音読授業を創る そのA面とB面と        06・3・13記





「たんぽぽのちえ」の音読授業をデザインする





●「たんぽぽのちえ」の掲載教科書………………………………光村2上




           
「ちえ」について


  題名は「たんぽぽのちえ」です。たんぽぽにちえがあるわけではありま
せん。たんぽぽが自然の摂理として、生命(種属)を維持(生育)していく
中にちえを働かしているように見えるところがあり、人間はそれをちえと呼
んでいるだけです。
  たんぽぽを人間化して、人間のようにのように扱って書き表していま
す。たんぽぽを擬人化している書き表し方です。修辞学で擬人法といいま
す。
  自然界にはすべてにちえを働かしているように人間には見える、不思議
さ・驚きのようなものがあります。ですから、たんぽぽだけでなく、自然界
すべてのものを擬人法の書き表し方で記述することもできます。ちえがある
ように見えるのは、たんぽぽだけではありません。
  本教材に書いてあるたんぽぽの「ちえ」とは何でしょうか。幾つのちえ
が書いてあるのでしょうか。読解指導では、題名よみから当然にこれらの問
いに導かれ、これらの興味関心に引きずられながら内容を読み進めていくこ
とになります。ちえとは何か、いつもこの問いを考えながら本教材「たんぽ
ぽのちえ」を読み進めていくことになります。
  「ちえ」のアクセントについて書きます。「たんぽぽのちえ」の「知
恵」のアクセントは「ち」が低く、「え」が高くなります。間違えないよう
にしましょう。
  もう一つ、「花のじく」の「軸」は「知恵」と同じく「じ」が低く、
「く」が高くなります。「字句」になると、「じ」が高く、「く」が低くな
ります。



         
 時間の条件節に注目


  重文の条件節と帰結節とを意識して音声表現しましょう。
  「春になると、」(どうなるの? こうなりますよ、という意識・思い
で次を読み出していきます)「たんぽぽの黄色いきれいな花がさきます。」
と読み下します。「たんぽぽの(黄色いきれいな)花がさきます。」の区切
りに注意して音声表現します。(黄色いきれいな)は、かっこの中は、ひと
つながりに読みます。この下で間をあけて、次の段落へと読み進めます。
  「二、三日たつと、」(どうなるの? こうなりますよ、という意識・
思いで次を読み出していきます)「その花はしぼんで、だんだん黒っぽい色
にかわっていきます。そうして、たんぽぽの花のじくは、ぐったりと地面に
たおれてしまいます。」と読み下します。
  帰結部分のひとつながりは、条件節(文)「春になると、」に対する応
答文です。帰結部分のひとつながりは、ひとまとまりにつなげて音声表現し
ます。
  「だんだん」「ぐったり」は、強めに目立たせて音声表現すると意味内
容が音声に表れ出るでしょう。


         
時間経過の言葉に注目


  以下、話しを分りやすくするために、時間経過の言葉を太字にしていま
す。

  やがて、花はすっかりかれて、そのあとに、白いわた毛ができてき
ます。このわた毛の一つ一つは、ひろがると、ちょうどらっかさんのように
なります。たんぽぽは、このわた毛についているたねを、ふわふわととばす
のです。
  このころになると、それまでたおれていた花のじくが、またおき上が
ります。そうして、せのびするように、ぐんぐんのびていきます。

  上に引用した文章部分で注目しなければならない言葉は、「やがて」
「そのあとに」「このころになると」という時間の経過を示す言葉です。
これら言葉は読解指導でも重要ですが、音声表現においても、とても重要で
す。
  「やがて」花はどうなるか。「そのあとに」花はどうなるか。「このこ
ろになると」花の軸はどうなるか、できた綿毛はどうなるか。これら時間の
経過・区切りを示す言葉は、目立たせて強調して音声表現するようにしま
す。時間の区切りの文章個所では、つまり、時間の経過を示すこれらの言葉
の前では、軽く間をあけて音読します。「やがて」「そのあとに」「このこ
ろになると」を強めに強調して読み出していくようにします。
  この教材文全文がそうですが、たんぽぽの黄色い花が咲いてから、綿毛
になり、空中へ飛んでいくまで、どのような生育の変化の様子を経過してい
くか、を読みとることがとても重要な読解作業です。そのときに時間の経過
をしめす言葉を手がかりとして読解作業を進めていくことが重要です。
  黄色い花→すぼむ→黒っぽい色→地面にたおれる→花はすっかり枯れる
→綿毛ができてくる→花の軸がまた起き上がる→(晴れの日)綿毛を遠くま
で飛ばす→(雨の日)綿毛はすぼむ。これらを画用紙に続き絵にして、簡単
な解説文をつけて描かせる学習活動はよく行われています。



          
逆接の接続語に注目


  「けれども、かれてしまったのではありません。」の「けれども」の
「け」を高く強く読み出し、今まで述べてきたことと意味内容が逆につな
がっていくことを音声で示します。
  花の軸が地面にぐったりとたおれてしまったら、多分、かれてしまう前
兆だろう、枯れてしまった、と読者は思うでしょうが、いやいや、そうでは
ありませんよ。たんぽぽは、しずかに体を休ませて、種にたくさんの栄養を
送らせ、太らせているのですよ、こうしたちえをはたらかせているのです
よ。と逆につなげて書き進めています。この逆接の意味内容を音声で表わす
のです。
  今までに述べてきたたんぽぽの生長の観察事実の記述に対して、「けれ
ども」からあとは、筆者の考え・考察を述べています。筆者の理由づけを述
べています。「け
れども、かれてしまったのではありません。」(では、何なの?。それは、
こうなんです。)という意識で、事実が起こったことに対して、それはこう
いうわけなんですよと理由を述べてますので、そのつもりで音声表現してい
きます。
  ですから、「けれども」から「太らせるのです」までは、ひとつなが
り・ひとまとまりに音声表現していきます。「ありません」「しずかーに」
「どんどん」などの語句は強めに強調して読むと音声に表情がでるようにな
ります。
  「ふとらせます。」でなく「ふとらせるのです。」、「えいようをお
くっています。」でなく「えいようをおくっているのです。」と書いていま
す。「のです」という文末表現に筆者の意見開陳の強い肯定判断があらわれ
ています。単なる事象の描写文ではありません。事象に対する筆者の理由づ
けという表現意図が強く見てとれます。

  もう一か所、逆接でつながっている文章個所があります。

  「よく晴れて、風のある日には、わた毛のらっかさんは、いっぱいに
ひらいて、遠くまでとんでいきます。
  でも、しめりけの多い日や、雨降ふりの日には、わた毛のらっかさん
は、すぼんでしまいます。それは、わた毛がしめって、おもくなると、た
ねを遠くまでとばすことができないからです。」

  よく晴れた日と、雨の日とを対比して書いています。わた毛のひらきか
たが逆になっていると書いています。二つの文章個所を、逆接の接続詞「で
も」でつなげています。音声表現のしかたは、晴れた日のことを読み終わっ
たら、そこで間をあけます。次の「でも」の「で」を強めに強調して読み出
します。「で」も、雨の日はちがうんですよー、という気持ちをこめるよう
にして、「で」を強めに読み出していきます。
  「できないからです。」までひとつながりに読み進めます。意味内
容が、雨降りのことで、ひとつながりになっているからです。
  「それは、………からです。」と、文末「からです。」で分るとおり、
ここはわた毛が「すぼむ」わけを書いています。筆者の理由づけを書いてい
ます。その理由はこうこうだ、と自信を持って断言的な言いぶりで音声表現
していくとよいでしょう。


          
問い、答え構造に注目


  次のような文章部分があります。

  「なぜ、こんなことをするのでしょう。それは、せいをたかくするほう
が、わた毛に風がよく当たって、たねを遠くまでとばすことができるからで
す。」

  「なぜ、こんなことをするのでしょう。」と、問いかけています。問い
かけの文です。質問しているような音調、みんなに聞いているような音調で
音声表現します。
  それに対する答え部分の文は、問いに答えている応答の音調にして音声
表現します。「なぜ、こんなことをするのでしょう。みなさんも、そう思う
でしょう。」「それは、これこれこうだからです。はい、こういうわけだか
らよ。」という心積もり・思いで次を音声表現していくとよいでしょう。
  「なぜか。」「それは………だからです。」という典型的な問い・答え
構造の文型になっています。「からです。」は、筆者の理由をいう主張の言
葉です。そういう論運びの心積もりで音声表現していくようにします。


          
まとめの言葉に注目


  最終段落は、「このように、たんぽぽは、いろいろなちえをはたらか
せています。そうして、あちこちにたねをちらして、新しいなかまをふやし
ていくのです。」と書いてあります。
  つまり、この教材文全文は、たんぽぽの綿毛の種をとばすことに焦点を
しぼって、そこに最後の的を当てて、全文の結論として書いていることが分
ります。「このようにして、あちらこちらにたねをちらして、新しいなかま
をふやしていくのです。」とまとめの言葉を書いています。ここの文末も
「のです。」で終わっていて、筆者の結論・考え・主張を述べています。
  「このように」は、これまで述べてきたをすべてまとめて「このよう
に」と言っています。「このように」の「こ」を強めに強調して読み出す
と、まとめの意味内容が声に表れ出るでしょう。
  この段落全体は、ゆったりとした調子で、かみしめるように、ゆっくり
と、ていねいに音声表現していきます。せいた・いそいだ読み方はよくあり
ません。
  「あちらこちらにたねをちらし」「新しいなかまをふやしていく」をは
ぎれよく、はっきりと、やや強めに読むとよいでしょう。


             
関連資料


 本ホームページの第18章第4節「たんぽぽのちえ」の1時間の全授業録
音を聴取してみよう。表現よみを中心活動とした授業録音です。



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