音読授業を創る   そのA面とB面と           03・06・03記




  
「スイミー」の音読授業をデザインする



                         
●「スイミー」(レオ・レオニ、谷川俊太郎訳)の掲載教科書……光村2上



          
音読によい文章個所(その1)


●文章範囲
   冒頭「ある日、おそろしい まぐろが、おなかを すかせて、すごい
  はやさで ミサイルみたいに つっこんで きた。
   一口で、まぐろは 小さな 赤い 魚たちを、いっぴき のこらず 
  のみこんだ。
   にげたのは スイミーだけ。」まで。

●指導のねらいと方法
  小さな赤い魚たちが楽しく平穏にくらしていた。その世界に、突然に恐
ろしいまぐろがすごい速さでつっこんできます。魚たちは、逃げるひまもな
くひと飲みにされてしまいます。児童たちは弱肉強食のすさまじい世界を垣
間見ることになります。
  ここの場面を声に表わすには、一瞬の出来事ですので、読みにスピード
が要求されます。「すごいはやさでミサイルみたいにつっこんできた」様子
を声に表わすには、どんな読み方がよいですか、と教師が問いかけます。
  音読には、ゆっくりと読んだ方がよいところ、速く読んだ方がよいとこ
ろ、普通の速さで読んだ方がよいところ、三つがあることを知らせます。
  「すごいはやさで」と「つっこんできた」とに、力んだ力強さを加えて
読みます。
  「にげたのはスイミーだけ」の地の文は、「スイミー、いっぴきだけが
逃げられたんだよ」ということをはっきりと声に出すようにするには、「に
げたのはスイミーだけ」の文の出だしで十分に間をあけ、「スイミーだけ」
の「だけ」を特に強めて、強調して読んだ方がよいことに気づかせます。児
童たちから気づきの意見発表がないときは、教師が二、三種類の読み方をや
ってみせ、その中から選択させます。選んだその読み方を繰り返し全員で練
習します。
  読みにスピードを出すとはいっても、早口ことばになってはいけませ
ん。いかに短時間で読み終えるかの、速さをきそうスピード競争になっては
いけません。意味内容の区切るべきところではきちんと区切り、文意がはっ
きりと相手に伝わり、かつ明瞭な発音で読むようにします。区切りの間を十
分にとっても、読み全体の速さの意味内容の表れは十分に出ますので心配は
いりません。


         
音読によい文章個所(その2)

●文章範囲
  「けれど、海には、すばらしいものがいっぱいあった。」から
「そして、風にゆれるもも色のやしの木みたいないそぎんちゃく。」まで。

●指導のねらいと方法
  暗い海の底でスイミーが見た「すばらしいもの」、「おもしろいもの」
とは何でしょうか。「もの」とはどんな「もの」(品物、事物)なのでしょ
うか。それら「もの」は、どんなふうに「すばらしい、おもしろい」のでし
ょうか。これらを、各文にそって、言葉をおさえて、児童たちと語り合いま
す。
  「もの」(被修飾語)とは、「くらげ。いせえび。魚たち。こんぶやわ
かめ。うなぎ。いそぎんちゃく」です。これら「もの」の修飾語部分が「す
ばらしい」、「おもしろい」に当たる内容部分です。正常な語順では、修飾
語部分(「すばらしい」、「おもしろい」)は「もの」(修飾語)の上部に
位置します。語順変形文では、修飾語部分(「すばらい。おもしろい」)は
「もの」(被修飾語)の下部に位置します。
 語順変形文「うなぎ。かおを見るころには、しっぽをわすれるほどなが
い。」を正常な語順に戻すと、「かおを見るころには、しっぽをわすれるほ
どながいうなぎ。」(述定から装定へ)となります。
  「見たこともない魚たち。見えない糸でひっぱられている。」は「見え
ない糸でひっぱられている見たこともない魚たち」(述定から装定へ)とな
ります。
  修飾語と被修飾語との組み合わせは、ひとつながりになるように読むこ
とが重要です。「もの」の名前に、強めのアクセントを置いてはっきりと粒
立てて読み、その「もの」はこんな様子(様態)ですよと「すばらしい、お
もしろい」という思い(気持ち)をこめて、ひとつながりになるように読み
ます。ひとつながりの文の中心にあって、砂鉄の中の磁石の役割をしている
のが「もの」(名前)です。「もの」を忘れて、飾りに振舞わされた音読を
しないようにします。


        
音読によい文章個所(その3)

●文章範囲
  「スイミーは言った。出てこいよう。みんなであそぼう。」から
「スイミーは考えた。いろいろ考えた。うんと考えた。」まで。

●指導のねらいと方法
  この場面を、劇化(完全な劇ではない)にして、楽しく音声表現させま
す。ナレーター(児童用語で、説明役、説明する人)を一名選びます。
ナレーターは、「スイミーは言った。」と「スイミーは考えた。いろいろ考
えた。うんと考えた。」の部分を説明を加える口調にして読みます。「小さ
な赤い魚たちは答えた。」は、ナレーターは読みません。省略します。その
理由は、スイミーの「出てこいよう」の問いかけの直後に、赤い魚たちの返
事(答え)の会話文が続いているからです。
  スイミー役を一名選びます。スイミーは教室前面に出て、学級児童たち
に対面して読みます。赤い魚たち(残り児童全員)に向けての呼びかけ口調
で読みます。手でメガホンを作って大声で呼びかけるのもよいでしょう。
  小さな赤い魚たち役は、残りの児童全員です。残り全員でスイミーの呼
びかけ(問いかけ)に声をそろえて返事をします。小さく身をちぢめた動作
で答えるのもよいでしょう。
  ナレーターが最後の3文「スイミーは考えた。いろいろ考えた。うんと
考えた。」を読みます。そのとき、教室前面にいるスイミー役の児童に「考
えてる動作」(腕組みするとか、頭をかしげるとか)をさせるのもよいでし
ょう。

ナレーター スイミーは、言った。
スイミー  出てこいよ。みんなであそぼう。おもしろいものがいっぱいだ
      よ。
学級全員  だめだよ。大きな魚に食べられてしまうよ。
スイミー  だけど、いつまでも そこに じっとしているわけには いか
      ないよ。なんとか考えなくちゃ。
ナレーター スイミーは考えた。いろいろ考えた。うんと考えた。


         
音読によい文章個所(その4)

●文章範囲
  「それから、とつぜん、スイミーはさけんだ。」の地の文と、それにつ
づくスイミーの会話文「そうだ。みんないっしょに……魚のふりをして。」
から「みんな、持ち場をまもること。」まで。

●指導のねらいと方法
  前の(その3)とつづけて、合体させ同時に指導することもできます
が、ここでは、この文章部分だけを取り立てて指導することにします。
  スイミーには大きな魚に食べられないグットアイデアが浮かびました。
(その3)との劇化との関連でいえば、ここでアイデアが浮かぶまでの暫時
の間をあける必要があります。三つ分か、四つ分か、五つ分か、間のあけ方
については実際の試みをしながら、学級全員で話し合って、決めます。
  会話文は、腕組みして考えていたスイミー役の児童が突然アイデアがひ
らめいて、それを披露します。「いい考えが浮かんだぞ」という気持ちで、
声を大きくし、自信たっぷりの口調で言うようにします。はたと気づいたと
いう表情をして、輝いた顔つきで、大声で呼びかけます。
  地の文「それから、とつぜん、スイミーはさけんだ。」は、前時とのつ
ながりで連続した劇化の場合には、ナレーターは読む必要がありません。省
略してよいでしょう。(読んでもよい)。(その4)部分だけの取り立て指
導では、突然の叫びなので、その感じを出すため、ナレーターはこの地の文
の「とつぜん」を特別に強めの語調にして読むようにします。
  地の文「スイミーは教えた。けっしてはなればなれにならないこと。み
んな、もち場をまもること。」は、ナレーターが読みます。教え諭して、念
押しして語る命令口調で読みます。あるいは、ナレーターが「スイミーは教
えた。」だけを読み、スイミー役児童が二つのこと、つまり「けっしてはな
ればなれにならないこと。」と「みんな、もち場をまもること。」
を、命令口調で会話文として読むのもよいでしょう。
  それぞれ人間には持ち味(個性)があり、それぞれに持ち場、持ち場が
あり、社会(集団)生活をしていくには自分のポジションで全力を尽くすこ
との大切さ、そのことを、ここで、レオ・レオニは教えています。そのこと
を心の中に思い入れて音声表現できたらすばらしいです。


          
音読によい文章個所(その5)

●文章範囲
  「みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき、」
から「最後「みんなは泳ぎ、大きな魚をおいだした。」まで。

●指導のねらいと方法
  「大きな魚」をおいだした小さな魚たちの知恵と集団の力、小さな魚た
ちがまとまって一匹の大きな魚を形作り魚を追い出した偉大さ、その偉力を
音声で表現します。
  この文章部分を群読形式で音声表現し、学級全員で楽しんでみましょう。
次の群読台本はひとつの試みです。みなさんの学級の実態に合わせて変更し、
ご利用なさってください。

 ナレーター(1名)「みんなが、いっぴきの大きな魚みたいに泳げるよう
           になったとき、スイミーはいった。」
 スイミー(1名) 「ぼくが目になろう。」
 学級男子全員   「あさのつめたい水の中を、」
 学級女子全員   「ひるのかがやく光の中を、」
 学級全員     「みんなはおよぎ、大きな魚をおいだした。」

  学級児童たちの群読の声の表れかたによっては、組み分けや人数を自由
に変更してみましょう。小さな魚たちのまとまりの偉大さ、集団の偉力が集
団音声に表れることにねらいをおきます。
  最後に(追い出した後に)こんな付け足しはどうでしょう。舞台をみて
いる観衆たち(児童たち)をわざと作り、「すごいー」とか「すてきー」と
か「でかした」とか「ブラボー」とか「やったぜー」とか、こんな賞賛と快
哉と歓呼の言葉を言わせ、拍手を与える組(役)を作ってはどうでしょう。


             
関連資料


 本ホームページの第19章第1節「その他の物語文、群読の読み声例」の
「読み声例4・5」録音を聴取してみよう。「スイミー」の群読録音、音楽
・歌を入れた群読録音の二つを聴取してみよう。



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