声だと耳が勘違いしています。≫ 触覚(皮膚感覚)の例 本文「オオカミがのばした足が、チョンとヤギのこしに当たる。ヤギは、 『あら? ひすめにしては、ずいぶんやわらかいな。』と思ったが、 きっと今当たったのはひざなんだと思いこむ。」 ≪つまり、ヤギの皮膚感覚は、オオカミの(かたい)ひずめを、オオカミの (やわらなか)ひざと勘違いしています。≫ 本文 ガラガラガラー。 とつぜん、大きなかみなりの音が、小屋じゅうをふるわせる。 「ひゃー!」 思わず二ひきは、しっかりと体をよせ合ってしまう。 「あっ、失礼。どうもわたし、この音に弱くて。」 「ふう、おいらもなんですよう。はあ、びっくりしやすたね。」 「なんか、わたしたちって、にてると思いません?」 「いよっ、じつはおいらも今、気が合うなあって。」 「そうだ。どうです。今度天気にいい日にお食事でも。」 ≪「思わず二ひきは、しっかりと体をよせ合ってしまう。」と書いてありま す。「しっかりと体をよせ合って」です。それなのに、二人とも大きな音に 弱くて、大きな音のせいで、二人とも相手が天敵同士であることの気づかな かったのです。ここにも、触覚(皮膚感覚)の鈍さ、錯覚、取り違いがあり ます。≫ 臭覚(鼻の匂いの感覚)の例 (オオカミが大きなくしゃみをした。) 本文「うっ……、どうやらはなかぜをひいちまったらしい。」 「わたしもなんですよ。おかげでぜんぜん、においがわからな いんです。」 ≪つまり、二匹とも嵐の雨つぶに当たり、風邪をひいてしまい、鼻の匂いの 感覚が鈍くなってしまっています。動物の臭覚は、人間の何百倍もの臭覚の 感覚があると言われています。二匹は、動物の生存で一番重要な臭覚まで壊 れてしまっているのです。≫ 視覚(目の感覚)の例 本文「 ぴかっ。 そのとき、すぐ近くでいなずまが光り、小屋の中が昼間のよう にうつし出された。」以下。 ≪冒頭の文章は、小屋の中は真っ暗闇で、一寸先が全く見えない、そうした 真っ暗闇の中の出会いから始まります。闖入者を、ヤギは「相手が仲間のヤ ギに違いない」と勘違いしてしまいます。ここから視覚の錯覚・取り違いが 始まります。真っ暗闇で目が全く見えないのですから、視覚の錯覚とは言え ないのかもしれませんが、目が見えなかったことが原因で、相手を取り違い ・誤解して了解してしまっています。 文章として視覚の錯覚・取り違いについて書いてあるのが、ここの文章 個所です。一瞬の稲光があって小屋の中が明るくなったのだったが、ヤギは うっかり下を向き、オオカミは思わず目をつぶってしまい、お互いの姿を見 ずじまいになってしまいました。もしここで、相手の姿を目が捉えて、ハッ キリと見えてしまったらどうなってしまたんでしょうね。≫ その他の例 そのほか、相手を取り違えたおかしさ、ユーモアを感じさせる文章個所とし て食欲の例があります。 本文「どちらにおすまいで。」 「へえ、おいらは、バクバク谷の方でやす。」 「ええ? バクバク谷ですって? あっちの方はあぶなくないんですか ?」 「へえ、そうやんすか? ま、ちょっとけわしいけれど、すみごごちは いいでやんすよ。」 バクバク谷とは、オオカミたちのいる谷である。 「ふうん、どきょうがあるんですね。わたしはサワサワ山の方です よ。」 ≪ここを読みすすむ読者は、お互いに相手の正体がばれてしまいやしないか とはらはらさせられます。サスペンスにあふれ、あわやと思い、ひやひやし ながら読みすすめます。しかし、お互いが相手を取り違え、思い違いしてい る状態のままです。双方が「よくサワサワ山のふもとにあるフカフカ谷のあ たりまで、えさを食べに行きますよ。」と、妙に話が合ってしまいます。 餌場の違いのことでも、難なくクリヤーしていってしまっています。≫ ●つづき話を作る 子ども達に「このお話の続きはどうなっていくでしょうか。」と問いか けてみましょう。語らせてもよいでしょうし、短作文にして書かせてもよい でしょう。 どんな反応が返ってくるでしょうか。敵同士なので、オオカミがヤギを 食べてしまうでしょうか。ヤギが食べられそうな危険な目にあうが、最後に 知恵を働かせて一発食らわせて逃げてしまうでのでしょうか。最後に正体が 分ってしまうのでしょうか。分ったとしても仲良しとして付き合っていくの でしょうか。いろいろな答えがあってよいでしょう。よい子ちゃん式の美談 が多いのではないでしょうか。残酷な結末もあってほしいと思います。 子ども達の中には下記の本を読んでいる子もいるかもしれません。その ような子には、「読む前だったら、どんな話にしたいか」とか「読み終わっ てしまっても、自分だったらどんな結末にしたいか」という仮定にして続き 話を作らせましょう。 この物語「あらしの夜に」は、1994年に出版され、今も読まれ続け ているロングセラーの絵本です。多くの読者を持ち、この物語の続編が望ま れ、六冊のシリーズ本となりました。 第一部「あらしの夜に」、第二部「あるはれたひに」、第三部「くもの きれまに」、第四部「きりのなかで」、第五部「どしゃぶりのひに」、第六 部「ふぶきのあした」となって発刊されています。紙芝居もあります。NH Kテレビ絵本のビデオ「あらしのよるに」もあります。 第六部まで、どんなストーリーなんでしょうか。結末は美談話でしょう か、残酷話でしょうか。わたしは知っていますが、ここには書きません。学 校図書館にそろえて、あなたも一読してみましょう。学級児童に紹介してみ ましょう。 ●役割音読で場面を再現させる 以下の「音声表現のしかた」で詳述します。 音声表現のしかた この物語は、殆んどがヤギとオオカミとの会話文(対話文)で構成され ています。地の文は、冒頭個所と終末個所のわずかしかありません。 役割音読でヤギとオオカミの気持ちになって、二匹が話したであろう音 調・話しぶりの語り合いをすることで、この物語を読み手の身体に響かせて 情感性豊かに理解することができます。 この物語は、役割音読、一部場面の劇化、全場面の劇化、朗読劇、紙芝 居作りなどの学習活動もありましょう。本稿では、場面ごとに分割した役割 音読の学習活動について詳述してあります。 役割音読をしていく指導上の留意事項について書きます。 (1)一つ一つの会話文は誰が話しているか、これをまずハッキリとさせま しょう。かぎかっこの上部に「ヤギ」「オオカミ」とか「や」「お」 とかと書かせます。または、色鉛筆の青丸はヤギ、赤丸はオオカミと かの約束のサインでしるしづけをさせるのもよいでしょう。 本稿では、以下の台本では、ヤギは「ヤ」、オオカミは「オ」、ナ レーターは「ナ」と記号化して書いています。 (2)本稿では、物語全体を九つの場面に分割して役割音読の練習をするよ うに台本作りをしています。練習を効率的にするには、文章個所が長 すぎても、短すぎてもよくありません。わたしが程よいと判断した長 さにしています。全員練習でも、グループ練習でも程よい長さだと思 っています。 (3)わたしには、どうも、ヤギは、かわいらしい声、品のある言葉づかい をしているように思います。オオカミはガラガラ声で、品のない言葉 づかいをしているように思います。一応、そんなことも配慮してヤギ とオオカミの声質や話しぶり・音調を作って会話するように指導した らと思います。配役の配当をするときの参考にします。 でも、わざとらしい大げさな作り声はよくありません。させてはいけ ません。 (4)この物語は、会話文・対話文の音読練習というのが主な学習活動とな ります。 会話文・対話文の音声表現で最も重要なことは、やりとりの感じ・雰 囲気を作って語り合うことです。話し手の表現意図や気持ちを声にす ること、話しぶり・話調に気をつかうこと、語勢や強弱や遅速の変化 に気をつかうこと、一方が話した後の、他方の出だしの間合い、タイ ミング、間のととりかたに気をつかうことなどに注意して指導しま す。 (5)動作化をしながら会話文をしゃべると、上の(4)で書いたことがら の話しぶり・話調のありありさ・リアルさが出てくるでしょう。 演劇舞台上の完全な動作化である必要はありません。ほんの気持ちが 入った、軽い、簡略化した動作・身振りをしながら語ってみるだけで もちがってくるでしょう。 (6)雨つぶの音、かみなりの音など、擬音の効果音を使ってもよいでしょ う。でも、私の経験からどうもぴったりといかないことが多くありま した。本稿では、わたしは、学級児童全員の大量の声量による擬音効 果を発揮する台本作りにしています。 (7)連続した会話文の途中にある地の文は、できるだけ削除した台本作り にしています。二匹の会話文の連続した場面が多くなるようにして、 会話のやりとりのおもしろさをつかませようとしました。 第一場面 ≪文章範囲≫ ナ ごうごうとたたきつけてきた。 それは「雨」というより、おそいかかる水のつぶたちだ。 あれくるった夜のあらしは、そのつぶたちを、ちっぽけなヤギの体に、 右から左から、力まかせにぶつけてくる。 (中略) 一歩、一歩、かたいものがゆかをたたいてやってくる。 ひずめの音だ。 なあんだ、それならヤギにちがいない。 ≪音読のヒント≫ 前半は、あらしの場面です。力強く、スピードをつけて、たたみかけるよう に、おいこんで音声表現します。「おそいかかる」「右から」「左から」 「力まかせに」「ぶつけてくる」などは、力むような、力まかせに声をぶつ けるようにして音声表現して強調します。 「やっとの思いで」は、「もぐりこんだ」に係る連用修飾語です。(やっと の思いで)(おかをすべり下り、こわれかけた小さな小屋に)(もぐりこん だ。)のように区切って読みます。 「じっと、」は、静かに、息を殺して、「じーーと」のようの伸ばして読み ます。「やむのをまつ。」の後、4〜5秒ぐらいの間をあけます。待ってる 時間の間です。 「ガタン」は、とつぜんの大音量です。大きな音にして読みます。 「ガタン」の後は、後半です。後半はヤギのひとり言、心内語にようにして 音声表現していきます。ヤギになったつもりで、ヤギの気持ちになって、そ うっと、ささやいて、つぶやき声で、ひそやかに、ゆっくりと読みます。 「コツン」は、オオカミの杖の棒の音でしょう。「ズズ。ズズー」は、オオ カミのひずめ(足音)でしょう。そのつもりの音にして音声表現するとよい でしょう。 「なあんだ、それならヤギにちがいない。」は、ほっとして、安心した気持 ちになって、明るく、声高に音声表現していくとよいでしょう。 第二場面 ≪文章範囲≫ ナ1 ヤギはほっとして、そいつに声をかけた。 ヤ1 「すごいあらしですね。」 オ1 「え? おや、こいつはひつれい、ハア、ハア、しやした。まっ暗 で、ちっとも、ハア、ハア、気がつきやせんで。」 ヤ2 「わたしも、今とびこんできたところですよ。 以下略」 オ2 「まったく。……以下略」 ヤ3 「あなたが来てくれて、 以下略」 オ3 「そりゃあ、おいらだって、 以下略」 オ4 「よっこらしょ。うっ……、いてててて。」 ヤ4 「どうしました。」 オ5 「いやあ、ここに来るとき、ちょっと、足をね。」 ヤ5 「そりゃあたいへん。ほら、 以下略」 オ6 「それじゃちょっくら失礼して、 以下略」 ≪音読のヒント≫ 二匹が対話している、やりとりしている感じを出して音声表現させましょ う。 オオカミは、ハアハアと息を切らしながら話しています。おどろいた、荒い 息をしています。「ハア」を入れる個所は必ずしも教科書の場所のとおりで なくてもよいでしょう。「え? おや、ハア、こいつは、ハア、ひつれい、 ハア、しやした。ハア」のようでもよいでしょう。「ハア」のかわりに「フ ウ」でもかまわないでしょう。 オオカミが杖をついて、胸に手を当てた動作をしながら音声表現するとよい でしょう。そうすると、息づかいを荒くしゃべる音調になり、リアルさが出 てくるでしょう。 「よいこらしょ。いててて」なども、軽い動作をしながら音声表現すると、 声にリアルさが出てくるでしょう。 第三場面 ≪文章範囲≫ ナ1 オオカミがのばした足が、チョンとヤギのこしに当たる。 ヤ1 「あら? ひずめにしては、ずいぶんやわらかいな」と思ったが、 きっと今当たったのはひざなんだと思いこむ。 オ1 「は、は、は、はっくちゅん!」 ヤ2 「だいじょうぶですか?」 オ2 「うっ……、どうやら 以下略」 ヤ3 「わたしもなんですよ。おかげで 以下略」 オ3 「エヘへ、今わかるのは、 以下略」 ヤ4 「ハハハ、本当ですよね。」 ヤ5 「オオカミのわらい声を聞いて、ヤギは思わず、『オオカミみたいな すごみのあるひくい声で。』と言いかけたが、失礼だと思い、口を とじる。 オ4 「オオカミのほうも、『まるでヤギみたいにかん高いわらい方でやん すね。』って言おうとしたが、そんなことを言ったらあいてが気を 悪くすると思い、やめることにする。 ≪音読のヒント≫ ヤ1・ヤ5・オ4の会話文は、ほんとはナレーターが読む説明の語りの地の 文です。そうしてもよいですが、ここでは、それぞれの動物に自分のことを 語らせた会話音調のナレーションにして音声表現させてみました。 オ1は、口に手を当てた動作化をしつつ、突然のくしゃみをしたらどうでし ょう。 ヤ2は、問いかけています。文末をしりあがりに読むとよいでしょう。 ヤ4は、オ3の連続したオオカミの会話文と考えられなくもありません。で も、「本当ですよね。」という「ですよね」の言い方は、これまでのヤギの 語り口・言いぶりとそっくりですので、ここではヤギ4として分別しまし た。とすると、ヤギが思った『オオカミみたいなすごみのあるひくいお声 で。』は、オ3の「えへへ」に当たります。「えへへ」を、「すごみのある ひくい声」にした笑い声にして音声表現しなければなりません。 第四場面 ≪文章範囲≫ ナ1 風のうなり声と、小屋にたたきつける雨のつぶが、かわりばんこにひ びきわたる。 ヤ1 「どちらにおすまいで。」 オ1 「へえ、おいらは、バクバク谷の 以下略」 ヤ2 「ええ? バクバク谷ですって?あっちのほうは 以下略」 オ2 「へえ、そうでやんすか? 以下略」 ヤ3 「ふうん、どきょうがあるんですね。 以下略」 オ3 「おおっ、そいつはうらやましい。 以下略」 オ4 「まあ、ふつうですよ。ハハハ。」 ≪音読のヒント≫ 二匹が語り合っている、話しのやりとりしている雰囲気を作って音声表現さ せましょう。 ヤ1は、問いかけています。質問している音調にして音声表現しましょう。 ヤ2は、「ええ」は軽く、戸惑っている感じです。「バクバク谷ですっ て。」は驚いて言ってます。その後、軽い間をあけてから次を言い出しま す。「あぶなくないですか。」は、文末がしりあがりに読むとよいでしょ う。 オ2は、「へえ」はしりさがりに読みます。「やんすか」「やんすよ」もし りさがりに読みます。オオカミの気持ちは当然なことでへっちゃらなので す。 ヤ3は、ヤギは、興味津津に、あんな危険なところでと、やや興奮気味に話 しかけています。 第五場面 ≪文章範囲≫ ナ1 そのとき、二ひきのおなかが同時に鳴る。 全 グーーー。 オ1 「そういえば、はらがへりやんしたね。」 ヤ1 「ほんとに。わたしも 以下略」 オ2 「ああ、こんなとき、うまいえさが 以下略」 ヤ2 「わかります、わかります。 以下略」 オ3 「そういえば、おいら、よくサワサワ谷 以下略」 ヤ3 「おや、ぐうぜん。 以下略」 オ4 「あそこのえさは、とくべつに 以下略」 ヤ4 「ええ、においもいいし。」 オ5 「やわらかいのに、はごたえ 以下略」 ヤ5 「毎日食べても 以下略」 オ6 「ほんと、一度食ったら、 以下略」 ヤ6 「ううん、その言い方、 以下略」 オ7 「ああ、思い出しただけで 以下略」 ヤ7 「ああ、おもいっきり 以下略」 ≪音読のヒント≫ おなかの鳴る音は、本稿では学級児童が全員で「グーー」と唱和する台本に なっているが、もちろん、ヤギとオオカミとが声をそろえて同時に 「グーー」と大きく言わせてもよい。 ヤ2は、相手に同調して、はずんだ声で言います。オオカミとヤギとが交互 に話題を提出してつなげていっています。二匹は相手の話し内容に、「そう よ、そうですよ。」と同調しています。二匹は気が合って、速いテンポで話 しが進んでいるようです。 ヤ6は、「う、う、ん」ではありません。これでは相手の話しを否定して 「ちがいます」という意味になってしまいます。ここでは、「そうよ、そう だよ」という相手に賛同している意味ですから、「うん、一度食った ら……」のように「うーん」を短くした言い方で、あいづちのつもりにして 音声表現するとうまくいくでしょう。 オ7・ヤ7の「ああ」は、「あ、あ」ではありません。感動言葉というより は、ほんの軽く、短く、同感のあいづちのようなつもりで、ぽっと、小さく 言います。意味内容を強調する個所は「たまらねえ」「出そう」「食べたー い」などです。 第六場面 ≪文章範囲≫ ナ1 そこで二ひきは同時に ヤオ「あのおいしい(肉・草)……」 全 ガラガラガラーー。 オ1 「そういえば、おいら、子どもの 以下略」 ヤ1 「あら、わたしもですよ。 以下略」 オ2 「そうそう、おいらのうちも、 以下略」 ヤ2 「ハハハ、わたしたち、ほんと 以下略」 オ3 「へへへ、ほんと、まっ暗で 以下略」 ≪音読のヒント≫ 雷の音は、学級児童全員で唱和します。どの個所から出だして言うかがむず かしいですね。「あのおいしい」の「あ」の辺りから同時に低く出だして、 次第にというよりも急に声高にして「肉」「草」をかき消す大音量にしたら どうでしょう。そして、雷が止んだら4〜5秒ほどの間をあけます。それか らオ1の声が始まるようにします。タイミングをとる時間野間がむずかしい ですね。 第七場面 ≪文章範囲≫ 全1 ピカッ、ピカピカピカッ、ピカピカピカッ。 ヤ1 「あっ、わたし今うっかり 以下略」 オ1 「……それが、まぶしくて、 以下略」 ヤ2 「ま、もうすぐ夜が明ければ 以下略」 全2 ガラガラガラー。ガラガラガラー。 ヤオ 「ひゃあー」 ヤ3 「あっ、失礼。どうもわたし 以下略」 オ2 「ふう、おいらもなんですよう。 以下略」 ヤ4 「なんか、わたしたちって、 以下略」 オ3 「いよっ、じつはおいらも今、 以下略」 ヤ5 「そうだ。どうです。今度天気の 以下略」 オ4 「いいっすねえ。ひどいあらしで 以下略」 ≪音読のヒント≫ いなずまの光も、学級児童全員の声で表現することにしています。どんな光 り方の言葉にするか、わたしが台本に書いてるとおりでなくてもいいです。 学級児童で話し合って決めましょう。 ヤ1は、いなずまの光の音が終わったら、すぐに入って、しゃべり出してい っていいでしょう。 オ1の冒頭「……」は、間をあけないで、すぐに入って、しゃべり出してよ いでしょう。あまり長くの間をあけると、まのびして、言葉の続き具合が悪 くなります。意味内容のつながりが不明になります。 全2の雷鳴の音も、学級児童全員の声で表現することにしています。 雷鳴が終わるか終わらないかの瞬間に、直ぐにヤギとオオカミとの同時の 「ひゃあーー!」が出てよいでしょう。 「ひゃあーー」の後、二匹が思わず体を寄せ合ったいる時間の間を5秒ほど あけます。 オ2の「はあ」「はあ」は、言葉でなく、息づかいの息の音です。実際は 「フー」とか「ンー」なのでしょう。そのように表現してもよいでしょう。 ヤ4は、相手に同意を求めています。文末をしりあがりに音声表現するとよ いでしょう。 オ3の「いよっ」は、「そうよ。そのとおりだよ。」という意味内容で、 ちょっとした掛け声なのでしょう。そのつもりで音声表現するとよいでしょ う。 第八場面 ≪文章範囲≫ ヤ1 「おや、もうすっかりあらしも 以下略」 オ1 「おっ、ほんとだ。」 ヤ2 「それじゃ、とりあえず、あしたの 以下略」 オ2 「いいっすよ。あらしの後は 以下略」 ヤ3 「会う場所は、どうします?」 オ3 「ううむ……。じゃ、 以下略」 ヤ4 「きまり。でもおたがいに 以下略」 オ4 「じゃ、ねんのため、おいらが 以下略」 ヤ5 「ハハハ、『あらしの夜に』だけで 以下略」 オ5 「じゃ、おいらたちの 以下略」 ヤ6 「じゃあ、気をつけて、 以下略」 オ6 「さいなら、あらしの夜に。」 ≪音読のヒント≫ オ1の後、雲の切れ間を二匹が揃って見ている3〜4秒ほどの間をあけま す。それから改まった声でヤ2の声が出ていきます。 オ3の「ううむ……」は、「んーーと」と考えている時間の間です。「う、 う、む。」ではありません。 ヤ4の「きまり。」は、「そうだ。それに決めた。」という意味内容で、 きっぱりと、力強く、断言した口調で言います。 ヤ6、オ6の会話文は、おたがいに「じゃあね。」と言って、さよならの合 図の手を上げる動作をしながら言うとよいでしょう。 第九場面 ≪文章範囲≫ ナ さっきまであれくるっていたあらしがうそのよに、 (中略) そんなこと、わかるはずもない。 ≪音読のヒント≫ 終末部の地の文は、ナレーターが読みます。この部分を情感豊かに、思い入 れたっぷりに音声表現しようとすると、かなりにテクニックを要します。小 学3年生ですから高度な要求はむりです。突き放したように、客観的に、冷 たく、あまり読み手の感情を入れずに、淡々と音声表現していけばよいで しょう。 トップページへ戻る |
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